学位論文要旨



No 126498
著者(漢字) 門,闖
著者(英字)
著者(カナ) モン,チン
標題(和) 中国都市商業銀行の成立と経営 1995-2006
標題(洋)
報告番号 126498
報告番号 甲26498
学位授与日 2010.12.08
学位種別 課程博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 博経第287号
研究科 大学院経済学研究科
専攻 現代経済専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,正直
 東京大学 教授 荒巻,健二
 東京大学 教授 末廣,昭
 東京大学 教授 田嶋,俊雄
 東京大学 教授 丸川,知雄
内容要旨 要旨を表示する

本論文の課題は、1995年以降、中国の都市部に数多く設立された都市商業銀行の成立過程と経営の実態を考察対象として、国有銀行によって支配されてきた中国の金融セクターにおいて、地域の金融が実体として成立しうるものなのか、そして成立しているとすれば、それがどのような仕組みで金融仲介機能を実現し、地域経済においてどのような意味をもつものなのかを実証することにある。このような課題に対して、本論文では、以下3つの問題意識に即して検討を行い、既存研究と異なる分析枠組みのもとで実証精度の向上や新たな事実の提示を通じて中国金融研究の水準の底上げを目指したい。

第1に、マクロ分析や大規模銀行研究(国有商業銀行、株式商業銀行)を中心とした先行研究で描かれる中国金融システムの構造的特徴を、都市商業銀行といった小規模銀行のミクロな視点から捉えなおすことによって、再検討する。

第2に、政府のコントロール下にある都市商業銀行の経営実態を定性的定量的に明らかにすることによって、金融発展と銀行経営のダイナミズムにおける政府の役割と機能を再評価する。周知のように、中国の金融システムにおいては国有銀行の支配的構造が維持されおり、政府によるコントロールが依然として強い。この点は、本論文が分析対象とする中国の都市商業銀行も例外ではない。

第3に、中長期的分析が主流になりつつある近年の中国経済研究における潮流の変化に応えて、地域レベルにおける金融機関の成立過程と経営実態を検証することによって、経済主体が依存する地域経済の構造と特徴を明らかにすることである。

本論文の具体的な構成は以下の通りである。第1章では中国の銀行システムにおける都市商業銀行の位置づけを検討し、地域金融機関の視点から中国銀行システムの構造的特徴を再検討する。第2章から第4章までの第1部では、都市商業銀行の成立と経営をテーマに、筆者が独自に収集作成した都市商業銀行のデータベースを用いて、都市商業銀行の成立過程や所有と経営の関係および経営の効率性について実証的に検討する。第5章から第7章までの第2部では、浙江省、湖北省、四川省の都市商業銀行を取り上げ、地域金融市場における都市商業銀行の特徴や、経営システムの構築および外資の導入にっいて事例的に検討する。

各章の内容により詳しく触れると、第1章では、公式のマクロ統計を用いて中国の銀行システムにおける都市商業銀行の位置づけを明らかにし、その歴史過程の分析に加え、市場構造と銀行の組織構造の両面から検討を行う。また、市場構造の側面から銀行業における都市商業銀行の預金と貸出金の特徴を検討し、都市商業銀行の位置づけと役割を明らかにする。そして金融市場における地域分断を実証し、そうした市場構造に依存する銀行の組織構造を検証する。

第2章では、都市商業銀行の成立過程を、その前身である都市信用社の発展史から検討し明らかにする。まず、都市商業銀行に転換した都市信用社の実態を検討し、都市信用社の類型を分析する。そして類型化した2タイプの都市信用社について、それぞれ都市商業銀行に転換する過程と経営構造の仕組みを詳細に分析し、都市信用社の歴史的役割を検証する。こうした作業によって、中国における地域金融機関の成長過程に見られる政府と金融機関の間に存在した複雑な関係を明らかにし、都市商業銀行の成立とその経営実態を解明する重要な手がかりを提示する。

