学位論文要旨



No 127316
著者(漢字) 黒田,仰生
著者(英字)
著者(カナ) クロダ,タカミ
標題(和) 一般相対論下での大質量星の磁気回転型重力崩壊 : 初期磁場の成長及び重力波
標題(洋) Magnetorotational Collapse of Massive Stars in Full General Relativity : The Growth of Initial Magnetic Field and The Emitted Gravitational Waves
報告番号 127316
報告番号 甲27316
学位授与日 2011.04.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5708号
研究科 理学系研究科
専攻 天文学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 梶野,敏貴
 東京大学 教授 常田,佐久
 東京大学 教授 尾中,敬
 東京大学 教授 牧野,淳一郎
 千葉大学 教授 花輪,知幸
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、重力崩壊型超新星爆発の爆発機構解明を目的とした独自の3次元磁気流体コードを2つ開発し、それらを使った大質量星の重力崩壊計算、及びそれに伴う重力波の放出について詳細に調べたので報告する。

観測からは多くの重力崩壊型超新星が非球対称性を示し、その非球対称性を作る原因として我々は磁気回転効果が重要だと考えている。その為その効果を探る上で磁気流体計算が不可欠であり、我々が開発したコードで今後多くの事が解明できると期待している。2つのコードのうち1つはニュートニアン近似で記述されており、もう1つは一般相対論を取り入れている。更に重力崩壊型超新星の数値計算を行う上で生じる問題を避ける技術がいくつか含まれている。その一つとして、非常に広範囲を数値計算で取り扱わなければいけないという問題点である。例えば、重力崩壊後に形成された中心天体は約10km 程であるのに対して、その源となる鉄核は約5000km であり、また親星の表面は更に遠い~105-6km にある。なるべく広範囲を数値計算で取り扱う際に、一様な数値メッシュ幅で取り扱う事は限られた計算機資源を鑑みても非現実的である。そこでAdaptive-Mesh-Refinementという手法を用いている点が我々のコードの特徴である。それ以外の点では、一般相対論下でのメトリックの時間発展を追う際、"Baumgarte-Shapiro-Shibata-Nakamura"方式と呼ばれる現在最も安定な手法を用いてある。両方のコードに対して各種のテスト計算を行い信頼性を確認した上で、15 太陽質量星の重力崩壊計算を行った。その結果得られた事として以下が挙げられる。(1) 初期に強磁場が存在する場合回転軸方向への高速のアウトフローが形成された。(2) low-|T/W| 不安定性に由来する一本腕のスパイラル構造が確認された。(3) 一般相対論とニュートニアン計算を比較すると、例えば中心密度が約30%上昇する等より強い重力の影響が見られた。これらの結果は先行研究でも報告されている事から、我々のコードの信頼性を示す事となる。

更に我々は重力崩壊に伴い放出される重力波を見積もった。重力崩壊中心部を「直接見る」手段は非常に数限られているが、その中で重力波は非常に有用な観測手段である。また重力波で中心部を「見る」事で、重力崩壊型超新星の物理をよりよく理解できる。現在次世代の重力波検出器が開発中であり、それらを使う事で今よりも約100 倍遠くまで見る事が出来ると考えられるので、今後重力波天文学は活発化していくと考えられる。その様な現状の中で理論の側から様々な重力波波形の予測をする事は非常に大切であり、本論文では一般相対論計算により弱/強磁場モデルにおいて放出される重力波の違いを調べた。その結果得られた事として、(1) 今回用いた初期回転に対して、コアバウンス時の重力波はTypeI の波形を示した。これは先行研究と矛盾が無い結果である。(2) コアバウンス後30ms 以内において、ニュートニアン計算では見られたアウトフロー形成が一般相対論計算では見られなかった。この理由として、より強い重力の影響で中心天体がより圧縮され、非軸対称のスパイラル波が出現しやすくなり(Fig.1 参照)、その結果アウトフロー形成が妨げられたと考えている。似たような結果は先行研究で報告されているが、それは一般相対論起源ではなくニュートリノ冷却に由来するものである。強磁場モデルにおいて双極子構造が出現しなかった事で、結果的に強磁場、弱磁場モデル間での重力波の波形に定性的な相違は見られなかった。(3) またspiral standing accretion shock instability (Spiral SASI) の重力波波形のスペクトルが低振動数帯に出現する事が解った。このSpiral SASI は過去の数値計算から起こる事が示唆されており、中心の中性子星の回転を高速化する事等から爆発力学の過程で大きな役割を果たすと考えられている。我々の計算では中心天体がコアバウンス後約15ms でこのSpiral SASI へと移行し、ショック面が激しく変化するSpiral SASI に特有な現象が見られた。Spiral SASI へと移行したとほぼ同時に、約100-300Hz 帯にピークを持つ重力波が放出される結果も得られた(Fig. 2 参照)。この振動数帯(100-300Hz 帯) に出現する事はSpiral SASI の形態の時間変化と矛盾ない事から、我々はこのエネルギ-放出はSpiral SASI に起因する物だと結論づけた。

今回我々が用いた初期の角速度分布の場合、重力崩壊後に形成される原始中性子星は数ミリ秒で回転する高速の中性子星であり、そこから放出される重力波もその回転に依存する~1000Hz 帯に強く現れる(Fig. 2 の下図参照)。このような結果は過去の先行研究でもいくつか報告されているが、我々の計算では更にSpiralSASI が成長した事が原因で数百Hz 帯の低振動数への放出も起こる可能性を示した。この事は今回我々が今回新たに発見した内容である。またこのSpiral SASI により放出される重力波成分は次世代の検出器(e.g., LCGT or Advanced LIGO)で十分観測できると考えられ、今後理論と観測の更なる融合が期待できる。

