学位論文要旨



No 126590
著者(漢字) 林,世彬
著者(英字)
著者(カナ) リン,セピン
標題(和) 三軸一ユニット方式とジャイロダンパによる一軸台車を用いた鉄道車両システムの研究
標題(洋)
報告番号 126590
報告番号 甲26590
学位授与日 2011.03.14
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7397号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 鎌田,実
 東京大学 准教授 中野,公彦
 慶應義塾大学 教授 藪野,浩司
内容要旨 要旨を表示する

鉄道車両の台車は,社会における鉄道への要求に応じて様々なものが開発されてきた.その中で,高い曲線通過性能を持つ一軸台車が存在するが,広く使用される状況に至っていない.本論文は,一軸台車の利用拡大における諸問題解決のため,鉄道車両利用環境による制約条件の存在,及び操舵性一軸台車における走行安定性において課題が存在していることを考察し,制約条件の明確化,鉄道車両システム構築手法,及び走行安定性確保の3項目について検討し,一軸台車を用いた鉄道車両システムの技術展開を確立しようとするものである.

まず,車両システムの構築にあたり,鉄道車両が使用される使用環境領域を考慮する必要がある.近年において,鉄道の価値が発揮する領域は,都市間高速鉄道,大量貨物輸送,自動車空間軌道交通,及び都市圏の通勤輸送があげられ,更に新たな形式として,前述の四形式による有機的結合が考えられる.走行装置として一体輪軸と等価である操舵性一軸台車は基本ユニットとして組み合わせることにより,様々な環境に適応する車両システムが構築可能である.数々の構成可能な車両システムに対して,使用領域及び環境制約が,車両システムの選定・適用においての制約条件となる.都市圏通勤鉄道において,車両システムの構築にあたり制約条件となるものとして,安定な輸送サービスを提供するに当たり必要な車両運用,メンテナンスのための自動台車交換設備,輸送安全を確保ためのホームドアなどがあり,車両の規格化・標準化である.これらは,車体,ドア位置,台車位置などにおいて寸法が規定され,新たな技術をもつ車両システムの導入において考慮すべき制約となる.操舵性一軸台車を用いた車両システムを導入するには,既存インフラに適応する車両システムが必要であり,標準車両仕様に基づいた操舵性一軸台車車両として三軸一ユニット方式車両を提案し,三軸一ユニット方式車両を含めて,車体軽量化に伴う軸重の有効利用の観点,及び車体軽量化により顕著化した車体弾性振動に対して車両システム変更による効果を等価曲げ剛性を用いて検討を行い,車両システムの変更により振動乗り心地によい影響を及ぼすことでき.鉄道車両として良い解となることを示した.

次に,三軸一ユニット方式車両の構造デザイン及び機構の詳細検討を行った.三軸一ユニット車両は,ボルスタ付きインダイレクトマウント方式一軸台車により構成された一軸二台車方式車両をベースに,中間台車として必要な機能を付加した第3の一軸台車を車体中央に配した構造とした.中間台車部分は,一軸台車構造をベースに,ボルスタと車体の間でヨーイング運動と左右運動が可能な構造とし,これら変位要素の構成は,車体側から左右変位要素,ヨーイング変位要素の順とした.提案した車両システムデザインの構成に対して,緩和曲線通過を含む検討を行うため,マルチボディダイナミックス用いた三軸一ユニット車両の車両モデルを作成し,走行シミュレーションを行い,得られた曲線通過時の輪重・横圧・脱線係数(Q/P値)・アタック角を用いて,運動性能など特性の評価を行い,台車及び後台車は,適切なヨーダンパによる支持が望ましいこと,中間台車において左右方向は減衰支持が,ヨー方向においては適切な支持方式が必要であることが分かった.走向安定性に関して,支持要素が正常な状態であれば,通勤車両用諸元を用いても高い走行安定性を確保できることが分かり,操舵性一軸台車車両の安定性はヨーダンパに大きく依存していることも示した.また,スケールモデル車両を製作し,走行実験を行い,シミュレーション検討により得られた結果が走行実験においても確認できることを示した.

最後に,操舵性一軸台車車両におけるジャイロダンパの導入と基礎検討では,液圧式ヨーダンパの使用を前提とした一軸台車に対して,回転体であるジャイロダンパを用いた手法で鉄道車両を構成するための基礎検討を行い,ジャイロダンパを搭載した一軸台車車両に対して,直線における運動方程式を導出し,無次元化を行った上で理論解析を行った.理論解析により,ジャイロの慣性モーメントとジャイロの角速度が重要な設計パラメータであり,これらを設計することにより蛇行動限界速度を設計できることが,直線における安定化効果の解析でわかった.また,直線走行を条件とした理論解析結果を検証するため,スケールモデルを用いた走行実験を行い,理論解析で得られた検討結果と比べてよい一致が得られ,ジャイロダンパを鉄道車両に適用することにより,走行安定性を向上できることを示した.更に,鉄道車両の曲線通過を想定し,定常曲線走行を条件とした理論解析を行い,検討結果に基づいて制御付きダブル形ジャイロダンパを考案した.制御付きダブル形ジャイロダンパを適用したスケールモデル車両による走行実験を行い,曲線通過を問題なく行えることを示したと同時に,考案した機構におけるバックラッシュの存在など課題も明らかにした.更に,制御を用いない復元機構付きシングル形ジャイロダンパの考案し,台車枠にジャイロダンパ装置を設置し,直線及び定曲線における理論解析,及び走行実験による検討を行い,制御を使用しなく,機械構造がより簡素なシングル形ジャイロダンパを用いても,蛇行動の安定化を行える可能性を示し,ジャイロダンパを一軸台車車両に適用する際の基礎検討とした.

