学位論文要旨



No 126413
著者(漢字) 上條,浩一
著者(英字)
著者(カナ) カミジョウ,コウイチ
標題(和) 携帯型デバイスを用いた不可視マーカ技術に関する研究
標題(洋)
報告番号 126413
報告番号 甲26413
学位授与日 2010.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7376号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森川,博之
 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 中邑,賢龍
 東京大学 特任講師 今泉,英明
 東京大学 教授 佐藤,洋一
内容要旨 要旨を表示する

本論文は「携帯型デバイスを用いた不可視マーカ技術に関する研究」と題し,不可視マーカと携帯デバイスを用い,紙メディアをはじめとする様々なアナログメディアから,そのアナログメディアに関連するデジタル情報を取得する実用的な手法とその評価結果について論じている.

第1章は,「序論」であり,アナログメディアとデジタルメディアの市場規模や今後期待される役割などについて触れ,これら2つの世界を結び付ける技術が求められていることを示し,本研究の背景と各章の目的について述べている.

第2章「不可視マーカ」では,まず不可視マーカに必要な課題の整理を行っている.次に,不可視マーカ技術に関連する,アナログメディアからデジタルメディアを取得する関連技術を示し,本研究の必要性を明確にしている.不可視マーカ技術においては,不可視インクを用いて不可視マーカをアナログメディア上に印刷し,それを紫外線LEDライトで可視化し,携帯デバイスで撮影後,情報の抽出を行うが,その際利用する不可視インク,紫外線LED,および携帯デバイスについて述べている.また,本論文で扱う3つの不可視マーカの概要を説明するとともに,不可視マーカの応用に関しての議論を行っている.

第3章「不可視バーコード技術」では,不可視マーカとしてQRコードを用いる不可視バーコード技術の手法を論じ,その有用性を実験により示している.不可視バーコード技術においては,不可視バーコードを新聞の記事等に重畳して印刷を行い,紫外線LEDライトで可視化した画像より情報の抽出を行うが,元画像と不可視バーコードが重畳している場合においても,画像のチャネル間の相関を用いることにより,情報の抽出が可能であることを示している.

第4章「ハイパリンク不可視マーカ」では,不可視バーコード技術におけるQRコードの意匠,エラー訂正方式等の規格化された制限に縛られず,印刷対象に応じて最適な形状と埋め込み方法を採用するハイパリンク不可視マーカの手法を論じ,その有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,ハイパリンク不可視マーカの意匠として,長方形の形状を採用し,対象文章等に重畳印刷することにより,発光時の不可視マーカと対象文章の関係を直感的に解りやすくしている.また,不可視マーカと文字等との重畳部分の面積の割合に応じて,情報の埋め込みおよび抽出に用いる領域やエラー訂正の方法を変化させることにより,マーカとしてQRコードを利用する場合と比較して,最大約25倍の情報の埋め込みが可能であることを示している.

第5章「アンダーライン不可視マーカ」では,文章や図等の近傍に線を施すだけのシンプルなアンダーライン不可視マーカの手法を論じ,その有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,サーバから送られて来る数十k byte程度のベクトル情報と,マーカの近傍の画像情報をサンプリングして得られる情報とのパターンマッチングを行うことにより,直線だけのシンプルなマーカからの情報抽出が可能であることを示している.また,マーカの印刷位置や長さ等を変化させることにより,マーカからの情報の誤検出を防ぐ方法を示している.さらに,直線を抽出後,パターンマッチングを行い,情報抽出を行うことにより,ローエンド携帯電話を用いて約0.3秒での高速な抽出を実現していることを示している.

第6章「不可視マーカにおける印刷支援システム」では,抽出成功率を最大にする位置への不可視マーカの印刷位置を算出する支援システムの手法を論じている.また,不可視マーカとして不可視バーコードを採用する場合を想定し,本システムの有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,マーカの形状,印刷対象の紙面の画像,および印刷範囲が与えられれば,phong illumination modelをベースした簡易物理モデルを用い,実際に不可視マーカを印刷せずに,マーカの発光画像をシミュレートした擬似画像を作成できることを示している.さらに,その擬似画像を様々な印刷位置で作成し,抽出を行うことにより,不可視マーカの最適な印刷位置を算出できることを示している.

第7章「結論」では,本論文の成果をまとめるとともに,衣服,食物,建築物を含めた紙メディア以外のアナログメディアへの適用可能性,普及へ向けての残された課題,および今後の研究の方向性について述べている.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「携帯型デバイスを用いた不可視マーカ技術に関する研究」と題し,不可視マーカと携帯デバイスを用い,紙メディアをはじめとする様々なアナログメディアから,そのアナログメディアに関連するデジタル情報を取得する実用的な手法とその評価結果について論じている.

第1章は,「序論」であり,アナログメディアとデジタルメディアの市場規模や今後期待される役割などについて触れ,これら2つの世界を結び付ける技術が求められていることを示し,本研究の背景と各章の目的について述べている.

第2章「不可視マーカ」では,まず不可視マーカに必要な課題の整理を行っている.次に,不可視マーカ技術に関連する,アナログメディアからデジタルメディアを取得する関連技術を示し,本研究の必要性を明確にしている.不可視マーカ技術においては,不可視インクを用いて不可視マーカをアナログメディア上に印刷し,それを紫外線LEDライトで可視化し,携帯デバイスで撮影後,情報の抽出を行うが,その際利用する不可視インク,紫外線LED,および携帯デバイスについて述べている.また,本論文で扱う3つの不可視マーカの概要を説明するとともに,不可視マーカの応用に関しての議論を行っている.

第3章「不可視バーコード技術」では,不可視マーカとしてQRコードを用いる不可視バーコード技術の手法を論じ,その有用性を実験により示している.不可視バーコード技術においては,不可視バーコードを新聞の記事等に重畳して印刷を行い,紫外線LEDライトで可視化した画像より情報の抽出を行うが,元画像と不可視バーコードが重畳している場合においても,画像のチャネル間の相関を用いることにより,情報の抽出が可能であることを示している.

第4章「ハイパリンク不可視マーカ」では,不可視バーコード技術におけるQRコードの意匠,エラー訂正方式等の規格化された制限に縛られず,印刷対象に応じて最適な形状と埋め込み方法を採用するハイパリンク不可視マーカの手法を論じ,その有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,ハイパリンク不可視マーカの意匠として,長方形の形状を採用し,対象文章等に重畳印刷することにより,発光時の不可視マーカと対象文章の関係を直感的に解りやすくしている.また,不可視マーカと文字等との重畳部分の面積の割合に応じて,情報の埋め込みおよび抽出に用いる領域やエラー訂正の方法を変化させることにより,マーカとしてQRコードを利用する場合と比較して,最大約25倍の情報の埋め込みが可能であることを示している.

第5章「アンダーライン不可視マーカ」では,文章や図等の近傍に線を施すだけのシンプルなアンダーライン不可視マーカの手法を論じ,その有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,サーバから送られて来る数十k byte程度のベクトル情報と,マーカの近傍の画像情報をサンプリングして得られる情報とのパターンマッチングを行うことにより,直線だけのシンプルなマーカからの情報抽出が可能であることを示している.また,マーカの印刷位置や長さ等を変化させることにより,マーカからの情報の誤検出を防ぐ方法を示している.さらに,直線を抽出後,パターンマッチングを行い,情報抽出を行うことにより,マーカ数が40程度の場合,ローエンド携帯電話を用いて約0.3秒での高速な抽出を実現していることを示している.

第6章「不可視マーカにおける印刷支援システム」では,抽出成功率を最大にする位置への不可視マーカの印刷位置を算出する支援システムの手法を論じている.また,不可視マーカとして不可視バーコードを採用する場合を想定し,本システムの有用性をシミュレーションと実験により示している.具体的には,マーカの形状,印刷対象の紙面の画像,および印刷範囲が与えられれば,phong illumination modelをベースした簡易物理モデルを用い,実際に不可視マーカを印刷せずに,マーカの発光画像をシミュレートした擬似画像を作成できることを示している.さらに,その擬似画像を様々な印刷位置で作成し,抽出を行うことにより,不可視マーカの最適な印刷位置を算出できることを示している.

第7章「結論」では,本論文の成果をまとめるとともに,衣服,食物,建築物を含めた紙メディア以外のアナログメディアへの適用可能性,普及へ向けての残された課題,および今後の研究の方向性について述べている.

以上,これを要するに本論文は,将来益々必要性が高まることが容易に予測される,デジタルメディアとアナログの融合に関し,様々な手法による実現手法とその評価結果を論じている.また,それらの手法を用いた応用に関しても,応用領域からその具体応用例まで幅広く議論を行っており,電子情報工学上寄与するところが少なくない.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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