No | 126768 | |
著者(漢字) | 西畑,剛 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ニシハタ,タケシ | |
標題(和) | 透過式離岸堤構造物周辺における波浪場・海浜流場と土砂移動 | |
標題(洋) | Wave and Nearshore Current Field and Sediment Transport around Permeable Detached Breakwaters | |
報告番号 | 126768 | |
報告番号 | 甲26768 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7409号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,新型の透過式離岸堤構造物の建設事例が増えている.これらの離岸堤は,沿岸域の静穏度確保や漂砂制御の他,良好な自然環境の維持といった目的を持って建設されている.静穏度確保のため透過式離岸堤は消波性能に関しては,反射率・透過率を指標とした性能が規定されている.また構造的には,景観への配慮から低天端構造が採用されるため,離岸堤上では越波や砕波が起こりやすい.そのため透過式離岸堤周辺においては,透過波,反射波,回折波,砕波などが組合わさった複雑な波浪場が形成される.さらに一般的な離岸堤構造物が捨石や消波ブロックといった単一材料を均質に配置するのに対して,透過式離岸堤構造物はコンクリートスリット壁やプレキャストブロックを組み合わせたものが多く,空隙率が部材毎に異なるといったことが特徴として挙げられる.こうした複雑な波浪場と構造形式を特徴とする透過式離岸堤に対しては,これまで実験や現地観測に基づく研究手法が取られてきた.例えば離岸堤の開発にあたっては断面水槽による消波性能確認実験が実施されることが多く,各離岸堤とも反射性能や透過性能に関する知見が得られている.一方で平面的な波浪場・海浜流場および地形変化に関しては現況では依然,十分な知見が得られているとは言えない状況である.さらに数値解析によってその波浪制御機能や漂砂制御機能を評価することは難しく,汎用的な数値計算モデルがないのが現状である. 本論文は,透過式離岸堤周辺の波浪場,海浜流場,土砂移動を解析する数値モデルの構築を目的とする.透過式離岸堤周辺の波浪場および海浜流場解析に対しては,空隙を有する構造物に対して波浪場が計算できる非線形分散波方程式(修正ブシネスク方程式)を基礎方程式として採用する.本基礎方程式は,波の浅水変形,屈折変形,回折変形,反射のほか,弱い非線形性や分散性も考慮できるため,浅海域から汀線までの波浪場を精度良く解析することが期待できる.また砕波モデルを組み込むことで砕波現象のみならず,それに伴って発生する平均水位の変動や海浜流も内在的に解析される.遡上波は汀線付近の海浜に微小な空隙率を与えることで近似的に再現されるが,越流公式に基づく計算を実施することでも再現可能である.透過式離岸堤構造は,空隙率を断面平均した形で局所的に配置し,併せて流速の2乗に比例する乱流抵抗を与えることでモデル化する.ここで離岸堤前面および背面付近は解析断面の急激な変化に伴う流速変動よって数値不安定が発生しやすい.そこで水理的には急拡損失項を導入することで断面急変部における計算不安定を解消している.計算範囲は沖合から透過式離岸堤を経て遡上域までとする.すなわち解析対象となる水理現象は,入射波と透過式離岸堤前面からの反射波による重複波浪場,離岸堤上での越波や離岸堤の透過波,遡上波,砕波とそれに伴う沿岸流や構造物周りの離岸流である.なお本解析モデルは平面2次元解析であり,構造物を断面平均することでモデル化し,周辺波浪場を再現する.そのため透過式離岸堤の3次元構造は直接計算されず,離岸堤内部および直下における3次元的な流動とそれに伴う土砂移動は単純化される.透過式離岸堤背後から沖へ向かう流れは見かけ上解析されるが,離岸堤内部および極近傍における局所洗掘の解析精度向上はここでは議論しない.本研究はそれ以外の周辺領域を対象とし,透過式離岸堤周辺の広領域における波浪場,海浜流場,土砂移動の解析精度の向上を主眼として議論する. 離岸堤のモデル化に際しては,断面水槽実験の再現解析を通して抵抗係数を決定し,実験波形,実験消波性能(反射率・透過率)から解析モデルの妥当性を確認する.透過式離岸堤部は各部材による空隙率の違いが現れるように格子配置を行い,断面平均空隙率を設定する.抵抗係数についてはパラメータスタディを実施し,実験結果の再現性と比較して採用構造物に最も適合する係数を決定する.なお,本研究で用いた透過式離岸堤モデル以外の離岸堤も一般に消波性能確認実験を実施しており,これら一連の検討手法を他の透過式離岸堤へ適用することは容易である.本研究では断面水槽実験から透過式離岸堤を数値モデル化した上で,平面波浪場解析に対しても透過式離岸堤モデルを適用する.検証のため平面水槽に断面水槽実験に使用したものと同形状の離岸堤模型を3基,開口部を設けて設置した固定床実験を実施し,透過式離岸堤周辺の波浪,平均水位,海浜流を計測した.数値解析では,平面波浪場および平面波浪場の変動に伴って形成される海浜流場の再現解析を行う.透過式離岸堤およびその背後海域における砕波モデルについては消波層型と拡散型の2通りを検討したところ,異方拡散型と呼ばれる砕波モデルが波浪場,海浜流場共に再現性に優れることがわかった.また不透過潜堤を対象に潜堤長さや開口部幅を複数通り変えて実施された室内実験に対しても本解析モデルを適用し,解析精度を検証している.基礎方程式が前提とする計算精度の範囲内において,波浪場・海浜流場とも解析は実験と一致した.よって離岸堤配置に係わらず本解析モデルの適用性が高いことがわかった. 一方,透過式離岸堤周辺における土砂移動に関しては,浮遊砂フラックスモデルを導入する.浮遊砂フラックスモデルは,波浪や海浜流といった外力が作用する条件下で,底面付近を移動する掃流砂フラックスとは別に,巻き上げられた浮遊砂濃度の移流・拡散を解析するため,実現象に忠実な解析モデルといえる.掃流砂層と浮遊砂層間は,実験式に基づく巻上げ量と沈降量を設定し,底質の連続から水深変化が計算される.また一般によく用いられる土砂移動モデルである局所漂砂量モデルでも再現解析を実施し,浮遊砂フラックスモデルと併せて評価した.検証のため固定床実験と同様の波浪条件,離岸堤配置で平面水槽による移動床実験を実施している.浮遊砂フラックスモデルによる土砂移動解析では波浪場,海浜流場解析と土砂移動解析を同時に行い,局所漂砂量モデルは土砂移動解析を別途行い,それぞれ実験結果と比較した.実験からは常時波浪を模擬した条件では離岸堤背後から汀線にかけて堆積傾向,高波浪条件で侵食傾向となったが,これらの侵食堆積傾向・分布は土砂移動モデルによらず再現された.一方,離岸堤前面において重複波浪場形成に伴う侵食堆積や開口部離岸流および沿岸流による浮遊砂の移流が生じたが,浮遊砂フラックスモデルは局所漂砂量モデルと比較してこれらの現象の解析精度が高かった.また,特に高波浪条件において巻波型の砕波が顕著に発生したが,砕波帯内では砕波による乱れの増大に伴い,底質の巻き上げと浮遊状態で移動する土砂の増加が見られた.こうした現象に伴う土砂移動も,浮遊砂フラックスモデルでは波浪場解析時に計算される砕波による乱れエネルギー量に基づいて評価することで精度よく再現できることがわかった.これらは波浪,海浜流,土砂移動を一体的に解析することによって実現されたものであり,浮遊砂フラックスモデルの優位な点である. 本研究を通して透過式離岸堤周辺における波浪場,海浜流場と土砂移動を一体的に解析する手法が構築され,その妥当性が示された.本モデルは,本研究で対象とした構造形式の構造物だけでなく,広くさまざまな形式の透過式離岸堤に適用可能である.また平面2次元解析であるため実務的な応用も容易であり,汎用性の高いモデルといえる. | |
審査要旨 | 近年,沿岸域の多様な利用と環境保全の観点から,新型の透過式離岸堤構造物の建設需要が増えている.これらの離岸堤は,沿岸域の静穏度確保や漂砂制御を目的として建設されているが,消波性能に関しては,反射率・透過率を指標とした性能が規定されている.また構造的には,景観への配慮から低天端構造が採用されるため,離岸堤上では越波や砕波が起こりやすい.そのため透過式離岸堤周辺においては,透過波,反射波,回折波,砕波などが組合わさった波浪場が形成される.さらに一般的な離岸堤構造物が捨て石や消波ブロックといった単一材料を一様に配置するのに対して,透過式離岸堤構造物はコンクリートスリット壁やプレキャストブロックを組み合わせたものが多く,空隙率が部材毎に異なるといったことが特徴として挙げられる.こうした複雑な波浪場と構造形式を特徴とする透過式離岸堤に対しては,これまで実験や現地観測による研究は見られるものの,数値解析によってその波浪制御機能や漂砂制御機能を評価することは難しく,汎用的な解析モデルがないのが現状である. 以上の背景を受けて,本論文は,透過式離岸堤周辺の波浪場,海浜流場,土砂移動を解析する数値モデルの構築を目的としたものである.透過式離岸堤周辺の波浪場および海浜流場解析に対しては,空隙を有する構造物に対して波浪場が計算できる非線形分散波方程式を基礎方程式として採用している.透過式離岸堤構造は,空隙率を断面平均した形で局所的に配置し,併せて乱流抵抗を与えることでモデル化した.離岸堤のモデル化に際して,断面水槽実験を通して抵抗パラメータを決定し,実験波形,実験消波性能から解析モデルの妥当性を確認した.その上で,平面波浪場解析にも透過式離岸堤モデルを適用した.検証のため平面水槽による実験を実施し,平面波浪場および平面波浪場に伴って形成される海浜流場の再現解析を行った.透過式離岸堤およびその背後海域における砕波モデルについて検討したところ,異方拡散型の砕波モデルが波浪場,海浜流場共に再現性に優れることが確認されている.一方,透過式離岸堤周辺における土砂移動に関しては,波浪や海浜流によって巻き上がった砂の移流・拡散が解析できる浮遊砂フラックスモデルを導入し,波浪場,海浜流場解析と浮遊砂フラックスモデルによる土砂移動解析を同時に行った.一般的な土砂移動モデルと比較して,浮遊砂フラックスモデルは離岸堤周辺における重複波浪場や開口部離岸流,巻き波砕波に伴う底質の巻き上げ率増大といった現象に伴う土砂移動を精度よく再現することが確認された. 以上のように、本研究により,非一様な空隙を有する構造物である透過式離岸堤周辺における波浪場,海浜流場と土砂移動を高波浪時に卓越する浮遊砂の移流を含めて一体的に解析する手法が構築され,大型平面水槽における詳細な実験によりその妥当性が示された.本モデルは,対象とした構造形式の構造物だけでなく,広くさまざまな形式の透過式離岸堤に適用可能であり,汎用性の高いモデルである. 以上,要するに,本研究により,従来,経験的なパラメータを数多く含み、適用範囲に限界のあった透過性構造物周辺の浅海波浪の変形・流れの発達・土砂移動と地形変形モデルに対して、高精度でかつ一般性の高い新しいモデルが開発され,室内実験との比較によりその妥当性が証明された.これにより,従来モデルでは扱いが困難であった透過性構造物を含む周辺浅海域における波・流れ場と海浜地形変化の予測精度が格段に向上することが期待でき,発展性・実用性が高い. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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