学位論文要旨



No 127356
著者(漢字) 景山,岳春
著者(英字)
著者(カナ) カゲヤマ,タケハル
標題(和) パラジウム/ホスフィン‐スルホナート触媒を用いた官能基化ポリケトンの立体選択的合成
標題(洋) Stereoselective Synthesis of Functionalized Polyketones Using Palladium/Phosphine-Sulfonate Catalysts
報告番号 127356
報告番号 甲27356
学位授与日 2011.06.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7524号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野崎,京子
 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 教授 吉江,尚子
 東京大学 講師 藤田,典史
 中央大学 准教授 山下,誠
内容要旨 要旨を表示する

高分子は、合成繊維やプラスチックなどを始めとし、種々の機能性材料としても産業界で幅広く利用されており、我々人類の生活に不可欠な極めて重要な素材である。高分子の一種であるポリケトンは、遷移金属触媒を用いることにより、オレフィンと一酸化炭素とから合成される。ポリケトンは剛性に優れることから、その一部はエンジニアリング・プラスチックとして実用化されているものもあるが、しばしば接着性の低さが問題になることや、種々の合成上の制限が存在することなどにより、高分子材料としての可能性が十分に開拓されているとは言い難い。本学位論文研究において著者は、ポリケトンの物性を改質することを目指し、ポリケトンに種々の官能基の導入を行うと同時に、その立体選択性の制御を行った。

第1章においては、パラジウム/ホスフィン-スルホナート触媒を用いたビニルアレーンと一酸化炭素との共重合を行い、その触媒活性と立体選択性とを調べた。この触媒系はビニルアレーン/一酸化炭素の完全交互共重合体を与え、13C NMRによる解析から、得られた共重合体はイソタクチック構造を多く含むことが明らかになった。先行研究においては、ホスフィン系配位子を用いた場合にはビニルアレーン/一酸化炭素共重合がうまく進行しないことが報告されており、本触媒系がホスフィン系配位子系としては例外的な性質をもつことが明らかになった。ジアリールホスフィノ基をもつ配位子は、ジアルキルホスフィノ基をもつ配位子に比べて活性と立体選択性がともに高く、ジアルキルホスフィノ基はビニルアレーン/一酸化炭素共重合に適していないことが示唆された。アリール基のオルト位に位置する置換基の立体障害は、触媒活性を低下させる反面、立体選択性の向上に寄与することが明らかになった。重合温度を上げると触媒活性が向上するが、β‐水素脱離が加速されることにより、得られる共重合体の分子量は低下した。高温での重合により得られた分子量の小さな共重合体の末端構造を解析したところ、モノマーであるスチレンは重合活性種のパラジウム-アシル結合に2,1-挿入の様式で挿入することが明らかになった。さらに、本触媒系は官能基化ビニルアレーン/一酸化炭素共重合にも有効であり、4-トリフルオロメチルスチレン/一酸化炭素共重合に初めて成功した。

第3章においては、第2章の知見を応用し、パラジウム/ホスフィン-スルホナート触媒を用いた極性ビニルモノマー/ビニルアレーン/一酸化炭素の三元共重合を行った。本触媒系は、酢酸ビニルとアクリル酸メチルを含む極性ビニルモノマーの三元共重合に有効であり、従来の触媒系では合成出来なかった新規な三元共重合体を得ることに成功した。極性ビニルモノマー/一酸化炭素ユニットとビニルアレーン/一酸化炭素ユニットの比は、モノマーの仕込み比を変えることで変化させることができた。NMRと示差操作熱量測定(DSC)による解析から、得られた三元共重合体は、極性ビニルモノマー/一酸化炭素共重合体ユニットとビニルアレーン/一酸化炭素共重合体ユニットからなるブロック共重合体ではなく、それぞれのユニット成分が主鎖中にランダムに配列した真の三元共重合体であることが明らかになった。

第4章においては、リン原子上に不斉点をもつ新規なキラル・ホスフィン-スルホナート配位子を合成し、オレフィン/一酸化炭素共重合へ応用した。ビニルアレーン/一酸化炭素共重合によりその立体選択性を評価したところ、フェニル(2-ビフェニル)ホスフィノ基をもつ配位子が最も高い立体選択性を与え、そのイソタクチック選択性は80%以上であった。tert-ブチルフェニルホスフィノ基をもつ配位子を用いて酢酸ビニル/一酸化炭素共重合を行ったところ、スピロケタール構造のみからなる共重合体を与え、従来のアキラルなホスフィン-スルホナート配位子により得られた共重合体とは異なる立体規則性をもつ共重合体が得られた可能性が示唆された。また、同配位子をキラルカラムにより光学分割して得られた単一のエナンチオマーを用いてビニルアレーン/一酸化炭素共重合を行ったところ、中程度の旋光度を与える共重合体が得られ、リン原子上に不斉点を導入する触媒設計は、触媒コントロールによる立体制御に有効であることが明らかになった。さらに、この触媒系はスチレン/極性ビニルモノマー(酢酸ビニルおよびアクリル酸メチル)/一酸化炭素の不斉三元共重合にも有効であり、極性官能基の存在下においても、スチレン/一酸化炭素共重合ユニットの立体選択性がうまく制御できたことを示した。

