学位論文要旨



No 126984
著者(漢字) 岩佐,彩香
著者(英字)
著者(カナ) イワサ,アヤカ
標題(和) エボラウイルス増殖メカニズムの解析
標題(洋) Studies on the Mechanisms of Ebola Virus Replication
報告番号 126984
報告番号 甲26984
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3594号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 笹川,千尋
 東京大学 教授 齋藤,泉
 東京大学 准教授 川口,寧
 東京大学 教授 小池,和彦
 東京大学 教授 岩本,愛吉
内容要旨 要旨を表示する

エボラ出血熱は、モノネガウイルス目、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる重篤なウイルス性急性熱性疾患である。その致死率は極めて高く、社会的に深刻な被害をもたらしている。しかし、エボラウイルスは、Biosafety Level (BSL) 4施設で取り扱わなければならない病原体であるため、その研究の進展は遅れており、ウイルス増殖メカニズムにおいても不明な点が多い。そのため、エボラウイルスに対する効果的な予防および治療法は確立されていない。そこで、本研究では、エボラウイルスの増殖過程における、ウイルス蛋白質の働きや宿主因子の役割を詳細に解析することによって、本ウイルスの増殖メカニズムを解明することを目的とする。本研究で得られる結果は、エボラウイルスに対する治療法や予防法の開発に役立つことが期待される。

まず、エボラウイルス特異的な蛋白質secreted glycoprotein (sGP)に着目し、研究を行った。エボラウイルスのsGP蛋白質は、膜貫通型GP蛋白質のN末端側のGP1部分と295アミノ酸が共通する糖蛋白質である。sGPは、ウイルス非構造蛋白質として認識されており、分泌型ホモ二量体として存在し、TNF-αによる血管内皮障害を阻害することが報告されている。しかし私は、GP蛋白質に特異的な中和抗体がsGP蛋白質と思われる蛋白質を免疫沈降すること、sGP mRNAがRNA編集により産生されるGP mRNAの約3倍産生されること、GP蛋白質のN末端側のGP1部分が単独で放出されることなどの報告から、"GPがGP蛋白質のC末端側のGP2部分と結合し膜貫通型の糖蛋白質を形成している"という仮説を立てた。本研究ではプラスミドより各蛋白質を発現させ、この仮説の検証を行った。

sGPがエボラウイルスのvirus-like particle(VLP)に取り込まれるかを調べるために、sGP, GP蛋白質発現プラスミドをVP40, NP蛋白質発現プラスミドとともに293T細胞に導入してVLPを産生させ、2回 超遠心して回収したものをウェスタンブロットで解析した。GP特異的中和抗体KZ52(GP1とGP2が形成する立体構造を認識)との反応性はFACSで測定した。感染性や中和能については水疱性口炎ウイルス由来のシュードタイプウイルスVSVΔG*を用いて検討した。

VLPのウェスタンブロットでは、全長GP(175kDa)のみでなくsGP(50kDa)とGP2(25kDa)がSS結合していると考えられるバンド(75kDa) が検出された。FACS解析ではKZ52抗体は全長GPのみでなくsGPとGP2を共発現させた細胞にも反応した。sGP単独発現やGP2単独発現の細胞にはKZ52抗体は反応しなかった。sGPとGP2を共発現させ作製したVSVΔG*(sGP+GP2)はVero E6細胞で感染性を示し、VSVΔG*(GP)と同様に濃度依存的にKZ52抗体で中和された。sGPとGPを共発現させて作製したVSVΔG*(sGP+GP)はGP単独のVSVΔG*(GP)と比べ0.5-1 log低い感染価を示した。

これらの結果から、GP蛋白質内で形成されるGP1-GP2間のSS結合のように、SS結合によりsGPとGP2の間で二量体を形成し、構造蛋白質としてエボラウイルスの感染に関与すると考えられた。今後、本物のウイルスを用いてこの現象がみられるかを検討する必要がある。

次に、エボラウイルスの増殖過程をより深く理解するため、エボラウイルス蛋白質と相互作用する宿主細胞側の因子を同定し、その宿主因子がエボラウイルスの生活環にどのように関わっているかを検討した。

VP24蛋白質は、マイナーマトリックス蛋白質として知られる、エボラウイルスの構造蛋白質である。VP24の役割としては、インターフェロン抵抗性を示すこと、ヌクレオカプシド形成に必要なこと、ウイルスゲノムの転写・複製を阻害することなどが報告されている。本研究では、より詳細なVP24の機能を調べるために、この蛋白質と相互作用する宿主蛋白質の同定を試みた。

