学位論文要旨



No 126795
著者(漢字) 韋,冬
著者(英字)
著者(カナ) イ,ドウン
標題(和) フェムト秒光周波数コムの時間コヒーレンス関数及びその特性を用いた長さ計測技術に関する研究
標題(洋)
報告番号 126795
報告番号 甲26795
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7436号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 特任教授 松本,弘一
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 國枝,正典
 東京大学 准教授 日暮,栄治
内容要旨 要旨を表示する

2000年の初期から以来,フェムト秒光周波数コム技術は発展し,科学と工学の分野をカバーする多くの応用技術を提供して来た.2009年に日本における長さの特定標準はヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザから光周波数コムレーザへと代わった.また,宇宙空間および空気中で,使用できる高精度かつ絶対的な長さ測定技術が広く要求されている.本研究では,これらの背景を踏まえて,長さ標準である光周波数コムによるフェムト秒周波数コムの時間コヒーレンス関数を研究し,その特性を用いた長さ計測法のモデルを構築し,光周波数コムを使用した高精度かつ絶対測長法の提案及びその方法を検証することを目的としている.

この目的を達成するために,パルスレーザを使用した測長法において,任意の絶対長さを計測できるTOF法(Time of Flight)と高精度の測定が可能な干渉法を融合することを検討し,以下の項目について理論的検討及び実験による検証を行った.

1.光周波数コムの時間コヒーレンス関数

2.異なったパルス列間の干渉縞の形成

3.パルス列間の間隔による任意長さの表現

4.アンバランス干渉計を用いた多パルス列間干渉による長さ計測

5.タンデム干渉計におけるパルス列間干渉による変位計測

各章の具体的な内容を以下にまとめる.

第2章では,光周波数コムの時間コヒーレンス関数を理論的に解析した.結果としては,高い時間コヒーレンスピークが,使用した光周波数コムに関する進行方向において,反復間隔と等しい期間で存在するのを示した.予想された時間コヒーレンス関数と干渉縞の理論的導出は,光学距離の差が最大6 mであるアンバランスマイケルソン干渉計を使用した実験結果と一致した.

第3章では,多パルス列干渉を考えることによって,より一般的な場合における,干渉縞の構成を分析して,多パルス列干渉の潜在的な応用可能性を広げた.基本概念は,光の波長の代わりに光周波数コムを利用する場合は,長さの尺度として隣接しているパルスの反復間隔用いることとなる.多パルス列干渉によって形成された多干渉縞を観測することによって絶対距離を測定する可能性を示した.分離した多パルス列干渉の分析では,干渉縞から切り離された干渉縞のピークと,絶対長さの測定にリンクされる干渉縞のキャリヤ位相ずれを計測することで距離を推定できることを示した.重ね合わせられた多パルス列干渉縞の分析で,パルス列の2組の間の完全なる弱め合いあるいは強め合い干渉を用いて長さ測定に応用できることを示した.この結果により,長さの計測ツールとして,多パルス列干渉を使用できることを示している.

第4章では,第3章で提案した方式に基づく光学的実験を実行した.まず,実験可能な光学システムを提案した.提案したシステムの予想される計測精度を比較した.次に,実験に係る測定装置や光学システム素子などを説明した.提案手法の実現性を確認するために,呼び寸法500mmのブロックゲージ3本を繋げた1,500mmのブロックゲージを用いて,その長さを光学実験により測定をした.実験結果からメートルオーダーの長さに対して,マイクロオーダーでの計測精度の検証ができ,提案法の有効性を確認できた.最後に実験の測定結果における不確かさを見積もり,実験精度の改良法とその精度などを議論した.

本研究では,長さ標準である光周波数コムによるフェムト秒周波数コムの時間コヒーレンス関数を研究し,その特性を用いた長さ計測法のモデルを構築した.さらに,光周波数コムを使用した多パルス列間干渉法を提案し,光学実験を行い,長さ計測を実行し,提案方法の可能性を確かめた.その結果,提案法は,任意の長さに対して,絶対かつ精密な計測技術への応用が可能なことを示した.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,フェムト秒光周波数コムの時間コヒーレンス関数の特性を,理論的および実験的に解析し,フェムト秒光周波数コムを長さ計測技術に応用するための提案を行ったものである.長さ計測技術に関して,基礎的な検討を理論的および実験的に行い,提案方法が任意の長さに対して,絶対かつ精密な計測技術への応用に可能であることを示している.

2000年の初期から以来,フェムト秒光周波数コム技術は発展し,科学と工学の分野をカバーする多くの応用技術を提供して来た.2009年に日本における長さの特定標準はヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザから光周波数コムレーザへと代わった.また,宇宙空間および空気中で,使用できる高精度かつ絶対的な長さ測定技術が広く要求されている.本研究では,これらの背景を踏まえて,長さ標準である光周波数コムによるフェムト秒周波数コムの時間コヒーレンス関数を研究し,その特性を用いた長さ計測法のモデルを構築し,光周波数コムを使用した高精度かつ絶対測長法の提案及び提案法の検証することを目的としている.

この目的を達成するために,パルスレーザを使用した測長法において,任意の絶対長さを計測できるTOF法(Time of Flight)と高精度の測定が可能な干渉法を融合することを検討し,以下の項目について理論的検討及び実験による検証を行った.

1.光周波数コムの時間コヒーレンス関数

2.異なったパルス列間の干渉縞の形成

3.パルス列間の間隔による任意長さの表現

4.マイケルソン干渉計における多パルス列間干渉による長さ計測

5.タンデム干渉計におけるパルス列間干渉による変位計測

各章の具体的な内容を以下にまとめる.

第2章では,光周波数コムの時間コヒーレンス関数を理論的に解析した.結果としては,高い時間コヒーレンスピークが,使用した光周波数コムに関する進行方向において,反復間隔と等しい期間で存在するのを示した.予想された時間コヒーレンス関数と干渉縞の理論的導出は,光学距離の差が最大6 mであるマイケルソン干渉計を使用した実験結果と一致した.

第3章では,多パルス列干渉を考えることによって,より一般的な場合における,干渉縞の構成を分析して,多パルス列干渉の潜在的な応用可能性を広げた.基本概念は,光の波長の代わりに光周波数コムを利用する場合は,長さの尺度として隣接しているパルスの反復間隔用いることとなる.多パルス列干渉によって形成された多干渉縞を観測することによって絶対距離を測定する可能性を示した.分離した多パルス列干渉の分析では,干渉縞から切り離された干渉縞のピークと,絶対長さの測定にリンクされる干渉縞のキャリヤ位相ずれを計測することで距離を推定できることを示した.重ね合わせられた多パルス列干渉縞の分析で,パルス列の2組の間の完全なる弱め合いあるいは強め合い干渉を用いて長さ測定に応用できることを示した.この結果により,長さの計測ツールとして,多パルス列干渉を使用できることを示している.

第4章では,第3章で提案した方式に基づく光学的実験を実行した.まず,実験可能な光学システムを提案した.提案したシステムの予想される計測精度を比較した.次に,実験に係る測定装置や光学システム素子などを説明した.提案手法の実現性を確認するために,呼び寸法500mmのブロックゲージ3本を繋げた1,500mmのブロックゲージを用いて,その長さを光学実験により測定をした.実験結果からメートルオーダーの長さに対して,マイクロオーダーでの計測精度の検証ができ,提案法の有効性を確認できた.最後に実験の測定結果における不確かさを見積もり,実験精度の改良法とその精度などを議論した.

本研究では,長さ標準である光周波数コムによるフェムト秒周波数コムの時間コヒーレンス関数を研究し,その特性を用いた長さ計測法のモデルを構築した.さらに,光周波数コムを使用した多パルス列間干渉法を提案し,光学実験を行い,長さ計測を実行し,提案方法の可能性を確かめた.その結果,提案法は,任意の長さに対して,絶対かつ精密な計測技術への応用が可能なことを示している.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク