学位論文要旨



No 126851
著者(漢字) 細野,暢彦
著者(英字)
著者(カナ) ホソノ,ノブヒコ
標題(和) 大面積階層的分子配向を実現する機能性ポリマーブラシの設計
標題(洋) Design of Functional Polymer Brushes for Large-Area Hierarchical Molecular Order
報告番号 126851
報告番号 甲26851
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7492号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 相田,卓三
 東京大学 教授 加藤,隆史
 東京大学 准教授 橋本,幸彦
 東京大学 講師 藤田,典史
 東京工業大学 教授 福島,孝典
内容要旨 要旨を表示する

【緒言】

筋肉組織の内部構造に代表されるように、自然界には階層構造が多く存在する。これに倣い、ある機能を持った分子を大面積かつ階層的に集積化することは、これまでの材料科学分野における重要課題の一つであった。このような階層的分子配向技術を確立できれば、材料の機能を著しく向上させるばかりでなく、革新的機能の発現をもたらすと期待できる。本研究では、機能分子の足場としてブラシ状高分子「ポリマーブラシ」を用いた系を考案し、大面積かつ階層的分子配列を一挙に達成させる革新的手法の開拓に成功した。さらに、本手法を用いた分子の大面積集積化により、分子レベルで起こる事象の効率的な伝達・増幅が可能となり、結果としてマクロスケールの機能発現に通じることを実証した。

【報告】

1.アゾベンゼンユニットを高密度に集積化したポリマーブラシのデザインおよび合成

ポリマーブラシは、非常に長い側鎖を高密度で有するグラフト高分子である。ポリマーブラシの側鎖を足場とすることで、機能ユニットを高密度に集積化することが可能となる。ここでは、光によって構造が変化するアゾベンゼンを機能ユニットとして用い、これを直列に複数個連結させた側鎖を有する高密度ポリマーブラシを設計した(Figure 1a)。この分子設計により、光によるアゾベンゼンユニットの微少な構造変化は側鎖の構造変化へと伝搬され、さらにポリマーブラシ全体のコンフォメーション変化を誘起すると考えた。すなわち、筋肉の動作原理に着想を得て、微少な構造変化を分子内で階層的に伝搬・増幅させる機構の実現を目指した。また、アゾベンゼンは液晶のメソゲンとしての性質を持つことから、液晶性を利用してポリマーブラシの配向制御が達成できれば、微少な構造変化を一方向へと集約し、増幅できると考えた。

ポリマーブラシ(poly-1)は、段階的な縮合反応を経由して合成したアゾベンゼンユニット3個を有するmonomer 1を、AIBN存在下でラジカル重合することによって得た。GPC測定より、poly-1は数平均分子量1.5 x 105 g/mol (Mw/Mn=2.0, ポリスチレン換算)を有していることが示された。

2.ポリマーブラシのつくる集積構造

一部のポリマーブラシは、一つの分子が剛直なシリンダーとして振る舞うため、自己組織化的に集合し、カラムナー構造をつくることが報告されている。本研究で合成したpoly-1も、ある温度で矩形カラムナー構造を形成した。示差走査熱量(DSC)測定により、poly-1は103℃から120℃の温度領域において中間相を発現する。この中間相において形成される秩序構造を解明するため、放射光を用いた小角X線散乱解析(SAXS)をおこなったところ、poly-1は中間相温度領域において、a=218(5) A、b=147(1) Aの巨大な二次元矩形格子を形成することが明らかとなった(Figure 2)。さらに、poly-1の温度可変SAXS測定により、この二次元矩形格子は室温まで冷却することで異方的に歪み、それぞれの軸サイズがa=216(4) A、b=154(2) A (25℃)へと変形することが示された。

3.ホットプレス法によるポリマーブラシの大面積三次元的分子配向

例え個々の分子の機能が優れていても、それらが空間中でランダムな配置をとっている限り、お互いの機能が連動できないため、材料として最大限の機能を実現することは期待できない。そのため、現在の機能材料開発においては分子配向技術の果たす役割は非常に大きく、むしろ材料の性能を決定する要となっている。高分子系においては、延伸法やラビング法によって高分子鎖を一次元的に配向させて材料を作製している。しかしながら、高分子を三次元的に配向するための技術は未開拓である。この問題に対し、poly-1に関する本研究過程において、偶然にも、このポリマーブラシを「テフロンシートを用いてホットプレスする」という非常に簡単な手法で、ブラシが大面積かつ三次元配向した自立フィルムが得られることを見いだした(Figure 3)。Poly-1のフィルム作製法をFigure 3aに示す。まず、粉末状のpoly-1を二枚の延伸テフロンシートに挟み、ポリマーが溶融する130℃まで昇温してホットプレスする。次にこのプレス状態を保ったまま中間相を発現する温度(115℃)まで降温して1時間放置する。その後、室温まで徐冷してテフロンシートから剥離すればpoly-1の自立フィルムが得られる。

このフィルム(5mm x 6mm x 10 μm)に紫外光(360nm)を照射したところ、フィルムは照射方向へと敏速に湾曲し、続いて480nmの可視光を照射すると元の形状へと伸張した(Figure 4)。この運動は光可逆的に繰り返し可能であった。しかし、その挙動はフィルムによってまちまちであり、光に対して応答するフィルムと、応答しないフィルムの二種類が存在することに気がついた。

詳細にホットプレスの条件を検討したところ、このフィルムの光応答性はホットプレス時に使用する二枚のテフロンシートの相対的配置によって異なることを発見した。上下二枚のテフロンシートの延伸方向を平行に配置した状態でpoly-1を挟み、ホットプレスして得られたフィルムは光応答を示す。しかし対照的に、延伸方向を直角に配置したテフロンシートを用いて得たフィルムは顕著な光応答を示さない。それぞれのフィルムに対する偏光顕微鏡観察、偏光分光測定、X線構造解析による詳細な検討から、ホットプレスしたフィルム中でpoly-1は、大面積で主鎖が垂直に配列するという、三次元的配向構造をとっており、フィルムの光応答性の違いは、フィルム表裏面での配向方向の違いによるものであることが示された。さらに詳細な検討に基づき、この特異な配向特性はポリマーブラシ側鎖のアゾベンゼンユニットが上下のテフロン表面の延伸方向を認識し、系全体で同方向へと自己組織化的に配列したことによると結論付けた。

(i) フィルムの偏光顕微鏡観察

テフロンシートの延伸方向を平行に揃えてpoly-1を挟み、それをホットプレスして得たフィルム(以下、「平行フィルム」と呼ぶ)の偏光顕微鏡観察を行った。サンプルをクロスニコル下で回転させた場合、45°毎に視野全体が明暗を繰り返した。これは、メソゲンなどの異方的な形状を持つ分子が巨視的に水平配向している場合に見られる現象である。対照的に、テフロンシートの延伸方向を直交させてホットプレスすることにより得たフィルム(以下、「直交フィルム」と呼ぶ)では、クロスニコル下で回転させても周期的な視野の明暗変化は観察されなかった。

(ii) フィルムの偏光スペクトル解析

ホットプレスにより得られたポリマーフィルムの偏光UVスペクトルを測定し、側鎖の配向様式を検討した。厚さ5 μmのフィルムに、アゾベンゼンの吸収端に相当する波長500nmの偏光を入射し、吸光度の偏光角依存性をプロットした。Figure 5aから明らかなように、平行フィルムは、テフロンシートの延伸方向と平行方向に大きな吸収を示し、二色性材料に特有の楕円状プロファイルを与えた。この観測結果は、ポリマーブラシ側鎖に導入されたアゾベンゼンユニットがテフロンシートの延伸方向と同一方向に配向していることを示している。一方、直交フィルムは吸光度の角度依存性を示さず、二色性は認められなかった(Figure 5b)。

(iii) フィルムの小角X線散乱構造解析

ポリマーフィルムの内部構造をさらに詳細に検討すべく、SAXS解析を行った。この実験では、X線ビームをフィルム表面に対して垂直に入射し、フィルム後方に設置した検出器で二次元回折像を捉えた。平行フィルムの回折像では、それぞれポリマーブラシが形成する二次元矩形格子の(110), (210), (020), (130)面からの回折がスポットとして観察された(Figure 6a)。それぞれのスポットは、入射ビームを中心に点対称となる位置に現れており、ポリマーブラシの主鎖がフィルム表面に対して垂直に配列して格子を組んでいることが示唆された(Figure 3b)。また、(020)スポットの方角はホットプレスに用いたテフロンシートの延伸方向と一致した。すなわち、ポリマーブラシの格子は、b軸がテフロンの延伸方向に平行となるように配列していることが明らかとなった(Figures 3b and 6a)。対照的に、直交フィルムからは、二組の(020)スポットが直交するよう現れた(Figure 6b)。また、それぞれのスポットの位置は、上下のテフロンシートの延伸方向と一致していた。このことは、一枚のホットプレスフィルムの表裏で、格子が別々の方向に配向していることを意味している。両フィルムにおける、このような回折パターンは、フィルムのどの部分を観測しても同様であった。この結果は、ポリマーブラシの分子配向が、フィルム全体のセンチメートルオーダーで達成されていることを示している。

平行および直交フィルムからの二次元回折像における散乱強度プロファイルをさらに定量的に解析し、それぞれのフィルム内でポリマーが作る格子の配向度を見積もったところ、厚さ5 μmのフィルムではそれぞれ90%、10 μmのフィルムでは51%および41%であった。これらの結果は、フィルム表面から厚さ約2.3 μmの領域で格子がほぼ完全に配向していることを示している。すなわち、ホットプレスによって得られるポリマーフィルムは、表裏別々に分子配向した「バイモルフ構造」となっている。

(iv) 大面積三次元的分子配向のメカニズム

一連の実験結果に基づき、ポリマーブラシの大面積三次元的分子配向のメカニズムについて考察した。以下にその構造化プロセスを示す。(1) ホットプレス時にポリマーブラシを等方相(>120 °C)とした後、中間相温度でアニールすることにより、ブラシ側鎖のアゾベンゼンユニットがテフロン表面のPolytetrafluoroethylene (PTFE)鎖の分子配向を認識し、表面に対して水平にかつテフロンの延伸方向に平行に配向する。(2) こうしてテフロンシート/ポリマー界面で起こるポリマーブラシの構造化が、フィルム内部にまで伝搬し、結果的に大面積でブラシ主鎖の垂直配向を実現する(Figure 3)。すなわち、ポリマーブラシ特有のシリンダー構造によって、延伸テフロンシートに存在する一次元の分子配向情報が転写・翻訳された結果、フィルム内部の三次元的配向が達成されたと考えられる。

4.ポリマーブラシフィルムの光応答メカニズム

フィルムの光応答メカニズムについて詳細に検討した結果、フィルムに作り込まれたバイモルフ構造が応答の鍵であることを突き止めた。Poly-1が形成する矩形格子は、室温に冷却する過程で異方的に歪む[a=218(5)→216(4) A、b=147(1)→154(2) A]。この格子の歪みにより、ホットプレス後の自立フィルムにはa軸方向に収縮応力、b軸方向に伸張応力が発生し、常にそれらが釣り合った状態で内在していることを実験的に示した。平行フィルムにおいては、光を照射しない場合、フィルム表裏面での収縮・伸張応力は同方向で釣り合っている。しかしフィルム表面に紫外光(360nm)を照射すると、ブラシ側鎖のアゾベンゼンユニットがtrans体からcis体へと異性化し、それに伴いb軸方向が収縮して伸張応力が緩和される。その結果、フィルム表裏の応力バランスが崩れ、裏面の伸張力が照射面のそれを上回るため、光源方向へ大きなフィルムの湾曲を誘起すると考えられる(Figure 7a)。驚くべきことに、湾曲時のアゾベンゼンの異性化率を1H NMRを用いて見積もったところ、わずか1.5%であった。一方、直交フィルムでは、同様に光照射表面でb軸方向への収縮・応力緩和が起こるが、表裏の応力は相対的に直交配置にあるため裏面の伸張応力が有効に作用せず、フィルムは変形しないと考えて矛盾しない(Figure 7b)。以上の結果は、フィルムのバイモルフ構造および大面積分子配向によって、アゾベンゼンユニットの微少な変形運動を、これまでにないメカニズムで巨視的なフィルムの変形へと効率的に伝搬・増幅できることを明確に示している。

【総括】

本研究では、刺激応答性材料の開発を目的に、光異性化能を有するアゾベンゼンを複数個側鎖に導入したポリマーブラシ(poly-1)をデザインした。研究過程において、poly-1をテフロンシートに挟んでホットプレスするだけで、ポリマーブラシの自己集合により形成される二次元格子が大面積で配列する極めて興味深い現象を見出した。この配向フィルム中で、ポリマーブラシはフィルム表面に対して垂直に配向する。光照射によって誘起される微少なアゾベンゼンユニットの構造変化は、側鎖を伝わり、ブラシの変形を引き起こす。さらに、その変化は二次元格子の変形、フィルム表面の伸縮へと階層的に伝搬され、結果としてフィルム表裏の応力バランスを崩すことによってフィルム全体の変形へと大きく増幅される(Figure 8)。このように、材料に作り込まれた一連の三次元的階層構造を経由させることで、分子レベルの運動を材料全体の運動へと伝搬・増幅させることに成功した例は過去にない。

本研究で見出した「ポリマーブラシという構造モチーフ」と「延伸テフロンシートを用いたホットプレス法」を用いる機能団の大面積かつ階層的配向法は、広い分子系に適用することが可能であり、有機材料の新たな設計指針をもたらすものと期待できる。

審査要旨 要旨を表示する

光や熱などの外部刺激により可逆的に構造を変えるアゾベンゼンやジアリールエテンといった機能分子群が知られている。しかし、それら個々の分子の変形を材料の巨視的動きに直接結びつけるための方法論の開拓は未だ残されたままであり、現在に至るまで有機・高分子化学者が意識し続けてきた問題である。一方、生体の筋肉の動きは、ナノメートルスケールの微少なタンパク質の運動が、巨視的サイズまで三次元的に発達した階層構造を経由することで効率的に伝搬・増幅され達成されている。これに倣い、本論文では分子レベルの事象を素材の巨視的変形に結びつけるための方法論の開拓を目的として、階層構造に着目したコンセプトを提案している。合成化学的に階層構造を構築するための戦略として、ポリマーブラシと呼ばれるシリンダー形状を有する分岐型高分子を用いた系を独自に考案し、研究を展開している。

序論では、まず過去に報告された主な刺激応答性材料と生体の筋肉組織を、動作原理および内部構造の違いから比較している。そして、分子レベルの事象を巨視的レベルにまで増幅するためには、階層構造を経由した段階的伝搬が重要であるというコンセプトを打ち出している。そのコンセプトに則し、ポリマーブラシをモチーフとした分子設計を提示している。具体的に、そのポリマーブラシは、ポリメタクリレートを主鎖とし、側鎖には光応答性分子であるアゾベンゼンを3個直列に連結した分子デザインとなっている。この設計により、分子内に共有結合的に二段階の階層構造を構築できる。申請者は、ここで合成したポリマーブラシが「ホットプレス法」という極めて簡単な手法により大面積かつ三次元的に配向し、多段階階層構造を有する自立フィルムを形成するという、他に類を見ない新奇な現象を発見し、これについて次章以降に報告している。さらに、そのホットプレス法で加工したポリマーブラシフィルムは、光照射に応答して大きく変形応答することを見いだしており、本論文中でそのメカニズム解明に至るまでの詳細な検討がなされている。

第1章では、デザインしたポリマーブラシの合成および、光応答挙動について述べている。紫外可視吸収スペクトル測定により、このポリマーブラシに高密度に組み込まれたアゾベンゼンは、紫外・可視光照射に応じて溶液状態、固体状態に関わらずシス・トランス光異性化を起こすことを示している。

第2章では、このポリマーブラシの自己組織化的秩序構造形成について述べている。示差走査熱量測定から、このポリマーブラシは加熱冷却過程で中間相を発現することを見いだしており、この中間相温度領域における放射光X線を用いた詳細な構造解析により、ポリマーブラシが加熱冷却過程で自己組織化的に二次元矩形格子構造を形成することを示している。すなわち、このブラシの秩序構造形成を利用することで、三段階目の階層構造の構築に成功している。

第3章では、ホットプレス法を用いたポリマーブラシのフィルム化および得られたフィルムの詳細な構造解析について述べている。このポリマーブラシを、市販の延伸テフロンシートで挟んでホットプレスし加工するだけで、光照射に応答して可逆的に湾曲変形するフィルムが得られる。このポリマーブラシフィルムについて放射光X線を用いた詳細な構造解析を行っており、その二次元散乱像から、フィルム内でポリマーブラシは、大面積で側鎖が表面に対して平行に、主鎖が表面に対して垂直になるように配向していることを明らかにしている。これにより、四段階目の階層構造を実現できたと述べている。さらに、ホットプレスで得られたフィルムの二次元X線散乱像を定量的に解析することでフィルム内の矩形格子の配向度を見積もっており、厚さ5マイクロメートルのフィルムでは配向度90%、厚さ10マイクロメートルのフィルムでは40%という結果を得ている。これに従い、ホットプレスを用いて得たポリマーブラシフィルムは、表裏で別々の配向構造を持った「バイモルフ構造」となっていることを示している。このポリマーブラシの特異な大面積配向は、ホットプレス時において、延伸テフロンシートに刻まれたポリテトラフルオロエチレンの一次元分子配向を、ポリマーブラシ側鎖が認識し、表面に対して水平かつ延伸方向に対して平行に配向し、その結果、大面積で主鎖が表面に垂直に配列するためであると考察している。すなわち、ポリマーブラシ特有のシリンダー構造によって、延伸テフロンシートに存在する一次元の分子配向情報が転写・翻訳された結果、フィルム内部の三次元的配向が達成されたと結論している。

第4章では、フィルムの光応答のメカニズムについて調査しており、ホットプレス時にバイモルフ・フィルムの表裏で別々に発生する残留応力のバランスが応答の鍵であることを突き止めている。ポリマーブラシの二次元格子は、ホットプレス時の冷却過程で異方的に変形し、フィルム表裏に残留応力を発生させる。光照射によって起こる微少なアゾベンゼンユニットの構造変化は、側鎖を伝わり、ブラシの変形を引き起こす。さらに、その変化は二次元格子の変形、フィルム表面の伸縮へと階層的に伝搬され、結果としてフィルム表裏の応力バランスを崩すことによってフィルム全体の変形へと大きく増幅される。実際に、光を照射し湾曲したフィルムのアゾベンゼンの異性化率を1H NMRを用いて見積もり、わずか1.5%であることを示している。このように、材料に作り込まれた一連の三次元的階層構造を経由させることで、分子レベルの運動を材料全体の運動へと伝搬・増幅させることに成功した例は過去にない。

以上、本論文では、機能分子の足場としてブラシ状高分子「ポリマーブラシ」を用いた系を考案し、大面積かつ階層的分子配列を一挙に達成させる手法の開拓に成功している。さらに、本手法によって達成された分子の大面積階層構造により、分子レベルで起こる事象の効率的な伝達・増幅が可能となり、結果としてマクロスケールの機能発現に通じることを実証している。この発見は、刺激応答性材料開発の発展に寄与するばかりでなく、あらゆる有機デバイスの性能を飛躍的に向上させる新技術につながる可能性が顕著である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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