Figure 1: 計算開始から約90ms 後(コアバウンスから約30ms)の中心天体の様子。色は磁場の強さをガウスで表したものであり、黒線は等密度線を表す。m = 1のスパイラル構造がxy 平面にはっきりと見て取れる。

Figure 2: エネルギ-スペクトルの時間変化。上図では観測者は北極方向にいるとし、下図では赤道面から観測した場合である。また超新星が観測者から10kpc離れた所で起きたと仮定する。特に上の図から解るように300Hz 帯での重力波放出(Spiral SASI に起因) がコアバウンス後約15ms で強くなってくる。赤道面から見た場合も100-300Hz 帯の低振動数領域への重力波放出が見られる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は6章とAppendix からなる。第1章は導入部である。この章では、まず恒星のうち特に太陽質量の約10倍以上の質量を持つ大質量星の構造進化と、進化の最終段階で迎える重力崩壊について概観し、多くの観測から重力崩壊型超新星は非球対称的な爆発を引き起こしているとの示唆があることを指摘している。非球対称爆発の原因として磁気回転効果が重要であることに注目し、本論文で、ニュートン近似および一般相対論を取り入れた二つの3次元磁気流体コードを独自に開発し、超新星爆発の数値シミュレーションを実行することによって、非球対称な爆発機構を解明するという目的が述べられている。さらに、第二の目的として、非球対称な重力崩壊型超新星に特徴的な重力波波形を理論的に予測し、次世代の重力波検出器による観測可能性を明らかにするという狙いも述べられている。

第2章と第3章では、それぞれ3次元磁気流体コードの開発および数値計算テストについて詳しく論じている。超新星爆発の磁気流体計算では、重力崩壊後に中心部に形成される中性子星の半径約10km から鉄コアの外側約5000km を越す広いダイナミックレンジに対して、高い計算精度が必要とされる。本論文で論文提出者が開発した磁気流体コードではAdaptive-Mesh-Refinement method を採用することで、十分な精度が確保できることを示した。また、一般相対論のメトリックの時間発展は、現在最も安定した方法として定評のあるBaumgarte-Shapiro-Shibata-Nakamura method を用いた。衝撃波管問題、線形Teukolsky 波問題、回転中性子星周囲の動的メトリック問題等の数値計算テストを行い、さらにエネルギー運動量保存、磁場の非発散、Bondi 質量降着、等の物理法則が正しく成り立っていることを数値計算で確認することで、構築した二つの3次元磁気流体コードが信頼性のある数値計算を可能にしていることを示している。

第4章では、開発した3次元磁気流体コードを15倍太陽質量の超新星に適用した数値計算に基づいて、磁場と回転を伴う重力崩壊型超新星の非球対称爆発機構について論じている。まず、強磁場を想定したモデルでは回転軸方向に高速度のアウトフローが形成されること、さらに回転エネルギーが重力エネルギーに対して1~3%であるような比較的ゆっくりとした現実的な回転に対しては、差動回転領域の内側で発生する回転不安定性がダイポール的な密度ゆらぎのモードを増幅し、一本腕のスパイラル構造が出現することを確認した。また、一般相対論的な効果は約30%の中心密度の上昇を引き起こし、よりコンパクトな中心付近の構造を作り出すとともにスパイラル構造の形成を助長することを見いだした。これらの結果は既に先行研究で示唆されていたことであるが、本研究において精度の高い一般相対論3次元磁気流体コードで明確に示したことは高く評価できる。

第5章では、本研究の中心課題である非球対称な重力崩壊型超新星から放出される重力波の特徴を詳しく論じている。まず、初期回転角速度を固定した強磁場および弱磁場の両方のモデルによる一般相対論計算から、コアバウンス時に放出される重力波の波形は先行研究の結果と矛盾しないことを確かめた。次に、ニュートン近似と一般相対論の計算結果を比較し、コアバウンス後30ミリ秒までにニュートン近似計算に現れたアウトフロー形成が一般相対論計算では見られない原因を追究した。従来の解釈では原因はニュートリノ冷却の差にあるとしていたが、本研究では、一般相対論的効果としてより強い重力の影響で中心天体がより圧縮されることによって非軸対称のスパイラル波が出現しやすくなり、その結果アウトフローの形成が妨げられるとの解釈を提案している。結果として、重力波の波形には磁場の強弱によらず定性的な相違が見られないことを見いだした。さらに、コアバウンス後約15ミリ秒からスパイラルSASI と呼ばれる不安定性(spiral standing accretion shock instability)が生じてショック面近傍の物質密度が激しく変化し、この空間スケールに対応する低振動数帯100~300ヘルツに特徴的な重力波波形のスペクトルが出現することを発見した。従来の研究では、数ミリ秒の周期で高速回転する原始中性子星から放出される重力波が約1000ヘルツ帯に強く現れるとの予想が報告されているが、スパイラルSASI に起因して低振動数帯の重力波放出が起こる可能性を示したのは、本研究が初めてである。次世代の重力波検出器による観測が期待される。

以上、本論文では、第6章に纏められているように、論文提出者が独自に構築した3次元磁気流体コードを用いて重力崩壊型超新星の非球対称な爆発機構を研究し、放出される重力波スペクトルを理論的に予測して将来の天文観測に資する新しい提言を行った。これらの独創的な研究成果は高く評価できる。

なお、本論文の第2章から第4章までの内容の一部は梅田秀之との共同研究であるが、新たに行った第6章の研究とあわせて論文提出者が主体となって行ったもので、研究成果は論文提出者を筆頭著者とする論文としてまとめて発表する予定であり、論文提出者の寄与は十分であると判断できる。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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