No | 127454 | |
著者(漢字) | クレシ モシン ウスマン | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クレシ モシン ウスマン | |
標題(和) | 軟岩風化過程の実験的再現とその斜面リスク評価への応用 | |
標題(洋) | Laboratory reproduction of weathering process of soft rocks and its application to risk assessment | |
報告番号 | 127454 | |
報告番号 | 甲27454 | |
学位授与日 | 2011.09.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7540号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 山地の斜面の崩壊は、誘因が地震であると豪雨であるとを問わず、人命や地域活動や交通網への影響が著しい。研究や報道の面では巨大な斜面崩壊が衆目を集めがちであるが、表層が崩落する小規模な崩壊は、発生件数が多く、かつ生活圏の近傍でも突発的に発生するため、社会的な重要性が高い。小規模崩壊で被害が起こった場合、しばしば聞かれる地元コメントは、去年の豪雨では何も起こらなかったのに、なぜ今年は?というものである。このような疑問に対する答えは、累積降水量であったり、不用意な掘削工事であったり、地下の水脈の変化であったりするが、重要な誘因は斜面を構成する岩盤の風化進行である。 風化には、岩から砂レキへの粒径縮小を起こす物理的風化と、岩から粘土への変化を意味する化学的風化とがある。本研究の対象としたものは前者であり、一体化して強度を備え安定していた岩盤中に亀裂が発生して次第に強度を喪失し、砂レキ化も進行して、遂には崩壊に至るプロセスの実験的再現と力学的性質の変化の追跡を行なった。そして結果を利用して、斜面の不安定度合いを現場で実用的に評価し、状況によっては地域社会に斜面崩壊の危険信号を発することができる実用的な方法を構築した。 | |
審査要旨 | 山地の斜面の崩壊は、誘因が地震であると豪雨であるとを問わず、人命や地域活動や交通網への影響が著しい。研究や報道の面では巨大な斜面崩壊が衆目を集めがちであるが、表層が崩落する小規模な崩壊は、発生件数が多く、かつ生活圏の近傍でも突発的に発生するため、社会的な重要性が高い。小規模崩壊で被害が起こった場合、しばしば聞かれる地元コメントは、去年の豪雨では何も起こらなかったのに、なぜ今年は?というものである。このような疑問に対する答えは、累積降水量であったり、不用意な掘削工事であったり、地下の水脈の変化であったりするが、重要な誘因は斜面を構成する岩盤の風化進行である。 風化には、岩から砂レキへの粒径縮小を起こす物理的風化と、岩から粘土への変化を意味する化学的風化とがある。本研究の対象としたものは前者であり、一体化して強度を備え安定していた岩盤中に亀裂が発生して次第に強度を喪失し、砂レキ化も進行して、遂には崩壊に至るプロセスの実験的再現と力学的性質の変化の追跡を行なった。そして結果を利用して、斜面の不安定度合いを現場で実用的に評価し、状況によっては地域社会に斜面崩壊の危険信号を発することができる実用的な方法を構築した。以下に、論文の内容を紹介する。 第1章では研究の動機、意義、目的の紹介を行なっている。近年の地震において数多くの風化斜面が崩壊した他、地震動によって斜面が脆弱化して、長期間にわたって斜面崩落が続く事例を紹介している。また本研究の根幹はRWLと呼ばれる物理的風化の促進実験であるが、実際に中国四川省の斜面崩壊地から採取してきた岩石を短期間で風化・崩壊させた例をも示した。 第2章は先行研究の文献調査である。物理的風化の地質学的研究に始まり、その再現方法の紹介、そして軟岩の力学的性質に関する諸研究をまとめた。 第3章では実験装置の内容を紹介した。まず室内実験であるが、「飽和→凍結→融解→乾燥」のRLW(reproduced laboratory weathering)サイクルを岩石に経験させて風化を短期間に進行させ、一軸圧縮試験を行なった。そこでは、破壊挙動の測定と微小ひずみ時の剛性計測を行なった。一軸圧縮試験では拘束圧力無しの状態で実験せざるを得ず、これは斜面の表面の状況しか研究できないことを意味する。少し深部の状況をも調べるために、あらかじめ飽和させた岩石試料で凍結融解を繰り返しつつ剛性や破壊強度を測定できる三軸せん断装置を新たに製作し、使用した。これらの実験室研究と平行して、国内外の自然斜面において、動的貫入試験、屈折法探査、現場せん断試験などを行った。それらに使用した機器についても、本章で説明されている。 第4章は、軟岩のある現場実験サイトの紹介である。国内では横須賀の砂岩や泥岩、長野県の火成岩斜面で実験を行なった他、実験室で使用するサンプルを、これらのサイトに加えて筑波山、六甲山、相模原から採取した。また国外については、パキスタンのムザファラバードやタクシラで現場実験を行なった。前者は2005年の大地震後に斜面の崩落が著しくなった地域である。風化に対する抵抗には鉱物によって大小があるが、いずれにせよ最終的には(数億年単位で)風化が進むことには変わりが無い。そして斜面災害はこの最終段階で発生する。したがって本研究では風化崩壊しにくい鉱物からなる岩石斜面を単純に安全と見なすことはしない。第4章の後半では、現場から持ち帰った岩石試料の整形と物理風化再現プロセス(RLWサイクル)、データの分析方法を詳述している。 第5章では、一軸圧縮試験及び三軸圧縮試験の結果を説明している。RLWサイクルの中では飽和した岩石試料を凍結する段階の影響が重要である。これは、空隙を満たしている水分が氷となって体積膨張し、岩石内部に亀裂を生じさせるからである。この内部破壊過程が繰り返されることによって剛性や強度が低下して行く。亀裂発生は顕微鏡観察によっても確認された。剛性は実地盤のS波伝播速度と関係しており、成果を実際に応用するに当たっては、実斜面で簡便にS波速度を測定し(屈折法探査)、風化層の厚さとせん断強度を推定し、斜面の不安定度合いを評価することを計画した。また、三軸試験によって、拘束圧が高いほど風化が進みにくいことも示された。地表より地中では年間の温度変化が小さいこととあわせ、物理的風化は深部には進みにくいことが理解された。 第6章は現場実験結果の紹介に宛てられている。簡易な屈折法探査から推定された風化層の厚さとせん断強度を確証するため、より時間のかかる動的貫入試験や現場せん断実験を行い、比較検討した。それによれば、風化層の厚さは屈折法によって十分評価できる。しかしせん断強度については手法ごとに求まる値に差があり、不飽和状態の現場せん断実験ではサクション等の影響で豪雨時に比べて強度が過大であり、一軸や三軸圧縮試験もまたサンプルが完全には砂レキ化していないので、貫入試験からの推定に比べて、強度が大きめである。 第7章は実際の斜面の安定性評価手法の提案である。風化は時間とともに進行するので、現場で簡易な屈折法探査を定期的に繰り返すことが重要である。その結果から風化層の厚さとせん断強度が推定でき、豪雨時のすべり崩壊安全率が計算できる。安全率が低下して1に接近したとき、危険情報を発して、斜面補強や住居移転などの対応を求める。 第8章は結論と今後への研究指針である。 以上、本研究は、近年多発する山地地震災害に啓発されて、重要な被害発生原因である風化斜面の劣化進行と最終的な崩壊までのプロセス再現と危険度評価手法の構築に成功したものであり、有用性に富む独創的な研究成果と評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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