学位論文要旨



No 126793
著者(漢字) 近藤,龍一
著者(英字)
著者(カナ) コンドウ,リュウイチ
標題(和) Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合
標題(洋)
報告番号 126793
報告番号 甲26793
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7434号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 教授 国枝,正典
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 准教授 一木,正聡
 東京大学 准教授 島津,武仁
内容要旨 要旨を表示する

[背景および目的]

金属、半導体ウエハなどを常温で接合する技術としてイオン衝撃による表面活性化接合が知られているが、イオン結合性の材料のウエハ接合に対しては、適用が困難とされてきた。一方、イオン衝撃の際に数nm厚さのFeを付加させることにより、一部のイオン結合性材料について、表面活性化接合が可能であることが近年報告されている(Feナノ密着層による表面活性化接合)が、接合への役割が明らかにされていない。本研究では、この手法をSi-Siウエハ接合に適用する過程を詳細に検討することより、Feナノ密着層による表面活性化接合の詳細を検討し、Feナノ密着層の役割と本接合手法の適用範囲を明らかにする。さらにFeナノ密着層の詳細な検討より、高強度の接合に役割を果たしていたFeSi層の形成手法として、Si薄膜を中間層とし、これをFeナノ密着層と組み合わせることで、より適用範囲の広い常温接合が可能であることを見いだした。この手法を「Si薄膜を中間層とし、Feナノ密着層による表面活性化接合」と称し、そのプロセスの詳細を検証するとともに、従来困難とされてきたイオン結合性材料の同種・異種ウエハの常温接合を実現することを目的とする。

[Si-Siウエハ接合におけるFeナノ密着層の役割の検討]

Feナノ密着層の形成過程をイオンビーム照射条件と接合強度の関係から検討し、界面微細構造と結合状態の評価を通じて、Feナノ密着層の役割を明らかにすることを目的に以下の結果を得た。イオンビームの強度、照射距離により接合強度は異なり、接合破断面のXPS測定から、接合強度の強いサンプルではFe, 接合強度の弱いサンプルではFe酸化物の形成が示唆された。また、従来のFeナノ密着層によるとされてきた高強度の接合は、2nm程度の厚さのFeSi層を介した接合であることを見いだした。

[Si-SiN膜接合、Si-Si熱酸化膜接合におけるFeナノ密着層の役割の検討]

Si-SiN膜、Si熱酸化膜、硼珪酸ガラスウエハにおけるイオンビーム照射条件と接合強度の関係を検討し、界面微細構造と結合状態の評価より、Si-SiN膜およびSi酸化膜接合におけるFeナノ密着層の役割を明らかにした。Si-SiN膜接合では接合界面にFeSiN層からなるFeナノ密着層が形成されることで強固な接合が得られ、一方、酸化物側接合界面にはFe酸化物が介在することで接合強度が弱いことを明らかにした。これより、酸化物材料表面にFeSiの密着層が形成できれば、イオン結合性材料の常温接合が可能と考えられ、酸化物材料表面へFeSi接合界面を形成する手法として、Si薄膜を中間層とし、Feナノ密着層と組み合わせるプロセスを提案した。また、従来の表面活性化接合では、超高真空中の残留気体の主成分である水への暴露量が10-5Pa・s以上で、酸化による接合強度の低下が確認されているのに対して、本実験では、水への暴露量が9x10-3Pa・sにも関わらず、接合界面のEELS観察より酸素は検出されなかったことより、FeSi層により水が解離吸着されにくく、活性な表面であると考えられる。

[Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合の有効性の検証]

Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層の形成プロセスおよびSi熱酸化膜、SiN膜の接合の検討より提案手法の有効性の検証を行うとともに、界面構造および接合破断表面の結合状態の評価より接合界面の構成と接合強度の関係を明らかにした。従来困難とされてきたSiO2-SiO2接合を実現し、また、SiO2-SiO2接合界面のTEM/EELS観察より接合界面およびSi中間層との界面にはFeSiが存在し、接合強度を向上させていることを確認した。SiNウエハ接合にもSi中間層とFeナノ密着層を組み合わせた表面活性化接合は適用可能であることが確認され、イオンビームエッチングによってSiN表面にSi層が形成されることによって、非常に強固な接合が達成されることを見いだした。さらに、Si中間層とFeナノ密着層を形成後に大気雰囲気に曝しても接合が実現することが明らかになった。デバイスによってはSi中間層を形成できない場合においても、被接合ウエハの片側のみにSi中間層を形成することで接合が実現することを明らかにし、提案した手法の有効性を示した。

[Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合の適用可能性]

酸化物ウエハへの適用可能性を検証するためにサファイアおよびガラス材料について、Siを中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合のプロセスにおいてチャージアップの影響を検討し、酸化物ウエハの同種・異種ウエハ接合を検討した。絶縁体である酸化物ウエハの接合においては、Si中間層形成およびFeナノ密着層の形成において、イオンビーム照射工程での中和処理の効果を明らかにした。また、表面のチャージアップを制御することで、Si中間層を介しFeナノ密着層による表面活性化接合を用いて、従来困難とされてきたサファイアウエハ同士の接合およびサファイア-SiO2, SiNとの異種接合を実現した。また、硼珪酸ガラスとSiウエハについても強固な接合を得られ、接合強度がSiのバルク破断強度に匹敵する結果が得られた。

以上のように、Si薄膜を中間層としFeナノ密着層による表面活性化接合によるイオン結合性の常温ウエハ接合が可能であることが、本研究より示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、半導体やガラス等の無機材料を対象とした接合技術ならびに精密界面加工に関わる研究であり、Si薄膜とFeナノ密着層と組み合わせる新しい手法を提案するとともに、そのプロセスの詳細検証を通じて、従来困難とされてきたイオン結合性材料の同種・異種ウエハの常温接合を実現することを目的としたものである。

従来、金属、半導体ウエハなどを常温で接合する技術としてイオン衝撃による表面活性化接合が知られているが、イオン結合性の材料のウエハ接合に対しては、適用が困難とされてきた。一方、一部のイオン結合性材料については、イオン衝撃の際に数nm厚さのFeナノ密着層を付加させることにより接合が可能であることが近年報告されているが、適用範囲は限定的で常温での接合は難しかった。本研究では、Feナノ密着層による表面活性化接合の詳細を検討し、Siの高強度の接合において、FeSi層の形成が大きな役割を果たしていることを見いだした。その結果に基づき、Si薄膜を中間層とし、これをFeナノ密着層と組み合わせる手法を提案し、これによって、より適用範囲の広い常温接合が可能であることを見いだした。本研究では、この手法を「Si薄膜を中間層とし、Feナノ密着層による表面活性化接合」と称し、そのプロセスの詳細を検証するとともに、従来困難とされてきたイオン結合性材料の同種・異種ウエハの常温接合を実現した。

[Si-Siウエハ接合におけるFeナノ密着層の役割の検討]

Feナノ密着層の形成過程をイオンビーム照射条件と接合強度の関係から検討し、界面微細構造と結合状態の評価を通じて、Feナノ密着層の役割を明らかにすることを目的に以下の結果を得た。イオンビームの強度、照射距離により接合強度は異なり、接合破断面のXPS測定から、接合強度の強いサンプルではFe-Si, 接合強度の弱いサンプルではFe酸化物の形成が示唆された。また、従来のFeナノ密着層によるとされてきた高強度の接合は、2nm程度の厚さのFeSi層を介した接合であることを新たに見いだした。

[Si-SiN膜接合、Si-Si熱酸化膜接合におけるFeナノ密着層の役割の検討]

Si-SiN膜、Si熱酸化膜、硼珪酸ガラスウエハにおけるイオンビーム照射条件と接合強度の関係を検討し、界面微細構造と結合状態の評価より、Si-SiN膜およびSi酸化膜接合におけるFeナノ密着層の役割を明らかにした。Si-SiN膜接合では接合界面にFe-Si-NからなるFeナノ密着層が形成されることで強固な接合が得られ、一方、酸化物側接合界面にはFe酸化物が介在することで接合強度が弱いことを明らかにした。これに基づき、酸化物材料表面にFe-Siの密着層が形成することにより、イオン結合性材料の常温接合が可能と考え、酸化物材料表面へFeSi接合界面を形成する手法として、Si薄膜を中間層とし、Feナノ密着層と組み合わせるプロセスを提案した点は高く評価できる。

[Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合の有効性の検証]

Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層の形成プロセスおよびSi熱酸化膜、SiN膜の接合の検討より提案手法の有効性の検証を行うとともに、界面構造および接合破断表面の結合状態の評価より接合界面の構成と接合強度の関係を明らかにしている。これにより、従来困難とされてきたSiO2-SiO2接合を実現し、また、SiO2-SiO2接合界面のTEM/EELS観察より接合界面およびSi中間層との界面にはFeSiが存在し、接合強度を向上させていることを見出した。SiNウエハ接合にもSi中間層とFeナノ密着層を組み合わせた表面活性化接合は適用可能であることが確認され、イオンビームエッチングによってSiN表面にSi層が形成されることによって、非常に強固な接合が達成されることを見いだした。さらに、Si中間層とFeナノ密着層を形成後に大気雰囲気に曝しても接合が実現することに成功した。また、デバイスによってはSi中間層を形成できない場合においても、被接合ウエハの片側のみにSi中間層を形成することで接合が実現することを明らかにし、提案した手法が非常に有効であることを示している。

[Si薄膜を中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合の適用可能性]

酸化物ウエハへの適用可能性を検証するためにサファイアおよびガラス材料について、Siを中間層としたFeナノ密着層による表面活性化接合のプロセスにおいてチャージアップの影響を検討することにより、酸化物ウエハの同種・異種ウエハ接合に成功している。イオンビーム照射工程での中和処理の効果を明らかにし、表面のチャージアップを抑制することで、Si中間層を介しFeナノ密着層による表面活性化接合を用いて、従来困難とされてきたサファイアウエハ同士の接合およびサファイア-SiO2, SiNとの異種接合に成功している。また、硼珪酸ガラスとSiウエハについても強固な接合を得られ、接合強度がSiのバルク破断強度に匹敵する結果が得られた点は新規性が高い。

本研究では、Si薄膜を中間層としFeナノ密着層による表面活性化接合によるイオン結合性の常温ウエハ接合が可能であることが、本研究より示された。

以上の結果から、本研究では、従来の手法では困難であったイオン結合性材料の常温接合手法の提案と、常温接合の新しいプロセスの提案、さらにガラスなどの材料にも適用可能であることを明確に示したものであり、その独創性が高く評価された。

以上の点から、本研究で得られた工学的知見は極めて大きく、また、工学の発展に寄与するところは多大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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