No | 127449 | |
著者(漢字) | 姜,元俊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ジャン,ユアンジュン | |
標題(和) | 乾燥岩石流動が防護構造物に及ぼす衝撃に関する実験と解析 | |
標題(洋) | Dynamic Impact of Dry Granular Flow on Retaining Structure | |
報告番号 | 127449 | |
報告番号 | 甲27449 | |
学位授与日 | 2011.09.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7535号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 2000年以降に発生したわが国の新潟中越地震、パキスタンのカシミール地震、中国のブン川地震はいずれも山間部の社会に大きな打撃を与えた。被害の形態としては斜面の崩壊が主であるが、この崩壊によって山間部を走る道路が埋没・通行止めとなり、救援やとなった。その状況は道路の啓開によって解消するのではなく、その後の降雨によって斜面が不安定・落石が増えるたびに道路はたびたび通行止めとなり、地域社会の復興にとって大きな障害となった。これらの災害を実際に踏査したときの印象は、地震直後やその後の降雨時にも、一般車両は無理としても緊急援助や輸送の車両だけは通行でできるようしたい、ということであった。本研究はそのようなきっかけから始まったもので、プレファブで現地に搬入できる簡易トンネルの実用化を目指したものである。その基礎資料として、斜面上部から落下する岩石流動体が構造物に及ぼす衝撃力を実験的および数値的に調べたものである。 | |
審査要旨 | 2000年以降に発生したわが国の新潟中越地震、パキスタンのカシミール地震、中国のブン川地震はいずれも山間部の社会に大きな打撃を与えた。被害の形態としては斜面の崩壊が主であるが、この崩壊によって山間部を走る道路が埋没・通行止めとなり、救援や復興の妨げとなった。その状況は道路の啓開によって解消するのではなく、後日の降雨によって斜面が不安定・落石が増えるたびに道路は繰り返し通行止めとなり、地域社会の復興にとって大きな障害となった。これらの災害を実際に踏査したときの印象は、地震直後やその後の降雨時にも、一般車両は無理としても緊急援助や輸送の車両だけは通行でできるようしたい、ということであった。本研究はそのようなきっかけから始まったもので、プレファブで現地に搬入・組み立てできる簡易トンネルの実用化を目指したものである。その基礎資料として、斜面上部から落下する岩石流動体が構造物に及ぼす衝撃力を実験的および数値的に調べた。 本論文は9章から成っており、以下、順次その内容を説明する。 第1章は、上述したような研究動機と各章の構成を簡単に説明している。 第2章は岩石流れに関する先行研究の文献調査である。特に落石(群)が構造物に及ぼす衝撃力の評価法はいくつかの設計規準に例が見られるものの、それらは単一の岩塊の落下を想定している。また、水で飽和した土石流の挙動については流体力学的アプローチの例があるが、斜面から落下する岩石群のような比較的乾燥した条件とは振る舞いが異なる。そして数値解析の例としては、個別要素法DEMを紹介している。 第3章は、本研究のために製作・使用した斜面模型の諸元を説明している。この斜面は長さ2.93mで傾斜が可変であり、その上部に堆積させたレキ材料を、扉の急速開放によって落下、斜面下部の剛性の高い擁壁やトンネル模型に衝突させるものである。擁壁とトンネルの模型には垂直力とせん断力の双方が測定できるロードセルを並べて設置した。また落石材料としては、平均粒径が1.5mmから15mm程度の4種類のレキ材料を使用した。それらの材料の摩擦角や斜面との間の摩擦についても測定値が示されている。 第4章では、落下するレキ材料と剛な擁壁模型との間の衝撃力の実験データを報告している。模型の剛性が高いので衝撃力は大き目の値になり、実際への適用においては安全側の評価になっている。レキの種類や量、斜面傾斜角、落下距離、斜面の摩擦をさまざまに変えて実験を繰り返し、次のような事柄を見出した。まず、衝撃力は一旦(動的な)最大値を記録し、その後、減少して静的な残留値に至る。衝撃には壁に垂直と平行(せん断)2成分があるが、後者は小さい。垂直力は土被り圧に影響されるので擁壁下部ほど大きい。そして崩落土砂量が増えるほど、斜面傾斜が大きいほど、衝撃力も大きい。 次に第5章では、トンネル模型に起こる衝撃力の実験結果を説明している。その内容には擁壁の衝撃力と通ずるところが多い。衝撃力はレキが直撃する場所すなわち斜面上流側に面したトンネル部で最大となり、逆に下流側ではほとんど無視できる。 第6章では、擁壁実験結果をまとめて回帰分析から実験公式の導出を図った。それによると、衝撃垂直力の最大値は、おおむね誤差50%の範囲予測ができる。作用点位置の予測もまた同程度の誤差で収まっており、擁壁に作用する転倒モーメントの予測は「倍半分」程度の誤差で収まるものと思われる。他方せん断力の挙動は、擁壁前面に堆積するレキの跳ね上がりや圧密沈下に影響されて、正負に複雑に変動し、その予測は困難である。なお、谷筋を流れ下る土石流では、長距離流動のうちに大径粒子が表面に浮き上がって流れの前面に押し出される分級現象が知られているが、本研究の対象である落石程度では流動距離が短く、分級は明瞭には起こらない。本章の最後では、雪崩防災で用いられている流体力学的経験公式も評価し、これも良好な結果を得た。ただし擁壁との衝突直前の速度と流れの厚さとを、別途評価する必要がある。 第7章ではトンネル模型実験の結果について、回帰分析などを行なった。トンネル構造に発生する部材力としては曲げモーメントだけでなく、トンネルが円弧形状をしているために円弧の軸方向に発生する力にも注意を払った。実験結果によると、せん断力や曲げモーメントはトンネルの斜面上流側の端部に発生する。軸力もまた上流側端部で大きな値をとるが、これ以外に下流側の一部でも同等の大きな力が生ずる。これはレキの衝突力がトンネルを下流側へ押した結果である。それとは別に軸力が引っ張りの大きな値をとることも認められ、その発生位置は上流側の端部から少し上がった位置である。これらの知見を踏まえて部材力を予測する回帰式を構築し,精度を評価した。 ここまでの章で示した回帰式はそれなりの性能を示すものの、実験室レベルの小型模型でしか精度を検定できないという限界がある。他方、実物大の実験は不可能と考えざるを得ないので、小型の実験結果から大型の実斜面での衝撃力を推算する方法を提案しなければならない。そのような理由から第8章ではDEM解析を行なった。使用したプログラムは簡単な原型から学位申請者が開発したもので、2次元動的解析である。プログラムでまず小型模型実験の結果を再現できるよう、入力データを調節した。これを数値解析の世界ではチューニングあるいはキャリブレーションと呼ぶ。次に同じ入力データを用いてスケール10倍のケースを解析した。二次元DEMの限界は、衝撃圧の時間変動が激しすぎることである。これは、実現象が3次元であるのに対し、二次元では擁壁やトンネルに落石が接触していない瞬間が生まれてしまうからである。その欠点を補うためには、三次元DEMを実施することが望ましいが、学位申請者はDEMの初心者であって三次元プログラムを開発するには至らなかった。その代わりとして2.5次元解析という概念を提案し、落石の初期条件をランダムに変化させた二次元解析を20例行い、その結果を平均することによって、衝撃力の時間変動を緩和した。 第9章は全体の結論と今後の展望を述べている。 以上、本研究は、斜面から落下して非常構造物に衝突する落石群の衝撃力を実験的に測定し、その予測手法として回帰分析式および数値解析の可能性を示したものであり、防災工学に新たな考え方を導入した研究成果と評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |