学位論文要旨



No 126472
著者(漢字) キンデル クリスティアン ハーマン
著者(英字)
著者(カナ) キンデル クリスティアン ハーマン
標題(和) 六方晶GaN量子ドットにおける偏光特性の研究
標題(洋) Study on Optical Polarization in Hexagonal Gallium Nitride Quantum Dots
報告番号 126472
報告番号 甲26472
学位授与日 2010.10.14
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7388号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 教授 平川,一彦
 東京大学 准教授 杉山,正和
 東京大学 准教授 岩本,敏
内容要旨 要旨を表示する

自己形成半導体量子ドットナノ構造は、要求に応じて光子一個(量子ビット)または偏光エンタングルされた光子対を生成する全固体デバイスの実現の可能性があり、大いに期待されている。特に、禁制帯幅が大きく閉じ込めポテンシャルが深い窒化ガリウム系量子ドットは、室温で動作する非古典光発生源を実現する有望な材料系の候補の一つである。

本論文は、英文で書かれたものであり「Study on Optical Polarization in Hexagonal Gallium Nitride Quantum Dots」(六方晶GaN量子ドットにおける偏光特性の研究)と題し、単一自己形成六方晶GaN量子ドットの光学的性質を明らかにして、この量子ドットに基づく偏光エンタングルされた光子ペア発生源の実現可能性について論じており、全8章から構成される。

第1章は「Introduction」と題し、量子情報、半導体ナノ構造と窒化系量子ドットの基礎について概説するとともに、窒化物系量子ドットに関する研究の現状について説明した後、本研究の目的を述べている。

第2章は「Single Dot Spectroscopy: Samples and Setup」と題し、GaN/AlN量子ドットの成長方法とサンプル表面の加工について概説し、単一量子ドットからの発光を分光可能なマイクロフォトルミネセンス装置について述べるとともに、実験系のコンピュータ自動化について詳細に論じている。

第3章は「Luminescence Properties of Single Quantum Dots」と題し、単一量子ドット発光の一般的な理論モデルを用いて、発光の励起パワー依存性、時間発展と二次の光子相関関数を導出する。これにより実験における量子ドット発光線を、励起子状態と励起子分子状態、また光学フォノンレプリカからの発光であると比較を通して同定可能とした。

第4章は「Collinear Luminescence Polarization of Exciton and Biexciton」と題し、サイズの大きなGaN/AlN量子ドットからの発光に関して偏光特性を研究する。発光エネルギーの低い大きなGaN/AlN量子ドットは直線偏光度が高く、励起子と励起子分子、光学フォノンレプリカの発光全てが同じ直線偏光方向を持っている。原子間力顕微鏡で量子ドットの形状を調べ、理論的に予想される直線偏光の原因、形状異方性を実験的に確認した。

第5章は「The Origin and the Impact of Line-Widths Broadening」と題し、GaN/AlN量子ドットの非常に太い発光線幅について調べる。この太い発光線幅は、偏光エンタングルメントに関する研究において重要となる励起子の微細構造の研究進行を妨げていた。本章はこれまで報告されていなかった線幅の発光エネルギー依存性について報告すると同時に、Hartree近似の計算を用いて、量子ドット近傍に存在する欠陥によるキャリアトラッピングによる線幅増大メカニズムを解明した。その結果、量子閉じ込めStark効果が主原因であることを明らかにするとともに、発光エネルギー依存性も正確にシミュレーションすることができた。

第6章は「A Theory of Spectral Diffusion」と題し、第5章の理論モデルを拡張し、欠陥密度による線幅の確率密度関数を算出している。これにより、実験で求めるのが困難な分量(欠陥密度)と、求めるのが容易な分量(線幅の確率密度)とを結びつけることができた。この情報はサンプル成長の条件探索にも大変役に立つものである。

第7章は「Fine Structure of the Exciton」と題し、GaN/AlN量子ドットの電子-正孔交換相互作用による励起子状態の微細構造分裂を論ずる。4 eV発光エネルギー以上の小さなGaN/AlN量子ドットは線幅が十分に細く、初めて窒化系量子ドットにおいて微細構造分裂を実験的に観測できた。また、8-band k×pモデルとHartree-Fock近似による励起子状態の計算によって実験結果を定量的に説明できることを見出した。量子ドットの形状異方性や量子ドット内の歪み異方性は微細構造分裂の原因となるため、微細構造分裂調整手段を示すことで、将来の量子通信・量子暗号システムが必要とする高温度偏光エンタングルされた光子対発光源を開発の可能性を探った。

第8章は「Conclusions」と題し、各章の主要な成果をまとめ、本論文の結論、及び将来の展望について述べている。

審査要旨 要旨を表示する

自己形成半導体量子ドットナノ構造は、要求に応じて光子一個(量子ビット)または偏光エンタングルされた光子対を生成する全固体デバイスの実現の可能性があり、大いに期待されている。特に、禁制帯幅が大きく閉じ込めポテンシャルが深い窒化ガリウム系量子ドットは、室温で動作する非古典光発生源を実現する有望な材料系の候補の一つである。

本論文は、英文で書かれたものであり「Study on Optical Polarization in Hexagonal Gallium Nitride Quantum Dots」(六方晶GaN量子ドットにおける偏光特性の研究)と題し、単一自己形成六方晶GaN量子ドットの光学的性質を明らかにして、この量子ドットに基づく偏光エンタングルされた光子ペア発生源の実現可能性について論じており、全8章から構成される。

第1章は「Introduction」と題し、量子情報、半導体ナノ構造と窒化系量子ドットの基礎について概説するとともに、窒化物系量子ドットに関する研究の現状について説明した後、本研究の目的を述べている。

第2章は「Single Dot Spectroscopy: Samples and Setup」と題し、GaN/AlN量子ドットの成長方法とサンプル表面の加工について概説し、単一量子ドットからの発光を分光可能なマイクロフォトルミネセンス装置について述べるとともに、実験系のコンピュータ自動化について詳細に論じている。

第3章は「Luminescence Properties of Single Quantum Dots」と題し、単一量子ドット発光の一般的な理論モデルを用いて、発光の励起パワー依存性、時間発展と二次の光子相関関数を導出する。これにより実験における量子ドット発光線を、励起子状態と励起子分子状態、また光学フォノンレプリカからの発光であると比較を通して同定可能とした。

第4章は「Collinear Luminescence Polarization of Exciton and Biexciton」と題し、サイズの大きなGaN/AlN量子ドットからの発光に関して偏光特性を研究する。発光エネルギーの低い大きなGaN/AlN量子ドットは直線偏光度が高く、励起子と励起子分子、光学フォノンレプリカの発光全てが同じ直線偏光方向を持っている。原子間力顕微鏡で量子ドットの形状を調べ、理論的に予想される直線偏光の原因、形状異方性を実験的に確認した。

第5章は「The Origin and the Impact of Line-Widths Broadening」と題し、GaN/AlN量子ドットの非常に太い発光線幅について調べる。この太い発光線幅は、偏光エンタングルメントに関する研究において重要となる励起子の微細構造の研究進行を妨げていた。本章はこれまで報告されていなかった線幅の発光エネルギー依存性について報告すると同時に、Hartree近似の計算を用いて、量子ドット近傍に存在する欠陥によるキャリアトラッピングによる線幅増大メカニズムを解明した。その結果、量子閉じ込めStark効果が主原因であることを明らかにするとともに、発光エネルギー依存性も正確にシミュレーションすることができた。

第6章は「A Theory of Spectral Diffusion」と題し、第5章の理論モデルを拡張し、欠陥密度による線幅の確率密度関数を算出している。これにより、実験で求めるのが困難な分量(欠陥密度)と、求めるのが容易な分量(線幅の確率密度)とを結びつけることができた。この情報はサンプル成長の条件探索にも大変役に立つものである。

第7章は「Fine Structure of the Exciton」と題し、GaN/AlN量子ドットの電子-正孔交換相互作用による励起子状態の微細構造分裂を論ずる。4 eV発光エネルギー以上の小さなGaN/AlN量子ドットは線幅が十分に細く、初めて窒化系量子ドットにおいて微細構造分裂を実験的に観測できた。また、8-band k×pモデルとHartree-Fock近似による励起子状態の計算によって実験結果を定量的に説明できることを見出した。量子ドットの形状異方性や量子ドット内の歪み異方性は微細構造分裂の原因となるため、微細構造分裂調整手段を示すことで、将来の量子通信・量子暗号システムが必要とする高温度偏光エンタングルされた光子対発光源を開発の可能性を探った。

第8章は「Conclusions」と題し、各章の主要な成果をまとめ、本論文の結論、及び将来の展望について述べている。

以上これを要するに、本論文は、自己形成法で成長した六方晶GaN量子ドットの光学的性質について論じ、単一量子ドット分光を駆使してスペクトルの線幅や偏光特性を測定することにより、GaN系量子ドットにおいて初めて励起子の微細構造分裂を観測するなど、量子ドットの光物性に関するいくつかの知見を明らかにしたものであり、電子工学上貢献するところが少なくない。

よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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