まず、VP24をBait蛋白質として用いた免疫沈降および質量分析を行った。その結果、エボラウイルスVP24蛋白質と相互作用しうる68種類の宿主蛋白質が同定された。これらの中から、私は、Sec61αに着目し、さらに詳細な解析を進めた。その理由は、VP24は核周辺および細胞膜に局在するが、Sec61αはERに存在するため、核近傍で相互作用する可能性が高いと推測されたからである。VP24とSec61αの相互作用および核周辺での共局在を確認した。

Sec61αがエボラウイルス増殖に関わっているかどうかを調べるために、RNAi法によりSec61αの発現をノックダウンした細胞に、EbolaΔVP30ウイルスを感染させた。本実験は、共同研究者のウイスコンシン大学のDr. Peter Halfmannによって行われた。その結果、Sec61αの発現をノックダウンした細胞では、ネガテイブコントロールに比べて、EbolaΔVP30ウイルスの増殖効率が低下していた。この結果は、Sec61αがエボラウイルス増殖に重要な役割を果たすことを示している。

上述のように、VP24は、1)インターフェロン抵抗性、2)ヌクレオカプシド形成、3)エボラウイルスゲノムの転写・複製の阻害に関わることが報告されている。そこで、これらのVP24の機能へのSec61αの関与を調べるため、RNAi法によりSec61αの発現をノックダウンした293細胞において、1)~3)の効率を調べた。その結果、Sec61αは、インターフェロン抵抗性およびヌクレオカプシド形成には関与しないことが分かった。それに対して、Sec61αノックダウン細胞では、VP24によるエボラウイルスゲノムの転写・複製の阻害能が低下しており、この結果はSec61αがVP24の転写・複製の阻害能に関与することを示している。興味深いことに、Sec61αノックダウン細胞では、VP24非存在下でも、転写複製効率が 約50-60%低下していた。この結果は、Sec61αが、VP24の機能とは別に、ウイルスポリメラーゼ活性に関与する可能性を示唆している。

さらに、私は、VSVΔG*EbolaGPシュードタイプやiVLPの系を用いて、Sec61αがウイルスの侵入や出芽のステップに関与するかどうかを調べた。その結果、Sec61αはウイルスの侵入や出芽には関与しないことが分かった。

本研究から、これまで非構造蛋白質として考えられてきたエボラウイルスのsGPが構造蛋白質としてエボラウイルスの感染性に関与する可能性が示唆された。また、Sec61αという宿主因子がエボラウイルスの増殖に重要な働きをしていることが明らかとなった。本研究のように、ウイルス側と宿主側の両方のサイドから研究を進めることは、統合的にウイルス増殖メカニズムを理解することにつながり、抗ウイルス薬の開発の一助となることが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はエボラウイルスの増殖メカニズムの一端を解明することを目的として、エボラウイルス増殖過程における、sGP蛋白質の役割とVP24蛋白質と相互作用する宿主因子の役割について解析し、下記の結果を得ている。

1.これまで非構造蛋白質と考えられてきたsGP蛋白質が、エボラウイルス表面糖蛋白質であるGP蛋白質の膜貫通領域を持つGP2サブユニットとジスルフィド結合を形成し、エボラウイルスのウイルス用粒子(VLP)上に存在することが明らかとなった。

2.sGP-GP2ヘテロダイマーは、GP1-GP2ヘテロダイマーから構成されるGP蛋白質と同様の構造をとることが明らかとなった。sGP-GP2ヘテロダイマーの形成は、エボラウイルスのシュードタイプウイルスに感染性を与え、その感染性は中和抗体によって中和された。

3.sGPとGPを共発現させ作製したシュードタイプウイルスでは、GPを単独発現させ作製したシュードタイプウイルスに比べ、感染価が低下した。

4.VP24と相互作用する宿主蛋白質として、小胞体での蛋白質膜透過を担うSec61複合体の構成蛋白質であるSec61αを同定した。Sec61αはVP24と核周辺で共局在した。

5.Sec61αの発現をRNA interferenceにより抑制した細胞において、エボラΔVP30ウイルスの増殖効率が特異的に低下した。

6.Sec61αがエボラウイルスの侵入、VP24によるインターフェロン抵抗性、ヌクレオカプシド形成、出芽の段階に関与しないことが分かった。

7.Sec61αの発現をRNA interferenceにより抑制した細胞では、エボラウイルスのポリメラーゼ活性が50-60%低下し、VP24によるエボラウイルスゲノムの転写・複製の抑制効果が緩和された。

以上、本論文は、これまで非構造蛋白質として考えられてきたエボラウイルスのsGP蛋白質が構造蛋白質としてエボラウイルスの感染性に関与する可能性を示した。また、Sec61αという宿主因子がエボラウイルスの増殖に重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究は、エボラウイルスの増殖メカニズムの解明に重要な貢献を果たすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク