学位論文要旨



No 127258
著者(漢字) ,浩之
著者(英字)
著者(カナ) ミヤザキ,ヒロユキ
標題(和) グローバル衛星画像を用いた全球都市域マッピング手法の研究
標題(洋)
報告番号 127258
報告番号 甲27258
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第705号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 社会文化環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 浅見,泰司
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 教授 小池,俊雄
 東京大学 准教授 竹内,渉
内容要旨 要旨を表示する

本研究では,全球都市域マップの高分解能化への要望の高まりを鑑みて,従来の全球都市域マップよりも高分解能な衛星画像データを用いて,全球都市域マップを高分解能に作成する方法を検討・試行した。本論文では,(1)全球都市域マッピングシステムの開発,(2)全球都市域グラウンド・トゥルースデータベースの作成,(3)全球都市域マッピングシステムの試行を主な課題として挙げた。

全球都市域マッピングシステムは,産業技術総合研究所のGEO Gridによるグリッド技術を基盤として開発した。開発したシステムでは,任意の対象地域について衛星画像データの検索,取得,処理をシステムの一連に組み込むことで,都市域マップの作成の自動化を実現した。また,GEO GridのPCクラスターを活用することで,人口10万人以上の都市3372箇所を1週間程度で処理することができた。

都市域マッピングには主な入力データとしてASTERセンサに搭載される可視近石外放射計によって撮影された衛星画像(ASTER/VNIR画像)を用いた。ASTER/VNIR画像は空間分解能15mで従来の全球都市域マップに比べて分解能が著しく高いが,正確に都市・非都市を分類するためには正確な教師データが必要である。ASTER/VNIR画像を用いた土地被覆図作成では,従来は目視判読が用いられてきたが,本研究ではLearning with Local and Global Consistency (LLGC)という機会学習に基づくデータ分類手法により,分類の自動化を実現した。さらに,ASTER/VNIR画像のみでは,都市に反射特性が類似する砂地や裸地が都市と誤分類されやすいことを考慮して,LLGCの結果を既存の都市域マップと地形データと統合して,ロジスティック回帰によって都市・非都市確率を推定し,高分解能都市域マップを作成する。

全球都市域グラウンド・トゥルースデータベースの作成については,地名データに代表地点の座標が付与されたデータベースである地名辞典をデータソースとして用いることに着目した。代表的な人口集中地の地名辞典であるGRUMP Settlment Pointsのうち人口10万人以上の人口集中地の代表地点に対して,ASTER/VNIR画像を背景として目視判読を行った結果,3734地点のうち,2144地点が都市,1388地点が非都市,10地点は都市・非都市の境界,192地点は判読不能と判読された。また,データの分布は大陸間,人口階級間で偏りが小さいことから,本研究の都市域マッピングに適切であることが認められた。

開発した全球都市域マッピングシステムを用いて,3372地点の人口10万人以上の人口集中地を含む1951箇所の対象地域について都市域マッピングをおこなった結果,空間分解能15mの都市域マップが得られた。また,ASTER/VNIR画像のみではOverall accuracyは0.599,Kappa係数は0.243であったのに対し,ロジスティック回帰でASTER/VNIR画像から得られた都市域マップに既存の都市域マップと地形データを統合した結果,Overall Accuracyは0.664,Kappa係数は0.342となり,精度の改善が見られた。

審査要旨 要旨を表示する

世界的な都市人口の急増に象徴されるように都市はほぼ全ての国で経済活動、社会活動の中心となっており、人間活動による環境影響を評価したり、環境変動が人間活動に与える影響を評価したりする上で、極めて重要な分析単位である。特に環境問題が個別の地域スケールに留まらず、国際的、地球的な広がりを見せるにつれ、都市域マップを世界的な規模で作成することの重要性が強く認識され始めた。その一方で、空間分解能の高い衛星画像(例えばASTER画像(分解能15m)やランドサット画像(分解能30m))の全球アーカイブが構築されるなど、全球を対象とした都市域マップを作成する準備が整いつつある。しかしながら、全球を対象とした既存の都市域マップは、空間的分解能が1kmであるなど改善の余地が大きい。そこで本論文は、ASTER画像の全球アーカイブを利用してより高分解能な全球都市域マップを構築する手法を開発し、マップを試作するのと同時に、検証用データを整備・補強して精度評価を行い、既存の都市域マップとの定量的な比較を行うことを目的としている。本論文は5章からなっている。

第1章は研究の背景と目的であり、詳細な全球都市域マップの必要性や空間的分解能の高い衛星画像を用いてマッピングする上での技術的な課題、既存の全球都市マップの問題点などを整理し、研究の目的を定義している。

第2章は全球都市マッピングシステムの開発であり、グリッドコンピューティングシステム上に実装されたASTER画像の全球アーカイブを利用して全球都市マップを作成する手順を開発している。すなわち雲量などを考慮しながら適切なASTER画像を自動的に選択する方法や、ASTER画像のクラスタリング結果に対しより正確な都市・非都市ラベルを自動的に付与する方法、またASTER画像が植生などの季節変化情報や都市の灯火情報などを十分に反映できない欠点を補うために、MODIS画像のように高い時間的分解能を有する衛星画像から作成された土地被覆データや、都市灯火データから作成された都市域マップなどを組み合わせる方法などを開発している。

第3章は、全球都市域マップの精度を評価するために作成したグラウンド・トゥルースデータベースについて述べている。従来の都市域マップの多くは全球土地被覆データの一環として作成された経緯があり、都市だけに着目した精度評価は極めて不十分であった。また精度評価を行うための検証点情報も不足していた。そこで、代表的な人口集中地の地名辞典であるGRUMP Settlment Points から、人口10 万人以上の人口集中地の代表地点を選び、グランド・トゥルースデータを作成した。すなわち、代表点についてASTER/VNIR 画像を背景として目視判読を行って確認し、確実に都市となる検証点データ(2144 地点が都市,1388 地点が非都市)を作成した。なお,データの分布は大陸間,人口階級間で偏りが小さいことから,本研究の都市域マッピングに適切であることが認められた。

第4章は都市域マッピングシステムを実際に適用して全球都市域マップを作成するプロセスと、精度評価の結果を述べている。具体的には開発したシステムを用いて、世界に3372 地点ある人口10 万人以上の人口集中地全てについて都市域マッピングを行い、空間分解能15mの都市域マップを作成した。また,第3章で作成されたグラウンド・トゥルースデータベースを利用して精度評価を行い、

Overall Accuracyは0.664,Kappa係数は0.342となることを明らかにし,従来の都市域マップに比べ解像度が優れているだけでなく、分類精度も改善されたことを実証した。

第5章は結論と今後の課題を述べている。今後は一層のグランド・トゥルースデータの充実、ウェブを介したボランティアによるグラウンド・トゥルースデータの収集、合成開口レーダ画像を利用した処理精度の向上などが挙げられている。

以上をまとめると、本論文はASTER画像の全球アーカイブを駆使して全球都市マップを作成したのと同時に、精度検証用のデータを自ら作成・適用して精度評価を行っており、提案マップが既存マップに比べ精度が向上した世界最高水準のものであることを示すことに成功している。IPCCでもGlobal Human Settlement Mapの重要性が議論されるなど、都市域マップの必要性はますます高くなっており、本論文により、都市域マップの作成手法の開発からシステムとしての実装、精度検証用データの作成とそれを利用した精度評価に至る一連の手順が構築され、実際に世界最高水準のマップが作成されたことは、空間情報学の進歩に大きく貢献したと考えられる。

本論文の成果は柴崎亮介や岩男弘毅らと共著で公表されているが、論文提出者が主体となって研究を実施しており、論文提出者の寄与は十分である。したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

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