学位論文要旨



No 126543
著者(漢字) 山内,由梨佳
著者(英字)
著者(カナ) ヤマウチ,ユリカ
標題(和) 経済犯罪の国際的規制
標題(洋)
報告番号 126543
報告番号 甲26543
学位授与日 2011.02.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(法学)
学位記番号 博法第248号
研究科 法学政治学研究科
専攻 総合法政
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山口,厚
 東京大学 教授 中谷,和弘
 東京大学 教授 岩澤,雄司
 東京大学 教授 高原,明生
 東京大学 教授 浅香,吉幹
内容要旨 要旨を表示する

犯罪の国際的規制はどのような法構造に基づいてなされているか。本論文は1970年代以降2010年3月までにおける経済犯罪の国際的規制の展開を実証的に分析することによって、この問いを論じる上で必要な学問的視座を提示するものである。

「経済犯罪」とは、経済秩序違反行為であって刑事的制裁の対象となるものである。経済犯罪はこれまで国内犯罪として論ぜられてきており、国際法学の対象として扱われることが殆どなかった。国際法学の側から犯罪規制を分析する際には、国際社会が分権的であることを前提としながら、国家の国際法上の義務の強度を段階的に捉える考え方が主流であった。すなわち、国家が主権的権能に基づいて専ら裁量に基づいて犯罪規制を行う法状況から、国際共同体の秩序維持という義務の履行として犯罪規制を行う法状況へ向けて、段階的に発展していくという見解である。この考え方は、確かに国際刑事法学が主たる関心を向けてきた人権侵害を構成する罪やテロ関連の罪については、その実態を適切に説明するものであった。しかし経済犯罪などの国内犯罪でありながら国際的規制が展開されている犯罪について、この考え方が妥当するかは明らかではない。そこで、本論文は、経済犯罪の国際的規制を実証的に分析することによって、犯罪の国際的規制の国際法学におけるこのような見解の妥当性を検証し、精緻化を図ることをその課題とする。

まず第2部において、経済犯罪規制の特質が、これまで国際刑事法学が研究対象としてきた犯罪規制の特質と、どのような異同を有するのかを明らかにする。そこで、そのために(i) 全ての犯罪の国際的規制に共通する点、(ii) これまで国際法学が対象としてこなかった犯罪であって、国際的規制が実施されている犯罪のみに共通する点(経済犯罪の一部もこの類型に含まれる)、(iii) 経済犯罪のみに共通する点にそれぞれ着目して実証分析を行い、経済犯罪の特質を描き出す。

(i)と(ii)における犯罪規制は、裁判権の配分枠組は異なるが、司法共助枠組は重複している。それは、裁判権配分は犯罪ごとに行われることが多いのに対して、司法共助は(二国間司法共助条約がその典型であるが)国家間の信頼関係に基づいて、包括的な犯罪群について行われることが多いからである。(ii)に含まれる犯罪群がその条約の対象に含まれる場合も多い。そこで今日における司法共助枠組の在り方に重点を置いて、その特質を分析する(第2章)。

次に(ii)と(iii)の異同は、各経済犯罪の法構造を検討して初めて明らかになる。第1章第3節において指摘したように、経済犯罪とは保護法益も規制方法も異なる犯罪の総称であるので、その構成要件、保護法益等を含む法構造を画定するためには、犯罪ごとに検討する他はない。そこで、第1章第3節での検討を基礎にして、資金洗浄罪、競争法違反の罪、証券犯罪、租税犯罪、外国人公務員への贈賄罪、腐敗について、その国際的規制の形成要因と妥協点を踏まえながら、規制のあり方を分析する(第3章)。

実証的検討の総括として、第3章の検討結果から、(i)(ii)と(iii)との異同として明らかになった点を指摘する。まず、人権犯罪規制とテロ犯罪規制においては観察されないが、経済犯罪規制には共通して用いられている規制構造が、規制構築の側面と規制実施の側面の双方において存在する(第4章第1-2節)。それから、犯罪の国際的規制と犯罪を巡る国際社会の実態との関係において、国内的規制の実効性の程度が国ごとに全く異なる点は共通しているが、規制によって具体的な経済的不利益を被る国がある点は、経済犯罪規制のみに見られる点である(第3節)。

