No | 126766 | |
著者(漢字) | ディン ミン フン | |
著者(英字) | DINH MINH HUNG | |
著者(カナ) | ディン ミン フン | |
標題(和) | 系の摂動を利用したモデルアップデートによる構造状態評価と実桁橋への適用 | |
標題(洋) | Structural Condition Evaluation by Model Updating under System Perturbation and its Application to Girder Bridges | |
報告番号 | 126766 | |
報告番号 | 甲26766 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7407号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 日本においてこの六十年間,経済急成長及び社会基盤技術の大きな発展の中で数多くの土木構造物が建設され,時間とともに劣化し,大規模な補修が必要なものも出てきている.これらの膨大なインフラの適切な管理運用,すなわち事故災害の発生を防ぐとともに,維持管理を最小限にすることが極めて重要になってきている.このためには,既設のインフラの状態を正確に把握する技術の開発研究のニーズは高い. 近年,センサー技術の発展とともに振動計測による構造ヘルスモニタリング(SHM)手法が注目されてきている.しかしながら,センサーから求められる構造状態の変化から,何らかの異常,損傷を検出しようとする研究が多く,これはセンサーを常時設置を前提とすることになり,実用化への一つのネックとなっている.このような中で,既知質量付加や要素剛性調整など系の摂動による,振動計測を使った構造ヘルスモニタリング手法の信頼性を向上させる手法が提案されている.これは,橋梁などの構造物の状態の変化をとらえるのではなく,系に既知の摂動を加えることで系の絶対的な構造状態を捉えようとするものである.この方法は,10年ほど前に機械工学の分野で提案されたものであるが,系統的に,また橋梁構造への応用というような見地から,実験,実測を含めて検討された研究は一切なかった. 本論文は,系の摂動として既知付加質量を用いる方法について様々な角度から考究したものである.まずSHMと呼ばれる分野をレビューし,論文の目的,構成を述べている. 次に,自由度が4個のせん断ばね建物モデルを対象に,質量付加による構造状態推定問題を設定し,その理論的検討,模型を使った実験結果を使った検討を行っている.具体的には,非減衰系と減衰系の直接構造同定手法の提案を行い,この手法の有効性を離散系シミュレーションと4自由度モデルの実験によって検証している.しかし,より複雑な系を用いたノイズ感度シミュレーションや実橋梁計測結果から,この手法は自由度の高い系の同定が困難なことも併せて示している. そこで,上記の直接同定手法の信頼性問題の改善のため,連続系へ適用可能な方法で,系の既知摂動を利用したモデル更新法を提案している(4章).未知数を柔軟に扱えるというモデル更新法の利点と,構造物に既知の摂動を与えることによる対象構造物についての増加した情報量と組み合わせることで構造同定の精度を向上させることが本手法の強みと言える.摂動が与えられた対象構造物の全ての状態での動的と静的特性が再現されるよう,初期解析モデルが更新されている.具体的には,数値や解析勾配を利用しないシンプレックスという直接検索(探索?)法を用いて,計測と解析から得られた動的と静的特性の誤差を表す最適関数を最小化し,構造物の未知構造パラメータの同定を行うものである.この手法は複数変数の初期推定値からスタートし,これらの変数のスカラー関数の最小化を行っている.複数の既知付加質量を用いて対象構造物のより多くの計測可能な情報を作り出し,これらの情報をモデル更新過程に組み込むことで同定精度向上をさせることは,本手法の従来のモデル更新法との大きな違いである.提案されたモデル更新法を実現させるため,構造解析用にAbaqusという解析ソフトウェアと,探索用にMatlabという計算ソフトウェアを交互に利用するスキームを構築されている. 既設の3つの短スパン桁橋を対象に,質量付加のパターンをいろいろ変えた,ハンマー衝撃による自由振動実測を行い,有限要素モデルを用いた数値シミュレーションと併せて本手法の検証を行っている.支承状態もパラメータとして桁部と併せて同定を行い,その結果は目視検査結果と定性的に整合することを示している.更に,この橋梁の一個の支承部に意図的に拘束を増加させた際,付加質量を利用しない従来のモデル更新法はこの増加拘束を同定できないこと,また,橋梁面上の複数個所に既知質量を移動させ付加することに,モデル更新法の同定精度が向上する結果,この増加分が同定されることも明らかにしている. 以上のように,本論文では,土木構造物の構造状態同定のための系の既知摂動を利用したモデル更新法が提案され,数値シミュレーションと実橋梁動的実験によって,その適用性が検証されている.この方法は中小橋梁の構造同定に新しいアプローチであると考えられる. | |
審査要旨 | 日本においてこの六十年間,経済急成長及び社会基盤技術の大きな発展の中で数多くの土木構造物が建設され,時間とともに劣化し,大規模な補修が必要なものも出てきている.これらの膨大なインフラの適切な管理運用,すなわち事故災害の発生を防ぐとともに,維持管理を最小限にすることが極めて重要になってきている.このためには,既設のインフラの状態を正確に把握する技術の開発研究のニーズは高い. 近年,センサー技術の発展とともに振動計測による構造ヘルスモニタリング(SHM)手法が注目されてきている.しかしながら,センサーから求められる構造状態の変化から,何らかの異常,損傷を検出しようとする研究が多く,これはセンサーを常時設置を前提とすることになり,実用化への一つのネックとなっている.このような中で,既知質量付加や要素剛性調整など系の摂動による,振動計測を使った構造ヘルスモニタリング手法の信頼性を向上させる手法が提案されている.これは,橋梁などの構造物の状態の変化をとらえるのではなく,系に既知の摂動を加えることで系の絶対的な構造状態を捉えようとするものである.この方法は,10年ほど前に機械工学の分野で提案されたものであるが,系統的に,また橋梁構造への応用というような見地から,実験,実測を含めて検討された研究は一切なかった. 本論文は,系の摂動として既知付加質量を用いる方法について様々な角度から考究したものである.まずSHMと呼ばれる分野をレビューし,論文の目的,構成を述べている. 次に,自由度が4個のせん断ばね建物モデルを対象に,質量付加による構造状態推定問題を設定し,その理論的検討,模型を使った実験結果を使った検討を行っている.具体的には,非減衰系と減衰系の直接構造同定手法の提案を行い,この手法の有効性を離散系シミュレーションと4自由度モデルの実験によって検証している.しかし,より複雑な系を用いたノイズ感度シミュレーションや実橋梁計測結果から,この手法は自由度の高い系の同定が困難なことも併せて示している. そこで,上記の直接同定手法の信頼性問題の改善のため,連続系へは適用可能な方法で,系の既知摂動を利用したモデル更新法を提案している(4章).未知数を柔軟に扱えるというモデル更新法の利点と,構造物に既知の摂動を与えることによる対象構造物についての増加した情報量と組み合わせることで構造同定の精度を向上させることが本手法の強みと言える.摂動が与えられた対象構造物の全ての状態での動的と静的特性が再現されるよう,初期解析モデルが更新されている.具体的には,数値や解析勾配を利用しないシンプレッスという直接検索法を用いて,計測と解析から得られた動的と静的特性の誤差を表す最適関数を最小化し,構造物の未知構造パラメータの同定を行うものである.この手法は複数変数の初期推定値からスタートし,これらの変数のスカラー関数の最小化を行っている.複数の既知付加質量を用いて対象構造物のより多くの計測可能な情報を作り出し,これらの情報をモデル更新過程に組み込むことで同定精度向上をさせることは,本手法の従来のモデル更新法との大きな違いである.提案されたモデル更新法を実現させるため,構造解析用にAbaqusという解析ソフトウェアと,検索用にMatlabという計算ソフトウェアを交互に利用するスキームを構築されている. 既設の3つの短スパン桁橋を対象に,質量付加のパターンをいろいろ変えた,ハンマー衝撃による自由振動実測を行い,有限要素モデルを用いた数値シミュレーションと併せて本手法の検証を行っている.支承状態もパラメータとして桁部と併せて同定を行い,その結果は目視検査結果と定性的に整合することを示している.更に,この橋梁の一個の支承部に意図的に拘束を増加させた際,付加質量を利用しない従来のモデル更新法はこの増加拘束を同定できないこと,また,橋梁面上の複数個所に既知質量を移動させ付加することに,モデル更新法の同定精度が向上する結果,この増加分が同定されることも明らかにしている. 以上のように,本論文では,土木構造物の構造状態同定のための系の既知摂動を利用したモデル更新法が提案され,数値シミュレーションと実橋梁動的実験によって,その適用性が検証されている.この方法は中小橋梁の構造同定に新しいアプローチであり,構造ヘルスモニタリングの分野において有用な情報を提供し,工学上多大な知見を提示していると判断される.よって,博士(工学)の学位請求論文として合格と認める. | |
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