学位論文要旨



No 127101
著者(漢字) 川島,大
著者(英字)
著者(カナ) カワシマ,ダイ
標題(和) イヌ急性心筋梗塞モデルにおけるImpellaによる心機能回復への有用性の検討-PCPSに対する優位性
標題(洋)
報告番号 127101
報告番号 甲27101
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3711号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山田,芳嗣
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 准教授 菅原,寧彦
 東京大学 講師 師田,哲郎
 東京大学 講師 香取,竜生
内容要旨 要旨を表示する

背景:欧米では使用され始めているImpella LDは、心室のUnloadingと容量補助を行うことのできる新しい補助循環装置である。急性心不全に対して、Percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)は全身の循環維持によく用いられている。一方、重症な左心不全状態においては、PCPSの不十分なUnloadingと後負荷増大により、心機能回復を阻害している可能性がある。また、重症心不全からのVentricular fibrillation(VF)に対して、PCPS補助のみで自己心拍再開を見ることは非常にまれである。

目的:イヌの急性心筋梗塞モデルに対して、ImpellaとPCPSを用いて、左心室のUnloadingによる心筋酸素消費量の変化を、Pressure Volume Area(PVA)を測定することで、検討する。また、VFからの心拍動再開への補助効果を比較検討する。

方法:成犬(n=6)を対象とした。胸骨正中切開にて開胸し、PCPSを右大腿動脈送血、右心房脱血にて確立した。同時に、上行大動脈に装着した人工血管より、Impella LDをdirect echoを用いて、逆行性に大動脈弁を通して、左心室内へ挿入した。駆動時には、inlet occlusionを予防するため、Impellaの先端が、僧帽弁前尖、中隔、左心室壁から離れた位置になるように、ガイドした。また、心尖部よりdirect echo下に、Conductance catheterは大動脈弁方向へ、Millar's pressure catheterは左心室内腔へ、各々挿入した。左前下行枝を順次末梢側より結紮(Serial coronary ligation)して重症度の異なる心筋梗塞モデルを作成した。各々の結紮の後に、Non support時、PCPS使用時、Impella使用時において、Pressure volume loopを描出した。最終結紮後のVF時には、各々のデバイス使用下で、電気的除細動を行い、自己心拍再開への効果を比較した。

結果:PVAは、Impella supportの方が、PCPS supportに比べてより減少していた(PVA増減率(%): 71.7 vs. 96.6, P<0.05)。VFからの自己心拍再開は、Impella supportの方が、PCPS supportより、効果的であった。

結論:急性心筋梗塞モデルにおいて、Impellaの使用はPCPSと比べて、心筋の酸素消費量を減少させ、VFからの心拍再開にも有効に働いた。これらの結果はImpellaが、PCPSよりも心機能回復に有効であることを示唆している。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、重症心不全患者の治療において、重要な役割となりつつある補助循環装置について、Impella(新しい補助循環装置)の心臓生理学的な有効性を明らかにするとともに、既知のデバイスであるPercutaneous cardiopulmonary support (PCPS)に対する優位性について検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。

1. 心不全状態において、ImpellaはPCPSより、LV end-diastolic pressure (LVEDP)もLV end-diastolic volume (LVEDV)も減少させる傾向があり、全てのイヌから得た血行動態評価からも、LVEDPはPCPSサポートでは減少を認めなかったが、Impellaサポートにおいて減少を認め、サポートのない状態と比較して、有意な減少であった。

2. 左冠状動脈の結紮により心不全モデルを作成したが、心機能低下の程度は、結紮部位によって一定ではなかったため、心機能低下の程度に関しては、サポートしない状態において求めたEmaxの値によって推定した。Emaxの増減率によって、心不全の程度を3つのグループ (Severe, moderate, mild heart failure)に分けた。Emaxから分類したMild~moderateな急性心不全状態において、Pressure-volume area (PVA) 増減率は、Impellaサポートの方がPCPSサポートよりも、有意な減少を認めた。Severeな心不全状態における、Impellaサポート時のPVA増減率から、Impellaサポート時のPVAは、サポートなしの時のPVAよりも小さく、サポートなしの時の状態と比較して、左心室をより効果的にUnloadしていると考えられた。全てのPVA増減率を合わせると、Impellaサポートの方が、PCPSサポートに比べて有意な減少を認めた。

3. 最後のLAD結紮前までに、4頭のイヌに、サポートなしでのDCでは回復しないVFを認めた。1頭のイヌのみ、PCPS補助下のDCにて自己心拍再開をもたらした。それ以外のイヌにおいては、PCPS補助下のDCでは回復しなかった。Impella補助下のDCで、残りの全てのイヌにおいて、自己心拍回復することが可能であり、継続して計測を行うことができた。最終結紮時には、2頭のイヌに同様のVFが起こったが、PCPS補助下のDCでは、いずれも自己心拍再開は認められなかった。しかしながら、Impellaサポート下においては、1頭のみDCを行い、自己心拍再開することが可能であった。

以上、本論文は急性心不全に対して、Impellaサポートの方が、PCPSサポートよりも、LVEDPとPVAをより減少させ、さらに、Impellaサポート下における電気的除細動の成功率は、PCPSサポート下よりも優れており、これらの結果から、不全心に対するImpellaの機械補助が、PCPSによる補助よりも、心機能回復に効果がある可能性が高いことを示唆している。これらの実験結果は、集中治療室の心不全患者に対する治療だけでなく、心肺蘇生法においても、有益な多くの情報となりうると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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