以上を小括すると、経済犯罪規制の特質としては、次の三点が重要であることが分かる。第一に、経済犯罪については、それを国際社会全体で規制するだけの共通利益が欠如している。また経済犯罪の特質上、一般国際法上の規制を構築する実益も存しない。例えば競争法違反の罪や租税犯罪の規制が、国家がどこまで私的経済活動に関与するべきかという問題を含んでいるように、犯罪によっては、法文化や社会政策の相違によって、規制の必要性の有無も、法実施のあり方も異なる。

第二に、経済犯罪規制の場合、規制が国家に行政負担を課すだけではなく、国家に経済的不利益をもたらす場合がありうる。例えば、資金洗浄罪規制の貫徹は顧客の匿名性を保障することによって金融事業を奨励してきた国にとっては不利益をもたらす。あるいは外国公務員への贈賄罪規制は、その規制を行っていない国の企業との競争において、自国企業に経済的不利益をもたらしうる。

第三に、経済犯罪規制の場合には犯罪の実行者だけではなく、金融機関や弁護士等の専門職についても所定の注意義務を課し、刑事罰によってその実効性を担保している。その際には政府とこれらの非国家主体とが協働して規制を構築し実施していく過程が存在する(第4節)。

以上のような経済犯罪の特質を踏まえた上で、第3部において従来の国際法学説を批判的に検討する。第一に、段階的規制形成論について、国際的規制が行われている犯罪規制においても、多数国間規制に至らない犯罪があるという点を基にして、その現実適合性を批判する(第5章)。その現実適合性の欠如についての批判は、段階的規制形成論が依拠している国際共同体の共通利益概念について(第1節)、また、司法共助の統一的規制観念について(第2節)、それぞれ妥当するのである。

第二に、国家同質性論について、実際の管轄権の行使が同質性論を踏まえているわけではない点を根拠にして、その現実適合性を批判する(第6章)。それは先進国と開発途上国との間においても(第1節)、先進国間においても(第2節)、妥当する。

第三に、国家中心主義に関しては、金融機関等の非国家主体の規制を踏まえて、国家だけを見ることと、非国家主体を一方的に規制対象として捉えることの問題性を、批判する(第7章)。それは、経済犯罪規制における国内の経済団体の規律のあり方を整理し(第1節)、公私協働の必要性とその限界を明らかにすることによってなされる(第2節)。

本論文の結論は、専ら国際法の側から分析していた犯罪の国際的規制を、国内法の側の論理を組み入れることによって、より現実に即した検討ができるということ、従って犯罪の国際的規制を専ら国際法の側から分析するということは、場合によっては現実に適合していないということに求められる。まず従来の説明では、犯罪の性質上内在的に、一般国際法に基づく規制に馴染まない犯罪の規制を把握することができない。また、今日の国際社会の現状において国家の政策に差異があり、あるいは刑事的規制能力に格差があることを把握できない。加えて、従来の説明では規制構築と実施に私人あるいは私的団体が参与する場合を把握することができない。犯罪の国際的規制はこれらの点を克服して論じられなければならない。

本論文はこれまでの学説との関係において、次の二つの意義を有する。第一に、本論文は従来の国際法学説が前提として依拠してきた法枠組について、実証を通じてその現実適合性の欠如を指摘した。中央集権的機構が存在しない国際社会においては、刑事的規制も体系的に規制がなされているのではなくて、犯罪ごとに規制が構築されている。そして、その規制のあり方も犯罪の性質や特質に応じて異なっている。従来の学説は、国際刑事法の規制対象を二国間関係に対照されるところの多数国関係に基づいて規制される犯罪群に限定してきた。また、国際法学はいわゆる「国際犯罪」を国際共同体の共通利益のために規制される犯罪群に限定してきた。しかし、現実の国家実行を見てみるならば、多数国間での規制が犯罪の性質上内在的に構築されえない犯罪についても、国際的規制は実施されていた。本論文は、そのことを手がかりにして、これまでの国際法学の先行研究が用いてきた枠組の妥当性を批判的に検討した。その過程において、本論文はこれまで「外国性を有する犯罪」として国際法学の枠の外に置かれていた犯罪を、国際法学に取り込む意義を示した。