第3章では、先行研究により提起された地方政府の関与は銀行の経営にどのような影響を及ぼしているかという課題に対して、定量的な検証を行う。行政主体と株主という二重の身分をもつ地方政府は、国有企業の民営化の場合とは異なり、増資や役員の派遣などを通じて都市商業銀行に対するコントロールを強化している。本章では、このコントロールの強化が銀行の経営にどのような影響を与えているか、そして都市商業銀行の支配的な株主である地方政府にどのような行動が見られるか、といった所有と経営の問題について定量的な分析を試みる。

第4章では、都市商業銀行の経営構造と経営効率性について厳密な計量分析を試みる。確率的フロンティア費用関数を用いで銀行の費用非効率性を計測する。そのなかで、1都市内に営業範囲を限定する都市商業銀行の経営に規模と範囲の経済性があるのかどうかを検証する。またこうした検証を通じて、政策上のインプリケーションとして中国の銀行部門改革に重要な政策判断材料を提供する。

第5章からの第2部では、浙江省、湖北省、四川省の都市商業銀行の事例を用いて、地域金融市場における都市商業銀行の経営実態を明らかにする。まず第5章では、地域金融 市場における都市商業銀行の預金・貸出金シェアの推移を通じて、地域金融市場の特徴と都市商業銀行の位置づけを明らかにする。また、第1章で論じた金融市場の地域的分断について、立地条件や貸出金利の分析を通じてそれを具体的に検討する。そしてこうした検討を踏まえて、都市商業銀行の規模拡大と銀行経営業績の関連性を分析し、地域金融機関成立のメカニズムを明らかにする。

第6章では、アンケート調査の結果を通じて、都市商業銀行の経営者の具体像と経営の具体的な手法を明らかにする。そして、銀行年報などから得られる情報を用いて銀行経営者の交替パターンを分析し、従来の研究では全くタッチできなかった銀行の融資行動やリスクマネジメント及び人事管理までのアンケート調査の結果を用いて都市商業銀行経営の地域性を明らかにする。

第7章では、外資を導入した寧波銀行と南充市商業銀行の事例を取り上げ、外資導入の過程を明らかにし、両行の経営システムの比較を通じて外資導入に成功した地方都市の都市商業銀行の経営構造を明らかにする。この点については、既存の研究では、複数の外資導入地域の間に存在している経済格差を十分意識せずに外資導入の効果を検討している。しかし例えば、北京、上海などの大都市と地方都市では、外資導入を可能にした要因に相違があることが予想される。本章ではその問題点を指摘した上で、外資導入の前後における財務構造とガバナンス構造の変化を比較して、都市商業銀行の経営における地域間および銀行間の差異を指摘する。

以上のように、本論文は、都市商業銀行の成立と経営に関する歴史や金融市場構造、地域経済、そして銀行の所有・統治、さらに外資の影響といった点に注目して検討するものである。その分析の重点は主にミクロレベルにおける銀行の経営実態の解明にあったが、金融発展のダイナミックスを理解するためにマクロの側面にも及んだ。こうした分析を通じて、従来の研究で検討できなかった地域金融からみた銀行経営の実像について、金融市場の地域分断、政府の関与、地域経済の発展不均衡の3点からその特徴と様相を明らかにした。

第1に、本論文では、金融機関の視点に立って貸出金利の差および金融行政のヒエラルキーから金融市場の地域分断を実証した。これによって、国有支配を中心とする中国の金融セクターにおいても地域金融機関が成立しうる市場条件を明示した。

第2に、インフォーマル金融として論じられてきた民間金融の発展について、政府の役割に注目することによって、民間金融の成長における政府の役割を見直すことができた。政府の各種組織をネットワークとした金融活動は都市商業銀行の発展をもたらし、また不良債権の処理においては政府の役割が依然として大きい。ただし、政府による直接の株式保有は多くの場合が非効率的である。

第3に、中国経済における大きな地域格差は、一般的に言われるような経済発展地域と未発展地域の間だけではなく、省内における中心都市と地方都市の間にも存在する。銀行の立地によって、政府、そして銀行の利害関係者、経営側に求められる役割は様々である。本研究が明らかにした中国都市商業銀行の経営組織の成長は、域内の金融発展に伴いながら地域的な利害の調整を進めた結果であり、これは市場が分断された状況下における中国の地域金融の実像である。

審査要旨 要旨を表示する

1. 門闖氏の博士学位請求論文「中国都市商業銀行の成立と経営 1995-2006」は、1995年以降に中国の都市部に数多く設立された都市商業銀行の成立過程と経営実態の分析を直接の対象としている。そしてこの検討を通して、国有銀行によって支配されてきた中国の金融セクターにおいて、地域の金融が実体として成立しうるものなのか、そして成立しているとすれば、それがどのような仕組みで金融仲介機能を実現し、地域経済においてどのような意味をもつものなのかを実証することを課題としている。

「社会主義市場経済」への移行過程における中国金融システムをめぐる諸問題に関しては、これまで、中国語、日本語、英語、そのいずれにおいても、かなりの数の研究蓄積があるが、都市商業銀行を直接の対象とした研究は中国国内においても、まだほとんど行われていない。中国都市商業銀行は、日本でいえば信用金庫、あるいはそれに近い金融組織、いいかえるとセカンダリー・バンク、中小・零細金融機関である。こうした位置にある金融機関について、中国ではこれまで理論的にも実証的にも分析のメスが入れられることはなかった。本論文は、ここにはじめて切り込んだもので、パイオニア・ワークともいえる研究である。以下、各章の内容の検討に入るが、その前に、本論文の構成を紹介しておく。

本論文の構成は、以下のとおりである。

序 章 課題と方法

第1章 中国の銀行システムと都市商業銀行

第1部 都市商業銀行の成立と経営

第2章 都市商業銀行の前史:都市信用社からの転換を中心に

第3章 都市商業銀行の所有と経営:地方政府の所有を中心に

第4章 都市商業銀行の経営効率性

第2部 浙江・湖北・四川三省の都市商業銀行

第5章 地域金融市場における都市商業銀行の位置づけ:預金・貸出金の推移を中心として

第6章 都市商業銀行の経営:経営者へのアンケート調査

第7章 都市商業銀行の外資導入と経営システム:寧波銀行と南充市商業銀行の事例研究

終 章 中国の金融発展と銀行

2.まず、序章では、課題設定にかかわって、本論文の問題意識や分析方法が示される。冒頭で、「中国の金融発展を正確に把握するミクロ経済の視点」、「地域金融機関の成立と経営に関連する地域経済の視点」という2つの視点を重視することが表明される。そして、この視点の重視は、第1に、マクロ分析や大規模銀行研究(国有商業銀行、株式商業銀行)を中心とした先行研究で描かれる中国金融システムの構造的特徴を、都市商業銀行といった小規模銀行のミクロな視点から捉えなおすことによって再検討すること、第2に、政府のコントロール下にある都市商業銀行の経営実態を定性的・定量的に明らかにすることによって、金融発展と銀行経営のダイナミズムにおける政府の役割と機能を再評価すること、第3に、中長期的分析が主流になりつつある近年の中国経済研究における潮流の変化に応えて、地域レベルにおける金融機関の成立過程と経営実態を検証することによって、経済主体が依存する地域経済の構造と特徴を明らかにすること、という3つの目的に沿うものであるとされる。

第1章では中国の銀行システムにおける都市商業銀行の位置づけを、中国政府による公式のマクロ統計を用いて検討している。市場経済化開始後の「金融深化過程」を、1988年以前、1989-94年、1995-98年、1998-2003年、2003年以後の5期に区分(p.28)して検討し、さらに、市場構造と銀行の組織構造の検討から、金融市場の「市場分断」や「銀行システムのヒエラルヒー」の下で、中国都市商業銀行の発展があったことを確認している。

