学位論文要旨



No 126783
著者(漢字) 奥野,亜佐子
著者(英字)
著者(カナ) オクノ,アサコ
標題(和) 再生製品の価値を考慮した家庭系廃プラスチックリサイクルの評価方法の構築と適用
標題(洋)
報告番号 126783
報告番号 甲26783
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7424号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 小澤,一雅
 東京大学 准教授 福士,謙介
 東京大学 准教授 中島,典之
 国立環境研究所 センター長 森口,祐一
内容要旨 要旨を表示する

第1章 序論

『その他のプラスチック製容器包装(以下、容リプラと略す)』は,2000年の容器包装リサイクル法の完全施行によって対象品目に加えられて以来,回収量を伸ばしてきたが,多様な材質かつ多様な用途の樹脂の混合物である上,食品残渣などの異物が混入しやすいことなどリサイクルを阻害する要因が多く,依然として解決するべき問題が多く残されている.また,容リプラのリサイクルシステムには様々な主体が関与していることも,問題解決をより困難なものにしている.この複雑な問題を解決するためには,問題点を整理した上で問題の全体像を把握し,そこから根本的要因を特定することで解決策を決定し,またそれらを評価すべき項目を設定して評価・検討することが望ましいといえる.

そこで,本研究の目的は,容リプラのリサイクルの問題を整理して全体像を把握した上で,変更すべき要因を特定し,そこから複数の改善案を設定し,それらを比較評価することで家庭系廃プラスチックのより望ましいリサイクルシステムを提案することである.評価は,社会全体に与える影響と各主体に与える影響に分け,社会全体に与える影響については,リサイクルを「廃棄物の処理」と捉えた視点から環境負荷削減効果と社会コストを,「製品の製造」と捉えた視点から製品の価値という観点を含む拡張環境効率を評価した.なお,拡張環境効率は,ライフサイクルアセスメント(LCA)のシステム拡張の方法を用いたリサイクルの環境負荷削減効果の評価において考慮が困難である,製品の価値という視点を導入した評価方法であり,また,従来の環境効率はライフサイクル全体で一つの製品を対象としてきたため価値をもつ製品は一つであるが,拡張環境効率では繰り返しリサイクルをも対象にし,価値をもつ製品が複数含まれることになり,その点が従来の環境効率と異なる

第2章 既存の知見

国内の容リプラのリサイクルを評価した事例は存在し(Y. Sekine et al., 2009)(プラ処理協, 2008)(容リ協, 2007)(中谷ら, 2007)(稲葉ら, 2005),海外における家庭系プラスチック容器廃棄物の事例(Floriana P. et al., 2005)(Umberto A. et al., 2003)も存在する.これらの研究は,LCAを用いた各再商品化手法の環境負荷の比較に留まっている.

LCAは,リサイクルによる環境負荷の削減効果を評価する手法として用いられる.LCAでは,「製品」以外に廃棄物処理を含む「サービス」も対象になる.なお,リサイクルのLCAを行う場合は,「リサイクルに係る環境負荷」を「再生製品により代替された新規製品の製造に係る環境負荷」および「リサイクルされずに廃棄物処理された場合の環境負荷」と比較し,処理される廃棄物の量と製造される製品の機能を揃えるようにシナリオを組む「システム拡張」の方法が一般的である(藤井ら, 2008 2007).ただし,再生製品と新規製品の品質や価値の差を考慮して機能を設定することは容易ではなく,再生製品は等量の新規製品を代替すると仮定されることが多い.再生製品と新規製品の代替率を設定することで機能を揃える方法(プラ処理協, 2006 2005)もあるが,合理的な代替率の設定は困難である.そのため,リサイクルを評価するためには,LCAによる環境負荷削減効果以外の評価項目も必要であると考える.

また,既存の評価では各再商品化手法の比較のみが行われてきた.しかし,現状の問題はどの再商品化手法を選択するかに留まっているわけではなく,収集対象物や収集方法など,考慮すべき事項は多岐に渡る.さらに,問題が非常に複雑であるため,一つの変更が様々な主体に及ぼす影響を整理し,問題の全体像を把握した上で改善案を設定し,評価することが望ましいといえる.

第3章 現状分析とシナリオの設定

様々な立場の主体へのヒアリング資料を基に容リプラのリサイクルの現状分析を行い,問題の全体像を把握し,根本的要因を,リサイクルに適さないが収集対象のプラスチックが存在すること・リサイクルに適するが収集対象でないプラスチックが存在すること・消費者にとって対象かどうかの判断が困難のプラスチックがあること,と特定した.

特定した根本的要因から,材料リサイクル残渣の利用・収集対象物の変更・収集方法の変更という改善案を考え,それらの組合せにより評価シナリオを設定した.具体的には,収集対象物については「容リプラ」「全収集」「汚れ以外」「PVC以外」「可燃収集」「POのみ」「単一のみ」「PET・PVC以外」の8種類,リサイクル手法については「材料リサイクル(タイプIII)」「材料リサイクル(タイプI)」「コークス炉化学原料化」「高炉還元」「ガス化」「油化」「固形燃料化」「セメント原燃料化」「焼却発電」の9種類,そして店頭回収については「導入なし」「発泡トレーのみ回収」「発泡トレーと透明容器を回収」の3種類を設定し,これらの組合せにより全126シナリオを評価した.

整理した問題の全体像において,自治体や複数の再商品化事業者からつながる要素として,社会コスト・リサイクルに伴う化石資源消費量・リサイクルに伴うCO2排出量・新規製品の製造回避により低減する化石資源消費量・新規製品の製造回避により低減するCO2排出量・製品の価値があり,それらの組合せにより評価項目として環境負荷削減効果(化石資源消費量・CO2排出量)・社会コスト・拡張環境効率(価値/化石資源消費量・価値/CO2排出量)を設定した.

第4章 環境負荷削減効果の評価

収集対象物となっているプラスチック量が多いほどリサイクルされる量が多く,環境負荷削減効果は大きくなるが,高炉還元・固形燃料化・セメント原燃料化では全収集より対象プラスチック量の少ないPVC以外が削減効果は大きかった.

ケミカルリサイクルやサーマルリサイクルを比較すると,化石資源の削減効果はガス化,続いてコークス炉化学原料化・高炉還元・固形燃料化・セメント原燃料化が大きいが,CO2の削減効果はコークス炉化学原料化・高炉還元・固形燃料化・セメント原燃料化が大きかった.

収集したプラスチックを全てケミカルリサイクルやサーマルリサイクルする場合とまず材料リサイクルに回して残渣をケミカルリサイクルやサーマルリサイクルに回す場合を比較すると,コークス炉化学原料化・高炉還元・固形燃料化・セメント原燃料化では材料リサイクルと組合せないシナリオの削減効果が大きく,油化では材料リサイクル(タイプI)と組合せたシナリオの削減効果大きく,ガス化では化石資源は材料リサイクルと組合せないシナリオが,CO2は材料リサイクル(タイプI)と組合せたシナリオが大きかった.

店頭回収を導入した場合,導入しない場合に比べてわずかに削減効果は大きくなった.

第5章 社会コストの評価

収集対象物の違いを比較すると全収集の際に社会コストは最も大きく,店頭回収の導入有無を比較すると店頭回収を行った方が社会コストは小さく,自治体収集の対象プラスチック量が多いほど社会コストは大きくなった.

手法ごとに比較すると,材料リサイクルが最も社会コストが大きく,次に油化,その他のケミカルリサイクル,サーマルリサイクル,焼却発電と続いた.

第6章 拡張環境効率の評価

ガス化は他の手法に比べて化石資源消費量や製品の販売価格が大きかった.

手法ごとに比較すると,化石資源消費量を用いた効率はコークス炉化学原料化が最も大きく,CO2排出量を用いた効率はガス化が最も大きかった.

コークス炉化学原料化は材料リサイクルと組合せないシナリオの効率が大きいが,高炉還元・油化・固形燃料化・セメント原燃料化は材料リサイクル(タイプI)と組合せたシナリオの効率が大きく,ガス化では化石資源消費量を用いた効率は材料リサイクル(タイプI)と組合せたシナリオが,CO2排出量を用いた効率は材料リサイクルと組合せないシナリオが大きかった.

店頭回収を行わないシナリオに比較して,店頭回収を行うシナリオは効率が大きかった.

第7章 各シナリオの影響のまとめと望ましいシステムの提案

第4~6章の評価結果や各主体への影響をまとめた上で,次のシステムを提案した.

店頭回収により収集したプラスチックの材料リサイクルは,環境負荷削減効果・拡張環境効率が大きく,社会コストも小さいため,促進するべきだと考えた.そのためには,消費者・スーパー等の小売店・包装問屋の協力が不可欠となる.

他のプラスチックについては,汚れていないプラスチックを自治体が分別収集し,コークス炉化学原料化・高炉還元・ガス化・固形燃料化・セメント原燃料化によりリサイクルすることが望ましいと考えた.汚れていないプラスチックのみを対象とすることで,消費者・自治体・リサイクル業者の保存環境や作業環境の悪化を防げる.混合プラスチックの材料リサイクルでは高い価値をもつ再生製品の製造が困難であり,材料リサイクルは店頭回収品に絞って実施することが有効だと考えられる.油化については,他のケミカルリサイクルやサーマルリサイクルに比べて適したプラスチックが限定され,環境負荷削減効果・社会コストの面で劣っており,種々雑多なプラスチックを含む家庭系廃プラスチックを対象とするのではなく,樹脂の種類が限定される産廃プラスチックを対象として実施していくことが望ましいと考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「再生製品の価値を考慮した家庭系廃プラスチックのリサイクルの評価方法の構築と適用」と題し、家庭系廃プラスチックのリサイクルの改善策を導出するための評価方法を構築することを目的として、具体的には、家庭系廃プラスチックの大部分を占めるプラスチック製容器包装のリサイクルの問題を整理して全体像を把握した上で,変更すべき要因を抽出し,そこから複数のシナリオを設定し,さらに再生製品の価値を考慮した評価項目を加えた評価方法を構築し,設定したシナリオを実際に評価したものである。