第二に、本論文はその主張の副産物として、これまで国際法学の見地から十分に実証研究が行われてこなかった経済犯罪の国際的規制の実態を描きだした。そして、犯罪の国際的規制という全体像において、個別の経済犯罪規制がどのような特徴を持っているかをも指摘した。特に、本論文は経済犯罪規制が刑事規制の他に民事規制、行政規制という複数の側面を有しており、いずれをどのように選択するかは国家の裁量に委ねられていることから、国家間の齟齬を解消することができないということ、また、それぞれについて国際的平面と国内的平面が複雑に交錯していることを示した。

本論文の今後の課題として最も重要なものとして、本論文が批判の対象とした国際法学説の内在的検討がある。また、他の越境的要素を有する犯罪の実証分析も必要になるだろう。それらは本論文の成果を踏まえて今後の課題としたい(第8章)。

審査要旨 要旨を表示する

本論文「経済犯罪の国際的規制」は、経済犯罪の国際的規制の展開を実証的に分析することによって、経済犯罪の国際的規制の法構造を明らかにしようとするものである。

本論文は、4部8章からなる。

第1部「序」は、第1章「問題の所在と本論文の課題」から構成される。著者は、経済犯罪は国際法学ではほとんど検討されてこなかったと指摘した上で、国際法学における犯罪の国際的規制に関する有力な見解であった段階的規制形成論(国家の完全な裁量が、最初は二国間条約、次に多数国間条約によって除々に制限され、最終的には犯罪規制について一般国際法上の義務が課されるに至るという理解)が、国際刑事法学が主たる関心を向けてきた人権侵害を構成する罪やテロ関連の罪については妥当するとしても、経済犯罪については妥当しないのではないかとの問題提起をし、本論文では、経済犯罪の国際的規制を実証的に分析することによって、そのことを立証すると指摘する。また、経済犯罪の研究は、理論的な必要性のみならず実務的な要請が高いとし、経済犯罪の国際的規制構築を主導しないと国家として現実の不利益がもたらされると指摘する。

第2部「経済犯罪の国際的規制の実態」は、第2章「一般国際法と経済犯罪の国際的規制」、第3章「個別の犯罪規制の法構造」、第4章「経済犯罪規制に共通する構造」から構成される。

第2章「一般国際法と経済犯罪の国際的規制」においては、国際法学が主たる検討対象としてきた犯罪(人権侵害を構成する罪やテロ関連の罪等)と経済犯罪とを裁判権の配分及び司法共助という2つの側面から比較し、裁判権の配分枠組は異なるが、司法共助枠組は共通しているとする。その理由として、裁判権の配分は犯罪毎に行われることが多いのに対して、司法共助は国家間の信頼関係に基づいて所定の犯罪について包括的に行われることが多いからであるとする。

