No | 126800 | |
著者(漢字) | 佐藤,真 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | サトウ,マコト | |
標題(和) | 知識連繋のためのストーリー生成手法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126800 | |
報告番号 | 甲26800 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7441号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では知識連繋のためにシステムによるストーリー生成の支援の手法を提案する. 様々な要因が絡む大規模な問題の解決あるいは新分野の開拓には知識の連携は不可欠である.本研究では,システムに電子的に蓄えられた知識とユーザのもつ知識を連携するためにはシステムによるユーザのストーリー生成の支援が有効であると考え,ストーリー生成支援手法のひとつとしてトピックブリッジング手法を提案する.トピックブリッジングは,スタートとゴールの2つのトピックをつなぐためにはどのようなブリッジが適当であるかということを推定し,スタートからブリッジ,ゴールと連なるストーリーの骨格を生成するものである.なお,本研究ではドキュメントをストーリー,ドキュメント断片をシーンと定義し,関連するシーンの連鎖をストーリーと定義する.(2章) システムによるストーリー生成支援を実現する上で,シーンの表層的な情報のみからストーリーを機械的に特徴付ける必要がある.そこでシーンを連鎖させてストーリーを生成するとき,連結するシーンによってトピックが伝播するとするトピック伝播モデルを提案する.これは,シーンを語の依存関係を表す遷移行列によって特徴付けられ,トピックを動的な語の重要度を表す文脈依存吸引力のベクトルあるいは行列とするものして,トピックのダイナミクスをモデル化したものである.(3章) このトピック伝播モデルを用いて2通りのトピックブリッジング手法を提案する. ひとつは,トピック伝播モデルを順問題解析して文脈依存型トピック遷移パターン分析を用いたトピックブリッジング手法である.文脈依存型トピック遷移パターン分析はすでに存在するストーリーのメイントピックがどのように遷移したかというパターンを統計的に分析して,新しいストーリーの生成に利用する.文脈依存吸引力の大きい語をメイントピック語集合として扱い,それ以外の語をサブトピック語集合として扱う.たとえばあるストーリーでサブトピックがあるシーンをつなげたときサブトピックがメイントピックに遷移する確率は,あるストーリーでいきなり新しいトピックがメイントピックになる確率よりも高い,などということを利用して,ユーザがシーンの連鎖を生成するときにシステムが次につなげるブリッジ候補シーンを推薦する.本手法を実装したシステムでは,ユーザはスタートシーンとゴールシーンを設定し,システムはスタートシーンとゴールシーンからトピックを抽出した上で,トピック遷移パターンに応じて連鎖させるシーンの候補を提示する.ユーザは候補に挙がったシーンを選択し連結する,システムは連結したシーンに応じて候補を提示する,といったユーザとシステムのインタラクションを通じてシーンの連鎖としてのストーリーは生成される.文脈依存型トピック遷移パターンを用いたトピックブリッジング手法では,シーンの連鎖の履歴に基づいて次につなげるシーンの候補を推薦し連鎖を生成していくため,単純にスタートとゴールに関連する語を用いたキーワード検索では見つけることができないようなシーンをストーリーに入れることができ,また単純にシーン間の類似関係などに着目するだけでは得られないようなシーンを推薦することができる.(4章) もうひとつは,トピック伝播モデルを逆問題解析してつなげるべきシーンの特徴量を推定するトピックブリッジング手法である.トピック伝播モデルにおいてトピックは連鎖させるシーン内の語の関係によって伝播するとしたが,本手法ではあらかじめ伝播する前のトピックと伝播した後のトピックを与えたとき,どのようなシーンをつなげたかということを推定する.実際に計算されるのはブリッジシーンの特徴量を表す共起依存度行列である.トピック伝播モデルにおいて推定されたブリッジシーンの共起依存度行列はスタートのトピックからゴールのトピックへ変化するための推移行列と見なされる.実装したシステムでは推定されたブリッジシーンと類似した特徴量をもつシーンを,ブリッジ候補シーンデータベースから探索し,スタートからブリッジ候補シーン,トピックと連なるストーリーの骨格をユーザに提示する.実験では「航空宇宙工学」というトピックをスタート,「地球温暖化」というトピックをゴールとしたとき,たとえば「ターミナルの航空機のスケジューリングによる地上での燃料節約」や「交通情報システムの改善によるコスト削減」といった結果を得ることができた.実験を通して本手法がストーリーのつくりやすさという点において有効であることを確認できた.(5章) | |
審査要旨 | 修士(工学)佐藤真提出の論文は、「知識連繋のためのストーリー生成手法」と題し、6章からなる。 近年、様々な分野において、知識連繋の重要性・必要性が認識されている。特に、様々な要因が複雑に絡む大規模な問題解決、多様な分野の連携による新技術開発、あるいは多分野にまたがる問題自体の発見や精緻化などの場面において、知識連繋のための具体的方法が求められている。 本研究は、知識連繋を行う手法としてストーリーの重要性に着目し、ストーリー生成支援のための方法として、トピックブリッジングと名付けたストーリー生成のフレームワークとそれに基づく2つの手法を提案している。従来のストーリーに関する研究は、ストーリーの解析に関するものが多く、ストーリー生成に関する手法としては、ストーリーの構成要素となる情報をユーザ自身が整備し蓄積しておくことが前提とされて多大な労力とコストが必要とされていた。これに対して、本論文は、ストーリーの数学的なモデルを与えることにより、大量に蓄積されている文書情報を利用して、ユーザが様々な知識を連繋させるために文脈依存性を考慮したストーリー生成を支援する手法を提案している。実験により、提案手法の有効性を確認し、さまざまな分野へ応用可能な基盤的枠組みたりうることを示している。 第1章は序論であり、本研究の背景、位置付け、および目的を述べている。 第2章では、関連研究として、ストーリー生成に関する研究、自然言語処理、データマイニング、創造活動支援等に関する研究を概観し、本論文の位置付けを行っている。 第3章では、トピックブリッジング手法の基盤モデルとして、人間の思考や記憶の認知アーキテクチャである活性伝播モデルに基づく語彙連鎖構造の抽出方法を提案し、これをトピック伝播モデルと名付けた。トピック伝播モデルは、ストーリーを構成するシーンの連鎖により動的にトピックが変化するモデルであり、これにより知識の文脈依存性を扱うことを可能としている。 第4章と第5章では、トピック伝播モデルに基づき2つのトピックブリッジング手法を提案し、創造的なストーリー生成について議論している。 まず、第4章では、文脈依存型トピック遷移パターンに着目したストーリー生成支援手法を提案している。これは、トピック伝播モデルの順問題解析を用いて、ストーリーの始点と終点を補間するブリッジとなるシーンを探索し提示する方法である。ストーリーを構成する各シーンに含まれるトピックの重みが、シーンの連結によりどのように遷移するかを統計的に解析した文脈依存型トピック遷移パターンに基づき、候補となるブリッジシーンを探索する。この手法は、ストーリーの内容を示す複数の語をキーワードとした検索や,単純にシーン間の類似関係などに着目するだけでは得られないようなシーンを推薦することができ、既存の文書群を元にして展開可能なストーリーを提示できる。提案手法を小型人工衛星設計議事録に適用し、多様な文脈における部品間の関係を表すストーリー、機器の故障などをトリガーとして原因や解決方法へ至る道筋を示すストーリー等の生成支援などが適用例として示されている。 第5章では、トピック伝播モデルを逆問題解析してつなげたシーンの特徴量を推定するトピックブリッジング手法を提案している。トピック伝播モデルにおいてトピックは連鎖させるシーン内の語の関係によって伝播するとしたが,本手法ではあらかじめ伝播する前のトピックと伝播した後のトピックを与えたとき,どのようなシーンをつなげたかということを推定する.「航空宇宙工学」と「地球温暖化」を結ぶストーリー生成実験等を通して本手法がストーリーのつくりやすさという点において有効であることを確認している. 第6章は結論であり、本研究の成果をまとめ、今後の課題を示している。 以上要するに、本論文は、文脈に依存するストーリーの数学的なモデル化を行い、トピックブリッジングと呼ぶストーリー生成フレームワークを提案し、その有効性を実証したものであり、その成果は航空宇宙工学のみならず、複数の分野にまたがる学際領域において寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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