学位論文要旨



No 127058
著者(漢字) 成本,治
著者(英字)
著者(カナ) ナルモト,オサム
標題(和) 新規喘息治療に向けた気道上皮細胞を標的とした気道炎症の制御についての解析
標題(洋)
報告番号 127058
報告番号 甲27058
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3668号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 准教授 秋下,雅弘
 東京大学 准教授 中島,淳
 東京大学 准教授 中村,元直
 東京大学 講師 土肥,眞
内容要旨 要旨を表示する

喘息の新規治療法を目指し,喘息の病態を気道の慢性炎症および気道上皮細胞の分化の側面から解析し,制御法を探索した。第一に炎症抑制作用のあるα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)に特異的に働く内因性コリン作動性物質(SLURP-1)に注目し,気道線毛上皮細胞がSLURP-1を介して気道炎症を調整している可能性を明らかにした。次に,ステロイド薬では制御困難な,慢性気道炎症,気道リモデリング,上皮間葉移行(EMT)を抑制する分子として,新規クルクミン誘導体の作用を検討した。炎症性サイトカイン抑制,SERPINE1発現抑制,Smad3のリン酸化の抑制を介してそれらを制御できる可能性を示した。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、喘息において現時点で治療が困難な慢性気道炎症、気道リモデリングに焦点を当て、その原因の解析、治療を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.SLURP-1(secreted mammalian lymphocyte antigen-6/urokinase-type plasminogen activator receptor-related protein-1)はα7nAChR(alpha-7 nicotinic acetylcholine receptor)のアロステリックリガンドであるが、ヒトの気道上皮細胞がSLURP-1を発現することをはじめて確認した。

2.SLURP-1の発現は、ヒトの正常気道上皮細胞を使用した培養系において喘息の病態に中心的な役割を果たすIL-13(interleukin-13)を添加することで著明に低下した。

3.In vivoにおいて、OVA(ovalubumin)によってアレルギー性の気道炎症を誘導した際に、線毛上皮細胞は粘液産生細胞に置換される。その際にSLURP-1は粘液産生細胞にはほとんど発現がないことを確認し、喘息病態においてSLURP-1の発現が大きく低下することを確認した。

4.SLURP-1はα7nAChRに結合し、抗炎症効果を調整しているため、SLURP-1の発現低下が喘息における慢性気道炎症の原因のひとつとなっている可能性が示された。

5.CNB001はクルクミン誘導体であるが、ヒト正常気道上皮細胞をLPS(lipopolysaccharide)、Poly(I:C)(polyinosinic-polycytidylic acid)で刺激した際の炎症性サイトカインの放出をステロイドより強力に抑制することを確認した。

6.CNB001はin vivoにおいてエラスターゼ、Poly(I:C)により誘導した炎症を抑制することを確認した。

7.EMT(epithelial-mesenchymal transition)は気道のリモデリングの原因のひとつと考えられているが、CNB001はSmad3のリン酸化の抑制を介してEMTを抑制することが示された。

8.SERPINE1(serine peptidase inhibitor, clade E member 1)は気道リモデリングを誘導することが知られているが、デキサメサゾンによって発現が増加する。CNB001は、デキサメサゾンによって増加するSERPINE1の発現を抑制することを確認した。

以上、本論文は喘息において気道に慢性炎症が持続する原因のひとつとしてSLURP-1の発現低下が関与する可能性を示した。また、ステロイドによる抑制が乏しい気道のリモデリング及び好中球性の炎症に関してCNB001が有用である可能性を示した。喘息は現在想定3億人が罹患しており、今後も増加することが予測されている。従来の治療に抵抗性の難治性喘息の患者は多く、気道リモデリング、慢性の気道炎症を抑制する治療が強く必要とされている。本研究は気道炎症の改善、気道リモデリングの改善に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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