学位論文要旨



No 126206
著者(漢字) 岡山,友昭
著者(英字)
著者(カナ) オカヤマ,トモアキ
標題(和) 第二種積分方程式に対するSinc数値計算法
標題(洋)
報告番号 126206
報告番号 甲26206
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第273号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 数理情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 松尾,宇泰
 東京大学 教授 杉原,正顯
 東京大学 教授 室田,一雄
 東京大学 准教授 齋藤,宣一
 電気通信大学 准教授 緒方,秀教
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,Sinc 数値計算法に基づく,第二種積分方程式の数値解法を取り扱う.第二種積分方程式は広く応用に現れる方程式であるが,一般に方程式の解は解析的には求まらないため,数値計算によって近似的に解を求める必要がある.Sinc 数値計算法の利点は,収束が非常に速いこと,また端点に特異性がある場合にも頑健であることである.実際に近年,第二種積分方程式に対してSinc 数値計算法に基づく数値解法が提案されてきており,その高性能さを示す数値実験結果が得られている.

本論文における主な目的は,実用的な視点からこれらの既存のスキームを改善すること,および新たなスキームを提案することである.既存のスキームの多くに共通する議論すべき点は,大きく分けて,次の二つである.

1. スキームを実装するにあたり,方程式の解の情報(正則領域や端点の値)を必要とする.

2. 仮に正当なスキームを実装できたとしても,数値解が真の解に収束する保証がない.

本論文では,これらを理論解析に基づいて解決する.1 つ目の論点に関しては,スキームに必要な情報は既知の関数のもので代用できることを理論的に示した上で,方程式の解が不明であっても実行できるようスキームを修正する.2 つ目の論点に関しては,修正したスキームに対して数値解が真の解に収束することを理論的に示すだけでなく,その収束次数も明らかにする.また,これまでにスキームが提案されていない場合は,以上の成果に基づき,新たにスキームを提案する.

さらに本論文では,スキームの数値解の誤差を定量的に評価する方法を提案する.実用の観点,特に精度保証付き数値計算の観点からは,数値解の誤差が許容誤差の範囲内であるかどうかを判定する方法が望まれるが,現段階ではそのような方法は提案されていない.これは,Sinc 数値計算法全般のこれまでの誤差解析において,不等式の形で収束性は解析されているものの,式の中に未評価の定数が含まれているためである.本論文では,まずこれらの定数を明示的に評価した上で,スキームの数値解の誤差評価を定量的に与える方法を示す.

審査要旨 要旨を表示する

科学・工学の諸分野において、様々な問題が積分方程式を解くことに帰着される。このため、20世紀後半から、計算機の発展と相まって、その数値解法が精力的に研究されてきた。特に、近年、特異な問題に対しても高精度近似解を与えるSinc関数近似に基づく解法:Sinc-Nystrom法、Sinc選点等(以下「Sinc数値計算法」と総称する)が提案され、注目を集めている。本論文はその流れを踏まえ、第二種Volterra積分方程式と第二種Fredholm積分方程式に対して、既存のSinc数値計算法の詳細な理論解析を行い、また新たにいくつかのSinc数値計算法を理論解析とともに提案するものである。

本論文は「第二種積分方程式に対するSinc数値計算法」と題し、10章(および付録1章)から成る。

第1章「はじめに」では、上記第二種積分方程式とその応用分野について述べ、それらに対する既存の数値解法について俯瞰している。特に多項式近似に基づく古典的な数値解法に対して、近年、より精度の高いSinc数値計算法が急速に発展し有力解法となっていること、しかしこれらのSinc数値計算法とその誤差解析にはいくつかの改良すべき点があることを指摘し、本論文で行う理論解析の動機付けを与えている。

第2章「Sinc数値計算法の基礎」では、Sinc数値計算法の歴史を概観したのち、既知の近似公式とその誤差解析をサーベイし、さらに新しい誤差解析結果もいくつか示している。本章で示される定理は後続章の理論的基礎となるものである

