学位論文要旨



No 127099
著者(漢字) 加賀谷,英生
著者(英字)
著者(カナ) カガヤ,ヒデオ
標題(和) 環状型RGDペプチドをリガンドとして装着した高分子ナノミセルが、血管疾患への遺伝子導入に与える影響
標題(洋) Impact of polyplex micelles installed with cyclic RGD peptide as ligand on gene delivery to vascular lesions
報告番号 127099
報告番号 甲27099
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3709号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安原,洋
 東京大学 教授 鈴木,洋史
 東京大学 特任准教授 星,和人
 東京大学 准教授 西山,伸宏
 東京大学 講師 小笠原,徹
内容要旨 要旨を表示する

序文

遺伝子治療を成功させるには、効果的な遺伝子デリバリーシステムの構築が必須である。近年、ウイルスベクターに代わる候補として高分子ナノミセルが注目を集めるようになってきた。高分子ナノミセルはその特徴的な構造がゆえ、生体適合性、低毒性といった特性を持つ。また、表面にリガンドと呼ばれるペプチドを装着させることにより、様々な特性を加えることが可能である。今回、そのリガンドとして環状RGDペプチド(cRGD)を選択した(図1)。

cRGDは、血管内膜肥厚に関与するとされるαvβ3ならびにαvβ5インテグリンを選択的に認識する。したがって、cRGDをリガンドとして装着した高分子ナノミセルは、血管病変をターゲットとした遺伝子デリバリーシステムのベクターとして働くことが期待できる。そこで、今回、このcRGD装着高分子ナノミセルの血管病変に対する遺伝子導入効率評価を目的とした研究を進めることとした。

方法および結果

培養細胞を用いた検討

In vitroでのHUVECならびにVSMCに対する遺伝子導入

ルシフェラーゼタンパク発現プラスミドDNA (pDNA)とcRGD-PEG-PAsp(DET)を様々なN/P比(ポリマーに含まれるアミノ基のモル数と、pDNAに含まれるリン酸のモル数の比)でコンプレックス形成させ、HUVECならびにVSMCに投与した。遺伝子発現量は投与より24時間後のルシフェラーゼ活性を測定することで評価した。また、PEG-PAsp(DET)に対しても同様の方法で実験を行いコントロールとした。HUVECに対する遺伝子導入実験では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたルシフェラーゼ活性は、コントロールと比べ、N/P比5および10において有意に高かった(図2 a)。同様に、VSMCに対する遺伝子導入実験では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたルシフェラーゼ活性は、コントロールと比べ、N/P比4および5において有意に高かった(図2 b)。

高分子ナノミセルの細胞内取り込み

培養細胞へのcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルの取り込み量を評価するために、Cy5を標識したpDNAとcRGD-PEG-PAsp(DET)から形成されるミセル(N/P比5)を調製し、HUVECならびにVSMCに投与した。投与後0.5, 1, 3, 6時間にて、細胞内に取り込まれたCy5の蛍光強度をフローサイトメトリーにて定量した。PEG-PAsp(DET)に対しても同様の方法で実験を行いコントロールとした。0.5, 1,3時間後の測定において、HUVEC, VSMCともに、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群はコントロールと比較して有意にCy5蛍光強度が高かった(図3 a, b)。

高分子ナノミセルの細胞内動態

高分子ナノミセルの細胞内動態を評価するために、cRGD-PEG-PAsp(DET)またはPEG-PAsp(DET)とCy5標識pDNA(Cy5-pDNA)から形成されるミセル(N/P比5)を調製し、HUVECならびにVSMCに投与後、6および24時間のCy5-pDNA(赤)の細胞内分布を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。また同時に、HUVECならびにVSMCをLysoTracker Green(緑)あるいはcholera toxin subunit B (CT-B) Alexa Fluor 488 (緑)を用いて染色し、それぞれ、エンドソームならびにライソゾーム、あるいはカベオソームへの局在を明らかにし、同部位に含まれるCy5-pDNAを解析した。HUVECを用いた観察では、投与後6および24時間の観察でともに、PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAは、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAと比較して、よりLysoTracker Greenと共局在する頻度が高かった(図4 b)。それとは逆に、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAは、PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAと比較して、よりCT-Bと共局在する頻度が高かった(図4 a)。これらの所見は共局在比率の定量解析によっても確認された(図4 c, d)。VSMCに対しても同様の方法で実験を行ったが、投与後6および24時間の観察において、ともに、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAは、CT-Bと共局在する傾向にあり、また、PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のCy5-pDNAはLysoTracker Greenと共局在する傾向にあった。こちらも同様に定量解析によっても確認された(図4 e-h)。

内膜肥厚モデルを用いた検討

内膜肥厚モデルにおける遺伝子発現

はじめに、動脈硬化を近似したモデルを作成するため、ラットの頸動脈をバルーンカテーテルにて擦過し、内膜肥厚を励起させた。続いて、ルシフェラーゼ発現pDNAとcRGD-PEG-PAsp(DET)とをN/P比5で調製し、擦過より21日後の内膜肥厚をきたしたラットの頸動脈に投与した(図5)。

投与1,2,3ならびに4日後に頸動脈を採取してルシフェラーゼ活性を測定し、頸動脈における遺伝子発現を評価した。PEG-PAsp(DET)に対しても同様の方法で実験を行いコントロールとした。cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈では投与後day 2の時点におけるルシフェラーゼ活性がもっとも高く、投与後day 3ならびにday 4のルシフェラーゼ活性は投与後day 1のそれとほぼ同等であった(図6)。一方、PEG-PAsp(DET)を投与された動脈では、ルシフェラーゼ活性は投与後day 1でピークを迎え、投与後day 3ならびにday 4はごくわずかであった。統計学的解析では、投与後day 1での比較においてPEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群のルシフェラーゼ活性は、cRGD-PAsp(DET)ミセルを投与された群に比べ有意に高かった。しかしながら、投与後day 3ならびにday 4での比較においては、逆にcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群は、PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群に比べ有意に高かった。

In vivoでの高分子ナノミセルの取り込み

内膜肥厚をきたしたラットの頸動脈への取り込みを評価するために、Cy3を標識したpDNAとcRGD-PEG-PAsp(DET)またはPEG-PAsp(DET)とのミセルをN/P比5で調製して、ラットの頸動脈へ前述の実験と同様の方法で投与した。ミセル投与1日後、頸動脈を採取して蛍光顕微鏡にて動脈断面を観察した。cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与した動脈では、肥厚した内膜にCy3の蛍光が密に認められるのに対し、PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈では、Cy3の蛍光は内膜にまばらに認めるのみであった(図7 a, b)。Cy3の強度は、蛍光強度を測定することで定量的に評価され、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈の蛍光強度は、PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈のそれよりも有意に高かった(図7 c)。

考察

本研究は、cRGDを、αvβ3およびαvβ5インテグリンを選択的に認識するリガンドとしてPEG-PAsp(DET)ミセルの表面に導入し、そしてその培養細胞ならびに動脈硬化近似モデルに対する遺伝子導入効率を評価した。

In vitroでの遺伝子発現実験では、HUVEC, VSMCどちらの細胞においても、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルの遺伝子発現効率はPEG-PAsp(DET)ミセルのそれよりも高かった。この結果は、cRGDが遺伝子発現効率を改善させる可能性を持つことを示すものと考えられた。これを説明する機序として、第一に、cRGDとαvβ3ならびにαvβ5インテグリンの関係により、レセプターを介したエンドサイトーシスが実現し、それによって細胞内取り込みを効果的に上昇させている可能性があるということが考えられた。実際、HUVECならびにVSMCどちらの細胞においても、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたCy5-pDNAの取り込みは、PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたそれよりも有意に上昇していた。第二に、cRGDが、取り込まれた後のミセルの細胞内動態を制御している可能性があるということが考えられた。共焦点レーザー顕微鏡によるHUVEC, VSMCの観察では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルによって導入されたpDNAはカベオソームと共局在する傾向にあり、またPEG-PAsp(DET)ミセルによって導入されたpDNAはエンドソームやライソゾームに局在する傾向にあった。このことはcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルの細胞内取り込みの主要経路が、通常のクラスリン介在型から、カベオラ介在型エンドサイトーシスに変化した可能性を示唆しているものと思われた。クラスリン介在型とは対照的に、カベオラ介在型エンドサイトーシスによる細胞内取り込み経路は、代謝分解を促すオルガネラを回避し、pHの低下に関与しないことが知られている。それゆえ、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルは細胞内酵素による代謝分解を回避し、その結果、遺伝子発現効果を高めている可能性が考えられた。

In vivoでの遺伝子発現実験では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルとPEG-PAsp(DET)ミセルとで明確な差を示した。すなわち、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いた遺伝子導入は、遺伝子発現効果が持続する作用を発揮したのに対し、一方、PEG-PAsp(DET)ミセルを用いて導入された遺伝子は、反応は早いが速やかにその効果が消退する発現反応を示した。これら二つのミセルの間にみられた対照的な遺伝子発現反応は、細胞内に取り込まれた後の動態の相違によって説明し得ると考えられた。cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルは細胞内酵素による代謝分解を回避することで、細胞内でのpDNAの半減期を延長させ、そのため導入された遺伝子が持続性の発現を示すようになった可能性があったと考えられた。加えて、pHの低下を回避することは、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル内のPAsp(DET)カチオンポリマーにてエンドソーム膜の不安定化が起こりにくくなることを意味し、それによって導入された遺伝子の細胞質への移行を遅延させている可能性も考えられた。実際、in vivoでの遺伝子取り込みを評価した実験では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたCy3-pDNAの取り込みは、導入後day1で、PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたそれよりも多かったのにもかかわらず、遺伝子発現を評価した実験では、導入後day1ではPEG-PAsp(DET)ミセルを用いた遺伝子発現がcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いたそれよりも高かった。対照的に、PEG-PAsp(DET)ミセルの大部分は、クラスリン介在型エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた後、エンドソームに送り込まれるのではないかと考えられた。エンドソーム内の低いpHは一部のPEG-PAsp(DET)ミセルをプロトン化し、そしてエンドソーム膜を不安定化することによって遺伝子の細胞質への移行を促進させ、そのことによって導入された遺伝子の素早い発現を促している可能性があると考えられた。しかしながら、PEG-PAsp(DET)ミセルは最終的にライソゾームに送り込まれ、そこで酵素による加水分解をうけて代謝されてしまうため、遺伝子発現効果は一過性のものとなる傾向が出るのではないかと考えられた。

結論

cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルは、培養細胞に対しての遺伝子発現および細胞内取り込みのいずれも、PEG-PAsp(DET)ミセルよりも効果的であることが示された。また、細胞内動態に関する検討では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルはカベオラ介在型、PEG-PAsp(DET)ミセルはクラスリン介在型エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが示された。さらに、内膜肥厚モデルを用いての遺伝子導入に関する検討では、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルは持続性の、PEG-PAsp(DET)ミセルは即効性かつ一過性の遺伝子発現効果を示した。以上より、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルとPEG-PAsp(DET)ミセルは、遺伝子発現において明確に異なる特徴を有しており、血管病変に対しての非ウイルスベクターとして効果的に機能するものであると考えられた。

図1. cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルのシェーマ(a)と化学構造(b)

図2. In vitroでのルシフェラーゼ遺伝子発現の評価 HUVEC (a)ならびにVSMC(b)に対し様々なN/P比のcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルならびにPEG-PAsp(DET)ミセルを導入した。遺伝子発現は導入後24時間でのルシフェラーゼ活性の測定にて評価した。数値は平均値±標準誤差(* P < 0.05)。RGD(-)=PEG-PAsp(DET)ミセル。RGD(+)=cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル。

図3. ミセルの細胞取り込みの評価(N/P比5) Cy5-pDNAとcRGD-PEG-PAsp(DET)から形成されるミセル(N/P比5)を調製し重合し、HUVEC (a) ならびにVSMC(b)に投与した。同様の方法でPEG-PAsp(DET)ミセルを調製、投与しそれをコントロールとした。両者を様々な培養時間にて測定し、平均蛍光強度を比較した。数値は平均値±標準誤差(* P <0.05, ** P < 0.01)。RGD(-)=PEG-PAsp(DET)ミセル。RGD(+)=cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル。

図4. ミセルにより導入されたpDNAの細胞内分布 Cy5をラベルしたpDNAを内包したcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルおよびPEG-PAsp(DET)ミセルをHUVEC (a,b)ならびにVSMC (e,f)とともに6時間ならびに24時間保温培養した。共焦点レーザー顕微鏡による観察を63倍の対物レンズを用いて行った。エンドソームとライソゾームはLysoTracker Greenで緑に染まり、カベオソームはCT-B Alexa Fluor 488で同じく緑に染まった。Cy5-pDNAとLysoTracker Green またはCT-B Alexa Fluor 488の共局在の比率の定量解析を行った(c, d, g, h)。数値は平均値±標準誤差。RGD(-)=PEG-PAsp(DET)ミセル。RGD(+)=cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル。

図5. ラットを用いた遺伝子導入実験

図6. in vivoでのルシフェラーゼ遺伝子発現の評価 cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルならびにPEG-PAsp(DET)ミセルをpDNAとN/P比5で調製し、内膜肥厚をきたしたラットの頸動脈に投与した。投与後1,2,3,4日後に頸動脈を採取し、それぞれのルシフェラーゼ活性を測定した。数値は平均値±標準誤差 (* P < 0.05, ** P < 0.01)。RGD (-)=PEG-PAsp(DET)ミセル。RGD(+)=cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル。

図14. ミセル投与後のラットの頸動脈の断面の蛍光顕微鏡写真

Cy3-pDNAとcRGD-PEG-PAsp(DET)をN/P比5で合成させ、ラットの頸動脈に投与し、24時間にて頸動脈を採取し、断面を観察した(a)。同様の方法でPEG-PAsp(DET)ミセルを合成、投与しコントロールとした(b)。両者の蛍光強度指数を定量解析し、平均値を比較した(c)。RGD (-)=PEG-PAsp(DET)ミセル。RGD(+)=cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル。(L:内腔、I:肥厚内膜、M:中膜、A:外膜)。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、血管病変に対する効果的な遺伝子導入を実現するため、環状型RGDペプチドをリガンドとして導入した高分子ナノミセルをベクターとして用いた遺伝子デリバリーシステムの遺伝子導入効率の評価を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. HUVECならびにVSMCに対する遺伝子発現量の解析の結果、HUVECに対しては、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いた遺伝子発現量は、PEG-PAsp(DET)ミセルと比べ、N/P比5および10において有意に高かった。同様に、VSMCに対しては、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを用いた遺伝子発現量は、PEG-PAsp(DET)ミセルと比べ、N/P比4および5において有意に高かった。

2. HUVECならびにVSMCに対する高分子ナノミセルの細胞内取り込みの解析の結果、投与後0.5, 1,3時間後の測定において、HUVEC, VSMCともに、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群はPEG-PAsp(DET)ミセルと比較して有意に細胞内取り込み量が高かった。

3. HUVECならびにVSMCに対する高分子ナノミセルの細胞内動態の解析の結果、投与後6時間ならびに24時間での観察で、ともに、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAは、PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAと比較して、よりカベオソームと共局在する比率が高かった。一方、PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAは、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAと比較して、よりエンドソームならびにリソソームと共局在する比率が高かった。

4. 内膜肥厚モデルにおける遺伝子発現の解析の結果、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈では投与後day 2の時点における遺伝子発現量がもっとも高く、投与後day 3ならびにday 4のルシフェラーゼ活性は投与後day 1のそれとほぼ同等であった。一方、PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された動脈では、投与後day 1でピークを迎え、投与後day 3ならびにday 4はごくわずかであった。統計学的解析では、投与後day 1での比較においてPEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群の遺伝子発現量は、cRGD-PAsp(DET)ミセルを投与された群に比べ有意に高かった。しかしながら、投与後day 3ならびにday 4での比較においては、逆にcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群は、PEG-PAsp(DET)ミセルを投与された群に比べ有意に高かった。

5. 内膜肥厚モデルにおける高分子ナノミセルの肥厚内膜への取り込みの解析の結果、投与1日後の観察で、cRGD-PEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAはPEG-PAsp(DET)ミセル投与後のpDNAに比べ、取り込み量が有意に高かった。

以上、本論文は、培養細胞ならびに内膜肥厚モデルにおいて、遺伝子発現ならびに取り込みの解析から、リガンドを導入されたcRGD-PEG-PAsp(DET)ミセルはPEG-PAsp(DET)ミセルとは異なる特徴を有することを明らかにした。本研究はこれまで優れた方法が皆無に等しかった、非ウイルスベクターを用いた血管病変への遺伝子デリバリーシステムの構築に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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