第1章は「序論」である。研究の背景と研究目的、及び論文構成を述べている。

第2章は「既存の知見」である。家庭から排出されるプラスチック製容器包装廃棄物に関する法制度整備の社会的背景、法制度の現状と問題、既存の評価手法に関する知見、評価事例等についてまとめている。

第3章は「現状分析と評価項目・シナリオの設定」である。プラスチック製容器包装のリサイクルには、消費者や自治体、特定事業者、再商品化事業者、再商品化製品利用事業者といった様々な立場の主体が関係しているが、これらの主体のヒアリング資料を基にリサイクルについての問題の要素の因果関係を整理し、プラスチック製容器包装のリサイクルの問題の全体像を把握した後、それらの問題群の改善策として,収集対象物の変更,材料リサイクルの残渣の利用,店頭回収の導入の3点に絞り込み、分別対象物や収集方法、リサイクル方法についての種々の組み合わせを勘案して、計253の評価シナリオを設定している。またそれらのシナリオの評価項目として、環境負荷削減効果(化石資源消費量・CO2排出量)、社会コスト(制度的枠組みの問題に起因したコスト)、拡張環境効率(再生製品の価値/化石資源消費量・再生製品の価値/CO2排出量)を、独立した評価項目として選定している。

第4章は「環境負荷削減効果の評価」である。LCA(Life Cycle Assessment)におけるシステム拡張の中のクレジット法を用いて、「リサイクルする際の環境負荷」から「再生製品により代替された新規製品を製造する際の環境負荷」を控除することで、各シナリオの環境負荷削減効果(化石資源消費量・CO2排出量)を定量的に評価している。一例として、化石資源消費量はガス化を行うシナリオが小さく、CO2排出量はセメント原燃料化や固形燃料化を行うシナリオが小さいという結果を得た。また、各リサイクル手法に投入されるプラスチックの組成を考慮したモデルを利用することで、店頭回収の導入による効果の違いを定量的に示した。

第5章は「社会コストの評価」である。制度的枠組みの問題に起因したコストを社会コストという用語を用いて計上し、具体的には、自治体の分別収集や選別保管,焼却に係るコストと、再商品化事業者の落札価格(つまり、特定事業者の負担コストにあたる)について定量的に評価している。その結果の一例として、自治体がプラスチック分別収集をせず、プラスチックを可燃ごみとして収集して焼却発電を行うシナリオの社会コストが小さく、その中でも、質の高いプラスチック製容器包装の店頭回収と組合せたシナリオの社会コストがより小さくなるという結果を得た。

第6章は「拡張環境効率の評価」である。対象を製品ではなく製品素材として製品素材のライフサイクルを追うことで、環境効率の概念をリサイクルによって製造される再生製品まで拡張させることを可能にしている新たな概念の提案である。具体的には、拡張環境効率として、家庭系廃プラスチックが廃棄されてからリサイクルを経て製品素材が最終的にCO2になるまでを評価範囲として,再生製品の販売価格をリサイクルに伴う化石資源消費量やCO2排出量で除することで算出している。この拡張環境効率は、LCAのシステム拡張の方法を用いたリサイクルの環境負荷削減効果の評価において考慮が困難な製品価値という視点を導入した評価方法であり、『リサイクルが製品製造としてどれだけの環境負荷をかけてどれだけの価値を生み出すか』という観点の評価を与える独創性の高いものである。

第7章は「総合評価の方法の提示と導き出されたシステム」である。社会全体への影響として評価した社会コスト、環境負荷削減効果、拡張環境効率の結果について、項目ごとに最もよいシナリオを1、最も悪いシナリオを0として相対比をとり、それぞれの項目に重み付けが与えられている場合で、シナリオごとに重み付け後の社会コスト、化石資源消費或いは二酸化炭素排出量をベースにした環境負荷削減効果及び拡張環境効率による3軸レーダー図を、化石資源消費ベースと二酸化炭素排出量ベースで2葉作成し、それぞれの面積を算出してシナリオ間に順位をつけ,両方で上位に含まれるシナリオを抽出している。さらに抽出されたシナリオから、分別対象物は全国で統一することと各主体への影響を考慮することで、重み付けの異なる場合を想定した具体例としてのいくつかのリサイクルシステムを提示することに成功している。一例として、全ての評価項目が等しい重みであるとした場合では、全ての家庭系廃プラスチックを分別対象とし、分別収集されたプラスチックをコークス炉化学原料化・ガス化・セメント原燃料化によりリサイクルし、さらに発泡トレーや透明容器を店頭回収により材料リサイクルするリサイクルシステムを提示している.

第8章は、「結論」である。

以上要するに、本論文は、製品のライフサイクルをリサイクル過程にまで拡張してその価値を考慮した「拡張環境効率」という新概念を提示し、また独立した評価軸を3軸に絞り込むことにより、二次元図形として一般市民にも直感的に把握しやすくかつ普遍性が高い総合的評価方法を構築したもので、独創性の高い研究であると評価できる。また、本研究で得られた知見は、都市環境工学の学術の発展に大きく貢献するものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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