学位論文要旨



No 127482
著者(漢字) 前田,悦男
著者(英字)
著者(カナ) マエダ,エツオ
標題(和) 金属サブ波長構造配列の形状効果を用いた高感度光学式誘電率センサの研究
標題(洋)
報告番号 127482
報告番号 甲27482
学位授与日 2011.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7568号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 JJ,ドロネー
 東京大学 教授 石原,直
 東京大学 教授 山田,一郎
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 光石,衛
 東京大学 教授 濱口,哲也
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサ高感度化のための設計指針と実験事実を示した.

第一章では,金属サブ波長構造配列における表面プラズモン共鳴を用いた光学式誘電率センサの現状と課題について述べた.金属サブ波長構造配列による表面プラズモン共鳴手法は,従来のエバネッセント光を用いた共鳴手法と比較して,小型な光学系で実現可能である.しかし,現時点では,感度向上のための構造形状に関する設計指針が未知である.金属サブ波長構造配列のうち,開口形状においては,微小開口の回折理論を超える異常な透過光スペクトルを示し,そのピーク波長が誘電率変化に敏感に応答するため,新しい光学式誘電率センサへの応用が期待されている.本論文では,金属サブ波長開口配列を用いた光学式誘電率センサについて,開口形状の効果を用いた高感度化の実験事実を示すことと,開口形状に関する設計指針を明らかにすることを具体的な研究目標とした.

第二章では,電磁波解析法を用い,プラズモニクスにおける代表的な金属である金や銀を材料として,金属材料の誘電率と開口形状が異常な透過光スペクトルに与える影響について述べた.開口形状の要素として,矩形形状のアスペクト比に着目した.これは,照射光に直線偏光を用いる事で形状の効果を効率的に得ることが出来ると考えたからである.金属材料の誘電率の違いが,表面プラズモン共鳴波長と透過光スペクトルピーク波長の差として現れ,開口形状の高アスペクト比化によってピーク波長の差が増幅される可能性を示した.

第三章では,パラジウムの水素吸蔵能による誘電率変化を用いた光学式誘電率(水素)センサの実験について述べている.パラジウムの水素吸蔵能によって,誘電率の絶対値が低下することと体積が増加することをセンシングに応用した.パラジウムは自由電子を多く含む貴金属であるため,表面プラズモンの励起が容易である.また,有機膜のように使用後の洗浄プロセスを必要としないため,構造形状の違いによる光学式誘電率センサの感度向上を比較する上でパラジウムを用いる事は有効である.構造周期を1.1 μm,パラジウムの膜厚を100 nm,開口長辺を800 nmに固定し,短辺を800-300 nmに変化させた.金属サブ波長構造配列の試作には,電子線リソグラフィおよびリフトオフプロセスを用いた.開口短辺に対して平行な偏光および垂直な偏光の透過光スペクトルを比較したところ,矩形短辺に対して平行な偏光において開口率の約2倍の透過光スペクトルを得た.また,開口のアスペクト比(長辺/短辺)の増加に従って,透過光スペクトルピーク波長が長波長側に移動することを実験事実として示した.また,開口のアスペクト比を1.0から2.6にすることで,センサ感度が約10倍に向上し,構造形状の効果によって感度向上が可能であることを実験事実として示した.

第四章では,金属サブ波長開口配列をプラズモン導波路の集合体として捉え,光導波路解析結果を用いた実験事実の解明とその応用について述べた.一般の導波路における伝搬定数,伝搬モードおよび遮断周波数の概念をサブ波長スケールのプラズモン導波路集合体に導入した.構造形状の代表寸法(偏光方向に平行な辺の長さ)がλ/10より大きな領域では伝搬光が回折特性とプラズモン導波路特性の影響を受け,代表寸法がλ/10より小さな領域では伝搬光がプラズモン導波路特性の影響のみを受けることを明らかにした.第三章で試作した構造周期1.1 μmのサブ波長開口配列の透過光スペクトルピーク波長は4-6 μmの波長帯に存在する.開口短辺の長さがλ/10となる500 nmよりも小さな開口配列,即ち,高アスペクト比の構造形状は,プラズモン導波路の誘電率変化に高感度に応答することを明らかにした.

第五章では,開口形状に関する実験および解析で得られた代表寸法に係る知見の一般性を示した.金属サブ波長構造配列の構造形状の一つである棒形状について,代表寸法がλ/10以下の高アスペクト比形状を用いる事で,誘電率変化に対する感度を向上させることが可能であることを実験事実として示した.また,導波路内部における光軸方向のモード分散に着目し,導波路長さを短縮することでモード分散を解消し,センサ感度を向上させることも可能であることも示した.金属サブ波長構造配列における代表寸法に係る知見は,サブ波長スケールのプラズモン導波路集合体全般において応用可能であり,導波路のモード解析手法は金属サブ波長構造配列における伝搬光の挙動を知る上で有用であることをしめした.

第六章では,本論文で得られた知見と成果についてまとめた.本論文では,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサの感度向上を目的として,センサ感度に構造形状依存性があることを,初めて実験事実として示した.また,金属サブ波長構造配列をプラズモン導波路集合体とみなして解析することで,構造形状の代表寸法がλ/10を境に光の伝搬特性および誘電率応答性が変化し,高アスペクト比の構造形状を用いる事で高感度化が可能であることを明らかにした.さらに,代表寸法に係る知見を元にして,開口および棒形状のセンサを試作評価し,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサにおける形状効果の有用性を示した.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「金属サブ波長構造配列の形状効果を用いた高感度光学式誘電率センサの研究」と題し,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサ高感度化のための設計指針と実験事実を示している.論文は全六章から成る.

第一章は序論であり,表面プラズモン共鳴を用いた光学式誘電率センサの現状と課題について述べている.金属サブ波長構造配列による表面プラズモン共鳴手法は,従来のエバネッセント光を用いた共鳴手法と比較して,小型な光学系で実現可能である.しかし,現時点では,感度向上のための構造形状に関する設計指針が未知である.特に,開口形状においては,微小開口の回折理論を超える異常な透過光スペクトルを示し,そのピーク波長が誘電率変化に敏感に応答するため,新しい光学式誘電率センサへの応用が期待されている.本論文では,金属サブ波長開口配列を用いた光学式誘電率センサについて,開口形状の効果を用いた高感度化の実験事実を示すことと,開口形状に関する設計指針を明らかにすることを具体的な研究目標としている.

第二章では,電磁波解析法を用い,プラズモニクスにおける代表的な金属である金や銀を材料として,金属材料の誘電率と開口形状が異常な透過光スペクトルに与える影響について述べている.金属材料の誘電率の違いが,表面プラズモン共鳴波長と透過光スペクトルピーク波長の差として現れ,開口形状の高アスペクト比化によってピーク波長の差が増幅される可能性を示している.

第三章では,パラジウムの水素吸蔵能による誘電率変化を用いた光学式誘電率(水素)センサの実験について述べている.パラジウムの水素吸蔵能によって,誘電率の絶対値が低下することと体積が増加することをセンシングに応用している.開口のアスペクト比を2.6倍にすることで,センサ感度が約10倍に向上し,構造形状の効果によって感度向上が可能であることを実験事実として示している.

第四章では,金属サブ波長開口配列をプラズモン導波路の集合体として捉え,光導波路解析結果を用いた実験事実の解明とその応用について述べている.一般の導波路における伝搬定数,伝搬モードおよび遮断周波数の概念をサブ波長スケールのプラズモン導波路集合体に導入している.構造形状の代表寸法(偏光方向に平行な辺の長さ)がλ/10より大きな領域では伝搬光が回折特性とプラズモン導波路特性の影響を受け,代表寸法がλ/10より小さな領域では伝搬光がプラズモン導波路特性の影響のみを受けることを明らかにしている.代表寸法がλ/10以下となる高アスペクト比の構造形状は,プラズモン導波路の誘電率変化に高感度に応答する.また,導波路内部における光軸方向のモード分散に着目し,導波路長さを短縮することでモード分散を解消し,センサ感度を向上させることも可能であることを示している.

第五章では,開口形状に関する実験および解析で得られた代表寸法に係る知見の一般性を示している.金属サブ波長構造配列の構造形状の一つである棒形状について,代表寸法がλ/10以下の高アスペクト比形状を用いる事で,誘電率変化に対する感度を向上させることが可能であることを実験事実として示している.金属サブ波長構造配列における代表寸法に係る知見は,サブ波長スケールのプラズモン導波路集合体全般において応用可能であることを示している.

第六章は結論であり,本論文で得られた知見と成果についてまとめている.

以上,本論文では,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサの感度向上を目的として,センサ感度に構造形状依存性があることを,初めて実験事実として示した.また,金属サブ波長構造配列をプラズモン導波路集合体とみなして解析することで,構造形状の代表寸法がλ/10を境に光の伝搬特性および誘電率応答性が変化し,高アスペクト比の構造形状を用いる事で高感度化が可能であることを明らかにした.さらに,代表寸法に係る知見を元にして,開口および棒形状のセンサを試作評価し,金属サブ波長構造配列を用いた光学式誘電率センサにおける形状効果の有用性を示した.

本論文の成果である,金属サブ波長構造配列の形状および代表寸法に係る知見は,金属サブ波長構造配列による表面プラズモンを用いた高感度かつ小型なセンサの実現に大きく貢献するのみならず,学術的にもプラズモニクスやナノフォトニクスといった分野の発展に寄与するものである.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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