学位論文要旨



No 126815
著者(漢字) 山根,大輔
著者(英字)
著者(カナ) ヤマネ,ダイスケ
標題(和) 機能レイヤ分離設計法によるSOI RF-MEMS受動素子に関する研究
標題(洋) A Study on SOI RF-MEMS Passive Devices by Functional Layer-wise Design Method
報告番号 126815
報告番号 甲26815
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7456号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 年吉,洋
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 櫻井,貴康
 東京大学 准教授 河野,崇
 東京大学 准教授 三田,吉郎
 東京大学 准教授 高宮,真
内容要旨 要旨を表示する

本論文は"A Study on SOI RF-MEMS Passive Devices by Functional Layer-wise Design Method"(邦訳:機能レイヤ分離設計法による SOI RF-MEMS 受動素子に関する研究)と題し、シリコンバルクマイクロマシニング技術によりSOI(Silicon on Insulator)ウェハ上に静電駆動型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)アクチュエータと低損失なコプレーナ型MEMS導波路をレイヤ分離配置する新たな設計手法を提案し、当該技術を用いることで導波路とアクチュエータ間の電波干渉を抑えつつ小型で多機能なRF-MEMS状態可変受動素子をシリコン基板上に集積化できることを示したものであり、設計方法、作製方法、応用試作例、およびその評価方法に関して全6章の英文で報告したものである。

第1章は"Introduction"(序論)であり、本研究の背景技術について述べている。従来のシリコンRF-MEMS(Radio Frequency MEMS:高周波MEMS)技術とSOIウェハを用いたバルクマイクロマシニング技術によるMEMSデバイスを総括し、化合物半導体よりも安価でMEMS加工に適した単結晶シリコン基板によるRF-MEMSデバイスが、SOIウェハによる機能レイヤ分離設計により小型化・低損失化が可能であることを述べるとともに、その応用例としてKu帯(12-18 GHz)フェイズドアレイアンテナにおける線路切替型移相器などを取り上げ、またこれまで開発されたRF-MEMSスイッチや半導体スイッチと性能を比較しつつ、本論文の目的と研究の意義、論文構成について説明している。

第2章は小型・低挿入損失なRF-MEMSデバイスとMEMSアクチュエータを効率良く設計・配置するために開発した機能レイヤ分離設計手法について述べている。Deep-RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)による高アスペクト比シリコン深堀加工技術と金の電解めっきを用いることで、信号線とグランド面の間を、誘電損失最小の空気で絶縁分離したQuasi-Air-Suspendedコプレーナ導波路と、表皮効果を考慮した適切な厚みをもつ厚膜金の成膜をともに可能にする方法をレイヤ分離設計とあわせて提案し、その動作原理として、水平方向動作が可能な静電駆動型アクチュエータを用いることで2出力のスイッチングが容易であることを説明している。

第3章は機能レイヤ分離設計法により作製されたデュアル型SPDT(Single Pole Double Throw:1入力2出力)RF-MEMSスイッチの機械設計とその数値解析モデル、導波路とその有限要素法解析モデルについて説明したのちに、シリコンマイクロマシニング技術と金の電解めっきを融合した新たなMEMSデバイス作製方法、応答速度・機械共振周波数・Sパラメータ(挿入損失、反射損失、アイソレーション)・オン抵抗やオフ容量とそれらを示す等価回路モデルデを含むバイス評価、および、これまでに報告されたSPDTスイッチとの性能・サイズの比較、および線路切替移相器を構成するために別途用意されたLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温焼成セラミックス)基板による多層配線回路へのフリップチップ実装評価などについて述べている。

第4章は遅延線とRF-MEMSスイッチが同一シリコン基板上へモノリシック加工されたMEMS移相器の設計手法を、移送量22.5°移相器の1-bitモデルから始めて22.5°、45°、90°、180°の移相回路を含む4-bitモデルまで拡張して説明したのちに、その作製方法、デバイス評価を述べ、第3章で扱ったMEMSとLTCCのハイブリッド移相器と比較している。

第5章は"Discussion"(考察)であり、機能レイヤ分離設計法の応用可能性を移相器以外でも示す1つの例として、櫛歯型、および、平行平板型電極を用いたMEMS可変容量コンデンサを提案し、RF-MEMS状態可変素子でスイッチとともに実用化が期待されるキャパシタの設計に至る背景を簡潔のまとめたのちに、アナログ操作可能な可変容量コンデンサの設計方法とその機械構造、導波路構造、Q値や可変容量比などの各パラメータ調整方法を述べるとともに、原理検証モデルの説明もしている。

第6章は"Conclusion"(結論)であり、本論文で示した成果を総括している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は"A Study on SOI RF-MEMS Passive Devices by Functional Layer-wise Design Method"(邦訳:機能レイヤ分離設計法による SOI RF-MEMS 受動素子に関する研究)と題し、シリコンバルクマイクロマシニング技術によりSOI(Silicon on Insulator)ウェハ上に静電駆動型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)アクチュエータと低損失なコプレーナ型MEMS導波路をレイヤ分離配置する新たな設計手法を提案し、当該技術を用いることで導波路とアクチュエータ間の電波干渉を抑えつつ、小型で多機能なRF-MEMS(Radio Frequency MEMS:高周波MEMS)型の状態可変受動素子をシリコン基板上に集積化できることを示したものであり、設計方法、作製方法、応用試作例、およびその評価方法に関して全6章の英文で構成されている。

第1章は"Introduction"(序論)であり、本研究の背景技術について述べている。従来のシリコンRF-MEMS技術とSOIウェハを用いたバルクマイクロマシニング技術によるMEMSデバイスを総括し、化合物半導体よりも安価でMEMS加工に適した単結晶シリコン基板によるRF-MEMSデバイスが、SOIウェハによる機能レイヤ分離設計により小型化・低損失化が可能であることを述べるとともに、その応用例としてKu帯(12-18 GHz)フェイズドアレイアンテナにおける線路切替型移相器などを取り上げ、またこれまで開発されたRF-MEMSスイッチや半導体スイッチと性能を比較しつつ、本論文の目的と研究の意義、論文構成について説明している。

第2章は小型・低挿入損失なRF-MEMSデバイスとMEMSアクチュエータを効率良く設計・配置するために開発した機能レイヤ分離設計手法について述べている。DRIE(Deep Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)による高アスペクト比シリコン深掘加工技術と金の電解めっきを用いることで、信号線とグランド面の間を、誘電損失最小の空気で絶縁分離したサスペンド型コプレーナ導波路と、表皮効果を考慮した適切な厚みをもつ厚膜金の成膜をともに可能にする方法をレイヤ分離設計とあわせて提案し、その動作原理として、水平方向動作が可能な静電駆動型アクチュエータを用いることで2出力のスイッチングが容易であることを説明している。

第3章は機能レイヤ分離設計法により作製されたデュアル型SPDT(Single Pole Double Throw:1入力2出力)RF-MEMSスイッチの機械設計とその数値解析モデル、導波路とその有限要素法解析モデルについて説明したのちに、シリコンマイクロマシニング技術と金の電解めっきを融合した新たなMEMSデバイス作製方法、応答速度・機械共振周波数・Sパラメータ(挿入損失、反射損失、アイソレーション)・オン抵抗やオフ容量とそれらを示す等価回路モデルデを含むバイス評価、および、これまでに報告されたSPDTスイッチとの性能・サイズの比較、および、線路切替移相器を構成するために別途用意されたLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温焼成セラミックス)基板による多層配線回路へのフリップチップ実装評価などについて述べている。

第4章は遅延線とRF-MEMSスイッチが同一シリコン基板上へモノリシック加工されたMEMS移相器の設計手法を、移送量22.5°移相器の1-bitモデルから始めて22.5°、45°、90°、180°の移相回路を含む4-bitモデルまで拡張して説明したのちに、その作製方法、デバイス評価を述べ、第3章で扱ったMEMSとLTCCのハイブリッド移相器と比較している。

第5章は"Discussion"(考察)であり、機能レイヤ分離設計法の応用可能性を移相器以外でも示す1つの例として、櫛歯型、および、平行平板型電極を用いたMEMS可変容量コンデンサを提案し、RF-MEMS状態可変素子でスイッチとともに実用化が期待されるキャパシタの設計に至る背景を簡潔のまとめたのちに、アナログ操作可能な可変容量コンデンサの設計方法とその機械構造、導波路構造、Q値や可変容量比などの各パラメータ調整方法を述べるとともに、原理検証モデルを説明している。

第6章は"Conclusion"(結論)であり、本論文で示した成果を総括している。

以上これを要するに、本論文は、従来は誘電損失の観点からマイクロ波応用には適していないと考えられてきた単結晶シリコン貼り合わせ基板をRF-MEMSに応用する手法として、高濃度・低抵抗シリコンと低濃度・高抵抗シリコンを貼り合わせた基板の両面に、静電駆動型マイクロアクチュエータと、誘電損失最小の空気で絶縁分離したサスペンド型のコプレーナ可動導波路をそれぞれレイヤ分離して集積配置する新たな設計手法を考案するとともに、実際にシリコン基板の高アスペクト比加工技術と、金の厚膜電解めっき技術を用いてRF-MEMS型のスイッチ素子、移相器、可変容量素子を製作してそれらの動作を実証し、モノリシック集積型の高周波受動素子をシリコン基板のマイクロマシニング技術で実現できることを実験的に検証したものであり、電気工学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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