第3章「個別の犯罪規制の法構造」においては、資金洗浄罪、競争法違反の罪、証券犯罪、租税犯罪、外国公務員への贈賄罪、腐敗といった個別の経済犯罪について、各規制の形成要因と妥協点を踏まえながら、規制のあり方を実証的に分析する。著者によれば、これらの経済犯罪は、規制目的に応じて3つに大別することができる。第1は、他の犯罪行為を助長する犯罪であり、資金洗浄罪がこれに該当する。第2は、市場の適正を害する犯罪であり、競争法違反の罪、証券犯罪、租税犯罪、外国公務員への贈賄罪がこれに該当する。第3は、良き統治を害する犯罪であり、腐敗がこれに該当する。著者は、経済犯罪は、各国の政治的、経済的、社会的、文化的、歴史的、地理的基礎に基づいて、かつ、各国の産業構造のあり方や法制度の伝統に応じて規制される犯罪であるゆえ、規制内容も国ごとに様々であるとし、国際的規制を構築する場合には、実体法上の齟齬を解消することには限界があるという前提を踏まえて、手続法上の協力をすすめていく方式がとられることが多かったと指摘する。つまり、実体法上の齟齬が、各国内におけるそれぞれの法規制の実効性を阻害しないようにすることが国際的規制の目的であり、例外的に、資金洗浄罪と腐敗については実体法上の統一が志向されたが、それは国際社会全体の利益に資するからではなく、そうしないと各国内における実効的な規制が出来ないからであったとする。

第4章「経済犯罪規制に共通する構造」においては、経済犯罪規制に共通する規制の構築及び実施の構造を分析する。規制構築については、経済犯罪の規制において用いられている法基準を策定する国が偏在していること、その策定は国際公益のために行われている訳ではないこと、犯罪行為者以外の非国家主体をも規制しなければならないことを指摘する。規制実施においては、執行共助が困難であること、間接的執行ないし一方的国内措置が多用されていることを指摘する。また、同一の構成要件に該当する行為であっても、その国家がおかれた状況によって、社会的含意が全く異なることが、とりわけ、資金洗浄罪、租税犯罪、腐敗において見られるとする。最後に、第2部全体の小括として、経済犯罪と国際共同体の共通利益との関係性については、第3章での具体的な検討をふまえた上で、第1に、犯罪規制について各国が相互に協力する利益が存しない場合(犯罪被害が複数国に及ぶが規律管轄権を主張しうる国家が1つしかない、自国民によるインターネットを通じた詐欺や横領など)、第2に、各国が相互の国内的規制に協力する利益は存するが、国内的規制がなされていないときに国際法が介入する共通利益は存しない場合(競争法違反の罪、証券犯罪、租税犯罪の罪など)、第3に、各国が相互に協力する利益があり、かつ、国内的規制がなされていないときに国際法が介入する共通利益がある場合(資金洗浄罪、腐敗など)、の3つに分けることができると整理し、従来の国際法学では共通利益の有無のみを基準として第3類型の経済犯罪のみを検討の対象としてきたが、第2類型の経済犯罪についても検討の対象とすべきであると指摘する。

第3部「犯罪の国際的規制についての国際法学の理解」は、第5章「段階的規制形成論に対する批判」、第6章「国家同質性論に対する批判」、第7章「国家中心主義に対する批判」から構成される。

第5章「段階的規制形成論に対する批判」においては、裁判権の基礎は犯罪の性質によって政策的に選択され、国際共同体全体の共通利益がなくても規制の間隙充填のために裁判権配分が行われているゆえ、裁判権の基礎が拡大されないことを発展途上と評価する段階的規制形成論は的はずれであると批判する。

第6章「国家同質性論に対する批判」においては、従来の国際法学が黙示的に前提としていた国家同質論を批判する。従来の学説は、統治能力の欠如している国家や規制実施の意思のない国家の存在や、先進国と途上国の相違を十分配慮しなかったのみならず、効果主義をめぐる英米法系と大陸法系の差異についても十分な注意を払ってこなかったと指摘する。

第7章「国家中心主義に対する批判」においては、経済犯罪の国際的規制における金融機関等の非国家主体の重要性を指摘する。非国家主体を単に規制対象とみなすことは妥当ではなく、国内の経済団体の後押しによって国際的規制が形成・促進される場合や、経済団体が形成した制度を利用して国際的規制が形成される場合もあると指摘する。

第4部「結語」は、第8章「結論」から構成される。著者は、従来の国際法学が対象としてきた犯罪とは異なる経済犯罪の特質として、第1に、経済犯罪規制は経済規制であるゆえ、そのあり方は法文化、社会の歴史的、経済的、政治的状況に応じて異なり、国際的規制が構築される場合であっても実体法の統一には至らない場合も多いこと、第2に、経済犯罪については、その特質上、国際社会全体で規制するだけの共通利益が欠如していること、第3に、犯罪実行者以外の金融機関や弁護士等への規制も重要であり、国内的に経済規制を実施していく上ではこれらの非国家主体との協働が必要となることを挙げ、これらの特徴を踏まえると、段階的規制形成論は説得力に欠け、これまでの国際刑事法の体系書が前提としてきた「国際刑事法像」は修正されなければならないと指摘する。

以上が、本論文の要旨である。

本論文の長所としては、特に次の点を挙げることができる。

第1に、本論文は、国際法学の立場から経済犯罪の国際的規制に関して本格的な検討を行ったはじめてのまとまった著作である点が挙げられる。従来の国際刑事法の検討対象はほぼ専ら政治的な犯罪に限定されており、経済犯罪に関するまとまった研究は国内はもとより諸外国においても極めて少なかった。本研究は、経済犯罪という未開拓ではあるが実務的重要性の高い分野に国際法学の観点から野心的、果敢にチャレンジした論文として評価できる。

第2に、著者が経済犯罪の国際的規制の実態に関して徹底した実証的研究を行った点が挙げられる。本論文(特に第3章及び第4章)においては、経済犯罪のうち特定の犯罪を選択的に取り上げるのでなく、経済犯罪を包括的に扱い、資金洗浄罪、競争法違反の罪、証券犯罪、租税犯罪、外国公務員への贈賄罪、腐敗の各々について、きわめて精緻かつ綿密に国家実行や非国家主体の動向をフォローするという実証的な検討を行っている。経済犯罪の国際的規制に関するこれほどまでの包括的かつ実証的な検討は、内外ともに類例がなく、著者の並々ならぬ努力の成果を示すものである。著者が、実証的な検討の結果、経済犯罪規制に共通する構造を一般的な形で示したことや、個々の犯罪が経済犯罪全体の中でどのように位置づけられるかを明確化したことは高く評価できる。

第3に、経済犯罪の国際的規制に関して従来の学説が有していた国家中心主義を批判し、非国家主体の重要性を指摘したことは、国際法の他の分野にも妥当しうる重要な視点である。

第4に、著者には国内法における研究成果を積極的に取り入れる真摯な態度が見られる。本論文において著者は、刑事法はもとより、租税法、独占禁止法、金融法等における研究成果も幅広く活用している。このような国内法への関心の広さは、国際法研究者としては特筆に値する。

もっとも、本論文にも問題点ないし疑問点がない訳ではない。

第1に、本論文はやや冗長であり、また脇道の議論に頁数を費やしてしまう箇所も散見される。書き方の工夫をすれば、より明快な論文になったと思われる。

第2に、本論文は、国際刑事法の有力学説を批判し、「国際刑事法像」は修正されなければならないと結論するが、「外国性をもつ犯罪」を国際刑事法の対象とするか否かという前提を異にする以上、「国際刑事法像」のとらえ方が違うのはいわば当然のように思われる。実証的な研究をすすめてきた本論文であるがゆえに、より緻密に整理された結論が提示されていたならば本論文の真価がなお一層明確なものになったであろうと惜しまれる。

第3に、第2点とも関連するが、著者は、国際法学は、国家が条約(二国間及び多国間)によって規制を行っている分野はすべて検討対象とすべきという立場から従来の学説を批判している。このような著者の前提は、国際刑事犯罪を包括的に検討しようという著者の積極的姿勢として理解できるものの、議論の余地がない訳ではない。

しかし、これらの点も、本論文の価値を大きく損なうものではない。以上から、本論文は、その筆者が自立した研究者としての高度な研究能力を有することを示すものであることはもとより、学界の発展に大きく貢献する特に優秀な論文であり、本論文は博士(法学)の学位を授与するにふさわしいと判定する。

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