学位論文要旨



No 126368
著者(漢字) ,朗
著者(英字) Liu,Lang
著者(カナ) リュウ,ラン
標題(和) 軽いエキゾチック原子核の第一原理MCSM計算
標題(洋) Ab initio MCSM calculation for light exotic nuclei
報告番号 126368
報告番号 甲26368
学位授与日 2010.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5575号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 下浦,享
 東京大学 教授 初田,哲男
 東京大学 准教授 上坂,友洋
 東京大学 教授 久保野,茂
 東京大学 准教授 藤井,新一郎
内容要旨 要旨を表示する

The structure and low lying excited spectra of light exotic nuclei 10Be, 12Be, 7Li and 9Li has been investigated under Monte Carlo Shell Model calculation by employing UCOM potential. The unitary correlation operator method, which treat short range correlation by introducing two types of correlation operator - center correlation op-erator and tensor correlation operator, has been used in our calculation. Monte Carlo Shell Model calculation, as it can treat more wide variety of the states and large vari-ation of nucleon number by decreasing Hamiltonian matrix dimension significantly comparing with conventional shell model calculation, is a suitable many-body calcu-lation method for investigating exotic nuclei in a ab-initio way. We calculate 4He in conventional shell model scheme as a testing for convergence of UCOM potential in the model space from emax=1 to emax=5 model space. Ground state and some low-lying state of 10Be and 12Be has been calculated by using UCOM potential in emax=3 (pf-shell) model space. We calculate the quadrupole momentum of first 21 state in 1°Be and 12Be. The B(E2) value from Og.s.+, to 21 +in both nuclei are calculated. We get 49.042 e2fm4 for B(E2,0g.s.+ -21) of 10Be, which is close to experiment data 46(15) e2fm4. MCSM calculation with UCOM potential show a large excited energy of 1/2- over 3/2- and opposite energy level ordering of those two states compar-ing the results only two-body interaction included. MCSM results show agreement with experiment data because three-body force contribution is taken into account in UCOM potential.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は6章からなり、その研究内容は、現実的核力に基づいた第一原理原子核構造計算を、Unitary Correlation Operator Method (UCOM)による二体核力と Monte Calro Shell Model (MCSM)による多体波動関数の対角化により実現し、その収束性と計算結果を分析したものである。

第1章は、イントロダクションであり、核子-核子散乱を精密に記述する現実的核力の表現、原子核構造計算に適用するための問題点とその解決方法および殻模型による構造計算における巨大次元の対角化の取扱手法の進展が述べられ、これらを組み合わせた第一原理原子核構造計算の重要性と現状が示されている。第2章では、現実的核力を原子核構造に適用するため本研究で用いる UCOM の理論的枠組みが示されている。UCOMでは、二体核力の斥力芯による短距離相関をユニタリー演算子として表現し、それを用いて殻模型計算に適用可能な二体相互作用に変換される。二体核力として、中心力とテンソル力が考慮され、具体的適用例として重陽子波動関数にあらわれる短距離相関とD状態が例示されている。核子-核子散乱を記述する現実的核力を用いたUCOM相互作用を定式化し以下の計算で用いられる。第3章では、殻模型計算で用いられる多粒子基底の対角化の次元を原子核の各状態にとって重要な基底を選び出すことにより小さくする MCSM の理論的枠組みと重心運動のspurious motionを除去するための処方箋が示されている。これらの3章で、本研究で用いられる手法の背景と内容、その位置づけが明確に示され、論文提出者が十分な科学的視点を持っていることが示されている。

第4章では、4He核の基底状態のエネルギーを、模型空間の大きさ(emax: major shell の数)、UCOM相互作用の種類(N3LO, AV18)、調和振動子パラメータ(hω)の関数として計算し、その収束性が論じられている。まず、通常の殻模型計算が行われ、いずれの相互作用でもhω~30 MeV で最小のエネルギーが得られ、emax=5 で 1 MeV 程度の水準の収束性が得られた。次に、MCSM計算の収束性をMCSM次元の関数として検討し、試行回数を100とすることで早い収束が得られることが示された。また、通常の殻模型計算との一致が確かめられるとともに、spurious motion の除去パラメータ(βc.m.)に関する収束性も調べられている。いずれの計算結果もこれまでの第一原理計算と同水準である。

第5章では、7,9Li 核の3/2-および1/2-状態のエネルギーが計算されている。1つのパラメータセット(AV18ポテンシャル、emax=3, hω=20 MeV, βc.m.=10 hω/A)に対してMCSM次元に関する収束性が調べられ、7Liでは16次元、9Liでは30次元で、100keV程度の水準の収束性が得られた。計算の収束性、パラメータセットに関する検討は必ずしも十分ではないが、いずれの計算も3/2- が基底状態となっており、2体核力のみを考慮したこれまでの第一原理計算では出せていない実験と一致する基底状態のスピンが得られたことは特筆に値する。

第6章では、第一原理計算のテストとしてよく用いられる10Be および 12Be の計算が、主に、N3LOポテンシャルでemax=3, hω=16 MeV, βc.m.=10hω/Aでなされている。MCSM 次元に対する収束性が調べられ、エネルギーの収束性は十分ではないが、基底状態を0としたエネルギースペクトルについては、数10keVの水準の収束性が得られた。10Beの2つの2+状態の四重極モーメントもよい収束性が得られ、その符号が異なること、それが中性子の配位の違いに起因することが明確に示されている。これら2つの状態の励起エネルギーおよび基底状態から第一2+状態への遷移確率は実験とよく一致してことは特筆される。Spurious motion の影響を最もうけると考えられる1- 状態については少なくともβc.m.=20 hω/A以上をとる必要があることが示された。12Beに関してはsd殻の配位が大きいことが計算で得られ、これは emax=3 では模型空間が小さすぎることを示しているとともに、実験的に示されているN=8 の魔法数の破れと定性的に一致しているもの考えられる。

第7章では上記の結果がまとめられ、より大きな模型空間での計算への期待が述べられている。

以上のように本研究は、UCOM+MCSMを用いた始めての第一原理計算であり、より重い原子核の構造計算への適用可能性と問題点を示した先駆的研究と位置づけられ、原子核構造研究分野の進展に貢献するものである。

なお、本論文は共同研究であるが、論文提出者が主体となって計算および計算結果の分析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

従って、博士(理学)の学位を授与できると認める

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