No | 127001 | |
著者(漢字) | 赤井,宏行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アカイ,ヒロユキ | |
標題(和) | 肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAを用いた肝細胞癌の診断 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 127001 | |
報告番号 | 甲27001 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3611号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | この数十年の間、様々な肝特異性のMRI造影剤が開発および臨床使用されてきており、そのうち親油性をもつGd-DTPAの修飾体であるGd-EOB-DTPAは最近開発されたものである。静注後早期(1分程度まで)は通常の細胞外液性造影剤と同様に血行動態の把握が可能であり、通常投与後20分程度にて撮影されるT1強調画像をベースとする画像(肝胆道相)では、肝細胞に特異的に造影剤が取り込まれており、病変との高いコントラストを示し、高い病変検出率が報告されている。本研究では、この新しい肝特異性造影剤であるGd-EOB-DTPAを用いた造影MRIによる肝細胞癌の診断能(動脈相での多血性の検出力および肝胆道相を含めたGd-EOB-DTPA造影MRI全体としての肝細胞癌の腫瘤像の検出力)について検討する。また、新たな画像である肝胆道相において、周囲肝実質よりも低信号を示す乏血性の結節が発見されるようになった。これらの結節の自然史および臨床的意義についても検討する。 Gd-EOB-DTPA造影MRIの動脈相に関しては、過去の報告ではGd-EOB-DTPA造影MRIでは肝細胞癌の多血性の検出率が低い傾向にあった。より強いT1短縮能によりある程度補われているものの、通常の細胞外液性造影剤より容量が少なく、増強効果が弱くなる惧れがあるGd-EOB-DTPAにとってはこれらの報告は非常に気がかりな報告である。しかし、これらの報告はいずれもダイナミックスタディを2Dグラジエントエコー法にて施行しており、一つの動脈相を撮影するのに20秒以上要していた。今回我々は、以前のGd-EOB-DTPA造影MRIの報告では長い撮像時間のために多血性を検出できなかったのではないかと考え、より時間分解能および空間分解能の高いLAVA法を用いてdouble arterial studyを施行し、その有用性を検討することとした。 結果、大部分の病変を多血性と診断することができ、造影CTと比較しても統計学的有意差は認められなかった。Gd-EOB-DTPA造影MRIのダイナミックスタディにおける至適投与方法および撮影時間はいまだ定まっておらず、更なる研究が必要ではあるが、当研究にて用いた手法を用いれば、Gd-EOB-DTPA造影MRIは臨床における肝細胞癌の診断に十分用いうるモダリティであると考えられた。 続いて、上記のdouble arterial studyに加えて、門脈静脈相さらには新しい画像である肝胆道相等の全ての所見を参照し、64列MDCTのダイナミックスタディと肝細胞癌の検出能について比較した。最近の韓国からの報告では、Gd-EOB-DTPA造影MRIがより検出に優れているとする報告や両モダリティがほぼ同様であるとする報告がなされていたが、前者は動脈相に重きをおいた報告であり、後者はMDCTの列数が4~16と統一されていなかった。今回我々は最新式の64列MDCTと比較することで、Gd-EOB-DTPA造影MRIの有用性について検討することとした。特に、Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝胆道相での低信号が造影CTの平衡相の染まり抜けよりも明瞭に肝細胞癌か描出できるどうか、さらにそれにより読影の再現性が向上するかどうかについて検討した。 結果、2名の読影医ともに、Gd-EOB-DTPA造影MRIにてより高い感度を示したが、1名でのみ統計学的有意差が認められた。また、読影の再現性についても2名の読読影医ともにGd-EOB-DTPA造影MRIにてより高い再現性を示したが、明らかな統計学的有意差は認められなかった。 最後に、肝細胞癌精査の検査において頻繁に認められる乏血性の肝胆道相での低信号結節の自然史および臨床的意義は明らかにされていない。そこで、我々は、Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝胆道相にて低信号を呈する乏血性結節を有する患者の縦断的研究をすることで、これら低信号結節の自然史および臨床的意義を調べた。 結果、造影MRIの肝胆道相にて認められた132個の5mm以上の低信号結節のうち10病変(7.6%)が古典的肝細胞癌となり、これら低信号結節からの古典的肝細胞癌の累積発生率は1年で3.3%、2年で14.5%であった。5mm以上の結節は、5mm未満の結節よりも有意差をもって古典的肝細胞癌の発生リスクが高かった。より大きな結節については、より高いリスクが認められたが、明らかな統計学的有意差は得られなかった。さらに、これらGd-EOB-DTPA造影MRIの肝胆道相にて認められる低信号結節のうち、造影CTでは同定できない結節が同定できる結節よりもやや高い古典的肝細胞癌の累積発生率を示したが、こちらも明らかな統計学的有意差は認められなかった。また、Gd-EOB-DTPA造影MRIでは同定できず、造影CTにて乏血性結節として同定できた結節からは一例も古典的肝細胞癌が発生しなかった。Gd-EOB-DTPA造影MRIと造影CTの組み合わせにより古典的肝細胞癌になるリスクが高い結節と低い結節を明らかにできる可能性があると考えられた。 患者ごとの解析においては、統計学的有意差は認められなかったものの、全体の再発率は低信号結節からの再発のみを考慮した再発率と比較すると明らかに高かった。この点を踏まえると、MRIの肝胆道相にて認められた5mm以上の低信号結節は2年で14.5%と比較的高い割合で古典的肝細胞癌になったが、これらの低信号結節以外の部位からの肝細胞癌の発生も多く認められ、Gd-EOB-DTPA造影MRIを用いても再発部位を推測することは難しいと考えられた。 | |
審査要旨 | 本研究は、新しい肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAを用いた造影MRIによる肝細胞癌の診断に重要な二つの基礎的な内容について検討している。さらに、Gd-EOB-DTPAによってもたらされた新たな撮像画像である肝胆道相にて発見されるようになった低信号結節の自然史についても臨床的に検討しており、下記の結果を得ている。 1.Gd-EOB-DTPA造影MRIにおける肝細胞癌の多血性の検出力の検討においては、大部分の肝細胞癌を多血性と診断することができ、造影CTと比較しても有意差は認められず、Gd-EOB-DTPA造影MRIは臨床における肝細胞癌の診断に十分用いうるモダリティであることが示された。 2.Gd-EOB-DTPA造影MRIにおける肝細胞癌の腫瘤像の検出力の検討においては、いずれの読影医にてもGd-EOB-DTPA造影MRIは造影CTより高い感度および再現性を示した。上記の1.の結果と踏まえて、Gd-EOB-DTPA造影MRIは64列造影MDCTと同等以上の肝細胞癌の検出能があると考えられ、Gd-EOB-DTPA造影MRIは造影CTと替わって肝細胞癌の画像的検索における主役を今後担っていきうることが示された。 3.Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝胆道相での低信号結節の自然史の検討においては、5mm以上の低信号結節からの古典的肝細胞癌の累積発生率は1年で3.3%、2年で14.5%と高いことが示された。しかし人ごとにみると再発症例の半数はこれらの低信号結節以外の部位から先に肝細胞癌が発生しており、Gd-EOB-DTPA造影MRIを用いても再発部位を推測することは難しいことも示された。 以上、本論分は肝細胞癌診断におけるGd-EOB-DTPA造影MRIの有用性およびGd-EOB-DTPA造影MRIの肝胆道相にて認められる低信号結節の自然史について明らかにした。本研究は、肝細胞癌の画像的検索においてGd-EOB-DTPA造影MRIが重要な役割を示すことを証明することで、肝細胞癌の臨床的診断に貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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