No | 126301 | |
著者(漢字) | 福田,平 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フクダ,タイラ | |
標題(和) | インピーダンス法を用いた運動中における一回拍出量および心拍出量測定の臨床的意義の検討 : 低酸素の心機能に及ぼす影響と慢性心不全患者における心機能異常の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126301 | |
報告番号 | 甲26301 | |
学位授与日 | 2010.06.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3556号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | はじめに 心肺系の能力の指標として臨床的に用いられている最大酸素摂取量(peak O2)には O2=心拍出量(CO)×動静脈酸素含有量較差(C(a-v)O2)であり、O2には最大運動時のCOのみならず筋肉・血管拡張能・ヘモグロビン値が関与する最大運動時のC(a-v)O2も関係するため心肺機能の指標としては運動中のCOを直接測定した方がより正確である。また、慢性心不全患者において運動中の心拍出係数(CI)の動態は生命予後の予測因子であることが知られている。こうして運動中の一回拍出量係数(SVI)とCIの動態は重要な指標であるが、いままで非侵襲的な測定が困難であったため十分に解明されていなかった。しかし最近、インピーダンス法によるSVIとCIの測定原理は改善されかなり正確に測定できると報告されており、本研究でも概ね良好なSVI測定の再現性が得られた。本研究ではこのインピーダンス法を用いて、運動中の一回拍出量(SV)とCOの動態を検討した。まず本研究では研究1として、若年健常者を対象に常圧常酸素下および常圧低酸素下(3000m相当)にて漸増運動負荷試験を行い、同時に呼気ガス分析法とインピーダンス法によりそれぞれ運動中のO2およびSVとCOを連続的に測定し、低酸素状態が運動中のSVとCOの動態に及ぼす影響を検討した。次に研究2として、運動耐容能の保たれた慢性心不全患者(peak O2≧18.0 mL/kg/min)、運動耐容能の低下した慢性心不全患者(peak O2<18.0 mL/kg/min)および心疾患のない対照群を対象に、同様の運動負荷試験および測定を行い、慢性心不全患者における運動中のSVとCOの動態の検討を行うこととした。 研究1.低酸素状態が運動中の一回拍出量および心拍出量に及ぼす影響の検討 方法 対象は若年健常男性9例であった。常圧常酸素下および常圧低酸素下(O2:14.4%、3000 m相当)において、坐位自転車エルゴメータにて症候限界性運動負荷試験を行った。施行順を無作為割り付けし、少なくとも3日の間隔をあけて行った。O2などの呼吸パラメータを呼気ガス分析器によりbreath-by-breath法で連続的に測定した。また負荷試験中、インピーダンス方式の心拍出量計(Physio Flow PF05L1、Manatec Biomedical社製、France)によりSVとCOを測定した。このインピーダンス法のSV測定の再現性は、3例の対象者で同一のプロトコールの負荷試験を施行した結果、変動係数= 1.8%となり、概ね良好な再現性が得られた。 結果 常酸素下と比べ3000 m相当の急性低酸素下ではpeak O2 および最大運動時のCOとSVが低下した(CO;低酸素:26.7±2.1 vs. 常酸素:30.2±1.8 L/min、p<0.05、SV;低酸素:145±11 vs. 常酸素:163±11mL、p<0.05)。しかし、低酸素下において同一運動強度では、O2、COは変化しなかった。また、低酸素下において同一運動強度では、HRは増加し、SVは低下し、C(a-v)O2は変化しなかった。常酸素と比べ低酸素下では亜最大運動中にSVがプラトーに到達またはいったん上がってから低下した人数が増加し(低酸素:9人中5人 vs. 常酸素:9人中1人、p<0.05)、常酸素下と比べ低酸素下では運動中のHRの増加に対するSVおよびCOの増加率が低下した。 研究2.慢性心不全患者における運動中の一回拍出量および心拍出量の検討 方法 慢性心不全患者14例と心疾患がない対照群7例と21例を対象とした。慢性心不全患者群では、基礎心疾患は、陳旧性心筋梗塞が10例、拡張型心筋症が2例、大動脈閉鎖不全症が1例、虚血性心疾患が1例であった。これらの患者をpeak O2により2群に分け、A群(n=7)をpeak O2 ≧18.0 mL/kg/min、B群(n=7)をpeak O2 < 18.0 mL/kg/minとした。またA・B群・コントロール群の間で年齢、身長、体重に差はなかった。坐位自転車エルゴメータにて症候限界性運動負荷試験を行った。O2などの呼吸パラメータを呼気ガス分析器によりbreath-by-breath法で連続的に測定した。研究1.における場合と同様に、負荷試験中、インピーダンス方式の心拍出量計(Physio Flow)によりSVIとCIを測定した。 結果 コントロール群と比べB群ではCIおよびSVIは亜最大運動中には低い傾向にあったが、統計的有意差はなかった。しかし、最大運動時のCIおよびSVIは低値をとった(CI;B群:6.7±0.4 vs. コントロール群:9.3±0.4 L/min/m2、p<0.01、SVI;B群:53±2 vs. コントロール群:66±3 mL/m2、p<0.05)。コントロール群と比べてA群では、統計的有意差はないものの運動中のHRは低い傾向にあり、またコントロール群と比べてB群では、統計的有意差はないものの運動中のHRは高い傾向にあった。A群と比べてB群では最大運動時のC(a-v)O2は低値をとった。心疾患群と対照群の全例において、peak O2は最大運動時のC(a-v)O2と相関がみられなかったが、peak O2は最大運動時のCIと相関がみられた。また、心疾患群と対照群の全例において、最大運動時のCIは最大HRと相関がみられたが、最大運動時のCIは最大運動時のSVIとより強い相関がみられた。対照群ではほとんどの例でSVIが最大運動時まで増加し続けたのに対し、慢性心不全患者の運動耐容能が低下した群ではほとんどの例でSVIが亜最大運動中にプラトーになるか最大運動時に低下した。 考察 本研究では、いままで十分に解明されていない運動中のSVとCOの動態に関して、新しい手法であるインピーダンス法を用いて急性低酸素下、および慢性心不全患者において検討した。また、インピーダンス法のSV測定の再現性を調べたが、概ね良好であった。 研究1. 本研究での中程度の高度の急性低酸素下でのpeak O2の低下および最大運動時のCOの低下は先行研究の結果と一致していた。一方、運動中の血行動態を詳細に測定した報告はなかったが、本研究ではインピーダンス法を用いて、連続的な運動中のSVの測定を行い、中程度の高度の急性低酸素下で運動中のSVが低下することを明らかにした。 低酸素下において運動中のSVが低下する機序としては、まず心筋収縮力の低下が挙げられるが、一方、低酸素下では左室駆出率(LVEF)が維持され、心筋収縮力は正常であるとの報告もあるため、この機序は考えにくかった。次に、左室拡張能の低下を考えたが、低酸素下では左室拡張能の低下がみられ、この原因としてventricular interdependence あるいは低酸素による左室弛緩障害が挙げられるとの報告があった。さらに、肺血管収縮による右室機能障害を考えたが、sildenafilは低酸素による肺血管収縮を阻害し、右室の後負荷を減少し、運動中のCOを増加するとの報告があった。従って、低酸素下にて運動中のSVが低下する機序として左室拡張能の低下および低酸素による肺血管収縮のための右室機能障害が考えられた。 研究2. 本研究では運動耐容能の低下した慢性心不全群が心疾患のない群に対して、運動中のCIおよびSVIが低値をとることを示し、それは先行研究の結果と一致していた。慢性心不全患者群で運動中のSVIの動態を調べた報告は少ない。先行研究では、慢性心不全患者では正常者と比較して最大運動時のSVIが低値をとると報告しており、本研究の結果と同様であった。しかし、その報告では、慢性心不全患者および正常者の両者において亜最大運動中にSVIがプラトーに到達しており、本研究とは異なっていた。従って、慢性心不全患者における運動中のSVIの動態については更なる検討が必要である。 慢性心不全患者において、運動中のSVIとCIが低値をとる機序としては、まず心筋収縮力の低下を考えた。慢性心不全患者においてpeak O2は安静時のLVEFとはあまり相関が高くないことが知られている。しかし、慢性心不全患者が心移植を受ける際に得た心筋組織を用いて刺激頻度に対する反応を検討し、正常心筋では頻回刺激時に心筋収縮力が増加したのに対し、心不全の心筋では頻回刺激時に心筋収縮力が低下するとの報告がある。次に、左室拡張能の低下を考えたが、虚血性の左室機能低下患者において運動持続時間は安静時のLVEFとは相関がみられなかったが、拡張能の指標とは相関がみられ、その機序として左室のコンプライアンス低下のため左室拡張末期圧が上昇し、SVが低値をとるとした報告がある。さらに、肺血管抵抗および右室機能の低下を考えた。慢性心不全患者においてpeak O2は安静時のLVEFと相関がみられなかったが、右室のEFと相関がみられ、その機序として慢性心不全患者においては肺血管抵抗が上昇するため、右室機能が低下し、左室の血液流入が低下し、SVが低値をとるとした報告がある。また、運動耐容能の低下した慢性心不全患者においては運動中の僧帽弁閉鎖不全の変化が大きいとの報告もある。以上から、運動耐容能の低下した慢性心不全患者で運動中のSVIおよびCIの増加反応が減弱する機序としては、運動中の収縮機能障害、左室の力・収縮頻度関係の異常、左室拡張能障害、肺血管抵抗上昇のための右室機能障害、僧帽弁閉鎖不全の増加が考えられた。 結論 非侵襲的に連続的に計測できる手法であるインピーダンス法を用いて、運動中の一回拍出量と心拍出量を若年健常者において常酸素下と比べて急性低酸素下、および常酸素下にてコントロール群、運動耐容能の低下した慢性心不全患者および運動耐容能の保たれた慢性心不全患者の3群につき検討した。慢性心不全患者においては、運動耐容能の低い患者では、運動中の一回拍出量と心拍出量の増加反応が低下していた。また健常者においても、急性低酸素下では、同様に低下していた。健常者において低酸素下で運動中の一回拍出量と心拍出量の増加反応が減弱する機序として、左室拡張能障害あるいは右室に対する後負荷増加による右室機能障害が関与している可能性がある。一方、運動耐容能の低下した慢性心不全患者でそれらが減弱する機序としては上記の原因に加え、収縮機能障害、左室の力・収縮頻度関係の異常あるいは僧帽弁閉鎖不全の増加が関与している可能性がある。 | |
審査要旨 | 本研究は、心肺系の能力の指標として重要であるが、いままで非侵襲的な測定が困難であったため十分に解明されていなかった運動中の一回拍出量係数(SVI)と心拍出係数(CI)の動態を明らかにするため、最近測定原理が改善されかなり正確に測定できると報告されているインピーダンス法を用いて検討を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.本研究でも概ね良好なSVI測定の再現性が得られた。 2.若年健常者を対象に常酸素下と比べて3000 m相当の急性低酸素下において運動中の一回拍出量(SV)と心拍出量(CO)を検討したが、常酸素と比べ低酸素下では最大運動時のSVとCOが低下し、また亜最大運動中にSVがプラトーに到達またはいったん上昇してから低下した人数が増加し、さらに運動中のHRの増加に対するSVおよびCOの増加率は低値をとった。 3.心疾患のない対照群、慢性心不全患者の運動耐容能が保たれた群、および慢性心不全患者の運動耐容能が低下した群の3群において運動中のSVIとCIの動態を検討したが、対照群と比べて慢性心不全患者の運動耐容能が低下した群では最大運動時のSVIおよびCIは低値をとり、また対照群ではほとんどの例でSVIが最大運動時まで増加し続けたのに対し、慢性心不全患者の運動耐容能が低下した群ではほとんどの例でSVIが亜最大運動中にプラトーになるか最大運動時に低下した。 以上、本研究では、いままで十分に解明されていない運動中のSVとCOの動態に関して、新しい手法であるインピーダンス法を用いて急性低酸素下、および慢性心不全患者において検討した。低酸素下では運動中のSVの増加反応が減弱したが、これは運動中における心機能の低下を示唆する。一方、運動耐容能の低下した慢性心不全患者では運動中のSVIおよびCIの増加反応が減弱した。このことは運動耐容能の低下した慢性心不全患者において運動中のCIの増加反応が低下するメカニズムとして運動中のSVIの増加反応の低下があげられることを示唆すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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