学位論文要旨



No 126591
著者(漢字) 小林,左千夫
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,サチオ
標題(和) 離散幾何モデルを基礎として滑らかな曲率変化を実現した曲線・曲面の生成
標題(洋)
報告番号 126591
報告番号 甲26591
学位授与日 2011.03.14
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7398号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 太田,順
 東京大学 講師 大竹,豊
 法政大学 教授 木村,文彦
 静岡大学 教授 三浦,憲二郎
内容要旨 要旨を表示する

(本文)自動車や家電製品などの工業製品では,機能的な観点のみではなく,意匠的な意図を持つ形状も重要視されるようになっている.しかしながら,意匠設計で用いられるような滑らかな曲線・曲面は,現状の3次元CADシステム上での設計者の感性を頼りにした修正・評価の繰り返し作業により創成されており,多くの時間が必要となる.その主な原因は,2つある.ひとつは,曲線・曲面の曲率分布が重要であることが認識されているにもかかわらず,どのような曲率分布を持てば,滑らかな曲線・曲面であるのかという一般的な定量的指標が知られていないことが挙げられる.また,他の理由として,現状の3次元CADシステムにおいて,曲線・曲面の曲率分布を陽に制御することが困難であり,設計者の求める曲率分布を持つ曲線・曲面を容易に生成できないことが挙げられる.

本研究は,後者の課題を解決することで設計者の試行錯誤を減らすことを目的とし,現状の3次元CADシステムで扱うことができる曲線・曲面の表現形式の範囲内において,点列を入力として,意匠設計で用いられるような曲率分布を持った滑らかな曲線・曲面を自動的に生成する方法を示す.

本研究では,美的平面曲線の1つであるクロソイド曲線の曲率の局所的な変動が0である性質を空間曲線,曲面に拡張した性質を持つ曲線・曲面を1つの理想的な曲線・曲面であると考え,その生成方法を示す.空間曲線については,平面曲線の符号付きの曲率を空間曲線に拡張したものは曲率従法線ベクトルであると考え,その変化率が一定である「滑らかな曲率変化を持つ曲線」を定義する.また,曲面については,曲面上の点における2つの主曲率の主方向への変化率が一定である「滑らかな曲率変化を持つ曲面」を定義する.

曲率分布を制御する際には,複数のセグメント・曲面パッチを接続した集合で表現される曲線・曲面全体としての大域的な曲率分布と個々のセグメント・曲面パッチないし,その一部の局所的な曲率分布の両方が重要になる.

曲率分布を制御された曲線・曲面を生成する方法としては,滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面の定量的な基準を評価関数として定義し,数値最適化する方法を用いる.曲率分布は,局所的にも大域的にも制御される必要があるが,評価関数を数値最適化する方法では,本来大域的な曲率分布の制御が可能である.しかし,この方法では,使用するパッチ式や初期形状に強い影響を受け,局所的な最適化になってしまう場合が少なくなく,必ずしも望む曲率分布になることを保証する手法ではない.この問題に対し,離散曲線,離散曲面といった離散幾何モデルでは,解析的な曲線・曲面に比べ,自由度が高いため局所的な最適化になってしまう問題が起こりづらい.そこで,本研究では,大域的な曲率分布を制御した離散幾何モデルを初期形状として利用する.この方法により,一般的な3次元CADで使用される曲面の大域的な曲率分布の制御が可能であると考えた.

設計者が通過点を指定して曲線・曲面の生成を行う場合には,指定した通過点を滑らかに通る曲線・曲面を生成する「補間」と,極力小さい誤差の範囲で通過点付近を通る曲線・曲面を生成する「近似」が2つの大きな方法として挙げられる.本研究では,補間と近似の両方において,滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面を生成する方法を示し,従来手法と比較することで手法の有効性を示した.

まず,入力として,うねりの原因とならない点列を設計者が指定すると仮定し,離散曲線・曲面を初期形状として利用して,入力とした点群を補間する滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面を生成する方法を示した.曲線については,滑らかな曲率変化を持つ空間離散曲線である3次元クロソイド・スプライン離散曲線を初期曲線として,評価関数を最小化することで滑らかな曲率変化を持つ曲線を生成する方法を示した.ここで,生成した滑らかな曲率変化を持つ曲線は,5次Bezier曲線を要素とするG2連続な区分接続曲線である.また,曲面についても同様に5次Bezier曲線を要素とするG2連続な区分接続曲線メッシュに双5次Gregoryパッチを内挿した滑らかな曲率変化を持つ曲面を生成する方法を示した.実際に曲線・曲面の生成を行い,従来手法と比較した結果,本手法で生成した曲線・曲面は,曲率の局所的な変動が小さく,曲率分布が曲線・曲面全体で増減の繰り返しが少なくなることがわかった.

次に,入力の点列がうねりの原因となりうる場合の例として,点列間距離の不均一な点列を入力として,離散幾何モデルに基づき曲線・曲面の接続点を再構成することで,入力を近似し,うねりのない滑らかな曲線・曲面を生成する方法を示した.実際に曲線・曲面を生成し,再構成をしない場合と比較した結果,本手法により曲率の局所的な変動が小さく,断面曲線の曲率分布が曲面全体で増減の繰り返しが少なくなる曲面を生成できることがわかった.

以上

審査要旨 要旨を表示する

小林左千夫(こばやし さちお)提出の本論文は「離散幾何モデルを基礎として滑らかな曲率変化を実現した曲線・曲面の生成」と題し,全6章よりなり,機械の意匠設計で特に重要となる曲面生成のための問題を扱っている.

現状の3次元CADシステムにおける,曲率分布の性質が制御された曲線・曲面の生成には多くの作業時間が必要となるという課題がある。これに対して本研究では,滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面の定量的な基準を評価関数として定義し,離散幾何モデルを初期形状として評価関数を最小化する曲線・曲面を生成することで,曲率の局所的な変動が小さい曲線・曲面を生成する方法を示している.また,実際に曲線・曲面を生成することで本手法により,曲率の局所的な変動が小さい曲線・曲面を生成できることが示された.

具体的には,入力がうねりの原因とならない適切な点列であると仮定し,点群,離散曲線,離散曲面などの離散幾何モデルを初期形状として利用することで,入力とした点群を補間するように,滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面を生成する方法と,離散幾何モデルに基づき曲線・曲面の接続点を再構成することで,入力がうねりの原因となりうる場合にも滑らかな曲線・曲面を入力に対する近似曲線・曲面として生成する方法を提案した。

第1章で本テーマの背景などについて序論を述べた後に、第2章では基礎となる、微分幾何学や自由曲線曲面理論、離散曲面理論等についての概要を示している。さらに、第3章では滑らかな曲率変化を持つ曲線を数値最適化により生成する手法(補間)として、曲率の変化率が一定である平面曲線をひとつの理想的な曲線と考え,平面曲線の符号付きの曲率を空間曲線に拡張した曲率従法線ベクトルの変化率が一定である「滑らかな曲率変化を持つ曲線」を定義した.また,入力の点列がうねりの原因とならないという仮定の下,滑らかな曲率変化を持つ空間離散曲線である3次元クロソイド・スプライン離散曲線を初期曲線として,評価関数を最小化することで,入力の点列を通るような滑らかな曲率変化を持つ曲線を生成する方法を示している.この生成された滑らかな曲率変化を持つ曲線は,5次Bezier曲線を要素とするG2連続な区分接続曲線であり、その生成した曲線の性質を確認するために,入力として同じ点列を指定して,滑らかな曲率変化を持つ曲線と3次Bezier曲線を要素とするC2連続な区分接続曲線を生成し,比較を行った結果,平面曲線,空間曲線のどちらの場合にも,本論文の手法により生成された曲線の方が曲率の増減の繰り返しが少なくなることが示されている.

第4章では、滑らかな曲率変化を持つ曲面を数値最適化により生成する手法(補間)と提案している。曲面上の点における2つの主曲率の主方向への変化率が一定である「滑らかな曲率変化を持つ曲面」を理想的な曲面であると考え,うねりの原因とならない点列が入力として与えられるという仮定の下,離散曲面を初期形状として,評価関数を最小化することで入力の点列を通る滑らかな曲率変化を持つ曲面を生成する方法を示している.この生成された滑らかな曲率変化を持つ曲面は,5次Bezier曲線を要素とするG2連続な区分接続曲線メッシュに双5次Gregoryパッチを内挿したG2曲面である。入力として同じメッシュを指定して,滑らかな曲率変化を持つ曲面と双3次スプライン曲面を生成し,比較を行った結果,本手法で曲率の局所的な変動が小さく,断面曲線の曲率分布が曲面全体で増減の繰り返しが少ない曲面を生成できることを示している。

第5章では、接続点の再構成により,滑らかな曲率変化を持つ曲線・曲面を生成する手法(近似)として、設計者が指定した点列・点群を入力とした離散曲線・曲面を基に,セグメントや曲面パッチ間の接続点を再構築することで曲率の局所的変動の小さい曲線・曲面の生成方法を示している.これにより,設計者が点間距離が不均一な点列を指定した場合でも,うねりの少ない曲線・曲面を生成可能とした.実際に曲線・曲面を生成し,再構成をしない場合と比較した結果,本手法により曲率の局所的な変動が小さく,断面曲線の曲率分布が曲面全体で増減の繰り返しが少ない曲面を生成できることを示している.

以上を要約するに,本研究は、現状の手法では困難とされる滑らかな曲率分布をもつ曲線・曲面の生成の課題に対して,曲率の局所的な変動が小さい曲線・曲面を生成できることを示しており、これは自由曲面生成理論において大きな貢献をしたと言える.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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