審査要旨 要旨を表示する

学位論文研究において著者は、「パラジウム/ホスフィン‐スルホナート触媒を用いた官能基化ポリケトンの立体選択的合成」を目的として研究を遂行した。

高分子は、合成繊維やプラスチックなどを始めとし、種々の機能性材料としても産業界で幅広く利用されており、我々人類の生活に不可欠な極めて重要な素材である。高分子の一種であるポリケトンは、遷移金属触媒を用いることにより、オレフィンと一酸化炭素とから合成される。ポリケトンは剛性に優れることから、その一部はエンジニアリング・プラスチックとして実用化されているものもあるが、しばしば接着性の低さが問題になることや、種々の合成上の制限が存在することなどにより、高分子材料としての可能性が十分に開拓されているとは言い難い。本学位論文研究において著者は、ポリケトンの物性を改質することを目指し、ポリケトンに種々の官能基の導入を行うと同時に、その立体選択性の制御を行った。

第1章においては、当該分野の背景を概観した。第2章においては、パラジウム/ホスフィン-スルホナート触媒を用いたビニルアレーンと一酸化炭素との共重合を行い、その触媒活性と立体選択性とを調べた。この触媒系はビニルアレーン/一酸化炭素の完全交互共重合体を与え、13C NMRによる解析から、得られた共重合体はイソタクチック構造を多く含むことが明らかになった。先行研究においては、ホスフィン系配位子を用いた場合にはビニルアレーン/一酸化炭素共重合がうまく進行しないことが報告されており、本触媒系がホスフィン系配位子系としては例外的な性質をもつことが明らかになった。ジアリールホスフィノ基をもつ配位子は、ジアルキルホスフィノ基をもつ配位子に比べて活性と立体選択性がともに高く、ジアルキルホスフィノ基はビニルアレーン/一酸化炭素共重合に適していないことが示唆された。アリール基のオルト位に位置する置換基の立体障害は、触媒活性を低下させる反面、立体選択性の向上に寄与することが明らかになった。重合温度を上げると触媒活性が向上するが、β‐水素脱離が加速されることにより、得られる共重合体の分子量は低下した。高温での重合により得られた分子量の小さな共重合体の末端構造を解析したところ、モノマーであるスチレンは重合活性種のパラジウム-アシル結合に2,1-挿入の様式で挿入することが明らかになった。さらに、本触媒系は官能基化ビニルアレーン/一酸化炭素共重合にも有効であり、4-トリフルオロメチルスチレン/一酸化炭素共重合に初めて成功した。

第3章においては、第2章の知見を応用し、パラジウム/ホスフィン-スルホナート触媒を用いた極性ビニルモノマー/ビニルアレーン/一酸化炭素の三元共重合を行った。本触媒系は、酢酸ビニルとアクリル酸メチルを含む極性ビニルモノマーの三元共重合に有効であり、従来の触媒系では合成出来なかった新規な三元共重合体を得ることに成功した。極性ビニルモノマー/一酸化炭素ユニットとビニルアレーン/一酸化炭素ユニットの比は、モノマーの仕込み比を変えることで変化させることができた。NMRと示差操作熱量測定(DSC)による解析から、得られた三元共重合体は、極性ビニルモノマー/一酸化炭素共重合体ユニットとビニルアレーン/一酸化炭素共重合体ユニットからなるブロック共重合体ではなく、それぞれのユニット成分が主鎖中にランダムに配列した真の三元共重合体であることが明らかになった。

第4章においては、リン原子上に不斉点をもつ新規なキラル・ホスフィン-スルホナート配位子を合成し、オレフィン/一酸化炭素共重合へ応用した。ビニルアレーン/一酸化炭素共重合によりその立体選択性を評価したところ、フェニル(2-ビフェニル)ホスフィノ基をもつ配位子が最も高い立体選択性を与え、そのイソタクチック選択性は80%以上であった。tert-ブチルフェニルホスフィノ基をもつ配位子を用いて酢酸ビニル/一酸化炭素共重合を行ったところ、スピロケタール構造のみからなる共重合体を与え、従来のアキラルなホスフィン-スルホナート配位子により得られた共重合体とは異なる立体規則性をもつ共重合体が得られた可能性が示唆された。また、同配位子をキラルカラムにより光学分割して得られた単一のエナンチオマーを用いてビニルアレーン/一酸化炭素共重合を行ったところ、中程度の旋光度を与える共重合体が得られ、リン原子上に不斉点を導入する触媒設計は、触媒コントロールによる立体制御に有効であることが明らかになった。さらに、この触媒系はスチレン/極性ビニルモノマー(酢酸ビニルおよびアクリル酸メチル)/一酸化炭素の不斉三元共重合にも有効であり、極性官能基の存在下においても、スチレン/一酸化炭素共重合ユニットの立体選択性がうまく制御できたことを示した。

以上本成果は、学術的見地から興味深い知見を含むのみならず,高分子材料としてのポリケトンのもつ潜在的な可能性を大きく拡大するものであると期待される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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