学位論文要旨



No 127005
著者(漢字) 橋本,成世
著者(英字)
著者(カナ) ハシモト,マサトシ
標題(和) 放射線治療における品質保証に関する研究
標題(洋)
報告番号 127005
報告番号 甲27005
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3615号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 桐生,茂
 東京大学 教授 宮川,清
 東京大学 講師 山本,希美子
 東京大学 特任准教授 石川,晃
 東京大学 講師 西松,寛明
内容要旨 要旨を表示する

はじめに

医療技術の発展は著しく、新規装置が次々と導入されている。これに伴い、今まで放射線治療で行われてきた品質保証(QA)が時代遅れとなり、さらにQAが確立していない新規放射線治療装置が導入される場面が多くなってきた。本論文は最新の医療技術に関する放射線治療のQAについて研究を行った。本論文は2部で構成される。第1部ではイメージングプレート(IP)を用いた線量プロファイル測定に関する研究について述べる。これは、放射線治療のQAの中でも最も基礎的な役割の一つである、線量分布の新測定技術に関する研究である。この新測定技術は高精度放射線治療時代における放射線治療計画システム(RTPS)登録用データの測定や線量分布の経時的な変化の観測に応用が可能となる。第2部では強度変調放射線治療(IMRT)の検証に関する研究として、ヘリカルトモセラピーのマルチリーフコリメータ(MLC)動作検証法について述べる。ヘリカルトモセラピーは連続回転型のIMRT専用機であり、本研究ではこのIMRTのQAに対する新たなMLC動作検証法を提案する。

第1部

コンピューテッドラジオグラフィ(CR)の普及に伴い、放射線治療においてフィルムを用いた線量測定が不可能となる施設が多くなってきている。これに対応するため、CRで用いるIPをフィルムの代わりに線量測定に使用する研究が行われている。一般的にCRを導入している施設ではIPを所持していることになるために、IPがフィルムの代わりに使用できるようになれば、この手法がすぐに普及する土壌がある。このようにIPを使ったQAツールはフィルムの代替品の候補として期待されるものであったが、IPはバリウムといった高原子番号物質を含むことにより生じるエネルギー依存のため、誤差が生じるという問題点があった。このエネルギー依存による誤差を金属フィルタで補正できるという先行論文はあるが、補正に用いる金属フィルタについて、十分な精度で検討がなされていない。本研究ではIPのエネルギー依存を補正するための金属フィルタについて、様々な材質や厚さをシミュレートできるようモンテカルロシミュレーション(MCシミュレーション)を用い、軸外線量比(OAR)測定に着目して検討を行い、IPを用いた線量プロファイル測定において4MV X線に対するフィルタの最適な材質・厚さ・位置を見つけ出すことを目的とした。

MCシミュレーションの計算コードはGEANT4を使用した。シミュレーションに用いるX線スペクトルはSchiffが求めた理論式から作成し、IPは富士フィルム株式会社製のST-VNを模擬して作成した。ここで作成したX線スペクトルとIPが現実と大きく異なっていては計算精度に問題が生じるため、始めに条件設定の妥当性を評価した。妥当性評価はシミュレーションと実測の深部量百分率とOARを比較することで行い、両者とも良く一致していることを確認した。

次に金属フィルタの材質・厚さ・位置を変化させてシミュレーションを行った。フィルタの厚さと位置を固定させて原子番号および密度を変化させたところ、高原子番号、高密度の材質でフィルタ効果が高くなることが分かった。原子番号と密度が大きく、放射線の分野で良く使用される材質であり、且つ現実的に扱いやすいことから、金属フィルタとしては鉛が最適だと考えられる。また、フィルタとIPの間隔をあけるとフィルタ効果が小さくなり、フィルタ厚を厚くすることでフィルタ効果は大きくなるということが分かった。本研究の結果、水吸収線量で計算したOARに最も一致したフィルタの条件は、2mm厚の鉛を5mmの間隔をあけてIPの両側に配置させた時及び、間隔をあけずに1mm厚の鉛をIPの両側に配置させた時であった。これらのフィルタを用いて線源-表面間距離 100cm、表面照射野10×10cm2、10cm深においてOAR測定を行った場合、照射野内においては両者とも2.0%以内、照射野外においてはそれぞれ1.1%、0.6%以内で一致した。こうして、本研究によりIPを用いた線量プロファイル測定において誤差を改善するフィルタの材質、厚さ、位置を示すことができた。このフィルタ条件を用いることにより、フィルムを用いて行っている線量プロファイルの経時変化や新規装置導入時のデータ測定に対し、IPを使用することが可能だと考えられる。

第2部

IMRTは腫瘍に線量を集中させ、その周囲の線量を抑えて照射することができる利点がある。従来の放射線治療と比較して、IMRTは複雑な線量分布を形成するため、計画通りの治療が実際に行われるかどうかを実測によって事前に検証を行うことが必須となっている。ヘリカルトモセラピーの検証はフィルムによる2次元線量分布の測定と電離箱線量計による絶対線量を測定する方法が一般的であるが、これらは基本的には積算線量の測定だけ行われる。ヘリカルトモセラピーはガントリの回転と共にMLCが動作するために、ガントリの角度によってMLCが計画通り動作しているかを確認することが重要である。しかしながら、これを測定できる測定器は現在のところ存在しない。

そこで、プラスチックシンチレータ(PS)とデジタルビデオカメラ(DV)を用い、ヘリカルトモセラピーの回転照射中のMLC動作測定法を新たに考案した。PSはX線を照射するとX線束に応じたシンチレーション光を発光する特性を持つ。このシンチレーション光をDVで観測することによって、回転照射中のMLCの動作を外部から測定でき、ガントリ動作とMLC動作を直接に測定できると考えた。第2部では、ヘリカルトモセラピーの回転照射中におけるMLC動作測定を本測定法によって実現することを目的とした。

本研究では直径20cm、長さ10cmの円柱状のPSを用いた。このPSをガントリの中心に配置して100cm離した位置からDVを用いてシンチレーション光を収集した。シンチレーション光からリーフ動作を観測するために各リーフ番号に対応した関心領域(ROI)を配置した。そしてROIで得られる収集光量からMLC動作を記述したファイルであるサイノグラムを構成し、照射に用いたサイノグラムとの比較を行った。MLC動作の実測は2つのサイノグラムを使用した。1つは単純プランとして強度変調を行わないサイノグラムである。もう1つは臨床プランとして前立腺IMRTの照射に使用した強度変調を行ったサイノグラムである。

まず、収集光量からサイノグラムを構成するために必要な基礎試験を行った。項目は、収集光量とリーフ開閉時間の関係、収集光量のX軸方向のプロファイル、照射時間による収集光量の変化、収集光量の照射野依存性、ガントリ回転速度の測定である。収集光量とリーフ開閉時間の関係は直線関係にあり収集光量からリーフの開閉時間を求めることが可能であることが示された。X軸方向プロファイルは、中心にピークがあり、中心から離れるに従い信号値は減少し、飽和する傾向を示した。次に、300 秒の連続照射を行ったところ、収集光量は直線的に減少する傾向を示した。この傾向は電離箱線量計による結果でも見られることから、収集光量の増減はX線出力の変化を反映しているものであり、シンチレーション光自体の発光量には変化が見られないと結論した。照射野サイズを変化させた場合、収集光量は照射野サイズが大きくなるに従い増加する傾向があった。また、ガントリの回転速度は、ガントリ回転時間によらず等速であることが確認できた。

上記、基礎試験で得られた結果から収集光量に補正を行い、本測定法によるサイノグラムを構成した。強度変調を行わない単純プランのMLC動作測定においては、計画上動作するリーフを正しく認識したリーフの割合(感度)は0.998、計画上動作しないリーフを正しく認識したリーフの割合(特異度)は0.989であった。また、リーフの開閉時間は-2.8±10.5%の誤差で測定可能であった。臨床プランでは、感度と特異度はそれぞれ0.994と0.997であり、リーフの開閉時間は-7.0±15.8%の誤差で測定可能であった。残余誤差の原因としては、リーフパターンに依存するシンチレーション光の散乱に関する補正を行わなかったことがあげられる。一方で、簡便に利用可能なPSのブロックとDVを用い、煩雑な処理をせずに、実際に臨床で使用する照射においても0.99以上の感度・特異度、および-7.0±15.8%の精度での開閉時間の測定が可能である。すなわち、動作しないリーフが動作する、あるいは動作するリーフが動作しないといった異常が生じた時には本測定法で十分検出可能である。本測定法を用いることにより、従来行われているフィルムや電離箱線量計では確認できないMLCの動作を検出でき、より高精度に検証を行うことが可能となった。さらに、簡便で安価な装置ということで、様々な施設においてもQAツールとして利用可能であり、汎用性が高いと考えられる。

結語

本研究では、主として医療技術の変化に伴う放射線治療のQAについて述べた。第1部では、金属フィルタを用いることでIPを用いた線量プロファイル測定が精度良く行えることを示した。第2部では、ヘリカルトモセラピーの回転照射中のMLC動作検証法について検討を行い、円柱型のPSとDVという比較的簡便に使用できる方法で、回転照射中のMLC動作について観測できることを実証することができた。医療技術あるいは放射線治療装置の進歩が医療や社会に与えた影響は大変大きい。しかしながら、複雑化した照射法の検証作業ができていないために生じた照射事故も少なくはない。照射事故を未然に防ぐには、現状までの放射線治療の質を保ちつつ、新たな照射法に対応するQAツールを常に考案していくといった気持ちが、医療従事者として大切な心構えである。本研究ではフィルムの代わりになり得る測定法の精度を高めることに成功し、さらに今後普及していくであろうヘリカルトモセラピーのMLC動作の測定法を初めて実現した。これは今後の臨床的に大きな意義があると思われる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は医療技術の変化に伴う放射線治療の品質保証(QA)に関するものであり、フィルムの代替手法となりえるイメージングプレート(IP)を用いた線量プロファイル測定における精度向上を試みた。また、ヘリカルトモセラピー方式の強度変調放射線治療(IMRT)におけるマルチリーフコリメータ(MLC)動作の検証を試み、下記の結果を得ている。

1.IPで線量プロファイルを測定する際にフィルタを用いることで誤差が減少し、原子番号と密度の大きい材質でフィルタ効果が大きくなることが示された。原子番号と密度が大きく、放射線の分野で良く使用される材質であり、且つ現実的に扱いやすいことから、フィルタ材質としては鉛が最適だと示唆された。

2.片側のみにフィルタを配置するよりも両側に配置することで大きなフィルタ効果が得られ、フィルタとIPの間隔をあけるとフィルタ効果が小さくなり、フィルタ厚を厚くすることでフィルタ効果は大きくなるということが示された。

3.水吸収線量で測定した線量プロファイルに近い結果が得られるフィルタ条件は、5mmの間隔をあけて両側に2mm厚の鉛フィルタを配置した場合、および間隔をあけずに両側に1mm厚の鉛フィルタを配置させた場合と示された。これらのフィルタ条件を用いることにより、照射野外の吸収線量の誤差は1.1%以内、照射野内においては2.0%以内で測定が可能と示された。

4.ヘリカルトモセラピーにおけるMLC動作測定法を、プラスチックシンチレータとデジタルビデオカメラを用いて作成した。シンチレーション光の挙動をデジタルビデオカメラで記録し解析することで、回転照射中におけるヘリカルトモセラピーのMLC動作を捉えることが可能と示された。

5.単純プランと臨床プランの2種類のMLC動作を観測した結果、単純プランではサイノグラム上動作するリーフに対して収集光量から動作したと認識したリーフの割合(感度)は0.998、サイノグラム上動作しないリーフに対して収集光量から動作しないと認識したリーフの割合(特異度)は0.989であった。また、リーフの開閉時間は-2.8±10.5%の誤差で測定可能であった。臨床プランの照射では、感度と特異度はそれぞれ0.994と0.997であり、リーフの開閉時間は-7.0±15.8%の誤差で測定可能であった。

以上、本論文はIPを用いて精度良く線量プロファイル測定が行えるフィルタ条件を示した。また、ヘリカルトモセラピーの回転照射中のMLC動作測定法を開発し、検証を行えることを示した。本研究の結果からフィルムレス化によって今後フィルムの使用ができなくなっても、IPを使用することにより放射線治療の質を保てることが示唆された。また、従来測定が不可能であったヘリカルトモセラピーのMLC動作を測定可能にし、従来以上に詳細な検証が行えることを示した。これらの結果は、今後の放射線治療のQAに重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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