No | 126544 | |
著者(漢字) | シリスリサク,ティアムスン | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シリスリサク,ティアムスン | |
標題(和) | 歴史的都市景観の概念とその景観影響評価への適用に関する研究 : バンコク古都を事例として | |
標題(洋) | The Notion of Historic Urban Landscape and its Application to Visual Impact Assessment of Historic Town, Case of Old Bangkok | |
報告番号 | 126544 | |
報告番号 | 甲26544 | |
学位授与日 | 2011.02.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7393号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 文化遺産保護は都市の未来と地元住民の生活の質の向上に貢献すると認識されてきた。都市遺産は、住民としての誇り、経済効果、ひいてはそれが都市の持続可能な競争力へとつながると言えると考えられる。しかし、残念ながら世界中の多くの歴史的都市地区は様々な問題を抱えている。それらの問題は時代と共に変化するが、その中でも近年懸念されているのが、ロンドン、ウィーン、サンクトペテルブルグ、ケルン等の世界遺産の町における高層建造物の景観影響に関してである。 この様な事から世界遺産センターは2003年より歴史的都市景観の概念を構築しようというイニシアティブをとってきた。最初の国際会議は2005年に開催され2006年には国際的な論議が始まった。歴史的都市景観の定義は現時点では未だ論議が続いており国際的な論議の場では、欧州の都市の事例に基づいた内容が多くをしめており、アジアの都市での事例に関してはあまり言及されていない。さらに、この概念は世界遺産の町のみならず歴史都市全般に適用されることを目的としている。現在までの会議の目的と議論を通して考察されるのは、まずこの概念の核をなすものは場の 'sense of place'を保護するということ、そしてビジュアル・インテグリティーが歴史都市景観にとって最も重要な要素の一つであるということである。 近年アジアの都市は、物理的にも社会的にも大きく変化を遂げ続けている。主要都市における人口の増加とグローバリゼーションの波は高層建造物をもたらし、シンボル的な建造物は都市のアイデンティティーを再創造するために使われてきている。これらの現象は歴史的都市の価値に影響を及ぼす可能性もある。アジア独特の歴史的都市はその特徴を保つ為にその景観影響に対応する為のツールが必要とされるものと考察される。 これらの考察を鑑み、本論文は歴史的都市における重要な景観の識別と景観影響評価のツールを構築する事を目的とする。本研究は文献調査と古都バンコクの現地調査をもとに行われた。文献調査は歴史的都市景観の概念の構築準備段階に付随する文献、国際会議、欧州でのケース、ビジュアル・インテグリティーとそれに関する論議、議事録の分析と考察から始まる。これらには、世界遺産条約、文化的景観、欧州景観条約も含まれる。 続く章は景観影響評価のツール構築の為にアジアの都市における現状、課題、歴史的都市の特徴の考察を行った。これらからアジアの歴史的都市区域にはより包括的に遺産を考慮していく必要があると言うことがわかった。よって、歴史的景観の概念とその適用はアジアの歴史的都市区域保護の為には不可欠であるということができるであろう。 構築された歴史的都市における重要な景観の識別と景観影響評価のツールは古都バンコクをケースとしてその分析と考察が進められた。重要な景観とは、その場のイメージ又は'spirit of place'を映し出し、それはその場がどの様に認識されてきたかに反映される。調査の結果、重要な景観はその場の歴史とビジュアル・インテグリティーとが深く関係するということがわかった。そこから、重要な景観の識別には以下の4つの段階から構成されていると言える:1)歴史の再考察、2)重要な景観の候補の選定、3)ビジュアル・インテグリティーの分析、4)重要な景観の識別。さらに、重要な景観は5つのタイプに分けることができると言える:1)パノラマ景観、2)スカイライン又は夜景、3)建造物が主体、4)(主要な)オープンスペース、5)ストリートスケープ。 景観影響とは新たな開発によってもたらされた、特徴ある景観への変化を指す。しかし、これは全ての歴史都市において高層建造物が必ずしもネガティブな影響を及ぼすというものではない。むしろ良い影響をもたらす事もある。つまり、その歴史都市のコンテクストをまず理解する事が必要であると共にその他の要因も検討しなければならない。それには、都市の経済的要因や地元住民の生活の質も考慮に入れる必要がある。そこで、以下の3つの点がその都市にとってどうであるかが高層建造物の建築申請時に考慮されるべき点といえるだろう:1)景観の価値、2)景観影響の度合い、3)高層建造物が貢献する内容。最後に、環境影響評価以外に、決定段階における、透明性、アカウンタビリティー(説明責任)が対立解消にとって重要であるといえる。さらに評価過程における利害関係各者(ステークホルダー)参加と公開諮問は重要な要素であると言える。 | |
審査要旨 | 本論文は近年ユネスコによって取り上げられ保全勧告文草案が検討されるなど、世界的に注目を集めている「歴史的都市景観」に関して、現時点におけるその概念構成を整理し、その思想をタイにおけるもっとも特徴的な歴史的都市景観ということができるバンコク都心部の景観にあてはめて、その有効性を検討したものである。 論文は7つの章から成っている。巻末に具体的な参考文献を掲載している。 第1章は、序説であり、研究の枠組みと研究手法を述べている。 第2章は、都市保全の活動全体の歴史を概観し、そのなかにおいて新しい概念である歴史的都市景観という考え方がどのようにして生成し、今日に至っているのかを明らかにしている。とりわけ、文化的景観および景観アセスメントとの関連において、歴史的都市景観という概念が動態的な保全において必要となってくる事情を明らかにしている。 第3章から第6章までは、歴史的都市景観の考え方をタイの首都バンコク都心に適用して、その有効性を検証したケーススタディの部分である。 第3章は、バンコクの都市発展の歴史を概観し、主要な都市景観のイメージがいかに形成されているのかに関して、バンコク居住者および来訪者を対象とした調査を実施した結果を述べている。歴史的都市景観は主要な景観要素の組み合わせにとどまらず、その変化をもたらす居住者等の関係者との関連の中で理解されていることを明らかにしている。したがって、歴史的都市景観を論じる際には、物的環境のみならず社会的環境の構成要素を明らかにする必要があることを示している。さらに、バンコク都心の主要な街路景観を広範囲に記録し、その変化のメカニズムを明らかにするための構成要素分析を行っている。 第4章は、バンコクにおいて都市景観を保全するための制度的な枠組みを明らかにすることを目的としている。タイにおいて景観保全の運動の生成の歴史を総括し、そこにおいて文化的景観という概念が形成されてきた過程を明らかにしている。さらに、景観保全のための制度が整備されていった経緯を、運動との関係で明らかにしている。 第5章は、バンコクにおける環境影響評価の制度とその運用の実際を明らかにし、そこにおいて景観関連の影響評価が実施されるプロセスを明示している。その中で、景観上の完全性(ビジュアル・インテグリティ)の考え方の重要性を示し、景観上の完全性を指標にして歴史的都市景観の評価が可能であることを論証している。 加えて、現時点におけるタイにおける機構改革の実際について触れ、景観関連の環境影響評価の手法の今後のあり方を展望し、歴史的な地区であるサイアム・プラザを事例に具体的な景観影響評価の検討を行っている。 第6章は、住民参加型で実施される景観影響評価の実験的適用をチャイナタウンにおいて行ったケースを詳説し、歴史的都市景観が住民側の意識のなかで形成されるプロセスが、保全の様態を決定することを示し、上向型の合意形成と下降型の意志決定の相互作用によって歴史的都市景観の実体とその保全方法が一体的に定められることを明らかにしている。 以上、本論文はユネスコを中心に現在ひろく探求されつつある歴史的都市景観の保全方法に関して、わが国ではじめて総括的な概要を提示し、その概念を明らかにすることをとおして都市保全の新しい局面を切り開いた論文として評価できる。さらに、ここで明らかにした概念をバンコクに適用することによってその有効性を立証しており、その有用性は高いといえる。 よって本論文は博士(工学)の学位申請論文として合格と認められる。 | |
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