第3章「Volterra積分方程式に対するSinc-Nystrom法」では、MuhammadらによるVolterra積分方程式に対するSinc-Nystrom法と誤差解析結果について述べ、これらにおいて「論点1:計算公式が未知の解に関するパラメータを前提に設計されており、素直には実装が困難である」、および「論点2:誤差評価式に、数値実験では有界と予想されるものの理論的にはその振る舞いが未知の定数が含まれており、厳密な意味では公式の収束性が未証明である」という2つの改良すべき点があることを指摘している。その上で新しい理論解析を行い、論点1に対しては解くべき問題に明示的に現れている関数を調べることでパラメータが適切に定められることを示し、論点2に対しては厳密な意味での誤差解析結果を与えている。なおこの論点1、2は本章以降、第8章まで共通して現れる。

第4章「Fredholm積分方程式に対するSinc-Nystrom法」では、Rashidinia-Zarebnia、およびMuhammadらによるFredholm積分方程式に対するSinc-Nystrom法と誤差解析結果について述べ、これらについても上述の2つの改良すべき点があることを指摘している。その上で新たな理論解析を行い、前章同様の結果を与えている。ただし、方程式がFredholm積分方程式であるため、理論の道筋と技術的詳細は前章とは大きく異なっている。

第5章「Volterra積分方程式に対するSinc選点法」では、Rashidinia-ZarebniaによるVolterra積分方程式に対するSinc選点法と誤差解析について述べ、この場合も上述の2つの改良すべき点があることを指摘している。その上で既存計算公式の改良と、より高精度の新しい計算公式の提案を行い、両者に対する厳密な誤差解析結果を与えている。理論証明の技術的には、本章におけるSinc選点法の誤差解析が、第3章のSinc-Nystrom法の誤差解析に関連づけられることを示した点が本質的である。

第6章「Fredholm積分方程式に対するSinc選点法」では、Rashidinia-ZarebniaによるFredholm積分方程式に対するSinc選点法において2つの改良すべき点があることを述べ、前章同様、より高精度の計算公式を提案した上で、両者に対する厳密な誤差解析結果を与えている。理論証明の本質的部分は、前章同様第4章の結果と関連づけるところにある。

第7章「弱特異核を持つVolterra積分方程式に対するSinc選点法」では、積分核が弱特異性を持つVolterra積分方程式に対するRiley、およびMoriらによるSinc選点法について述べ、上述の2つの改良すべき点があることを指摘している。その上でこれらを解決する新しい誤差解析結果を与えている。積分核の弱特異性のため、理論証明の道筋は第5章とは大きく異なっている。

第8章「弱特異核を持つFredholm積分方程式に対するSinc選点法」では、積分核が弱特異性を持つFredholm積分方程式に対する岡山自身による既存のSinc選点法とその誤差解析(修士論文)について述べ、誤差解析結果をより完全にした新しい結果を得ている。

第9章「定数を明示的に表したSinc数値計算法の基礎定理」では、Sinc数値計算法の基礎定理(第2章で俯瞰したもの)の一部について、誤差評価不等式に現れる定数をすべて明示的に表した、より精密な定理を示している。これらは広くSinc数値計算法全体の精度保証に有用なものである。

第10章「Fredholm積分方程式に対するSinc-Nystrom法の事前誤差評価と事後誤差評価」では、前章の結果を利用して、Fredholm積分方程式に対するSinc-Nystrom法(第4章)の場合に、精度保証に有用な一連の定理を示している。

第11章「おわりに」はまとめと今後の課題である。

付録Aでは、本論文第7章に関連する不定積分近似について、関連する計算公式とその誤差解析についてまとめている。

以上を要するに、本論文は、積分方程式に対する既存のSinc数値計算法に対して、改良すべき点(上述の論点1、2)を明らかにし、その解決を新しい理論解析により与え、さらには、いくつかの新しいSinc数値計算法をその理論解析とともに提案したものであり、数理情報学、特に数値解析学の分野の発展に大きく寄与するものである。

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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