学位論文要旨



No 126621
著者(漢字) 佐野,隆司
著者(英字)
著者(カナ) サノ,リュウジ
標題(和) 組み合わせ入札におけるインセンティブと均衡
標題(洋) Incentives and Equilibrium in Auctions with Package Bidding
報告番号 126621
報告番号 甲26621
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 博経第294号
研究科 大学院経済学研究科
専攻 現代経済専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松島,斉
 東京大学 教授 神谷,和也
 東京大学 教授 神取,道宏
 東京大学 教授 松井,彰彦
 東京大学 准教授 柳川,範之
内容要旨 要旨を表示する

本論文は「組み合わせ入札」あるいは「組み合わせオークション」と呼ばれるクラスの複数財オークションにおいて、入札者がどのような戦略的行動の誘因を持ち、均衡においてどのような結果が実現するかを分析する。売り手が複数種類・複数単位の財を多数の潜在的な買い手(入札者)にオークションによって配分する問題を考える。そのような複数財オークションの環境では、入札者は一般に個々の財に対して独立に価値を評価するのではなく、財の間の代替性や補完性を考慮し、「財の組み合わせ」に対して価値を評価する。そのような環境では個別の財に対する入札だけでなく、財の組み合わせに対する入札を認めることで、より効率的な財配分の達成が期待できる。組み合わせオークションとは、そのような財の組み合わせを指定して入札できるような取引ルールを指す。

組み合わせオークションの研究は、通信事業者への電波利用権の割当や混雑空港の発着枠割当といった現実への応用が期待され、実際に、近年現実の事例に活用され始めている。英国では2008年、周波数帯割当オークションとして組み合わせオークションを実施した。また、米国では空港発着枠の割当方法として、組み合わせオークションの実施が提案された。これら近年採用・提案されている組み合わせオークションの理論的な特徴は、入札額の下でのコアになるように配分及び支払額を決定する点にある。そのような取引ルールは特に「コア選択オークション」と呼ばれる。

組み合わせオークション、特にコア選択オークションは近年性能の良い取引ルールとして期待されているものの、そこでの入札者の戦略的行動や均衡の性質に関しては未だに十分明らかにされていない。既存の組み合わせオークションの均衡に関する研究は、完備情報かつ封印入札方式の場合の分析に限られてきた。オークション問題で通常想定される不完備情報の場合の分析はほとんど研究されていない。また、現実への応用という観点では、封印入札方式よりも価格せり上げ方式の取引ルールの方が好まれる一方で、価格せり上げ方式における戦略的行動の分析もまたほとんど未解明であった。

そこで本論文では、コア選択オークションを中心とした組み合わせオークションにおける入札者の戦略的行動及び均衡について分析する。特に財に対する価値評価が入札者の私的情報であるような不完備情報の場合、そして周波数オークション等の現実の応用事例で採用されることの多い価格せり上げ方式の取引ルールの場合において、入札者がどのような戦略的行動を取るかを分析する。以下では各章の分析結果について概説する。

1章 Core-Selecting Nash Equilibrium in the Vickrey and Some Unstable Mechanisms

本章は、完備情報下のコア選択オークションのナッシュ均衡に関するDay and Milgrom (2008)の分析を拡張する。Day and Milgrom (2008)は任意のコア選択オークションについて考え、「切り詰め戦略(truncation strategy)」によって真の入札者最適コアがナッシュ均衡で実現されることを示した。しかし、彼らの結果はコア選択オークションの本質的な性質ではない。オークションが入札額の下で効率的に財を配分し、かつ各人の支払額がヴィックリーオークションのそれ以上であるならば、切り詰め戦略を用いたナッシュ均衡が存在して、真の入札者最適コアを達成する。非コア選択オークション、特にヴィックリーオークションについても真のコアを実現するナッシュ均衡が存在する。

2章 Ascending Core-Selecting and Vickrey Auctions

本章は、コア選択オークションを含むメカニズムに対して価格せり上げ方式を導入する。完備情報、及び入札者が単一需要(single-minded)であると仮定した上で、価格せり上げ型組み合わせオークションの部分ゲーム完全均衡を特徴づける。入札者が特定の財の組み合わせのみに関心があるとき、入札者は単一需要であると定義する。1章で論じるように、メカニズムが効率的かつ支払額がヴィックリーオークションのそれ以上であるとき、切り詰め戦略によって構成されるナッシュ均衡が一般に複数存在する。本章では最終割引(final discounts)を認めた価格せり上げルールを導入し、効率的かつ支払額がヴィックリーオークションのそれ以上であるような任意の価格せり上げ型組み合わせオークションを定義する。

