学位論文要旨



No 126414
著者(漢字) 山田,直治
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,ナオハル
標題(和) 行動支援に向けた屋内測位手法及び位置情報履歴解析手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 126414
報告番号 甲26414
学位授与日 2010.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7377号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森川,博之
 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 中邑,賢龍
 東京大学 特任講師 今泉,英明
 東京大学 教授 佐藤,洋一
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,ユーザの行動を支援するサービスの実現に向けて,携帯電話上のセンサを用いて取得した情報から,屋内外におけるユーザの状況を正確に把握する手法について論じたものである.具体的には,屋内オフィス環境において,プレゼンスサービスを実現するために,無線LANの受信レベルを用いてユーザの存在エリアを高信頼に推定する手法を示す.また,屋外環境において,ユーザの日常・非日常エリアに基づく行動支援を行うために,GPS位置情報からユーザの移動経路を推定する手法,および移動経路履歴に基づいて訪問地を予測する手法を示す.

第1章「序論」では,本論文の背景と目的,および本論文の構成について述べている.本論文の背景では,近年,さまざまな分野において,ユーザを「個」と捉え,個々のユーザに適応したサービスの提供が行われつつあることを示している.本論文の目的では,こうした背景を踏まえ,携帯電話上のセンサで得られた情報に基づいて,個々のユーザの状況を正確に把握することとしている.

第2章「行動支援サービス」では,行動支援サービスを,「ユーザの現在の状況や過去の行動履歴に基づいて,ユーザの行動を支援する情報を提供するサービス」と定義づけている.その上で,本論文が対象とする2つのサービス:1)屋内オフィス環境向けのプレゼンスサービスと,2)屋外環境向けの日常・非日常エリア支援サービスについて紹介している.さらに,行動支援サービスを行うために,携帯電話に一般的に搭載されているセンサを利用することの重要性について述べている.

第3章「オフィス内行動支援のための無線LAN測位手法」では,第2章で紹介した屋内オフィス環境向けのプレゼンスサービスを実現するために,無線LANの受信レベルを用いたユーザの屋内測位手法を示している.プレゼンスサービスを実現するためには,ユーザが存在するエリア(自席,会議室等)を高確度に推定することが重要となる.しかしながら,人や什器の移動に伴う電波伝搬環境の変動に起因して,受信レベルも短期的・長期的に変動し,その結果エリア推定結果の確度が低下してしまう.

本論文では,時間的制約,空間的拡張の適用により,受信レベルの短期的,長期的な時間変動に起因する誤推定を解決する.時間的制約について,プレゼンスシステムでは,ユーザのプレゼンスを把握する上で,ユーザが滞在しているエリアを特定することが重要である.そこで,本論文では,ユーザが滞在中であることを検知し,滞在中に取得した長時間の受信レベルを利用することで,受信レベルの短時間の変動を抑制する.空間的拡張については,複数のエリアにおける受信レベルが同程度であれば,推定結果を複数エリアに拡張することで,長時間の変動を抑制する.

提案手法について,什器等のない理想的な屋内環境と,実際のオフィス環境で評価実験を実施し,実際のオフィス環境において平均1.8エリアの解像度,95%の確度でエリア推定が可能であることを示している.

第4章「屋外行動支援のためのGPS位置情報解析手法」では,第2章で紹介した屋外環境向けの日常・非日常エリア支援サービスを実現するために,GPS位置情報を用いた移動経路推定手法と,移動経路履歴に基づく訪問地予測手法を示している.本サービスを実現するための課題として,携帯電話の電力消費量を軽減するためにGPS測位間隔を長くする必要があり,特に移動中の場合に位置情報がまばらになってしまう.また,携帯電話のGPS測位誤差が大きくなる場合があり,ユーザの移動経路が不正確になってしまう.

本論文では,過去の移動経路を再度通過時に取得した位置情報を用いて,当該移動経路を逐次的に補間,もしくは補正することにより,上記の問題を解決する.さらに,訪問地予測手法では,過去の移動経路履歴のうち,現在と同じ場所を同じ時間帯に通過した経路を特定し,当該移動経路上で一定時間滞在した場所を予測結果としている.

提案手法について,被験者6名が7ヶ月間蓄積したGPS位置情報履歴を用いて評価実験を実施し,移動経路が逐次的に精錬されていること,68%の精度で訪問地予測が可能であることを示している.

第5章「結論」では,本論文の主たる成果をまとめるとともに,今後の展開について述べている.

