学位論文要旨



No 127325
著者(漢字) 池田,真美
著者(英字)
著者(カナ) イケダ,マミ
標題(和) 肝切除術における肝離断時間の短縮を目的とした手術機器"LigaSure PreciseTM"の有用性に関する並行群間単施設ランダム化比較試験
標題(洋) The vessel sealing system (LigaSure PreciseTM) in hepatic resection: a randomized controlled trial
報告番号 127325
報告番号 甲27325
学位授与日 2011.04.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3759号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 瀬戸,泰之
 東京大学 准教授 北山,丈二
 東京大学 准教授 池田,均
 東京大学 准教授 松山,裕
 東京大学 講師 張,京浩
内容要旨 要旨を表示する

要旨

目的この試験は、新しい手術機器であるLigaSure Precise(TM)が肝離断時間の短縮の一助となるかを検証した。

背景肝切除術では手術時間と出血量を最小限に抑えることがもっとも重要である。癌研究会附属病院グループは、LigaSure(TM)が、総出血量と密接な関係を有する肝離断時間の短縮につながる可能性があると報告したが、客観的に検証されたわけではない。

方法東京大学医学部附属病院肝胆膵外科にて、待機的に肝切除を行った患者を、最小化法により、従来法の肝実質破砕・脈管結紮を行う群(Clamp crushing、以下CC群)とLigaSure Precise(TM)を用いる群(Vessel sealing、以下VS群)に割り付けた。主要評価項目は肝離断時間とし、副次評価項目は総出血量、肝離断中出血量、在院日数、術後肝機能、術後合併症とした。

結果2006年の2月から12月までの間に165人の患者が良性または悪性の肝疾患で肝切除を受けた。これらの患者のうち120人が、CC群へ60人、VS群へ60人、ランダムに割りつけられた。肝離断時間の中央値はVS群は57(11-127)分で、CC群の56(9-269)分、P値=0.64とほぼ差がない値であった。離断速度もVS群1.16 (0.15-2.26)cm2/min 、CC群1.10(0.15-2.66)cm2/min、P値=0.95と2群間で有意差はなかった。

肝離断中出血量の中央値はVS群で315(25-2415)ml、CC群の315(10-1700)ml、P値=0.80と全く同じ値であった。肝離断面の単位面積あたりの出血量はVS群5.04(1.01-44.2)mL/cm2 に対しCC群は4.36(0.15-50.5) mL/cm2、P値=0.14と同じく有意差はなかった。

結紮数はVS群で有意に少なく、29(1-94)本、CC群は57(7-232)本、P値=0.0003であった。

両群共に死亡症例、重症合併症はなかった。

結論LigaSure Precise(TM)は安全で結紮数の減少に役立つが、従来法(Clamp crushing法)と比して、手術時間や肝離断中出血量を減らす効果は明らかではない。どちらを使用するかは術者の判断でよい。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は肝臓外科の手術手技発達の歴史において、従来ながらの肝離断方法ながら、golden standardであるClamp Crushingで離断を行った群(CC群)と、新しく開発されたvessel sealing system の中でLiga SureTM Preciseを用いた群(VS群)と肝離断時間の比較をするため、randomized control studyを行った。

下記の結果を得ている。

1.2006年2月から12月までの期間に東大病院肝胆膵外科で行った肝切除165人中、除外対象の45人をはずした120症例をCC群とVS群の60例ずつに振り分けた。背景因子に統計学的有意差はなかった。

2.主要評価項目である肝離断時間について、VS群の中央値は57[11-127]分、CC群は56[9-296]分であり、VS法は肝離断時間の短縮に関して有用でないとの結果を得られた。同様に副次評価項目である出血量、離断速度などにも有意差はなかった。

3.両群共に重篤な合併症はなく、術後合併症についても有意差はなかった。理論的に胆管のsealingがVS法では不十分である可能性があったが、胆汁漏発生頻度に有意差はなく、(CC群安全であると考えられた。

4.本研究はpositive studyではなかったが、デザインのしっかりしたランダム化比較試験を遂行し、積み重ねることが肝離断法の改善、そして肝臓外科の進歩の布石となると考えられる。

以上、本論分は肝臓外科の分野において、手術法の歴史に貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。

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