学位論文要旨



No 126355
著者(漢字) 松山,智文
著者(英字)
著者(カナ) マツヤマ,トモフミ
標題(和) 逆転磁界配位の巨視的不安定性の検証
標題(洋)
報告番号 126355
報告番号 甲26355
学位授与日 2010.09.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7333号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日,邦彦
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 准教授 井,通暁
 東京大学 准教授 小野,亮
内容要旨 要旨を表示する

(本文)

核融合を目指した磁界によるプラズマ閉じ込め方式としてはトカマク方式が最も研究が進んでいるが、実際の核融合炉として建設することを考えると装置が大型かつ複雑化するという問題がある。逆転磁界配位(Field Reversed Configuration : 以下FRC)はコンパクトトーラス配位の一種で、他のトーラス状プラズマ閉じ込め配位と比較すると、プラズマを閉じ込めるのにプラズマ中を流れるトロイダル(大円周方向)電流の作るポロイダル(小円周方向)磁界のみを使用するためにβ値(=プラズマ圧力/磁気圧)がほぼ1と非常に高く、また配位の構造が簡素であるといった長所をもつ。しかしFRCの生成法として一般に使用されている逆バイアスθピンチ方式には大容量の高速電源を必要とする、効率のよい生成ができない等の欠点がある。本研究室のTS-3装置では互いに逆方向のトロイダル磁界を持つ2つのスフェロマックプラズマを軸対称合体させてFRCを生成する方式を使用しており、高速高電圧のコンデンサバンクを必要とせず、変流器コイルを用いて生成後のFRCの電流駆動を行うことが可能である。また逆バイアスθピンチ方式で生成されるFRCは楕円度が大きいのに対して、スフェロマック合体による生成法の場合は楕円度が小さいという違いがある。FRCの閉じ込め特性に関しては未だに不明な点が多くさらなる研究が必要とされている。例えばFRCは電磁流体力学的には不安定で、様々な不安定が発生して配位が崩壊してしまうはずである。その中でも配位が中心対称軸に対して傾いてしまうティルト不安定が危険であると考えられている。ところが実験ではティルト不安定は発生せず、安定に保たれている。これは電磁流体力学とは異なる安定化機構によって配位が消滅するまでの間安定が保たれているからだと考えられる。本研究では変流器コイルを用いた電流駆動によりFRCの寿命を可能な限り延長する方法を検討し、その際に発生する不安定を観測してその不安定の発生要因についての検証を行った。TS-3装置を用いてスフェロマック合体で生成したFRCプラズマは約30μsで消滅してしまう。そこで変流器コイルによる電流駆動を行ったところ寿命は約60μsまで延長された。しかしこの際変流器コイルの作る磁界により配位周辺の平衡磁界が打ち消されてしまうため、配位が外側へ膨らんで崩壊してしまう。そこで配位の外側に設置されているコイルに電流を流して平衡磁界を補正してやることにより変流器コイルによる平衡磁界の打ち消しを相殺したところ寿命は約100μsまで延長された。しかし今度は平衡磁界の磁気面の曲がり具合を示すインデックスが増加して、配位が軸方向へ変形するという問題が発生した。そこで配位の左右の平衡磁界も補正することで寿命は130μsまで延長された。しかしこの時間は電流駆動効果の持続時間である約200μsよりも短いため、何らかの不安定が発生して配位の崩壊を引き起こしていると考えられる。そこでFRCの寿命を延長する過程でどのような不安定が発生しているかを調べるため、中心対称平面に設置した磁気プローブを用いて磁界分布を計測することでトロイダルモードの変化を観測した。その結果電流駆動を行わない場合にはほとんどトロイダルモードは観測されなかったのに対して、電流駆動を行った場合にはトロイダルモード数n=1の不安定が観測された。n=1の不安定には配位が中心対称軸から垂直方向に移動するシフト不安定と中心対称軸に対して傾くティルト不安定があるが、配位の外側にコイルがあるためシフト不安定は抑制されると考えられるのでここで観測されているn=1の不安定はティルト不安定と考えることができる。n=1モードは時間の経過とともに増加しており、磁気面の状態からもティルト不安定によって配位が崩壊していることを確認した。配位の半径とイオンの旋回半径の比であるs値やインデックスの変化から、ティルト不安定の発生の原因はイオンの回転による配位の安定化効果が減少したためではなく、インデックスの増加により不安定の成長が助長されたからであると考えることができる。インデックスの増加によってティルト不安定の発生を定性的には説明できたが、定量的にティルト不安定の発生条件を求めるためにインデックスの代わりに配位の楕円度Eを用い、数値計算によってEとsによって決まると求められている安定度ダイアグラムとの比較を行った。平衡磁界の補正等で配位の楕円度を変化させて不安定の発生を観測したところ、数値計算による結果ではEの小さい領域においてはティルト不安定に対する安定領域はE<0.5であったのに対して、実験の結果ではE<0.78であった。この違いの原因として数値計算においては存在していない変流器コイルのシェルに渦電流が流れることによりティルト不安定が安定化されるという効果が考えられる。そこで渦電流のモデルを作成して計算したところ、シェルの半径が大きくなるにつれて安定化効果が大きくなることを確認した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「逆転磁界配位の巨視的不安定性の検証」と題し、東京大学で考案された逆方向トロイダル磁界を有する2個のスフェロマック同士を合体させて逆転磁界配位(FRC)を形成し、さらに中心対称軸上に挿入したオーム加熱(OH)コイルにより電流駆動する実験を行なった成果を報告している。長寿命化を達成する一方で、寿命を決定する巨視的ティルト不安定の発生限界について検証し、平衡磁場インデックスを用いた抑制法を実証した。FRC炉はベータ値がほぼ1に近く、通常のトカマク配位を大幅に上回るため、経済的な核融合炉となる反面、配位生成法や巨視的不安定の抑制に課題がある。合体法は、合体の際の磁気リコネクション加熱で経済的にFRC配位を生成する意義がある他、従来のテータピンチ法による高速生成と異なり、オーム加熱コイルの付加による長時間電流駆動や磁束増倍が可能である。

第1章は、序論であり、研究対象となったFRCがほぼ100%のベータを持つ閉じ込め配位として経済的な核融合炉を実現する可能性がある反面、テータピンチと呼ばれる配位生成法やティルト不安定をはじめとする巨視的不安定の抑制に課題があることが述べられている。スフェロマック合体法にオーム加熱コイルによる電流駆動法を組み合わせ、さらに巨視的不安定を抑制することによって配位の長寿命化を図るという研究目的が述べられている。

第2章は、実験装置と題し、プラズマ合体実験装置TS-3実験装置の詳細が述べられており、円筒真空容器の左右にあるポロイダルコイルと8対の放電電極によってスフェロマック配位を形成し、異極性トロイダル磁場を有する2個のスフェロマック合体によってFRCを生成すること、さらにオーム加熱コイルによって電流駆動を行う実験について説明している。

第3章は、計測装置と題し、2次元ピックアップコイルアレイを用いたr-z平面上の2次元磁界計測システムをはじめとして鍵となるティルト不安定を計測するr-θ平面上の2次元磁界計測、イオン温度を計測するためのラインスペクトルのドップラー幅を計測するシステムや静電プローブによる電子密度や電子温度の計測などが説明されている。

第4章は、FRC長寿命化実験と題し、オーム加熱コイルによりFRCのトロイダル電流を駆動したところ、寿命は30マイクロ秒から60マイクロ秒にのびたものの、オーム加熱コイル磁場が平衡磁界を打ち消すためにFRCのフープ力を打ち消すことができずに配位自体が大きくふくらんでしまって壁にぶつかることにより寿命が決まっていることがわかった。平衡磁場を強めると更に寿命はのびたが、平衡磁界インデックスの値が正に変化してティルト不安定が誘起されていることが明らかとなった。複数のコイルを用いて磁界インデックスを負に立つように改良した結果、130マイクロ秒まで寿命が延長されたことを述べている。

第5章は、FRCの不安定解析と題し、現在のFRCの寿命を決定しているティルト不安定について解析し、最近の理論予測に従ってティルト不安定の成長と平衡磁界インデックス、イオンサイズパラメータとの関連を実験的に検証している。その結果、楕円度0.5-1程度の本実験においてはティルト不安定とイオンサイズパラメータとの相関はなく、平衡磁界インデックスの大小によって安定限界が決まっていることを述べている。

第6章は、安定度ダイアグラムとの比較実験と題し、磁界インデックスが大きくなるに従ってFRCの楕円度が上昇すること、FRCの楕円度とティルト不安定との関係について理論研究があることから、実験結果をこの理論と比較した結果、理論的な安定限界が楕円度0.5となるのに対して、実験的な安定限界が楕円度0.73となった。この差は、オーム加熱コイル表面の金属シェルへの誘導電流の影響が全体のティスト不安定のエネルギーに対して10%程度あることで説明できることが述べられている。

第7章は、結論であり、オーム加熱コイルによるFRCの寿命延長とティルト不安定の安定限界の検証という2つの実験を有機的に結合し、平衡磁界インデックス、及び'楕円度の適切な制御を行いつつ、オーム加熱コイルによるFRCの電流駆動を行えば、FRCの寿命を延長できるとの結論をまとめている。

以上要するに、FRCの最も危険な不安定であるティルト不安定は、平衡磁場の制御によりFRCの楕円度を0.7以下に保てば安定化できることを実験的に明らかにし、更にオーム加熱コイルによるFRCの電流駆動を行い、実際に30マイクロ秒の配位維持時間を130マイクロ秒まで延長することに成功した。一連の成果はFRCの長時間維持に見通しを与え、プラズマ理工学、核融合工学、電気電子工学への貢献は少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク