学位論文要旨



No 126848
著者(漢字) 庄司,良子
著者(英字)
著者(カナ) ショウジ,ヨシコ
標題(和) 超分子集合体の配向制御と機能化
標題(洋) Alignment Control and Functionalization of Supramolecular Assemblies
報告番号 126848
報告番号 甲26848
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7489号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,隆史
 東京大学 教授 荒木,孝二
 東京大学 教授 野崎,京子
 東京大学 教授 伊藤,耕三
 香川大学 教授 舟橋,正浩
内容要旨 要旨を表示する

次世代に求められているような環境低負荷で高機能な有機材料を構築する上で、生体はそのよいモデルである。生体中では、分子が水素結合やπ-πスタッキング・ファンデルワールス力などの非共有結合を介して自己組織的に集合体を形成し、動的な機能を発現している。さらにそれらの超分子集合体が、階層的な秩序構造を形成することにより、分子単独では発現しえないような、輸送・情報伝達などの高度で複雑な機能を発現している。このような生体に倣い、分子の組織化および階層構造の形成は、機能的な有機材料の開発において有用なアプローチの一つである。

本論文では、π共役分子が自己組織的に形成する一次元分子集合体の開発および配向制御について述べている。π共役分子が形成する自己組織性ファイバーや液晶などのソフトマテリアルは、電荷輸送性や発光特性などを発現する機能性有機材料として注目されている。特に一次元集合体は、π共役部位の一次元積層構造を介して特定の方向へキャリアを輸送できることから、有機エレクトロニクス材料への展開も期待できる。そのためπ共役分子が形成する一次元分子集合体は、これまで多く開発されてきた。しかし今まで開発された集合体は、マクロスケールではランダムな配向をとっているため、機能は低く、実用化に向けた応用研究の例は少ない。そして、これらを材料へと展開するための次のステップとしては、マクロスケールにわたる配向制御および、高機能化などが重要である。本論文では、電場による自己組織性ファイバーの配向制御そして、液晶と自己組織性ファイバーの複合化による高機能化について報告している。第一章の序論では、以上の本研究の目的およびそれに至る背景を概説している。

第二章では、水素結合性分子が形成する自己組織性ファイバーの電場による配向制御について述べている。電場存在下、マクロスケールにわたって配向した自己組織性ファイバーを得るための分子設計指針として、水素結合性分子に電場に応答して配向する部位として液晶性部位(メソゲン部位)を導入することを提案している。一般にフッ素基を持つ液晶性分子は、フッ素基の効果により大きな双極子モーメントをもつ。そのため、電場によってマクロスケールにわたってその分子の配向をそろえることが知られている。そこで、水素結合性部位とフッ素基を有するメソゲン部位の両方を併せ持つ分子の合成について述べ、その分子が溶媒中で形成する自己組織性集合体の構造および、それらの電場による配向制御について検討した結果について示している。光学顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察などの結果から、その分子が有機溶媒に対してゲル化能を示し、ゲル中で配向がランダムなファイバー状集合体を形成していることを報告している。そして、ゾル状態まで加熱したサンプルに対し、交流電場を印加しながら冷却することで、電極間を橋渡しするようにマクロスケールにわたり配向したファイバーが得られることを明らかにしている。さらに、配向性の周波数依存性・電圧依存性の検討結果について示し、配向したファイバー状集合体は、溶媒中における分子のドメイン形成、電場によるドメインの配向、ドメイン間での水素結合の形成、という多段階プロセスにより得られるものと考察している。

第三章では、メソゲン部位を有するπ共役分子が形成した一次元ファイバーの電場による配向制御について述べている。配向した一次元ファイバーの機能化を目指し、水素結合性フェニルビチオフェン誘導体の合成を報告している。そしてその分子が有機溶媒をゲル化し、ゲル中で自己組織性ファイバーを形成していることを明らかにしている。さらに、その分子のゲルをゾル状態で電極セルに封入し、電場を印加しながら冷却することにより、マクロスケールにわたって配向したファイバー状集合体が得られることを示している。また、配向したファイバー状集合体中におけるフェニルビチオフェン誘導体の集合構造について、紫外可視吸収スペクトル測定、温度可変赤外吸収スペクトル測定、および偏光赤外吸収スペクトル測定の結果から考察を加えている。そして、ファイバーの成長方向に沿ってπ-πスタッキングおよび分子間水素結合が形成されていることを報告している。さらに配向したファイバー状集合体について、紫外光照射によりホール輸送に基づく光電流が誘起され、形成された一次元分子集合体が長距離にわたるホール輸送パスとして機能すると結論している。

また、メソゲン部位にフッ素基を持たない化合物の合成について示し、その分子が有機溶媒中で形成する自己組織性ファイバーについて、電場応答性を検討した結果について述べている。そして、その自己組織性ファイバーは電場の影響を受けず、系中で配向がランダムであることを明らかにしている。分子力場計算の結果から、フッ素基を持たないことによりその分子の双極子モーメントは低下し、このことが得られるファイバー状集合体の配向性に大きな影響を及ぼしている可能性があると推察している。さらに、水素結合性部位を持たないフェニルビチオフェン誘導体を合成し、その分子が有機溶媒中でファイバー状集合体を形成しないことから、ファイバー状集合体の形成における分子間水素結合の重要性を指摘している。

第四章では、非共有結合性部位とπ共役メソゲン部位の両者を有する分子が形成する集合体について、液晶状態での光導電性について報告し、非共有結合性部位の電子機能性に対する影響について考察している。アミド基またはエステル基を有するフェニルターチオフェン誘導体および、非共有結合性部位を持たないフェニルターチオフェン誘導体の合成について述べ、偏光顕微鏡観察、示差走査熱量測定、X線回折測定などを用いた解析により、それらの化合物がスメクチック液晶相を発現することを報告している。さらに、液晶状態における光導電性について飛行時間測定法を用いて検討し、分子間の非共有結合の形成は長距離のキャリア輸送を大きく阻害しないと結論づけている。

第五章では、一次元に電子を輸送するナフタレンジイミド誘導体と、ホール輸送性を示す水素結合性フェニルターチオフェン誘導体からなる複合体の集合構造および、光導電性について述べている。合成したナフタレンジイミド誘導体が単体でカラムナー液晶相を発現し、等方相から電場を印加しながら液晶相へと転移させることによって、カラムが電場方向に沿って配向することを報告している。また飛行時間測定により、カラム状集合体は一次元の電荷輸送能を有することを明らかにしている。さらに複合体について、相転移挙動を示差走査熱量測定および偏光顕微鏡観察などにより解析した結果について報告している。この複合体は、各成分が独立に集合し複合化した秩序構造を有し、ホールと電子の両者の輸送能を有することを示している。

以上のように本論文では、一次元分子集合体の電場による配向制御および、一次元分子集合体の複合化について述べている。これらの研究は、次世代の有機材料を開発するための第一歩であり、超分子化学的なアプローチを用いた有機材料開発の分野に新たな知見を与えるものと期待される。

審査要旨 要旨を表示する

次世代に必要とされる環境低負荷で高機能な有機材料を構築する上で、分子の組織化および階層構造の形成は有用なアプローチの一つである。

π共役分子が形成する自己組織性ファイバーや液晶などの分子集合体は、電荷輸送性を有する機能性有機材料として注目されている。これらを有機エレクトロニクス材料へと展開するための次のステップとしては、マクロスケールにわたる集合体の配向制御および、機能の向上が重要である。本論文では、電場による自己組織性ファイバーの配向制御そして、複合化による高機能化について報告しており、六章で構成されている。

第一章の序論では、本論文における研究の背景を概説し、目的を述べている。

第二章では、水素結合性分子が形成する自己組織性ファイバーの電場による配向制御について報告している。マクロスケールにわたって電場により配向した自己組織性ファイバーを得るための分子設計指針として、水素結合性分子に、電場に応答して秩序構造を形成する部位として液晶性部位(メソゲン部位)を導入することを提案している。合成した水素結合性部位とメソゲン部位をあわせ持つ分子について、溶媒中で形成される一次元集合体の構造について示している。そして、それらの電場による配向制御について検討した結果について報告している。ゾル状態まで加熱したサンプルに対し、電場を印加しながら冷却することで、電極間を橋渡しするようにマクロスケールにわたり配向したファイバーが得られることを見出している。さらに、配向性に対する周波数の影響を検討した結果から、分子集合体が配向するメカニズムについて考察を加えている。

第三章では、π共役分子が形成した一次元ファイバーの電場による配向制御について述べている。水素結合性フェニルビチオフェン誘導体が形成するゲルをゾル状態で電極セルに封入し、電場を印加しながら冷却することにより、マクロスケールにわたって配向したファイバー状集合体が得られることを明らかにしている。また、ファイバー中における分子の集合構造について、分光測定を行った結果から考察を加えている。そして、ファイバーの成長方向に沿ってπ共役部位の積層および分子間水素結合が形成されていることを報告している。さらに配向したファイバー状集合体が光導電性を示すと結論している。

また、類似したメソゲン部位を有する化合物について、その分子が有機溶媒中で形成する自己組織性ファイバーについて、電場応答性を検討した結果を示している。その結果より電場により配向した集合体を得るためには、分子が短軸方向に大きな双極子モーメントを有することが重要であると推察している。さらに、水素結合性部位を持たないフェニルビチオフェン誘導体の合成およびゲル化能を示し、一次元組織化における分子間水素結合の重要性を指摘している。

第四章では、非共有結合性部位を導入したπ共役分子について、集合状態における光導電性について報告し、非共有結合性部位の影響を電子機能性という観点から検討している。液晶状態における光導電性について飛行時間測定法を用いて検討し、分子間の非共有結合が形成されている集合体中において、キャリアが長距離にわたり輸送されることを報告している。

第五章では、一次元に電子を輸送するナフタレンジイミド誘導体と、ホール輸送性を示す水素結合性フェニルターチオフェン誘導体からなる複合体の構築および、光導電性について述べている。複合体の示差走査熱量測定およびX線構造解析の結果から複合体中では、各成分が独立に一次元に集合したミクロ相分離構造が形成されていることを明らかにしている。さらに複合体について光導電性を測定した結果を示し、ホールと電子の両者の輸送能を有することを示している。

第六章は本論文の結言であり、第五章までの研究成果を総括し今後の展望について述べている。

以上のように本論文では、一次元分子集合体の電場による配向制御および、一次元分子集合体の複合化による高機能化について述べている。これらの研究は、次世代の有機材料を開発するための超分子化学的なアプローチによる有機材料開発に新たな知見を与えるものであり、機能分子化学の進展に寄与するところ大である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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