No | 126505 | |
著者(漢字) | 松,弦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツザキ,ゲン | |
標題(和) | AngiotensinII投与高血圧ラットに対しglutamine、geranylgeranlyacetone及びquercetinを投与した時の心臓のiNOS発現量の抑制と心臓の線維化や心筋細胞の肥大の抑制との関係 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126505 | |
報告番号 | 甲26505 | |
学位授与日 | 2010.12.15 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3564号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 序文 今回angiotensinII (AngII) 投与の高血圧モデルラットを用い、AngII投与ラットの心筋障害が非必須アミノ酸の1つでストレス反応に対する細胞耐性を増強するglutamine (Gln) 、抗炎症作用の物質として考えられるgeranylgeranlyacetone (GGA)、そして抗酸化物質の一つであるquercetin (Que)をAngIIとそれぞれ共投与しその障害が抑制されるかどうかの検討を行った。 以前の私達の研究で、AngII投与群ではglomerular filtration rate (GFR) の減少と尿蛋白量の増加を認めたがNE投与群では対照群と有意差を認めず、またAngIIと非特異的毛血管拡張薬であるhydralazineの共投与群ではAngII群と有意差はなかった。しかしAngIIとAT1受容体拮抗薬であるlosartanとの共投与群ではAngII群と比較しGFR、尿蛋白共に有意に改善していた。これらの結果からAngII高血圧モデルラットの腎臓障害は高血圧という単に物理的な障害によるものよりはAngII経路に関係する物質により引き起こされる障害である可能性が考えられた。 更にAngII投与ラットに鉄キレート剤であるdeferoxamine(DFO)やfree radical scavengerであるT-0970を投与するとAngIIにより発現亢進した心臓のTGF-βのmRNAやcollagen typeIやtype IIIのmRNAを抑制し、またAngII投与ラットの腎臓でもDFOやT-0970を投与するとAngIIにより発現亢進した腎臓のTGF-βのmRNAやcollagen typeIやtype IVのmRNAを抑制することを示した。更に同様にAngII投与ラットの肝臓においてもDFOやlosartan投与によりTGF-βのmRNAやcollagen typeIのmRNAを抑制、またラットの大動脈ではNE高血圧投与群よりも同程度の昇圧作用を示すAngII高血圧投与群の方が酸化ストレスマーカーの1つである4-hydroxynonenal (NHE)-修飾蛋白を有意に増加させまた更に昇圧効果を示さない低濃度のAngII濃度群でも対照群と比較し有意にNHE修飾蛋白を増加させた。一方AngII+DFO群のNHE修飾蛋白やMCP-1がAngII群より有意に抑制されることを示した。以上これらの実験結果から以下のことが考察出来る。 1) AngII投与群の心臓、腎臓、大動脈や肝臓等の各臓器において、対照群と比べ有意に線維化やそれに伴う臓器障害が起き、そのAngIIの障害は単に昇圧作用による物理的障害よりはむしろAngII関連経路により引き起こされると考えられる。 2) AngIIにより酸化ストレスが亢進し、またfree radical scavengerであるT-0970やAT1受容体拮抗薬であるlosartan投与により酸化ストレスが抑制されることから、AngIIが引き起こす臓器障害の主な原因として酸化ストレス作用が考えられる。 3) 以上1)と2) から、AngIIによる臓器障害はAngII経路や酸化ストレス関連経路の何れかを阻害することにより抑制され、またその障害抑制は降圧効果とは関係なく起こるものと考えられる。 以上から、AngIIによる炎症作用や酸化ストレス反応を降圧作用とは別の機序で抑制することが可能ではないかと考えた。そこでAngII投与高血圧モデルラットの心臓を用い、Gln、GGAやQueをAngIIと共投与し、heat shock proteinの一つであるHsp70やiNOSをマーカーとしてそれらの発現の増減と心臓の線維化や心筋細胞の肥大の程度を基にGln、GGAやQueの抗炎症作用や抗酸化作用を評価する実験を行った。 