学位論文要旨



No 127469
著者(漢字) 朴,元俊
著者(英字)
著者(カナ) パク,ウォンジュン
標題(和) 環境負荷低減型再生骨材コンクリートの調合の最適化に関する研究
標題(洋)
報告番号 127469
報告番号 甲27469
学位授与日 2011.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7555号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 准教授 塩原,等
 東京大学 講師 北垣,亮馬
 東京理科大学 准教授 加藤,佳孝
内容要旨 要旨を表示する

様々な分野におけるサステナビリティ(持続可能性)の推進は、今世紀の人類に課せられた大きな課題である。地球環境問題に対する解決策として、各種産業廃棄物をリサイクルしようとする研究がなされており、建築分野には、「資源循環型建築」や「サステナビリティ」を目指す研究が世界的に行われている。しかしながら、現在、日本における建設廃棄物は、産業廃棄物の排出量の約2割、不法投棄量の約8割を占めている状況であり、中でも建築物解体による廃棄物については、1960年代以降に急増した建築物が更新期を迎えており、今後とも発生量が増加することが予想される。日本において建築廃棄物は、その発生量が多いことから、その資源循環を目指し、再生骨材に関する研究が行われてきた。

しかしながら、現況では、生産された大部分(96%)の再生骨材が主に道路用骨材に利用され、厳密に資源枯渇の防止と廃棄物の再利用の観点から見るとより現実的な活用が求められている。つまり、廃コンクリートのリサイクルに関する多角的な試みが進められ、特に再生骨材の埋めたてなどの単純な処理からコンクリート用骨材、セメント原料などの高付加価値材料として活用する高度活用技術の開発に取り組んでいる。

一方、再生骨材はコンクリート材料として一部コンクリート製品にその使用が制限されており、従来の路盤材の需要が大きく減少するとき、さらにコンクリート解体量が増加していく傾向が確認されている。主要な建設材料であるコンクリートの資源やエネルギーの消費と廃棄物の排出は、地球・地域環境を害し、また、長期的には人の健康や生態系などにも多大な悪影響を与える。したがって、建設関連分野からの環境負荷の主な要因の一つと特定されているコンクリートの環境負荷を低減することは、持続可能な建設業を実現するための緊急な課題であると考えられ、再生骨材をコンクリート用骨材へと適用していく、より高い次元でのリサイクルの実現が社会的に求められている。

しかし、再生骨材は、コンクリートに使用した際、普通骨材と比較して強度や耐久性に影響する各種品質が劣っている。また、再生骨材には様々な異物が混入される可能性が高いことから、良質の再生骨材を生産しても不純物によるコンクリートの物性に悪影響を与える可能性があることが確認され、再生骨材をコンクリート用の骨材へと用途を変換していくためには、再生骨材製造とそれに伴う環境問題、再生骨材の品質の多様性、不純物混入の危険性などを考慮し、再生骨材コンクリート調合技術的な課題を解決し、再生骨材コンクリートのユーザのための使用マニュアルや指針などのような使い易い環境を整備することが非常に重要である。

以上の背景を踏まえ、本研究では、再生コンクリートの調合設計とコンクリートの性能との相関のうち顕著なものや、メカニズムが与えられ性能への影響の度合いが推し量れるものを整理し、調合とコンクリートの各性能との関係をモデル化し、プログラム上に「再生骨材コンクリート調合システム」として構築する事を計画する。再生骨材コンクリート調合の問題は、スランプ、強度、耐久性、環境性などの要求性能を数学的には特定の集合上で定義された実数値関数または整数値関数についてその値が最大(もしくは最小)となる状態を解析する多目的最適化問題としてアプローチが可能であり、本研究では、工学分野において広く一般的に用いられている多目的最適化手法である遺伝的アルゴリズム(以下GA, Genetic Algorithm)を再生コンクリートの調合の問題に適用し、最適解(調合)集団を導出するシステムを構築することを目的とする。また、再生骨材における不純物混入と再生骨材コンクリートの用途や養生条件などのような施工環境によるコンクリートの物性変化の推定をRisk Map手法を利用して「再生骨材コンクリートの使用におけるリスク評価モデル」として取り込むことを目的とする。

第1章「序論」では、本研究の研究背景や目的、本論文の構成について述べる。

第2章「既往研究および技術現況に関する検討」では、多数の再生骨材コンクリートに関する既往研究から、再生骨材コンクリートの特性を把握し、環境負荷低減における再生骨材コンクリートの利用の必要性を確認した。その結果、普通コンクリートに比べて再生骨材に品質や置換率によって再生骨材コンクリートの力学特性を低下されることが確認された。これは、既往のコンクリートの調合設計手法を利用して再生骨材コンクリートを作る場合、期待する性能、つまり要求レベルより低い性能を持つ再生骨材コンクリートになる可能性があることを意味し、再生骨材の物性が考慮した調合設計システムの構築するべきであることを分かった。また、既往研究および技術の現況に関する検討により、性能設計および多目的最適化手法に基づき、最適化問題へのアプローチを整理することとともに、再生骨材を用いるコンクリートの調合設計の最適化としてGAによる多目的最適化問題の構成までの流れを整理した。

第3章「環境負荷低減型再生骨材コンクリートの調合システムの構築」では、第2章で議論された最適化問題に対するその方法論として多目的最適化における合理的な解として定義されるパレート最適の概念を採用し、パレート最適解集団(再生骨材コンクリートの調合)を探索する最適化手法としてGAを用いて再生骨材コンクリートの調合システムの構築を行った。具体的には、再生骨材コンクリートに要求される性能に対し、11項目の目的関数(物性値の推定式)を設定し、各物性値に対する性能表現の概形を性能表現関数として定義し、GA上で遺伝子型(コンクリート構成材料のデータ)と表現型(目的関数)として表現されることにシステム構築の計画を行った。

また、構築したシステムから導出された再生骨材コンクリート調合の適用における再生骨材(例:製造プロセス、不純物)から起因する「リスク」が確認された。つまり、様々な解体プロセスと製造方式によって生産された再生骨材を用いてコンクリートを製造する時、不純物や施工環境などによるコンクリートの性能に問題が発生する可能性があり、これらに対するリスク評価に関する研究は見当たらない。本研究では、再生骨材中の不純物の混入量推定をモデル化とともに不純物によるコンクリートの物性変化の推定を整理した。また、コンクリートの用途などを考慮し、それぞれの評価をまとめてRISK MAP手法(ISO/IEC Guide 51)を利用して「再生骨材コンクリートの使用におけるリスク評価モデル」の構築に取り組みを行った。

第4章「再生骨材コンクリートの性能表現関数の構築」では、第3章で提案したシステムの構築における再生骨材コンクリートの各特性値(物性値や性能指標など)について多数のコンクリート関係の既往研究や基(規)準からフレッシュ状態の特性(比重、スランプなど)、力学的特性(強度、ヤング係数)、耐久性(中性化速度係数など)、経済性(1m3の価格)、環境性(環境負荷物質の排出量)をシステム上でそれぞれの再生骨材コンクリートにおける要求性能を推定する目的関数(GA上の表現型)を提案した。

第5章「試行結果およびシステムの有用性に関する検討」では、第3章および第4章から提案したシステムの構築とともに、今後の再生骨材コンクリートの普及・使用の拡大に向けて、ケーススタディを行った。各ケースには多様な用途と施工環境と様々な要求性能が想定され、構築したプログラムを用いて計算を行い、ケースにおける要求性能に対しては、適切かつ現実的な調合を導出することが可能であった。つまり、最適解集団として調合を導出した後、選定が可能なシステムを構築できたと判断できる。また、その結果のうち、各ケースの主な要求性能の仮定に優れているものを1個づつ選別し、リスク評価を行った結果、各ケースにおける再生骨材コンクリートのリスク評価が可能であった。これらのリスク評価を考えると、実際に再生骨材コンクリートに対する使用マニュアルや指標として、アプローチができ、本システムとリスク評価の有用性があると考えられる。

第6章「結論」では、本論文のまとめを示すと共に、今後の展望および課題について述べる。

本研究では、遺伝的アルゴリズムによる再生骨材コンクリートの調合設計システムを構成し、そのシステムの中で再生骨材をはじめ各構成材料がコンクリートのどの性能に影響を与えるかを考慮し、そのモデル化を行った。また、再生骨材コンクリートの調合システムに対して、再生骨材コンクリート活用の普及・拡大を仮定したケースを想定し、各ケースにおける様々な要求性能に対して構築したプログラムを用いて再生骨材コンクリート調合の導出が可能だった。各調合上にある骨材分類と各再生骨材の予想生産方式を仮定し、再生骨材の原料になる廃コンクリートの流入を仮定した。様々な解体シナリオに対する各調合上の期待性能に対してリスク評価を行った結果、各ケースにおける再生骨材コンクリートのリスク評価が可能であった。

以上のように、再生骨材コンクリート調合における技術的な課題を多目的最適化問題としてアプローチおよび解決するために、「材料の設計因子」と「性能」、「評価」、「環境負荷発生量の低減」を考慮した「環境負荷低減型再生骨材コンクリートの調合設計システム」の構築とともに、使用リスク評価モデルを提案することとして、再生骨材コンクリートのユーザのための使用マニュアルや指針などのような使い易い環境を提供することができた。

審査要旨 要旨を表示する

朴元俊氏から提出された「環境負荷低減型再生骨材コンクリートの調合の最適化に関する研究」は、コンクリート構造物の解体により発生するコンクリート塊をコンクリート用骨材として利用する際に、様々な要求を満足する再生骨材コンクリートを合理的に得ることができるよう、調合計画の最適化システムの構築を行った研究である。現在、解体コンクリート塊のほとんどは路盤材として利用されているが、将来の道路建設の縮小と寿命を迎えるコンクリート構造物の増加により、解体コンクリート塊をコンクリート用骨材として利用しなければならなくなることは必至である。そのため、世界各国でコンクリート用再生骨材の規格化が進められてきた。しかしながら、再生骨材の品質は、その製造方式に加えて、コンクリート構造物の解体方法やコンクリート廃棄物の収集方法によっても大きな影響を受けるため、天然骨材を対象として構築された従来のコンクリートの調合設計手法がそのまま利用できない場合や、再生骨材コンクリートに生じる大きな品質変動を加味した調合設計を行わなければならない場合も生じる。加えて、再生骨材コンクリートは、資源循環型社会の構築に寄与するものでなければならないのは当然であるが、地球温暖化現象の抑制にも資するものでなければならない。本論文は、以上の問題の解決に向けて、再生骨材コンクリートの特性および要求性能の整理を行うとともに、問題解決に資するコンクリートの調合最適化支援ツールを提供するものであると言える。

本論文は7章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。

第1章では、本研究の背景・目的・意義・構成が述べられている。

第2章では、日本のコンクリート系廃棄物の実態、ならびに再生骨材および再生骨材コンクリートに関する世界各国の取組み動向に関する整理が行われるとともに、再生骨材コンクリートに関する多数の既往研究データに基づく再生骨材コンクリートの基本物性の整理が的確になされている。また、コンクリートの調合の最適化を図る上で必要となる最適化問題の解法に関する様々な情報の整理も的確になされており、既往の情報・研究を整理した上で、再生骨材コンクリートの利用・普及に際しての現状の問題点の抽出とそれに対応する本研究の課題と方針が明確に示されている。

第3章では、再生骨材を用いたコンクリートに関する多数の既往研究を基に統計分析がなされ、各種特性と圧縮強度との関係式が再生骨材の品質に応じて導出されるとともに、再生骨材を用いる場合には不純物の影響を加味する必要があることが実験により確かめられており、それらに基づき、再生骨材を用いたコンクリートでは、普通骨材を用いたコンクリートとは異なる調合設計手法が必要であることが指摘されている。

第4章では、第2章で整理された課題および第3章で示された課題の解決に向けて、環境負荷の低減に資する再生骨材コンクリートの最適な調合を導出するための支援システムの体系の構築が図られている。天然骨材を用いたコンクリートではほとんど考慮する必要のない再生骨材コンクリート特有の問題である建設廃棄物系不純物の混入に対しては、コンクリート構造物の解体工法を基に、調合設計にリスクの概念を導入して問題の改善を図るという新規性に富む方針が示され、リスク評価モデルの構築が適切になされている。また、各種要求性能に対する調合最適化のアプローチについても、天然骨材コンクリートで用いられている遺伝的アルゴリズムとの差別化を図る方針が明確に示されている。

第5章では、第4章で構築したシステムに組み込まれる再生骨材コンクリートの性能表現関数について、既往の多数の研究成果を基に十分な整理がなされている。性能表現関数は、再生骨材の属性・特性とそれを用いたコンクリートの性能との関係を表した関数であり、天然骨材を用いた場合の性能表現関数との差異の有無、差異がある場合のその原因の考察が的確になされている。また、環境負荷低減性能という新たな概念の導入も図られている。

第6章では、第4章および第5章で構築・設定した再生骨材コンクリートの調合最適化システムの妥当性を検証するために、再生骨材コンクリート活用の普及・拡大を想定した様々な条件下でケースについて、構築した調合設計最適化システムによるケーススタディがなされ、本論文で提案する遺伝的アルゴリズムとリスク評価モデルの有用性・妥当性が示されている。

第7章では、本論文の結論が的確にまとめられるとともに、今後の課題が示されている。

以上のように、本論文には、その目的・意義は明確に示されており、適確な手法を用いて研究が進められるとともに、解体・リサイクルの実態を踏まえた検討もなされており、再生骨材コンクリートの普及に寄与する示唆的な知見が示されている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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