学位論文要旨



No 126814
著者(漢字) 星井,拓也
著者(英字)
著者(カナ) ホシイ,タクヤ
標題(和) 高品質InGaAs MOS界面形成のためのInGaAs表面制御についての研究
標題(洋) Study on InGaAs Surface Control for Realizing High Quality InGaAs MOS Interfaces
報告番号 126814
報告番号 甲26814
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7455号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,信一
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 平本,俊郎
 東京大学 准教授 竹内,健
 東京大学 准教授 杉山,正和
 東京大学 准教授 竹中,充
内容要旨 要旨を表示する

III-V族化合物やGeなどのチャネル素材はそのキャリアの高いバルク移動度から、近年問題視されているSi MOSFETの微細化限界を打ち破るためのテクノロジーブースターの一つとして期待されている。InGaAsは高い電子移動度と適度なバンドギャップを有しており、結晶中の電子の有効質量も小さいことから極短チャネルにおけるバリスティック伝導においても有利であると考えられている。そのため、InGaAs MOS構造についての研究が盛んに行われており、Siを上回る実効移動度を示すFETも報告されてきている。それらの報告は主に(NH4)2Sを用いたSパッシベーションとALDで成膜したAl2O3を組み合わせたゲート構造を有しているが、MOS構造の界面準位密度(Dit)は1012cm-2eV-1程度のものしか報告されていない。Si MOS構造の典型的なDitが1011cm-2eV-1未満であることを考えると、InGaAs MOS 界面のDitは十分に低減されているとは言い難く、界面特性改善の要因も十分に解明されてはいない。そこで本論文では、高品質InGaAs MOS界面形成のための表面処理技術として、InGaAs表面のプラズマ窒化に注目し、MOS界面特性への効果の検証とその効果の要因を検討を行った。プラズマ処理の手法としては、低エネルギー・低圧力でプラズマを発生させることが可能なECRプラズマを採用した。

はじめに、InGaAs基板にECRスパッタ装置で形成したSiO2絶縁膜についての検討を行った。酸素分圧の高い状態でのSiO2堆積は、InGaAs表面を強く酸化してしまい、結果として表面ポテンシャルの変化を大きく阻害することがわかった。一方で、酸素分圧の低い状態で堆積を行うことで、表面酸化が抑制され、比較的な大きなポテンシャル変化がえられた。

次に、InGaAs表面に窒化物層を導入した後、真空状態を破らずに連続して、酸素分圧の低い条件でのSiO2堆積を行い、MOS界面を形成した。窒化物層としてECRスパッタSiN中間層と窒素プラズマによるInGaAs表面窒化を検討した。ECRスパッタSiN絶縁膜は単層では良好な特性を示さないが、中間層として用いることでSiO2/InGaAs MOS特性を改善させることができることがわかった。一方、InGaAs表面を窒化処理することでも、MOS特性の改善がみられた。低温コンダクタンス法を用いてDit評価を行ったところ、窒化物層の導入によるDit低減が確認された。SiN中間層とInGaAs表面窒化を比較すると、表面窒化の方が一様に低いDitを示すことがわかった。

表面窒化による界面特性の改善には窒化だけでなく、その後のアニールを行うことが重要であることもわかった。アニール温度が上昇するにつれ、Ditが低下し、C-Vスイングが大きくなった。また、アニールによる特性改善は、フォーミングガスアニールと窒素アニールで大きな違いがみられないことから、熱の効果によるところが大きいことも分かった。加えて、窒化InGaAs MOS構造の断面TEM像から、界面のアモルファス層側に1.2nm程度のコントラストの遷移領域が観察された。これは窒化によって形成された窒化物層によるものであると考えられる。一方、XPSによる測定から、表面窒化によりInGaAs酸化物の形成が抑制されことに加え熱処理によるGa-N結合の増加が界面特性の改善に大きく寄与していることが示唆された。結果として、SiO2/InGaAs MOS界面において2.7 x1011cm-2eV-1というInGaAs MOS界面として十分に低い界面準位密度が得られた。この改善にはMOS界面におけるIII-V酸化物の低減に加え、Ga-N結合の形成が重要であると考えられることから、界面にGa-N結合を形成することがInGaAsをはじめとするIII-V MOS界面特性を改善するために有効であることが示唆された。

続いて、窒化InGaAs界面とALD-Al2O3絶縁膜の組合せについて検討した。本研究では実験装置の構成上、ECRプラズマ窒化後にALDプロセスを行うためには、窒化表面を大気曝露する必要があるため、大気曝露後も窒化物と酸化物が顕著に増減するわけではないことをXPS測定で確認した。N1s XPSスペクトルにおける窒素ピーク強度はALDプロセス前後でも大きな変化はなくInGaAs表面の窒素は十分に保存されていることがわかった。続いて、窒化時間をパラメータとして1-nm ALD-Al2O3/InGaAs構造のXPSスペクトルを取得したところ、表面窒化によって窒素が導入され、その導入量は時間とともに増加するが、一定程度で飽和していることがわかった。また、プラズマ窒化によってInGaAs基板に導入された窒素はAsと置換反応を起こしていることがわかった。さらに、窒化反応だけでなく酸化反応も同時に進行しており、窒素導入が飽和した後に酸化が支配的に進んでいることが示唆された。加えて、置換されたAsは周辺の酸素あるいはIn酸化物と結合し、脱離していることが示唆された。次に、これらの界面のDitを評価したところ、Dit改善には最適な窒化時間が存在することがわかった。XPSの結果と合わせて考えると、窒素導入が飽和し酸化反応が支配的になるとDitが増加していると考えられ、界面の酸素増加が特性の劣化要因であることを強く示唆している。また、ECRプラズマを発生させるためのマイクロ波の出力と最適窒化時間の相関からInGaAs表面窒化によるDit改善には基板に到達する窒素イオン量が強く寄与していることがわかった。ここで、室温でのDit評価において最も良い値を得たマイクロ波出力250W、窒化時間 7minという条件について、中間層膜厚とEOTを評価したところ、物理膜厚が約1.6nmであると見積もられ、0.65nmのEOT増加が起こっていることがわかった。さらにEOT極限を見積もるために角度分解XPSを用いて界面部分の深さ方向の元素分布を見積もったところ、絶縁膜/半導体界面はIn0.4Ga0.6N/InGaAs界面であると考えられ、InGaN層の物理膜厚は0.4nm程度、EOT増加は0.13nm程度と見積もられた。このことから極限的には0.13nmのEOT増加で、今回得られたレベルの界面特性改善が期待できることがわかった。最後に、このAl2O3/窒化InGaAs MOSキャパシタのC-V特性とDit分布を評価し、InGaAs MOS界面形成手法として主流となっている(NH4)2S溶液を用いたSパッシベーションとALD-Al2O3絶縁膜で作製したAl2O3/S終端InGaAs MOSキャパシタと比較した。InGaAs表面窒化により、ヒステリシスの増大は見られるものの、S終端と比べて急峻かつ周波数分散の少ないC-V特性が得られた。またDit分布の評価より、Al2O3/窒化InGaAs MOS キャパシタのDitは総じてAl2O3/S終端InGaAs MOSキャパシタのDitより低いことが示された。Ditの最小値は2.0 x1011cm-2eV-1であり、伝導帯端でも3 x1011程度であった。

本研究では、高品質InGaAs MOS界面形成のための技術として、ECRプラズマを用いたInGaAs表面窒化に注目し、その効果を検討した。InGaAs表面に窒素プラズマを照射することで、窒素イオンを主たる反応種として、As元素を置換する形でN原子が結晶中に導入され、熱処理を加えることで絶縁膜/半導体界面にGa-N結合の増加がおこり、これが界面特性の改善に大きく寄与していることが示唆された。このようなECRプラズマ窒化をInGaAs表面に施すことで、ECRスパッタSiO2及びALD-Al2O3を絶縁膜とするInGaAs MOSキャパシタにおいて、MOS界面特性の改善を確認した。以上のことから、InGaAs MOS界面の特性改善のための一つの指針として、界面にGa-N結合を多く含み、酸素を極力含まない界面窒化物層を形成する、ということが提案された。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、Study on InGaAs Surface Control for realizing High Quality InGaAs MOS Interfaces(和訳:高品質InGaAs MOS界面形成のためのInGaAs表面制御についての研究)と題し、将来の高性能MOSFETのチャネルとして期待されているInGaAsのMOS界面特性向上のための界面制御技術と界面準位形成機構に関する研究成果を纏めたもので、全文7章よりなり、英文で書かれている。

第1章は、序論であり、本研究の背景について議論すると共に本論文の構成について述べている。

第2章は、「Experimental set-up and Evaluation method」と題し、本研究において素子作製に用いたECR (Electron Cyclotron Resonance)スパッタ装置の原理と構造、及び物理解析に用いたXPS (X-ray Photoelectron Spectroscopy) 法と電気評価手法について述べている。

第3章は、「ECR-sputtered SiO2/InGaAs MOS Interfaces」と題し、ECRスパッタリング法により形成したSiO2をゲート絶縁膜とするInGaAs MOS界面の電気的性質と発生界面準位の物理的起源を、スパッタリング条件を変えながら調べた結果を述べており、MOS界面の酸化したAs量を低減することで、1012cm-2eV-1 程度の界面準位が得られることを示している。

第4章は、「Nitrided Layer Formation at InGaAs MOS Interfaces」と題し、InGaAs MOS界面の酸化層低減のための界面制御層として、SiO2層堆積前にInGaAs表面に窒化層を導入する方法を調べている。ECRスパッタリング法によってSiN膜を形成する方法とN2/ArガスのECRプラズマによりInGaAs表面を窒化する方法を提案して、実験的に比較検討を行い、界面準位密度の観点から、InGaAs表面を直接窒化する方法が優れていることを明らかにしている。

第5章は、「Physical Analysis of SiO2/nitrided-InGaAs Interfaces」と題し、第4章にて述べたECRプラズマによるInGaAs表面の窒化を施したのち、in-situにてECRスパッタリング法によるSiO2を堆積するInGaAs MOS構造の界面の構造と電気的性質を、XPSやTEMによる物理分析、MOSキャパシタを用いた電気特性から詳細に解析し、MOS界面にはInGaAsの窒化物が形成されること、また450℃のアニーリングにより、界面準位の最小値を~3x1011cm-2eV-1にまで低減できることを明らかにしている。更に、この界面準位低減の物理的機構として、窒化によるAs酸化物量低減に加え、アニーリングに伴うGe-Nボンドの形成が重要な役割を果たすことを見出している。

第6章は、「ALD-Al2O3/nitrided-InGaAs MOS Interfaces」と題し、将来のhigh k絶縁膜の適用を念頭に、第4章・第5章で優れた性質を示した、ECRプラズマによるInGaAs表面の窒化層上に、原子層堆積法 (ALD)によってAl2O3を堆積したMOSキャパシタの物理構造と電気特性を調べた結果を示している。プラズマパワー、N2/Ar流量比、窒化時間、アニール条件などの作製条件に最適化を施した結果、ALD-Al2O3/InGaAs窒化層 MOS界面の界面準位の最小値として、~2x1011cm-2eV-1、また伝導帯近傍でも~3x1011cm-2eV-1という、InGaAs MOS界面として極めて低い値にまで低減できることを明らかにしている。また、将来の等価ゲート絶縁膜 (EOT)の低減を目指して、窒化による界面層の薄膜化の検討を行い、低い界面準位密度を維持した状態で、~0.65nmのEOTまでの薄膜化が可能であることを見出している。

第7章は、結論と今後の展望を述べている。

以上要するに本論文は、将来の高性能MOSFETのチャネル材料として期待されているInGaAsのMOS界面特性向上のための界面制御技術として、InGaAs表面に窒素のECRプラズマを照射することによってInGaAs窒化層を形成する方法を提案し、この窒化層の上にSiO2層及びAl2O3層を堆積して形成したMOS構造において、1011cm-2eV-1 台前半の極めて低い界面準位密度を実現すると共に、界面準位低減の物理機構を明らかにしたものであり、電子工学上、寄与するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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