第2章から第4章までの第1部では、都市商業銀行の成立と経営をテーマに、著者が独自に収集作成した都市商業銀行のデータベースを用いて、都市商業銀行の成立過程、所有と支配の関係、経営効率性などを検討する。まず、第2章では、都市商業銀行の成立過程を、その前身である都市信用社の発展史から再検討している。都市商業銀行に転換した都市信用社、転換しなかった都市信用社を検出し、都市商業銀行に転換する過程と経営構造の仕組みを分析している。この作業によって、中国における地域金融機関の成長過程に見られる政府と金融機関の間に存在した複雑な関係の一端が実証的に解明されているといえる。

第3章では、地方政府による銀行経営ないし銀行組織への関与がどのような影響を及ぼしているかについて、著者が蒐集した財務データを使って定量的な分析を行っている。モデルとしては、プロビットモデルやGLSが使われ、株式保有割合、預金負債比率、預貸率、操業年数、不良債権比率、収益率、資産規模や自己資本規模などが内生変数として選択されている。また、定性分析としては、行政主体と株主という二重の身分をもつ地方政府による増資や役員の派遣などを通したコントロールの強化を強調している。定量分析は、この定性分析と結び付けられ、都市商業銀行の支配的な株主である地方政府における「所有と支配」の問題として分析が試みられ、政府支配と銀行経営の非効率性の相関が検出されている。ただし、どちらの方向の因果連関が基本なのかについての著者の結論は不明瞭なままに残されている。また、定量分析の前提となるような「市場メカニズムの機能する経済状況」が存在するかどうかについての検討も十分には行われていない。

第4章では、都市商業銀行の経営構造と経営効率性についての分析を行っている。ここでとられた方法は、確率的フロンティア費用関数を用いて銀行の費用非効率性を計測するというものである。1都市内に営業範囲を限定する都市商業銀行の経営に規模と範囲の経済性があるのかどうかの検証が焦点となっている。ただし、ここで用いられている実証データのカバレッジ、とくに、異なった金融組織をどこまで包摂しているのかについて明示されていないため、地域間の費用非効率性の差異については説得的な説明となっているものの、都市商業銀行それ自身の費用非効率性の度合いについては必ずしも明瞭でなくなっている。

続く第2部は、浙江省、湖北省、四川省の都市商業銀行を対象とした、地域金融市場における都市商業銀行の特徴、経営システムの構築および外資導入の現状などの検出を課題としている。まず、第5章では、地域金融市場における都市商業銀行の預金・貸出金シェアの推移を通じて、地域金融市場の特徴と都市商業銀行の位置づけを明らかにしている。検討対象となった都市商業銀行は、浙江省11行、湖北省5行、四川省8行、合計24行である。この3省について、所在地の経済規模と経済発展水準、金融市場規模、金融機関のなかで都市商業銀行の占める比率、貸出金利、収益性などの諸指標の比較検討を行っている。本章の結論としては、地域経済においては、金融機関全体に占める都市商業銀行の比率以上に、都市商業銀行の果たしている役割は大きいこと、地域経済の発展と並行的に都市商業銀行の役割も大きくなっていることなどである。また、金融市場の地域的分断についても、立地条件や貸出金利の分析から検出している。

第6章は、アンケート調査の結果を通じた都市商業銀行の経営者の具体像と経営の具体的な手法の検討を課題としている。具体的には、このアンケート調査と「銀行年報」などから得られる情報をクロスさせて、銀行経営者の交替パターンを分析し、銀行の融資行動やリスクマネジメント及び人事管理などを検討することから、都市商業銀行経営の地域性を検出している。

第7章では、外資を導入した寧波銀行と南充市商業銀行の事例を取り上げ、外資導入の過程を明らかにし、両行の経営システムの比較を通じて外資導入に成功した地方都市の都市商業銀行の経営構造を検討している。既存の研究では、複数の外資導入地域の間に存在している経済格差について十分に意識した分析は行われていない。しかし、北京、上海などの大都市と地方都市では、外資導入を可能にした要因に相違があることが予想される。それゆえ、本章では、この点を明示的に意識し、外資導入の前後における財務構造の変化、ガバナンス構造の変化を比較することから、都市商業銀行の経営における地域間および銀行間の差異を検出している。

最後の終章では、「市場分断」、「政府の関与」、「地域経済の発展不均衡」という3つの視点との関連から、ミクロレベルでの都市商業銀行の経営実態、マクロレベルでの中国金融セクターの発展として論文が総括されている。また、残された課題として、銀行の経営効率性の改善と銀行間競争についての検討、地域経済発展の担い手としての産業と銀行の関係の分析などがあげられている。

3. 以上が、若干のコメントも含めた本論文の要旨である。要約したように、本論文は、これまでほとんど実態が不明であった、中国都市商業銀行の組織と経営の推移および現在の役割を実証的に明らかにした。以下、評価と問題点についてまとめて述べる。

評価すべき第1の点は、研究史上の空白に挑戦し、重要なファクツ・ファインディングスを行ったことである。これまで国有商業銀行、株式商業銀行中心であった中国金融機関分析をセカンダリー・バンクである都市商業銀行まで広げたことの意義は大きい。従来、国家による統制や規制、国家官僚支配、非市場的資金需給などの形で単色に描かれがちであった中国金融システムを、「市場分断」や「銀行システムのヒエラルヒー」という概念装置を持ち込むことで、重層的に把握することが可能となり、国有企業支配を中心とする中国の金融セクターにおいても地域金融機関が成立しうる市場条件の存在を明らかにした。

また第2に、逆に、これまでインフォーマル金融として論じられてきた民間金融の発展について、政府の役割に注目することによって、民間金融の成長における政府の役割についても改めて検討を加えた。政府の各種組織をネットワークとした金融活動は都市商業銀行の発展をもたらし、また地域経済・地域金融においても不良債権の処理では政府の役割が依然として大きいことも、本論文が明らかにした大きな貢献である。

評価すべき第3の点は、金融分析における実証データの密度を大きく引き上げたことである。中国経済分析において、金融データは他の経済諸データに比べてその取得に困難を生ずることはよく知られているが、著者は、多くの都市商業銀行の1次データを足で歩いて蒐集しており、それは、アンケート調査による定性的分析、財務データによる定量的分析を並行して行いうるまでに達している。こうした地道な作業の結果として、中国都市商業銀行の経営組織の展開を、域内の金融発展との相互規定関係において把握することに成功しているといえよう。

とはいえ、本論文に問題点がないわけではない。その第1は、「地域金融」「属地性」「市場分断」といった概念が使われているものの、金融セクターの分析や金融市場の分析において基礎的とされる金利裁定機能や地域間資金循環構造などの検討が不十分にしか行われていないことである。このため、都市商業銀行を中国金融システム全体のなかに適正に位置づけるという、本論文に与えられてしかるべき最後の作業が不十分となっている。

第2は、各章でなされている実証的な定量分析について説得的でない部分が残っていることである。モデルの適用とそれによる実証分析は、第1章、第3章、第4章で行われているが、そのモデルの適用条件について厳密な検討がなされていない部分があること、データのカバレッジが不明確な部分があること、結果の解釈についてやや強引な部分のあることなど、定量分析については、今後に一層の改善が期待される。

第3は、地方政府と都市商業銀行の関係といったときに、経済的関係以外の問題が完全に捨象されていることである。とくに、地方政府と党との関係、都市商業銀行と地方企業との関係は、いずれも経済合理性だけでは割り切れず、銀行の与信行動を具体的に分析する際には、これらの要因を組み込むことが必要であろう。

4. 以上のような問題点を残すとはいえ、これらは氏が今後取り組んで行くべき課題と考えられる。本論文により、現代中国の金融構造分析、金融市場分析の実証水準は大きく引き上げられた。本論文は、今後の中国金融市場分析における重要な参考文献となるだけでなく、中国地域経済や地域産業の分析にとっても有用な基準を提供しうるであろう。以上により、審査員は全員一致で本論文を経済学博士の学位を授与するにふさわしい水準にあると認定した。

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