学位論文要旨



No 127063
著者(漢字) ,敬文
著者(英字)
著者(カナ) ハマサキ,ヨシフミ
標題(和) シンバスタチンはマウス尿細管間質線維化モデルにおいてUSAG-1を抑制することでEMTを改善する : シンバスタチンによる腎線維化抑制のメカニズム
標題(洋) Simvastatin ameliorates epithelial-to-mesenchymal transition (EMT) by suppressing uterine sensitization-associated gene-1 (USAG-1) in mouse tubulointerstitial fibrosis model
報告番号 127063
報告番号 甲27063
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3673号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 准教授 植木,浩二郎
 東京大学 特任准教授 石川,晃
 東京大学 講師 幸山,正
 東京大学 講師 榎本,裕
内容要旨 要旨を表示する

Uterine sensitization-associated gene-1 (USAG-1), a bone morphogenetic protein-7 (BMP-7) antagonist, is assumed to promote renal fibrosis because BMP-7 has anti-fibrotic effect by counteracting transforming growth factor-β1 (TGF-β1) induced epithelial-to-mesenchymal transition. We evaluated whether simvastatin (SIM), a 3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase inhibitor, attenuates renal fibrosis by modulating USAG-1. C57/BL6 mice fed a 0.2% adenine-containing diet for 4 weeks developed renal dysfunction accompanied with severe tubulointerstitial fibrosis. Subsequent SIM treatment (50mg/kg/day) for 2 weeks significantly suppressed fibrosis progression and α-smooth muscle actin (α-SMA) expression in the kidney. SIM reduced USAG-1 expression and increased BMP-7 signaling without affecting BMP-7 expression in the kidney. Because USAG-1 is expressed in renal distal tubular epithelial cells, we conducted in vitro experiments using Madin-Darby Canine Kidney (MDCK) cells. MDCK cells incubated with TGF-β1 showed increased expression of USAG-1; SIM significantly reduced USAG-1 expression. Gene knock-down experiments using MDCK cells suggested that homeobox protein Hox-A13 (HOXA13) functions as a suppressor of the USAG-1 gene and that SIM decreased USAG-1 expression by increasing HOXA13. The data from our study demonstrate that HOXA13-USAG-1 axis contributes to the renal anti-fibrotic effect of simvastatin, and this axis will be a therapeutic target for preventing renal fibrosis.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は脂質異常症治療薬の一つであるシンバスタチンによる腎線維化抑制効果のメカニズムの解明のため、尿細管間質線維化モデルマウスおよびMDCK細胞をTGF-βで刺激してepithelial-to-mesenchymal transition (EMT)を誘導する系を用いた実験を行い、下記の結果を得ている。

マウスにアデニン含有飼料を4週間与えて尿細管間質線維化モデルを作成し、シンバスタチンの経口投与を2週間行うin vivoの実験を行ったところ、シンバスタチン投与によって腎機能(血中BUNおよびCre値)は有意に改善していた。また、血中コレステロール値はシンバスタチン投与群と非投与群で有意差はなかった。以上より、シンバスタチンによる腎機能改善効果は脂質レベルの変化によるものではないと考えらえられた。

シンバスタチンによって、腎組織のMT染色やα-smooth muscle actin (α-SMA) 染色で評価した腎線維化やEMTが有意に改善していることが示された。

シンバスタチンはQuantitative PCRで評価した腎組織のuterine sensitization-associated gene-1 (USAG-1)の発現を有意に改善したが、bone morphogenic protein-7 (BMP-7)の発現は変化させなかった。また、western blottingで腎組織内のphosphorylated Smad15/8 (pSmad 1/5/8)の発現を評価すると、シンバスタチンによりpSmad1/5/8の発現が有意に上昇していた。以上の結果から、シンバスタチンはBMP-7の発現を亢進させるのではなくBMP-7のアンタゴニストであるUSAG-1の発現を抑制することで、BMP-7の下流のシグナルであるpSmad1/5/8を増強していると考えられた。

シンバスタチンは、尿細管間質線維化モデルマウスの腎組織切片のF4/80染色で評価したマクロファージ浸潤を抑制しており、またQuantitative PCRで評価した腎組織のMCP-1およびTGF-βの発現を抑制していた。すなわち、シンバスタチンによる腎炎症性変化の改善効果が認められた。

MDCK細胞を用いた実験で、シンバスタチンによってTGF-βで誘導されるMDCK細胞のα-SMA 発現(EMT)は有意に抑制された。しかしその効果はHOXA13をRNAiでノックダウンすると認められなくなった。

Quantitative PCRによる評価において、MDCK細胞をTGF-βで刺激すると細胞内のUSAG-1発現は有意に上昇したが、シンバスタチンによって抑制された。一方、BMP-7の発現はシンバスタチン投与によっても変化しなかった。また、HOXA13の発現はUSAG-1とは反対に、TGF-βの刺激で有意に減少したがシンバスタチンによって改善した。

RNAiによってHOXA13をノックダウンした状態でMDCK細胞をTGF-βで刺激しシンバスタチンによる介入を行うと、シンバスタチンによるUSAG-1改善効果は認められなくなった。一方、BMP-7の発現はHOXA13のノックダウンによっても有意な変化はなかった。上記の6も踏まると、シンバスタチンのUSAG-1抑制効果は、シンバスタチンによるHOXA13の増強を介していることが示唆された。

in vivo およびin vitroの実験でEMTの指標としてα-SMAの発現を評価したが、上皮系のマーカーの発現がアデニン投与やTGF-βにより減弱しているかどうかやシンバスタチンによってそれが改善しているかどうかについても評価することがより望ましいと考えられ、考察でこの点についてディスカッションした。

以上、本論文は、シンバスタチンがUSAG-1抑制効果を介してEMTを改善し、尿細管間質線維化抑制に寄与していると考えられた。また、in vitroの実験結果から、シンバスタチンによるUSAG-1抑制効果は転写因子の一つであるHOXA13を介しており、シンバスタチンはHOXA13の発現を増強することでUSAG-1を抑制していることが示唆された。本研究はこれまで十分明らかにされていないシンバスタチンの腎保護効果メカニズムの一つとして、HOXA13―USAG-1経路の関与があることが示唆され、今後の慢性腎臓病に対する治療薬の開発などに貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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