以上

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,ユーザの行動を支援するサービスの実現に向けて,携帯電話上のセンサを用いて取得した情報から,屋内外におけるユーザの状況を正確に把握する手法について論じたものである.具体的には,屋内オフィス環境において,プレゼンスサービスを実現するために,無線LANの受信レベルを用いてユーザの存在エリアを高信頼に推定する手法を示す.また,屋外環境において,ユーザの日常・非日常エリアに基づく行動支援を行うために,GPS位置情報からユーザの移動経路を推定する手法,および移動経路履歴に基づいて訪問地を予測する手法を示す.

第1章「序論」では,本論文の背景と目的,および本論文の構成について述べている.本論文の背景では,近年,さまざまな分野において,ユーザを「個」と捉え,個々のユーザに適応したサービスの提供が行われつつあることを示している.本論文の目的では,こうした背景を踏まえ,携帯電話上のセンサで得られた情報に基づいて,個々のユーザの状況を正確に把握することとしている.

第2章「行動支援サービス」では,行動支援サービスを,「ユーザの現在の状況や過去の行動履歴に基づいて,ユーザの行動を支援する情報を提供するサービス」と定義づけている.その上で,本論文が対象とする2つのサービス:1)屋内オフィス環境向けのプレゼンスサービスと,2)屋外環境向けの日常・非日常エリア支援サービスについて紹介している.さらに,行動支援サービスを行うために,携帯電話に一般的に搭載されているセンサを利用することの重要性について述べている.

第3章「オフィス内行動支援のための無線LAN測位手法」では,第2章で紹介した屋内オフィス環境向けのプレゼンスサービスを実現するために,無線LANの受信レベルを用いたユーザの屋内測位手法を示している.プレゼンスサービスを実現するためには,ユーザが存在するエリア(自席,会議室等)を高確度に推定することが重要となる.しかしながら,人や什器の移動に伴う電波伝搬環境の変動に起因して,受信レベルも短期的・長期的に変動し,その結果エリア推定結果の確度が低下してしまう.

本論文では,時間的制約,空間的拡張の適用により,受信レベルの短期的,長期的な時間変動に起因する誤推定を解決する.時間的制約について,プレゼンスシステムでは,ユーザのプレゼンスを把握する上で,ユーザが滞在しているエリアを特定することが重要である.そこで,本論文では,ユーザが滞在中であることを検知し,滞在中に取得した長時間の受信レベルを利用することで,受信レベルの短時間の変動を抑制する.空間的拡張については,複数のエリアにおける受信レベルが同程度であれば,推定結果を複数エリアに拡張することで,長時間の変動を抑制する.

提案手法について,什器等のない理想的な屋内環境と,実際のオフィス環境で評価実験を実施し,実際のオフィス環境において平均1.8エリアの解像度,95%の確度でエリア推定が可能であることを示している.

第4章「屋外行動支援のためのGPS位置情報解析手法」では,第2章で紹介した屋外環境向けの日常・非日常エリア支援サービスを実現するために,GPS位置情報を用いた移動経路推定手法と,移動経路履歴に基づく訪問地予測手法を示している.本サービスを実現するための課題として,携帯電話の電力消費量を軽減するためにGPS測位間隔を長くする必要があり,特に移動中の場合に位置情報がまばらになってしまう.また,携帯電話のGPS測位誤差が大きくなる場合があり,ユーザの移動経路が不正確になってしまう.

本論文では,過去の移動経路を再度通過時に取得した位置情報を用いて,当該移動経路を逐次的に補間,もしくは補正することにより,上記の問題を解決する.さらに,訪問地予測手法では,過去の移動経路履歴のうち,現在と同じ場所を同じ時間帯に通過した経路を特定し,当該移動経路上で一定時間滞在した場所を予測結果としている.

提案手法について,被験者6名が7ヶ月間蓄積したGPS位置情報履歴を用いて評価実験を実施し,移動経路が逐次的に精錬されていること,68%の精度で訪問地予測が可能であることを示している.

第5章「結論」では,本論文の主たる成果をまとめるとともに,行動支援サービスの実現に向けた無線LAN測位手法,およびGPS位置情報解析手法に関する今後の展開について述べている.

以上,これを要するに本論文は,行動支援サービスの実現に向けて,無線LANを用いた高確度な屋内エリア推定手法,GPS位置情報を用いた逐次的移動経路精錬手法と訪問地予測手法を提案し,実験を通じて有用性を示したものであり,情報通信工学上貢献するところが少なくない.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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