学位論文要旨



No 127254
著者(漢字) 賈,軍軍
著者(英字)
著者(カナ) カコ,グングン
標題(和) コロイド混合による構造制御のための計算工学的アプローチ
標題(洋) Computational Approach for Tailoring Mixtures by Colloidal Blending
報告番号 127254
報告番号 甲27254
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第701号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 人間環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩田,修一
 東京大学 教授 土井,正男
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 鳥居,徹
 東京大学 准教授 大宮司,啓文
内容要旨 要旨を表示する

MOX燃料とは混合酸化物燃料の略称であり、使用済み核燃料中に含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、プルトニウム酸化物(PuO2)とウラン酸化物(UO2)とを混ぜたものである。主として高速増殖炉の燃料に用いられるが、軽水炉ウラン燃料の代替として用いることができる。

現在、MOX燃料は乾式混合に基づく方法が最も普通の方法である。すなわち、二酸化ウラン粉末と二酸化プルトニウム粉末をボールミル等の粉砕混合の可能な装置でよく混合し、これに粘合剤と潤滑材とを混合して成形に適した粒度に造粒した後、プレスで金型成形してグリーンペレットとする。このグリーンペレットを700-800℃で仮焼してバインダーを蒸発分解した後、約1700℃で焼結する。焼結したペレットは無心研削機で円筒側面を寸法公差範囲に収める。こうして出来上がったペレットはもう一度真空加熱されて脱ガス処理を施された後、プルトニウムの含有量、とプルトニウム・スポット分布検査など各種分析、検査を経て、製品ペレットとして乾燥に並べられ、燃料棒加工工程に移される。

現在の製造方法は次の欠点がある。ア)乾式混合により、放射性ダストが出て来る。ウラン新燃料に比べ放射能が高いため、燃料の製造については遠隔操作化を行い、コントロールしにくく、作業員の不要な被爆に十分配慮して行う必要がある。イ)ウラン中にプルトニウムを混ぜることにより、均一のプルトニウム分布を生成するのは困難で、プルトニウム・スポットが生成する可能性が多い、燃料比率が低下する。(原料粉末の混合が不充分だと焼結時のプルトニウムとウランの固溶が進まず、プルトニウム・リッチの相が残ることになる)。ウ)粉末から粘合剤と潤滑材により造粒するため、表面汚染をもたらす。エ)生産過程が長く、全過程のきめ細かな品質管理が必要で、データ管理のためのデータモデルは極めて複雑である。

研究目的は、現在、商用のプロセスとしてよく使われている粉末混合方法を簡素化するために、UO2とPuO2粉末ではなく、数マイクロのコロイドを作って、混合は溶液で行う新規のプロセスの検討である。コンピュータ・シミュレーションによって混合条件を探し、実験によって確かめ、ミュレーションモデル、計算パラメター、近似方法などを改良し、実験とシミュレーションの両方を上手に組み合わせして、信頼性の高い材料を作るという生産戦略である。この方法の利点としては、粘合剤、潤滑剤、予備加熱が不要になり、工程は短くなることが期待される。しかし、二つ問題が出て来る。ひとつは数マイクロンのコロイドができるかどうか、もうひとつは均質の混合体が溶液で制御できるかどうかの問題である。

最初の課題のコロイドができるかどうかについては、文献ではAl2O3とZrO2が高エネルギー機械的ミリングによる粉末から数百ナノから数マイクロンぐらいのコロイド状態になることが報告されている。Al2O3とZrO2はセラミックスで、酸化物ですので、類似の材料であるPuO2とUO2でもコロイドはできると考えた。

二番目の課題の均質性、つまり、二成分のコロイド混合溶液中で設計条件を満足する混合状態ができるかどうかを判断することが、今回の研究の目的になる。この目的に関しては、更に二つの課題に展開した。一つは二成分のコロイド混合溶液を系統的に研究し、溶液条件と混合構造の関係を解明すること、もう一つはMOX燃料生産への応用である。

本研究の研究手法としては、コンピュータ・シミュレーションはLangevin 方程式に基づいてブラウン運動シミュレーションを実施し、粒子の凝集について解明すること、DLVO ポテンシャルで粒子間の作用を近似し粒子凝集の速度論と構造変化を調べた。