任意のオークションにおいて、「ヴィックリー照準戦略」が部分ゲーム完全均衡となる。ヴィクリー照準戦略では、既に入札を止めた者の入札額を所与としたヴィックリー価格を目標として、その額に達するまで入札する。ヴィックリー照準戦略均衡で実現される配分は、真の評価額の下での入札者最適コアになる。更に、この均衡配分は、オークションの敗者が正直に入札している限りにおいて、一般に唯一の部分ゲーム完全な配分となる。価格せり上げ方式と部分ゲーム完全性によって、Day and Milgrom (2008)や1章が示す封印入札型組み合わせオークションの複数均衡の中のただ一つが選択される。

一方で、ヴィックリー照準戦略均衡においては、均衡利得の単調性が満たされない。評価額の低い入札者であるほどヴィックリー価格が低く、他の入札者より先に入札を止めることができるため、評価額の低い入札者であるほど高い均衡利得を得やすい。

3章 Incentives in Core-Selecting Auctions with Single-Minded Bidders

本章は、単一需要の入札者を仮定し、不完備情報下のコア選択オークションにおける入札者の戦略的行動について分析する。各入札者の需要する財の組み合わせに関する情報が共有されており、かつ入札者はその財の組み合わせのみに入札すると仮定した上で、Ausubel and Milgrom (2002)が提案した「代理人せり上げ入札」と呼ばれる封印入札型コア選択オークションにおける戦略的入札行動を分析する。

単一需要の仮定の下では、一部でも共通の財に関心がある入札者は「敵」と定義できる。逆に、指値する財の組み合わせが全く共通しない入札者を「味方」と定義する。入札者の「敵の敵」が必ず自分の敵である時、そしてその時のみ、代理人せり上げ入札においてその入札者は正直に自分の評価額を申告する。この条件は、入札者が不完備情報下のベイジアン・ナッシュ均衡において正直に申告するためのほぼ必要条件でもある。更に本条件は代理人せり上げ入札のみならず、任意の「入札者最適コア選択オークション」についても同様に適用される。

入札者の「敵の敵」が自分の味方であるようなとき、彼は一般に評価額を過小に申告する誘因が存在する。これは、「自分」と「自分の味方」の間で互いにただ乗りして支払額を低く抑えようとする誘因が生じるためである。2財3人の特殊ケースにおける代理人せり上げ入札のベイジアン・ナッシュ均衡では、評価額の高い入札者はほぼ正直に入札する一方、評価額の低い入札者は非常に低い額を入札する。

4章 Strategic Non-Bidding in an Ascending Core-Selecting Auction

本章では不完備情報下の価格せり上げ型コア選択オークションの完全ベイジアン均衡について分析する。「組み合わせ時計オークション」と呼ばれる英国の周波数オークションで実際に採用されたルールを考える。2財からなるオークションを考え、1財のみを需要する「ローカル入札者」と2財とも需要する「グローバル入札者」の2種類の入札者がいると仮定する。組み合わせ時計オークションでは、グローバル入札者は2財の組み合わせに対して正直に入札することが支配戦略となる。一方、ローカル入札者は一般に過小入札の誘因が存在する。

ローカル入札者が2人参加している時、一定の条件下では一意の非対称な完全ベイジアン均衡が存在し、片方のローカル入札者は正直に入札する。しかし、他方のローカル入札者はただ乗りし、全く入札しない。均衡では深刻な非効率性及び低収入の問題が生じる。封印入札方式のコア選択オークションではローカル入札者がただ乗りに完全にコミットすることが通常できないため、均衡でも一定程度の額を入札する。しかし、価格せり上げ方式のような動学的なルールでは、自分がただ乗りすることにコミットすることが可能となる。ローカル入札者同士がただ乗りにコミットしようと競争する結果、全く入札しない戦略が唯一の均衡となる。2章で論じる封印入札型の組み合わせオークションの均衡と比較すると、効率性・収入共に悪化する。

ローカル入札者が3人以上参加している時、均衡では入札を続けるローカル入札者が2人のみになるまで正直に入札し、2人が残ると直後にそのうちの1人が入札を止める。ローカル入札者の参入を促進することで、均衡の効率性・収入は大きく改善される。

審査要旨 要旨を表示する

佐野隆司君は、ミクロ経済学とゲーム理論の先端領域である「組み合わせ入札(CombinatorialAuctien,あるいはPackageBidding)」の理論的基礎を研究し、優れた学術的貢献をはたした。よって、主査および副査は、佐野君の博士論文を満場一致で採択することに合意した。

オークション研究は、1996年のヴィックリー、2007年のマイヤーソンのノーベル経済学賞受賞に代表されるように、すでに豊かな学術的蓄積をもつ分野である。しかし、従来の研究成果では、単一種のアイテムを一単位売買する収引の分析が中心であった。実際の経済主体は、複故稚のアイテムを複数単位購入している。オークション研究においては、これらの取引問題は独立に検討できることを暗黙に仮定していた。

しかし、現実的な経済主体にとって、個別の財に対する価値評価は、代替や補完といった相互依存の関係にある。よって、この仮定は制約的であるため、排除して、複数種アイテム複数単位の取引を統一的に分析することが、理論的基礎の確立に欠かせない。組み合わせ入札の研究は、複数種アイテム複数単位をいくつかのパッケージ(財の組み合わせ)に適切に分割して配分するためのルール設計を検討することで、統一的分析のためのアプローチを提供するものである。

注目すべきことに、近年、組み合わせ入札の様々なルールを、周波数帯、貨物輸送、物質調達全般、バスルート、空港スロット配分などに具体的に利用することが検討され、顕著な実績を上げつつある。また、現実の経験からのフィードバックは、組み含わせ入札研究に重要な役割を果たしている。そして、単一アイテムー単位では検討できない「実行可能な入札制度没計」の本質的な問題点が明らかにされ、より明示的に号察されるようになった。財が補完関係にある状況の分析はとりわけ重要である。オークション研究は、紐み合わせ入札によって本格的な実践段階にステップアップした。

佐野隆司谷は、修士課程から、組み合わせ入札のこのような重要性に着目していて、発展途上である理論的基礎の確立が急務であることをよく認職し、博士論文全編を組み合わせ入札の理論的基礎の考察に充てることとした。その結果、このきわめて重要かつ困難な研究フロンティアにおいて、学術的貢献の最先端にまで研究の質を高めることができた。

組み合わせ入札の研究では、インセンティブ、効率性、公平性、価格発見、意思決定の複雑性といった、多岐にわたる'要求項目をみたすべく、様々な入札ルールの設計が検討されている。中でも、VCGメカニズム」と「コア選択メカニズム」は、その代表例である。

VCGメカニズムは、入札者にパッケ一ジ全てについて評価を申告させ、申告内容に応じた効率的なパッケージ配分を決定し、各入札者の支払額を他の入札者の損失補てん分に一致させるように設計された、封印型の入札ルールである。VCGメカニズムは、パッケージ評価を正直に申告することが「優位戦略」になり、効率的配分が達成されるといったすぐれた利点をもつ。

しかしながら、補完財が存在する場合には、売り手の収入が極端に低くなり、入札者同士が提携を結んで配分をブロックするなど、配分の公正性を欠くことに起因する多くの問題点が指摘されている。そのため、入札の主催者がVCGメカニズムをそのままの形で実際に利用することはまれである。

一方、コア選択メカニズムは、申告されたパッケージ評価をもとに、コア配分を決定する入札ルールの総称であり、VCGメカニズムがもつ問題点のいくつかを克服する利点をもつ。コア選択メカニズムには、実用化を念頭に置いて設計された入札ル一ルが多く含まれるため、VCGメカニズムより実践的だとされる。

佐野君の博士論文は、主にコア選択メカニズムを考察対象としている。さらに、後述するように、佐野君は、VCGメカニズムとコア選択メカニズムを統一的にとらえる「vickreyReserveメカニズム」と称される新慨念を提示している。

コア選択メカニズムでは、優位戦略が存在しないため、「ナッシュ均衡」分析がなされる。ナッシュ均衡は複数存在しうるが、中でも、「切り詰め戦略(TruncationStrategy)」と呼ばれる戦略によるナッシュ均衡分析に関心が集中される。切り結め戦略とは、入札者が自身の利得」斐得分を、爽のパッケージ評価から一律差し引いた金額を申告する戦略を意味するeDayandMilsrom(2008)などによって、コア選択メカニズムでは、「切り詰め戦略ナッシュ均衡」が一般に存在することが証明されている。このナッシュ均衡は特筆すべき性質をもつ。すなわち、虚偽申告であるものの、結果的には「真の評価に基づくコア配分」を達成する。それは、入札者の支払額がコアの範囲内で最小に設定されるという意味において、「入札者最適」なコア配分になる。

組み合わせ入札では、全てのパッケージに対する評価を一度に申告する封印型のみならず、せり上げ方式やタトマン価格調整メカニズムなどの「動学的入札ルール」も検討される。動学的入札ルールは、複雑性の回避や、入札者のプライバシー保護などの観点から、封印型以上に実践的な設計方法と考えられている。

佐野君は、博士論文の中で、コア選択メカニズムやVckrey-Reserveメカニズムを、動学的入札ルールに修正し、部分ゲーム完全均衡によるナッシュ均衡精緻化、および「ヴィックリー・ターゲット戦略」と称される戦略の特定化によって、「複数ナッシュ均衡選択」問題を検討している。そして、動学的入札ルールにおいて、入札者最適なコア配分が「一意に」達成される可能性を解明している。

組み合わせ入札の研究では、「不完備情報」における理論的基礎が、その重要性にかかわらず脆弱である。不完備情報下でコア選択メカニズムを検討する場合には、入札者がパッケージ評価を過少申告することによって、効率的配分が達成されない可能性が深刻化する。佐野君は、博士論文の後半において、不完備情報下におけるコア選択メカニズムの非効率性を分析しており、それは先駆的な学術的貢献である。

このように、佐野君の博士論文は、多岐にわたる木質的な論点を者察しており、各々の論点について.重要な貢献を提供している。

佐野君の鱒士論文は、全4彰から構成される。第1,2彰は完備情報、第3,4章は不完備情報を扱っている。第2,4彰では、動学的入札ルールが検討され、部分ゲーム完全均衡と完全ベイジァン均衡の分析がなされている。第2,3,4章では、入札者の利得関数について、準線形性に加えて、「単一需要(Single-Mind)の仮定が置かれている。単一需要は、各入札者が高々単一のパッケージに対してのみ正の評価価値をもつとする仮定であり、パッケージ間の相対評価に関わる問題を捨象することで義論を単純化している。

以下、個別の雌について、その内容を要約する。

策1章は、一般的な準線形利得構造において、VCGメ、カニズムとコア選択メカニズムに共通するナッシュ均衡の特徴を検討している。佐野貼は、VickeryReserveメカニズムと称されるメカニズムのクラスを、入札者の支払額が常にVCGメカニズムの支払額以上になるメカニズム全般と定義した。VCGメカニズムとコア選択メカニズムはすべてこのクラスに属する。佐野君は、どのvickcryReserveメカニズムにおいても、切り詰め戦略ナッシュ均衡が存在して、入札者最適コア配分が達成されることを証明した。

証明の技術的内容は、DayandMilgrom(2008)の,証明に付け加えるものは、特にないが、入札者最滴コア配分のナッシュ均衡による選成可能性が、コア選択メカニズムに限らず、VCGメカニズムにおいても確認されることを指摘した意,能は大きい。この指摘によって、VCGメカニズム、あるいはそれを近似するメカニズムにおいて、「複数存在するナッシュ均衡のどれが実際に実現すると考えるの力理論的に妥当か」を検討することが、研究の次の重要なステップとみなされる。

第2章は、単一需要の仮定下で、VickeryReserveメカニズムを、価格せり上げ方式の動学的入札ルールに修正することによって、「複数存在するナッシコ均衡のどれが実際に実現すると考えるのが理論的に妥当か」という問題を、部分ゲーム完全均衡摘緻化問題として考察した。まず、佐野君は、「ヴィックリー・クーゲット戦略と称する戦略を特定化し、ヴィックリー・ターゲット戦略プロファイルが都分ゲームナッシュ均衡になることを証明した。そして、支払額が厳密にVCGメカニズムよりも高くなるように設計された任意のVickeryResen,eメカニズムにおいて、いくつかの追加的条件のもとでは、ヴィックリー・ターゲット戦略プロファイルが「唾一の」部分ゲーム完全均衡になることを証明した。ヴィックリー・ターゲット戦略プロファィルは入札者最適コアを達成する。よって、この定理は、追加的条件下において、たとえVCGメカニズムに隣接するメカニズムであったとしても、入札者最適コア配分が一意に遠成されることを示している。このことは、VCGメカニズムにおいて、正直な申告による優位戦略よりも、入札者最適コア配分を達成するナッシュ均衡の実現性が高いことを示唆している。

ヴィックリー・ターゲット戦略は、せり上げ過程から中途隙脱した他の入札者が申告した評価額をもとに計算されたヴィックリー価格まで、せり上げを継続する戦略と定義される。この定義は、補完財の存在するケースにおいてコア選択メカニズムの支払額がVCGメカニズムよりも高くなることの論理的構造を提供するものである。

単一需要を仮定することで、大きなパッケージを狙う入札者と、そのパッケージの一部を分け合う複数の入札者が競い合う状況がクローズアップされる。すなわち、パッケージを分け合う入札者同士で、支払負担を押し付けようとするインセンティブが生じている。動学的入札ルールでは、パッケージ評価の低い入札者が、早期にせり上げから離脱することで、支払負担を評価の高い入札者に押し付けるインセンティブが強く働く。そのため、唯一の部分ゲーム完全均衡であるヴィックリー・ターゲット戦略プロファイルは、入札者間で非対称な行動パターンを誘発する結果となる。

このように、第2章の定理の内容は深く重要であり、佐野君の博士論文全体において中心的貢献と考えられる。

第3,4章、単一需要を持つ入札者の、コア選択メカニズムにおける行動パターンを、不完備情報下で分析している。第2章で説明されたように、小さいパッケージを需要する入札者は、財に対する評価を過少に申告することで、別のパッケージを需要する相手入札者に支払負担を押し付けるインセンティブをもつ傾向にある。不完備情報下では、このようなフリーライダー的行動が非効率性を誘発してしまう。佐野君は、このような過少申告を行う入札者のタイプの特定化と、過少申告がどの程度深刻な非効率性を生むか、などをめぐって、封印型と動学的入札ルールの双方を分析した。

第3章は、封印型のコア選択メカニズムを分析し、任意の入札者が過少申告する、あるいは逆に、正直に申告する、ケースの必要十分条件を示した。佐野君は、任意の入札者が需要するパッケージに含まれる財を需要する他の入札者、すなわちその入札者のライバル、のライバルが、同様の意味で自身のライバルにもなっている状況が必ず成立しているならば、その時にのみ、その入札者は正直に申告するインセンティブをもつ、ということを証明した.言い換えると、「ライバルのライバルが自身のライバルでないすなわち、支払負担を押し付け合う関係である入札者が存在する、ならば、その時にのみ、その入札者は過少申告をすることになる。こうして、入札者相互の需要関係の中に、非効率性の根拠が見出されたこととなり、これは意義ある理論的発見である。

第3章は、組み合わせ入札を不完備情報下で分析した世界的にも最初期の研究である。第3章は、修士論文をべ一スに書かれた論文であり、既に「GamesandEconmicBehavior」に採用が確定している。GamesandEconomicBehaviorは、ゲーム理論におけるもっとも重要な査読付き専門誌のひとつである。第3章の内容は、ゲーム理論学界全体において、特筆するべき成果と認知されている。

策4章は、第3章のコア選択メカニズムを、価格せり上げ式動学的入札に修正したモデルを分析している。内容的には第2戦こ共通する部分があるが、2財のみの入札に限定するなど追加的な制約を裸して、入札者の均衡行動パターンの特徴をより鮮明にしている。特に、一財のみを需要する複数の「ローカル入札者」の一方が、入札額を全くせり上げずに早期離脱するといった、極端なフリーライダー的行動パターンが、唯一の完全ベイジアン均衡になることが示されている。その結果、配分の非効率性と、極端な売り手の低収入が発生することとなる.また、ローカル入札者が追加的に参入することによって、非効率性と低収入が、ある程度解消されることも示されている。

以上、4つの堰のどれもが第一級の内容であり、将来的にトップランクの査読付き専門誌に、全て採用されることが見込まれる。

第1章を除いて単一需要を仮定している点は、今後の研究に裸題を戎している。この仮定によって、パッケージ間の相対評価の在り方は重要でなくなるため、複数種アイテム複数単位を、どのように工夫して複牧のパッケージに分割して、入札者に配分するのが適切か、という、組み合わせ入札に特有の重要な論点が考察されないままになっているからだ。単一需要の仮定をはずした場合の問題を検討するなど、組み合わせ入札の研究をさらに深化させることで、佐野君が今後さらに飛躍されることを大いに期待したい。

以上より、佐野隆司君の博士論文は、博士号を授与するに十分な水準に達していると、審査委員の全会一致で判断した。

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