No | 126233 | |
著者(漢字) | 乃田,啓吾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ノダ,ケイゴ | |
標題(和) | 沖縄における赤土流出の営農的対策に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126233 | |
報告番号 | 甲26233 | |
学位授与日 | 2010.04.08 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第3600号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生物・環境工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | I.はじめに 沖縄地方では,近年圃場整備や各種インフラ事業などが原因で受食性の高い赤土土壌等の侵食が顕著になった.その結果生じる土砂・栄養塩による水質汚染によって,水産資源や観光産業に深刻な影響を与える可能性がある.赤土の流出源は主として農地であり,そのため様々な農地における流出抑制対策が考案および検証されている.また農地は農業生産の場であり,それらの対策による生産性への影響も評価する必要がある. そこで本研究ではサトウキビ畑において現地試験を行なうことで,栽培方法の違いや施した対策による侵食量の抑制効果・収量への影響を定量的に評価すること,また栄養塩流出の実態の解明を目的とする. II.現地試験概要 試験地は沖縄県石垣市新川の畑地である.実際の畑を分割し試験区とすることで同一条件による試験を,2004/6~2006/12の期間行なった.試験区の大きさは,斜面長約80m,勾配約3.5%である. a)サトウキビ栽培方法の比較,b)サトウキビ春植え(新植)栽培への対策,c)サトウキビ栽培におけるカボチャの間作,d)牧草地の4項目について土砂流出試験を行なった.また,a)~c)については収量調査を,d)については栄養塩流出試験を行なった. III.サトウキビ栽培方法の比較 サトウキビの慣行的な栽培方法である新植(春植え)栽培:St-a-1,不耕起(株出し)栽培:St-a-2の比較試験を2004/6~2005/1に行なった.試験期間中の土砂流出量はSt-a-1:0.79 kg/m2,St-a-2:0.12kg/m2となり,St-a-2はSt-a-1よりも土砂流出が85%抑制された.これは,St-a-2では土壌のかく乱が無かったこと,また株出し栽培では春植え栽培よりも生長が速く被覆率が高くなった結果と考えられる. また,2004/2に収量調査を行なったところ,St-a-1:5.4ton/10a, St-a-2:5.3ton/10aとなり,St-a-2では1.2%の減収であった. St-a-2がSt-a-1に比べ土砂流出量が少ないこと,収量はさほど変わらないことから不耕起(株出し)栽培は望ましい栽培方法であるといえる.しかし,不耕起(株出し)栽培を行なうには,2・3年に一度は新しく苗を植え直さなければならず,新植(春植え)栽培への対策が必要である. IV.サトウキビ新植栽培への対策 サトウキビの新植(春植え)栽培への対策試験を2005/3~2006/2に行なった.具体的には,慣行的な新植栽培の試験区:St-b-1と,減耕起植え付け(苗の植え付け前に圃場の全面耕起を行なわず,畝間の部分耕起のみを行なう)と培土後にカバークロップを施した試験区:St-b-2に分け比較試験を行なった.土砂流出量の結果を図1に示す.ここで,i期とは減耕起植え付けの効果のある期間で,2005/2の植え付けから2005/6の培土までである.ii期とはカバークロップによる影響のある期間で,2005/6の培土から2005/8の降雨イベントまでである.カバークロップは7/17~7/19の台風により立ち枯れの状態となり,その残渣等による顕著な影響が認められた降雨イベントまでをこの期間とした. St-b-2の流出抑制効果はi期:87%,ii期:45%,年間を通して71%となった.これは土壌のかく乱を最小限にとどめたこと,また植生による被覆率を高く保った結果と考えられる. 2006/2に収量調査を行なったところ,St-b-1:4.9ton/10a, St-b-2:3.2ton/10aとなり,St-b-2では36%の減収となった.減収の原因としては,圃場を耕起しないことによる雑草との競合・根の伸長阻害,カバークロップとの競合等が考えられる. ここで施した対策は,サトウキビ新植(春植え)栽培の土砂流出抑制には効果的だが,生産性においては課題を残すという結果となった. V.サトウキビ栽培におけるカボチャの間作 サトウキビ栽培におけるカボチャの間作試験を2005/8~2006/12に行なった.具体的には慣行的なサトウキビ夏植え栽培:St-c-1とサトウキビの畝間でカボチャの間作を行なう栽培方法:St-c-2の比較を行なった.St-c-2ではサトウキビの畝間を通常の2倍(約3m)取り,その畝間でカボチャの2期作を行なった.その後,畝間にもサトウキビを植え付けた. 2005/8~2006/5の土砂流出量は,St-c-1:0.83ton/10a, St-c-2:0.05ton/10aとなり,St-c-2の流出抑制効果は93%となった.これはSt-c-2では,サトウキビ植え付け前に深耕を行なったこと,畝間が広く平坦であったこと,畝間をサトウキビ葉殻・植生で覆ったことの結果であると考えられる. カボチャの1期目,2期目の収量調査を行ない,その結果を元に,サトウキビ栽培において,慣行的な栽培方法とカボチャの間作を行った場合の収益を試算した.なお,サトウキビの収量は内務省による統計(2003,2004,2005の平均)を用い,20,40yen/tonとして収入に換算した.またカボチャ栽培にはSt-c-2における施肥量を,サトウキビ栽培には沖縄県の栽培指針を用いて肥料のコストを算出した.その結果,単年平均収益は慣行的な夏植え栽培:60,000yen/10a/yr,春植え栽培:81,000yen/10a/yr,カボチャの間作を行なうことで107,000yen/10a/yrとなり,夏植え栽培,春植え栽培よりそれぞれ78%,32%の増収となった. サトウキビ栽培においてカボチャの間作を行なうことで,土砂流出が抑制され,増収が見込まれることがわかった.その一方で,カボチャ栽培による管理負担の増大という問題点も無視できない. VI.牧草地 牧草地:St-d-1とサトウキビ夏植え栽培:St-d-2の比較試験を2006/4~2006/12に行なった.試験期間中の土砂流出量はSt-d-1:0.02ton/10a, St-d-2:0.07ton/10aとなったが,沖縄県で指針とされているサトウキビ夏植え栽培のこの時期の土砂削減率が98%であることから,牧草地からの土砂流出量は極めて小さいといえる.これはSt-d-1では植生による被覆・平坦な地形のために侵食が抑制されたものと考えられる. また,6/10~6/11,6/18の降雨イベントにおける栄養塩の流出量を図2に示す.T-N(全窒素)の流出量に注目すると,St-d-1:6.0g/m2,St-d-2:1.7g/m2となり,St-d-1ではSt-d-2の3.5倍の窒素が流出した.2つの降雨イベントにおける流出率はSt-d-1:34%,St-d-2:85%であり,St-d-1では降雨の浸透流出に伴い土壌中の窒素成分が大量に流出したものと考えられる. 牧草地では,土砂流出量は極めて小さいが,栄養塩,特に窒素の浸透流出による地下水汚染が懸念される. VII.まとめと課題 サトウキビの栽培方法の違い,各種対策を施すことによる土砂流出量・収量・収入への影響を体系的に定量化した. 栄養塩流出では,圃場の透水性により表面流出・浸透流出の傾向が異なり,降水の表面流出を防ぐ土砂流出対策では,窒素による地下水汚染が懸念される. 本研究で行なった現地試験は自然気象条件,単一地形(勾配,斜面長)条件の下で実施したため,一般性に欠ける.そのため,モデルを用いたシミュレーションを行い試験結果と比較することで,対策効果の汎用性を確立することが望まれる. 図1 St-b-1,St-b-2における流出土砂量の比較 図2 St-d-1,St-d-2における栄養塩流出量の比較 | |
審査要旨 | 沖縄地方では長年,赤土流出といわれる,農地における肥沃な土壌の流亡,及び流出した土砂によるサンゴ礁生態系の破壊という深刻な問題に苦しんでいる.赤土の流出旗は主として農地であり,その中で沖縄地方の主要作物であるサトウキビは耕作面積において4割以上を占めている.本研究で対象とする営農的土砂流出抑制対策については,その必要性の認識不足や経済的負担の増加を理由に農家への普及は進んでいない.本研究は,実際にサトウキビ栽培を行うことを想定した赤土流出の営農的対策について,圃場における土砂流出試験を行い、営農的対策による土砂流出抑制効果及び収量・収益への影響を評価したものである.また,土砂流出量推定モデルであるUSLEを適用することで,現場での流出試験結果に含まれる降雨・土壌・地形等の条件の違いを分離し、営農的対策による土砂流出抑制効果のみを抽出して評価した. 第1章では, 前述の背景と研究の目的を述べた. 第2章では、沖縄県石垣市のサトウキビ畑において土砂流出試験を行い,営農的対策による土砂流出抑制効果及び収量・収益への影準を評価した.具体的には,サトウキビ不耕起株出し栽培・植生帯による土砂流出抑制効果,サトウキビ春植え栽培における土砂流出抑制対乳サトウキビ夏植え栽培における土砂流出抑制対策について,慣行的なサトウキビ栽培方牡と比較することで評価を行った.サトウキビ不耕起株出し栽培を行うことにより,慣行的なサトウキビ春植え栽培と比較して,85%の土砂流出が抑制され,収量は同程度であった・サトウキビ春植え栽培において幅0.6mの植生帯を設置することにより,設置しない場合と比較して17%の土砂流出が抑制された.サトウキビ春植え栽培における土砂流出抑制対策として,減耕起植え付け及びクロタラリアの間作を実施したところ,慣行的な栽培方法と比較して69%の土砂流出が抑制され収尾は36%の減収となった.サトウキビ夏植え栽培における土砂流出抑制対策として.裸地期の不耕起管理,深耕,広幅軋カボチャの間作サトウキビ葉ガラのマルチング及び減耕起植え付けを実施したところ,92%の土砂流出が抑制され,収益は65%の増収となった. 第3章では,第2章で行った土砂流出試験の結果にUSLEモデルを適用して営農的対策を評価した.USLEは、降雨・土壌・地形・作物・管理等の土壌浸食をもたらす要因を係数化し、この係数の積で侵食量を推定する経験的モデルである。ここでは流出試験結果における降雨・土壌・地形等の係数を、これらの係数に関する従来の研究に基づいて求めた上で、営農的対策による土砂流出抑制効果をUSLEの作物・管理係数の値として流出試験結果から求めた・従来,作物・管理係数は年間または栽培期間で一定値として与えるが,本研究ではサトウキビの栽培期間を5つの生育期に分割することで,作物の生長や営農作業に伴う作物・管理係数の変動を明確に表現した.さらに1978年~2007年(30年)の降雨データを用いて平均降雨流出係数を算出し,生育期毎の作物・管理係数と,平均降雨流出係数を用いて年間作物・管理係数を得た. 第4章では,本研究で対象とした,サトウキビ栽培における営農的土砂流出抑制対策にっいてまとめた.具体的には,第3章で求めた年間作物・管理係数を用いて営農的対策にょる土砂流出抑制効果を,第2章で行った収量調査の結果を用いて営農的対策による収量・収益へ甲影響を整理した・その結見本研究で検討した営農的土砂流出抑制対策では・サトウキビ夏植え栽培において裸地期の不耕起管理,深耕,広幅畝,サトウキビ葉ガラのマルチング及びカボチャの間作を実施する栽培方法は,土砂流出抑制効果が最も大きく,収益性が最も良いことが明らかとなった. 以上本研究は,沖縄地方のサトウキビ栽培における営腿的土砂流出抑制対策について,その土砂流出抑制効果及び収量・収益への影轡を実測値に基づいて評価したものである.このように,実際のサトウキビ栽培に率いて営農的対策の効束を検討したことは,実務への応用において貢献するところが大きい.また,土砂流出試験において得た詳細なデータは,学術上価値あるものである.よって,審査委員一同は.,本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた. | |
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