No | 126742 | |
著者(漢字) | 船戸,洸佑 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フナト,コウスケ | |
標題(和) | 膠芽腫がん幹細胞におけるヒストン脱アセチル化酵素SIRT2の機能解析 | |
標題(洋) | Characterization of the histone deacetylase SIRT2 in glioblastoma cancer stem cells | |
報告番号 | 126742 | |
報告番号 | 甲26742 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5687号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 生物化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 膠芽腫(glioblastoma multiforme)は、最も悪性度が高い脳腫瘍である。周辺組織への浸潤性が高く、手術での全摘出は困難であり、診断後の5年生存率は10%を切る。近年、がんを構成する細胞の中でも、高い造腫瘍能を持つものはごく一部であり、それらは自己複製能や多分化能といった幹細胞様の性質を持つことが明らかとなった。これらの細胞はがん幹細胞と呼ばれ、他のがんと同様に膠芽腫においても、その存在が確認されている。また、がん幹細胞は、抗がん剤や放射線に対して抵抗性を持つことから、がん再発の主要因であると考えられており、がん幹細胞を標的とした新たな治療法の確立が求められている。 本研究では、ヒト膠芽腫検体より樹立した膠芽腫がん幹細胞株を用い、脱アセチル化酵素であるSIRT2が、膠芽腫がん幹細胞の増殖および造腫瘍能を制御していることを明らかにした。まず、膠芽腫がん幹細胞において、SIRT2の機能をRNAi法および特異的阻害剤によって抑制すると、スフィア形成率や増殖速度が顕著に低下した。さらに、SIRT2機能抑制細胞を免疫不全マウスの脳内へ移植した結果、腫瘍形成が有意に抑制されることが分かった。またこのとき、PUMA、NOXAといったアポトーシス促進因子やGADD45などの細胞周期停止に関わる遺伝子の発現が亢進していた。また、SIRT2発現抑制による膠芽腫がん幹細胞の増殖抑制に、p73が介在することを見出した。SIRT2はp73遺伝子のC末端領域に結合し、その領域にあるリジン残基を脱アセチル化する。つまり、SIRT2はp73の機能を抑制することで、膠芽腫の増殖と生存を正に制御していると考えられた。加えて、膠芽腫ではp53の失活変異が高頻度に見られることから、p53経路を代替するp73の活性化は、膠芽腫に対する有効な治療戦略となる可能性を有していると考えられる。以上の結果より、SIRT2は膠芽腫に対する治療の標的として有望であり、SIRT2の阻害剤は、新しい抗がん剤のシード化合物として極めて有用であると考えられる。 | |
審査要旨 | 本論文では、ヒト検体より樹立した膠芽腫がん幹細胞株を用いて生化学的解析を行い、膠芽腫がん幹細胞の増殖および造腫瘍能における、ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2の機能が述べられている。 まず序論として、本研究の研究材料である膠芽腫がん幹細胞についてのレビュー、先行研究の内容と本研究を始めた端緒の説明、加えて、本研究で注目した遺伝子であるSIRT2とp73についてのレビューが述べられている。 次の章では、論文提出者が行った実験の概要と結果が述べられている。まず前半部分において、SIRT2が膠芽腫がん幹細胞の増殖や造腫瘍能に重要な役割を果たしていることを明らかにした。膠芽腫がん幹細胞において、脱アセチル化酵素であるSIRT2の発現をRNAi法や特異的阻害剤によって抑制すると、スフィア形成能や細胞数が顕著に減少した(2-2、2-5)。その中でも特に、SIRT2の発現抑制が、がん幹細胞依存的にアポトーシスを誘導するという結果は、幹細胞特異的なSIRT2の機能を示唆するもので非常に興味深い。さらに、SIRT2機能抑制細胞を免疫不全マウスの脳内へ移植した結果、腫瘍形成が有意に抑制された(2-4)。 後半部分においては、SIRT2による膠芽腫がん幹細胞の増殖制御の分子メカニズムとして、SIRT2がp53ファミリーのひとつであるp73の転写活性を抑制していることを明らかにした。SIRT2はp73のC末端領域に結合し、その領域に存在するリジン残基を脱アセチル化した(2-8、2-9)。さらに、これらのリジン残基をアルギニンに置換した変異体では、ターゲットの転写活性や、膠芽腫がん幹細胞の増殖を抑制する効果が減少していた(2-10)。これらの結果から、SIRT2はp73の機能を抑制することで、膠芽腫の増殖と生存を正に制御していると考えられた。 第3章では、得られた結果に基づいた考察として、本研究の重要性、本研究によって新たに明らかとなった問題点、加えて、今後の研究の方向性が述べられている。 がん幹細胞は、発展途上の分野である。近年の研究によって、がん幹細胞の特徴の解明は進んだが、その幹細胞性や造腫瘍性を制御する分子メカニズムには未解明の部分が多い。その中にあって本論文は、がん幹細胞の造腫瘍性を制御する新しい分子メカニズムを明らかにしており、非常に重要な研究である。また、膠芽腫ではp53の失活変異が高頻度に見られることから、p53経路を代替するp73の活性化は、膠芽腫に対する有効な治療戦略となる可能性を有していると考えられ、臨床への応用という観点から見ても、非常に興味深い研究であると言える。さらに本論文から、論文提出者は研究を遂行する上で、十分な見識と技能を備えていると判断できる。 従って、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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