シミュレーション結果によって、急速凝集でも遅速凝集でも、二成分コロイド混合溶液の初期の凝集は一番不安定な成分から決まるということを理解した。長時間たった後で、凝集構造の平均配位数が変わらなく、凝集の始めから最後まで、各体積率で凝集構造の平均配位数が同じである。非常に薄い溶液で拡散凝集より集合体は鎖状になる場合が多いので、平均配位数の理論値はシミュレーションの値と比べると、はじめ時は大体同じで、長い時間で比較すると、理論値より大きくなる。考えられる原因は凝集クラスターの幾何学的効果である。二成分系で、最も重要なパラメターは各粒子半径の比率と各粒子数の比率である。本研究で、違う粒径の比率と粒子数の比率で、違う体積率の場合の凝集構造を分析し、機構マップを作成した。半径比による長距離構造の変化はフラクタル次元を使って分析した。最後の凝集構造中で、小さい粒子のサイズが小さくなると、小さい粒子を考えなくて大きい粒子にのみ着目した場合のフラクタル次元が大きくなることがわかった。即ちサイズの差が大きくなると、大きい粒子の構造と単成分の構造が類似になる。この現象は大きい粒子のパーコレーションと関係があると考えた。また、各体積比と粒子数の比率の機構マップから、数の比が大きいとき、大きい粒子が小さい粒子の中に良く分散して、数の比が低いときに、パーコレーションになる。以上の結果は平均配位数より得たものが、フラクタルという指標から凝集構造も分析した。面白い結果は、二成分系で、大きい粒子の総体積が小さい粒子の総体積より小さい時に、最後の凝集構造で大きい粒子のフラクタル現象がなくなる。

次に以上の研究結果を展開して、実際のMOX燃料のプロセス設計への道筋を明らかにした。現在、実用化されている粉末混合では生産工程が長く、生産システムでは極めて厳しい品質管理が実施されている。そこでは混合状態の判断が容易ではない。またMOX燃料の生産工程で不可測因子が多く、粉末の形やサイズ、粘合材と潤滑材などによって混合状態は大きく左右する。また焼結体を作るまでのプロセスのデータモデルは極めて複雑である。本研究で、コロイド混合の概念を利用し、粘合材や潤滑材の使用を全廃して混合し、造粒過程も省略した。粉末混合による生産工程と比べると、生産工程のデータベース化が容易になる。そこで、本研究では情報化コンピュータ・システムを構築した。システムはデータベースとシミュレーション・モデルから構成した。

商用のMOX燃料は原子炉の型によってPuの含有量が変わるので、本システムでは、プラントに要求されるPuの量を入力し、コンピュータ・システムで以前成功した例をさがし、データベースから類似のデータを提供し、シミュレーションして機構マップを準備する。そして現場の作業員がこの機構マップに従って、実験や生産を進めることを想定した。実験データを獲得しながら、シミュレーションで確認し、シミュレーションの結果を使って次の実験条件を設定し、新たに得られた実験結果によりシミュレーションモデリルを改良し、実験と計算とを組み合わせて、目標とする材料をつくるまで機構マップを改良するという戦略である。

MOX燃料の材料設計は、三つの目標がある。ひとつはPuO2を混合体中に均質に分布させることである。Puコロイド分布の均一さを示すため、均質指数を定義した。二番目はPuO2のスポットが少ないことである。PuO2コロイド集合体のサイズ分布からスポットを評価することができる。三番目は放射性液体排出を少なくなるため溶液の体積が少なくすることです。この三つの要求により目的関数を提案した。

最後に、一つ事例を計算した。結果からみると、PuO2が低い相対濃度と高い体積率の条件で均一なPuO2分布が得られる。また、PuO2コロイドがUO2コロイドより小さいサイズになると、PuO2コロイド同士が凝集する確率は小さくなる。MOX燃料生産として、溶液の量が少ない時に、PuO2のスポットが少なく、混合体中に均一な分布になる。この結論は生産工程の効率化の指針となる。

本研究の結果、二成分コロイド混合溶液中で凝集混合について以下の結論を得た。まず、二成分コロイド混合溶液の初期安定性は一番不安定な成分が支配的である。塩分の調整によって、選択凝集やへテロ凝集を制御することができ、最後の混合構造に影響することがわかった。更に、二成分系の混合に関して、一つの成分の総体積がもう一つの成分の総体積より小さい場合、最後の凝集構造で総体積小さい方のフラクタル現象がなくなる。

MOX燃料の生産に関して、溶液からの簡略化混合プロセスの設計支援ツールを開発した。事例研究で、PuO2粒子のサイズがUO2粒子より小さい時に、PuO2粒子のスポットが少ないという特徴がある。この方法の利点としては、混合を溶液で行い、遠距離操作ができ、作業員の放射性被爆が少なくなる。さらに、粘合剤や潤滑剤もなく、予備加熱が不要になり、工程は短くなる。

材料開発のための本格的な仮想実験システムでは、広い時空間スケールをカバーする必要がある。現象の時間スケールと空間スケールとに応じて、適切なモデル化を行い、それらを組み合わせてミクロ世界とマクロ世界とをつないでいくという戦略が必要である。将来、集合体の乾燥、焼結についての過程を取り扱うメゾスコピックシミュレーションモデルと流動に関する数値解析を加えれば、将来、MOX燃料のコンピュータ支援材料設計を実現することが期待できる。

審査要旨 要旨を表示する

安全で効率的な核燃料サイクルの確立は将来のエネルギー・環境問題の改善にとっては極めて重要な課題である。その中で、プルトニウムの平和利用に関しては、3S(Safety、Security、Safeguards)の観点から、ウラン酸化物とプルトニウム酸化物とを混合して軽水炉で利用することが要請されている。本論文は、計算機シミュレーションを系統的に実施することによりプルトニウム酸化物とウラン酸化物を均質に混合し信頼性の高い混合酸化物燃料を製造するための新規プロセスを設計し、従来の粉末混合方法を改善するための手法を提案することを目的とした研究であり、7章から構成される。

第1章では、混合酸化物燃料の製造プロセスの現状と課題についての調査結果をまとめ、遠隔操作、被曝低減、信頼性向上の可能性のある混合酸化物燃料製造プロセスとしてコロイド混合を選定し、本研究の目的を新規のコロイド混合プロセス設計の基礎的検討としている。

第2章では、二成分コロイド系粒子の凝集について、DLVOポテンシャルで粒子間の相互作用を近似し、ランジュバン方程式、スモルコフスキー方程式に基づくブラウン運動のシミュレーション手法についての総括し、粒子凝集の速度論と構造制御の可能性を調べ、計算パラメータの設定手順について説明している。

第3章では、二成分コロイド系で急速凝集の速度論を調べた。粒子間の作用と拡散作用を考えて、Smoluchowski方程式に基ついて二成分系での衝突kernelを導き、選択凝集を理解した。また、シミュレーションから初期安定性が一番不安定な成分から決まるということを明らかにした。シミュレーション結果によって、急速凝集でも遅速凝集でも、二成分コロイド混合溶液の初期の凝集は一番不安定な成分から決まるということが理解した。長い時間後で、凝集構造の平均配位数が変わらなく、凝集の始めから最後まで、各体積率で凝集構造の平均配位数が同じです。非常に薄い溶液で拡散凝集より集合体はチェーンの場合が多いなので、平均配位数の理論値はこの式で表すことができます。シミュレーションの値と比べると、はじめ時は大体同じで、長い時間で比較すると、理論値より大きくなります」。可能な原因はclusterのgeometric効果です。二成分系で、最も重要なパラメターは各粒子半径の比率と各粒子数の比率である。今研究で、違う粒子半径の比率と粒子数の比率で、違う体積率下で凝集構造を分析し、mechanism mapを作成した。半径比率による長距離構造の変化はフラクタル次元を使って分析した。最後の凝集構造中で、小さい粒子のサイズが小さくなると、小さい粒子を考えなくて大きい粒子にのみ着目した場合のフラクタル次元が大きくなることがわかった。即ちサイズの差が大きくなると、大きい粒子の構造と単成分の構造が類似になる。この現象は大きい粒子のパーコレーションと繋がりがあると考えた。また、各体積比と粒子数の比率mechanism mapから、数の比が大きいとき、大きい粒子が小さい粒子の中に良く分散して、数の比が低いときに、パーコレーションになる。平均配位数より得たものですが、フラクタルという指標から凝集構造を分析します。面白い結果は、二成分系で、大きい粒子の総体積が小さい粒子の総体積より小さい時に、最後の凝集構造で大きい粒子のフラクタル現象がなくなる。

第4章では、二成分コロイド系での遅速凝集の速度論の検討で、初期安定性が一番不安定な成分から決まること、塩分の調整によって、選択凝集や非均質凝集を制御することができ、最後の混合構造に影響することを示し、均一な混合酸化物燃料の製造が可能であるとの評価を行っている。

第5章では、凝集構造を動径分布関数と散乱因子、構造の比較にはフラクタル分析が有効であることを示し、二成分系の混合に関して体積比を制御することによりフラクタル構造を消滅させ空間相関性のない均一の混合状態が実現する事を示している。

第6章では、以上のシミュレーション結果の混合酸化物燃料製造プロセスへの応用を検討している。MOX燃料の生産に関し、溶液からの簡略化混合プロセスの設計支援ツールを開発しました。Case Studyで、PuO2粒子のサイズがUO2粒子より小さい時に、PuO2粒子のSpotsが少ないということがわかった。次に以上の研究結果が展開して、実際のMOX材料設計への道筋を明らかにした。現存粉末混合で生産過程が長く、生産システムでは極めて厳しいTQCが実施されている。混合状態の判断ですが容易ではない。実に、MOX燃料の生産過程で不可測因子が多く、粉末の形やサイズ、粘合材と潤滑材などによって混合状態は大きく左右する。また焼結体を作るまでのプロセスDBのデータモデル化は極めて複雑である。本研究で、コロイド混合の概念を利用し、粘合材や潤滑材全部なくして混合し、造粒過程も省略した。粉末混合による生産流れを比べると、生産過程の情報化が可能になる。このため、本研究で情報化コンピュータ・システムを構築した。システム・ソフトウェアはデータベースとシミュレーション・モデリングから構成した。(具体的には論文を参考してください。)

実際のMOX燃料が原子炉の型によってPuの含有量を変わることで、改良したシステムは、生産の最初の段階で、プラントに要求されるPuの量を入力し、コンピュータ・システムで以前成功した例をさがし、ない時に、データベースから近いデータを提供し、シミュレーションしてmechanism mapを提供する。作業員がこのmapを従って、実験や生産をすることである。最後に、実験データを取って、シミュレーション手法から確かめ、シミュレーションの結果によって、実験条件を探して、実験結果よりシミュレーション・モデリング中の仮説などを改良し、両方flexibleに組み合わせして、いい材料をつくるまでメカニズムmapを提案するという戦略である。

MOX燃料の材料設計は、三つの目標がある。ひとつはPuO2が混合体中にhomogeneous分布である。Puコロイド分布の均一さを示すため、Homogeneous Indexを定義した。二番目はPuO2のspotsが少ないである。PuO2コロイド集合体のサイズからspotsを表すことができる。三番目は放射性液体排出を少なくなるため溶液の体積が少ないことです。この三つの要求により目的関数を作ります。この関数の係数は実験から決定します。

最後に、一つをCase Studyを計算した。結果からみると、PuO2が低い相対濃度と高い体積率の条件でPuO2分布の均一さがよいである。また、PuO2コロイドがUO2コロイドより小さいサイズになると、PuO2コロイド同士が凝集する確率は小さいである。MOX燃料生産として、溶液の量が少ない時に、PuO2のspotsが少なく、混合体中に均一な分布になる。この結論は生産過程の効率化の指針となる。

弟7章は結論で、二成分コロイド混合溶液中で凝集混合については初期安定性が一番不安定な成分が支配的で、体積比や塩分の調整によって凝集過程と混合構造を制御できることを示し、

MOX燃料の生産に関して、溶液からの簡略化混合プロセスの設計支援ツールを開発した。Case Studyで、PuO2粒子のサイズがUO2粒子より小さい時に、PuO2粒子のSpotsが少ないという特長がある。この方法の利点としては、混合を溶液で行い、遠距離操作ができ、作業員の放射性被爆が少なくなる。さらに、粘合剤や潤滑剤もなく、予備加熱が不要になり、工程は短くなる。

材料開発のための本格的な仮想実験システムでは、広い時空間スケールをカバーする必要があります。現象の時間スケールと空間スケールとに応じて、適切なモデルかを行い、それらを組み合わせてミクロ世界とマクロ世界とをつないでいくという戦略が必要です。将来、集合体の乾燥、焼結についての過程を取り扱うmesoscopic simulationと流動に関する数値解析を加えれば、将来、MOX燃料のcomputer-aided designを実現することが期待できる。

UTokyo Repositoryリンク