本論文では,鉄道車両における新たな走行装置として,一軸台車の利用拡大を目指し,鉄道車両利用環境による制約条件の存在と,操舵性一軸台車における走行安定性における課題を明らかにし,一軸台車を用いた車両システムとして,ジャイロダンパの適用と三軸一ユニット方式車両を提案し,理論解析・シミュレーション及びスケールモデル走行実験によりその有用性を示した.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「三軸一ユニット方式とジャイロダンパによる一軸台車を用いた鉄道車両システムの研究」と題し,全7章より構成されている.

鉄道車両の台車は,社会における鉄道への要求に応じて様々なものが開発されてきた.その中で,高い曲線通過性能を持つ一軸台車が存在するが,広く使用される状況に至っていない.

本論文は,一軸台車の利用拡大における諸問題解決のため,鉄道車両利用環境による制約条件の存在や,操舵性一軸台車における走行安定性において課題が存在していることを考察し,制約条件の明確化,鉄道車両システム構築手法,及び走行安定性確保の3項目について検討し,一軸台車を用いた鉄道車両システムの技術展開を確立しようとするものである.

第1章の序論では,研究の背景,研究目的及び研究の特徴を述べている.世界における一軸台車車両及び一軸台車の開発状況と,Frederic教授による一軸台車方式車両の理論を紹介し,操舵性一軸台車を用いた鉄道車両の利用拡大を図るために,既存設備への適応性と液圧式ヨーダンパによる走行安定性確保の課題について指摘している.

第2章は,操舵性一軸台車を用いて構築できる鉄道車両システムと三軸一ユニット方式の提案と題して,鉄道車両の実運用における制約について考察し,都市圏通勤鉄道に対応できる操舵性一軸台車を用いた鉄道車両システムとして三軸一ユニット方式車両を提案し,その長所を軸重及び車体曲げ剛性の観点から検討結果を述べている.

第3章の三軸一ユニット方式車両の基礎検討では,三軸一ユニット方式車両の構造の検討と,台車諸元の設計について,理論解析とシミュレーション検討により実施している.車両の運動特性を大きく影響する中間台車の構造を提案し,緩和曲線を含む非定常状態の車両運動特性を,マルチボディダイナミクス走行シミュレーションを用いて評価した結果を示している.通勤車両用の三軸一ユニット方式車両には,高い曲線通過性能と走行安定性が確保でること,安定性は台車のヨーイング方向の減衰作用の確保が重要であることを述べている.

第4章のスケールモデル実験による三軸一ユニット方式車両の検証では,シミュレーションにより得られた検討結果を基に,スケールモデル車両による走行実験を用いて,三軸一ユニット方式車両の総合的な検討結果を示している.台車諸元を変化させた場合のシミュレーション検討結果と走行実験検討結果から,シミュレーションの妥当性を示すと共に,三軸一ユニット方式車両の高い走行性能から,一軸台車を用いた車両システムとして有望な方式であると述べている.

第5章は,操舵性一軸台車車両におけるジャイロダンパの導入と基礎検討と題し,回転体であるジャイロダンパを用いた新たな手法で鉄道車両を構成することを提案し,そのための基礎検討結果について述べている.一軸台車を用いた鉄道車両のヨーダンパとして,ジャイロダンパを適用した場合の理論解析を実施し,安定性向上が得られることを示している.直線における理論解析とスケールモデル走行実験結果はよい一致が得られること,さらに,曲線通過特性に対しては,制御付きダブル形ジャイロダンパを提案している.曲線通過特性についても,スケールモデル車両による走行実験を実施し,その効果と機構の課題について述べている.

第6章の復元機構付きシングルジャイロダンパを用いる一軸台車車両の検討では,制御付きダブル形ジャイロダンパの機構における課題を克服するため,制御を用いないシングル形ジャイロダンパについて新たな提案をしている.理論解析及びスケールモデル走行実験により,本方式においても,曲線走行に蛇行動の安定化が可能であることを示している.

第7章は結論であり、以上の結果を要約し、本論文の結論を述べている。

以上,本論文では,鉄道車両における新たな走行装置として,一軸台車の利用拡大を目指し,鉄道車両利用環境による制約条件の存在と,操舵性一軸台車における走行安定性における課題を明らかにし,一軸台車を用いた車両システムとして,ジャイロダンパの適用と三軸一ユニット方式車両を提案し,理論解析・シミュレーション及びスケールモデル走行実験によりその有用性を示したものである.これらの研究成果は鉄道車両の新たな方式の可能性を示す成果が得られており,機械工学に寄与するところが大きい.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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