方法 動物モデル AngII投与の高血圧ラットは、体重280-320 gのオスのSprague-Dawleyラットを用い皮下にosmotic minipumpを植え込み、Val5-AngII (0.7mg/ kg/ day)を1、3、5、7日間 (Day 1, 3, 5, 7) 投与した。収縮期血圧はtail-cuff plethysmographyで測定した。 Gln、GGA及びQueの投与 Gln (0.75 g/kg/day) 、GGA (400mg/kg/day) や Que (4mg/kg/day)は、AngII投与に加え1、3、5、7日間経口投与した。 ラット心臓の摘出及び蛋白精製 まず各薬剤を投与したラットにジエチルエーテルを用い吸入麻酔後心臓を摘出しホモジェナイズした。遠心分離後抽出蛋白は原液 (1倍希釈)と5倍希釈液を-20℃で保存した。 Western Blot分析 精製蛋白5倍希釈液を用いた蛋白濃度測定を行い各サンプルの蛋白量を20μgになるように投与量を調節した。蛋白成分を電気泳動で分離し、一次抗体はHsp70 (1,000倍希釈), inducible nitoric oxide synthase (iNOS) antibody (1,000倍希釈)を用いた。その後2次抗体浸漬後バンドを可視化した。 病理研究 ラットの心臓をホルマリン固定後パラフィンで包埋し厚さ3μmに切り、スライドガラス上でMasson trichrome染色を行った。線維化部位のpixel数と組織全体のpixel数の比で線維化率を計算し、% コントロール比としてグラフ化した。 心筋細胞の肥大測定 心臓のパラフィン切片に対しhematoxylin-eosin 染色を行い、光学顕微鏡 (倍率400倍) で各サンプルの右室と左室それぞれの10視野を選び各視野5つの心筋細胞 (合計50個)を選択し短径を測定しその平均値を各視野の値とした。 免疫組織学的染色 対照群、AngII群、AngII+Gln群、AngII+GGA群の心臓両室のHsp70 (200倍希釈) の免疫染色を行った。 統計分析 データは、mean±SEMで表示し%コントロール比としてグラフ化しANOVAで解析した。P<0.05を有意差があるとみなした。 結果 1. 血圧と体重 AngII群の血圧は対照群と比較しDay 1以降有意に増加し、Gln、GGAやQue共投与群の血圧は、何れのどの投与期間においてもAngII群と有意な差を認めなかった。 また心臓摘出時の体重は、実験開始時と比較しDay 3, 5, 7のAngII群や各共投与群で有意に減少した。またGln群やGGA群においても投与後5, 7日目で、各同日の対照群と比較しその増加は有意に抑制されていた。 2. Hsp70の所見 AngII投与群のHsp70発現は、対照群と比べDay 1からDay 5まで時間的に相関し有意に増加したが、Day 7では急速に低下し同日の対照群と有意差のない値まで低下した。Gln共投与群では、Day 3で対照群と比べ有意に増加し、その後低下しDay 5以後対照群と有意差のない値まで低下した。GGA共投与群では、Day 3からDay 5まで対照群と比べ有意に増加したが、同様にDay 7で対照群と有意差のない値まで低下した。Que共投与群では、対照群と比べDay 3, 7で有意に低下しており、特にDay 7では対照群の値の約6割 (65±13%) まで低下していた。 3. 線維化の所見 Day 3以降のAngII群の心臓の線維化は両室とも対照群と比較し有意に増加、Day 5以降のGlnやGGA共投与群の線維化は両室ともAngII群と比較し有意に抑制されていた。 4. iNOSの所見 AngII群 (Day 5)のiNOS発現は、対照群と比較し有意に増加した。同日のGln、GGAやQue共投与群の何れのiNOS発現とも、AngII群と比較し有意に抑制されていた。 5. 心筋細胞径 AngII群 (Day 7)においては、心筋細胞径は両室共に対照群と比較し有意に増大し、各共投与群の何れもAngII群に比べ両室共に心筋細胞の肥大が有意に抑制されていた 。 6. 免疫組織学的染色 AngII群、Gln群やGGA群では心臓の血管周辺部位が染色され、またAngII群の心臓の血管周囲の染色部位の方が、血管内皮細胞より濃染していた。GlnやGGA共投与群の血管周囲と同程度に血管内皮細胞も染色された。 考察 今回の目的はAngII投与高血圧モデルラットの心臓を用い、抗炎症作用物質であるGlnやGGA、そして抗酸化物質であるQueをAngIIと共投与し、Hsp70やiNOSの発現の増減と心臓の線維化や心筋細胞の肥大の程度を基にGln、GGAやQueの抗炎症作用や抗酸化作用を評価することである。今回の実験ではGln、GGAやQue各共投与によりAngIIによる心筋障害に対しても何らかの保護作用が働き、またその保護作用がiNOSの発現抑制と何らかの関係があることが示唆された。 結論 AngII投与高血圧ラットに対しGln、GGA及びQue各共投与時のラット心臓のiNOS やHsp70の発現量と心臓の線維化や心筋細胞肥大の抑制との関係を研究した。AngII群で心臓の線維化や心筋細胞肥大が促進しiNOSやHsp70の発現も亢進したが、各共投与群ではその線維化や心筋細胞肥大は抑制されまた同時にiNOS発現も抑制された。Hsp70発現についてはGlnやGGAの共投与群ではAngII群と有意差はなく、一方Que共投与群ではAngII群に比べ有意に抑制された。また血圧は各共投与群とAngII群との有意差は認めなかった。これらの結果からGln、GGA及びQue共投与による心臓の線維化や心筋細胞肥大の抑制は降圧効果と無関係に起こり、またその抑制はiNOS発現の抑制と関連していることが示唆された。 | |
審査要旨 | 今回angiotensinII (AngII) 投与の高血圧モデルラットを用い、AngII投与ラットの心筋障害が非必須アミノ酸の1つでストレス反応に対する細胞耐性を増強するglutamine (Gln) 、抗炎症作用の物質として考えられるgeranylgeranlyacetone (GGA)、そして抗酸化物質の一つであるquercetin (Que)をAngIIとそれぞれ共投与しheat shock proteinの一つであるHsp70やiNOSをマーカーとしてそれらの発現の増減とその障害が抑制されるかどうかの検討を行い、下記の結果を得ている。 1. 血圧と体重 AngII群の血圧は対照群と比較しDay 1以降有意に増加し、Gln、GGAやQue共投与群の血圧は、何れのどの投与期間においてもAngII群と有意な差を認めなかった。 また心臓摘出時の体重は、実験開始時と比較しDay 3, 5, 7のAngII群や各共投与群で有意に減少した。またGln群やGGA群においても投与後5, 7日目で、各同日の対照群と比較しその増加は有意に抑制されていた。 2. Hsp70の所見 AngII投与群のHsp70発現は、対照群と比べDay 1からDay 5まで時間的に相関し有意に増加したが、Day 7では急速に低下し同日の対照群と有意差のない値まで低下した。Gln共投与群では、Day 3で対照群と比べ有意に増加し、その後低下しDay 5以後対照群と有意差のない値まで低下した。GGA共投与群では、Day 3からDay 5まで対照群と比べ有意に増加したが、同様にDay 7で対照群と有意差のない値まで低下した。Que共投与群では、対照群と比べDay 3, 7で有意に低下しており、特にDay 7では対照群の値の約6割 (65±13%) まで低下していた。 3. 線維化の所見 Day 3以降のAngII群の心臓の線維化は両室とも対照群と比較し有意に増加、Day 5以降のGlnやGGA共投与群の線維化は両室ともAngII群と比較し有意に抑制されていた。 4. iNOSの所見 AngII群 (Day 5)のiNOS発現は、対照群と比較し有意に増加した。同日のGln、GGAやQue共投与群の何れのiNOS発現とも、AngII群と比較し有意に抑制されていた。 5. 心筋細胞径 AngII群 (Day 7)においては、心筋細胞径は両室共に対照群と比較し有意に増大し、各共投与群の何れもAngII群に比べ両室共に心筋細胞の肥大が有意に抑制されていた 。 6. 免疫組織学的染色 AngII群、Gln群やGGA群では心臓の血管周辺部位が染色され、またAngII群の心臓の血管周囲の染色部位の方が、血管内皮細胞より濃染していた。GlnやGGA共投与群の血管周囲と同程度に血管内皮細胞も染色された。 また審査後の質問事項は以下の通りである。 1) Hsp70の発現場所の解釈 2) Gln、GGAやQueにおけるRAAS系及び高血圧に対する関与 3) iNOSと各投与物質の関係 4) 先行研究に対する本研究の位置づけ 5) 題目、Figure及び表記の修正と変更 6) 序文のところでの当研究室の研究内容のまとめの追加及び修正 7) AngII投与時のAngII血中濃度と生理的濃度の比較 8) AngII投与と体重減少の関係 以上の各項目に対する論文内容の追加、修正及び変更を行った。 以上の結果と考察からGln、GGA及びQue共投与による心臓の線維化や心筋細胞肥大の抑制は降圧効果と無関係に起こり、またその抑制はiNOS発現の抑制と関連していることが考えられた。本研究は今後の高血圧治療における新たな概念とその治療法を示唆するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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