学位論文要旨



No 127487
著者(漢字) 小野,浩之
著者(英字)
著者(カナ) オノ,ヒロユキ
標題(和) 熱処理と物理選別を用いた廃電子基板のリサイクルに関する研究
標題(洋)
報告番号 127487
報告番号 甲27487
学位授与日 2011.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7573号
研究科 工学系研究科
専攻 システム創成学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,豊久
 東京大学 教授 登坂,博行
 東京大学 准教授 定木,淳
 東京大学 准教授 村上,進亮
 東京大学 教授 森田,一樹
内容要旨 要旨を表示する

資源の有効利用のため、廃棄物のリサイクルが求められている。使用済み電気・電子機器に含まれている電子基板 Printed Circuit Board(PCB)は、銅および貴金属が高濃度で含まれるため、廃製品から取り出された後、銅製錬所へ売却されている。

PCBは様々な部品によって構成される。主基板 Printed Wiring Board (PWB)は、銅箔とエポキシ樹脂を含浸させたガラス繊維で構成される。エポキシ樹脂には難燃剤として臭素が含まれており、ガラス繊維の主成分は珪素である。実装部品では、代表的なものにアルミニウム電解コンデンサがある。臭素は製錬所において炉を損耗させる原因となる。珪素およびアルミニウムは製錬工程でスラグ成分となり、この含有量によって製錬処理量に制約が出る。

実装部品はタンタルやニッケルなどのレアメタルを含有している。しかし、PCBが銅製錬へ送られた場合、回収される成分は銅製錬のプロセス上で回収されるものに限られ、その他の成分はスラグや排ガス中へ拡散し廃棄されている。

これらの問題に対し、本研究では、熱処理および物理選別の手法を用いて、従来回収されていないレアメタルを分離濃縮するとともに、銅製錬における不要成分を廃PCBから分離することを目的とした。

PCB中のレアメタルは実装部品の特定部位に濃縮して存在している。そのため、対象部品を基板から物理的に分離した後、その中から対象金属を濃縮、精製していくことが望ましい。銅製錬所では、PCBを機械的に破砕した後、炉内へ投入している。通常の機械破砕では、実装部品とPWBの分離性が悪く、破砕片から実装部品のみ回収することが困難であり、経済的にレアメタルを回収することができない。

本研究では、基板から実装部品のみを分離する一手段として、水中爆破破砕を実施した。パソコン(PC)用のエポキシ樹脂製基板に対して破砕実験を行った結果、PWBは破砕されず、実装部品のみが剥離された。爆薬量が少量であったため、基板中の剥離範囲は限定的であったが、水中爆破破砕によってエポキシ樹脂基板の実装部品のみを剥離できる可能性が示唆された。

実装部品を取り外したPWBに対して、脱臭素とガラス繊維の分離のため、熱処理と分離処理を行った。まず、PWBを低酸素雰囲気下で熱処理することによって臭素を揮発除去した。873Kで熱処理した場合、残渣中の臭素濃度は6から0.4%へと低減し、臭素の除去率は99%以上となった。

熱処理後の残渣は銅箔とガラス基板が積層状態を維持していた。ガラス基板に含浸されていたエポキシ樹脂が熱分解後もPWB内部に残留し、銅箔とガラス繊維を接着していると考えられた。そこで、樹脂残渣を解砕すれば銅箔とガラス繊維が分離すると推測し、スタンプ(打撃)処理を行った。

各熱処理温度で、スタンプ処理によって分離したガラス繊維量を調査した結果、873Kの熱処理残渣でガラス繊維の分離量が最大となり、ガラス繊維分離後の残渣の銅品位は、処理前の13%から30%へ向上した。銅実収率は95%を得た。元のPWBに含まれる銅のうち41%を銅箔として、珪素の41%をガラス繊維として分離した。

熱処理温度が高温になると、銅箔やガラス繊維が脆くなり、粉末化しやすくなった。粉末化した残渣から銅を回収するため、浮選処理の効果を検証した。薬剤には、銅の硫化剤として水硫化ソーダ (NaHS)、硫化物に有効な捕収剤としてPotassium Amyl Xanthate (PAX)を使用し、各薬剤の添加量の影響を調査した。NaHSは5~50kg/t-inputの範囲でフロスの銅品位、銅実収率ともに大きな影響がなく5kg/t-inputで十分であった。PAXは2~10kg/t-inputの範囲で、PAXが増加するに伴って銅実収率が増加し、銅品位は若干低下した。その結果、10kg/t-inputが最適と判断した。pHは、銅品位と銅実収率を総合してpH10が最適条件と判断した。粉砕粒子径は、75μm以下とした場合が最適であった。以上の結果、銅品位は10 から15% へ向上し実収率80% を得た。浮選処理による銅品位の向上は得られたものの、通常の銅精鉱と比較して高い品位ではなかった。PWB処理プロセスの結果を総合すると、873Kで熱処理後、スタンプ処理し、銅箔は銅製錬の転炉原料とし、細粒部分はそのまま銅製錬の自溶炉原料とするプロセスが適当と考えられた。

タンタルコンデンサに着目し、実装部品からのタンタルの濃縮プロセスを検討した。タンタルコンデンサは、タンタルの焼結体を樹脂で覆った構造をしているため、樹脂部分を分離することによってタンタルを濃縮することができる。

まず、タンタルコンデンサの熱処理挙動を調査した。空気中で熱処理した際に、723K以上で樹脂部分が、823K以上でタンタル焼結体が粉末状となることを見出した。粉末を篩分けすることによって、樹脂部分に含まれる二酸化珪素を分離し、タンタル品位70%、タンタル実収率91%の酸化タンタル濃縮物を得ることができた。

この結果を踏まえ、タンタルコンデンサが多く含まれるハードディスク用基板の実装部品について、723Kおよび823Kの2段階熱処理プロセスを適用した。タンタル品位は6%から16%まで濃縮し、タンタル実収率71%を得た。その他の金属の挙動では、金がタンタル濃縮物中に高濃度で残留した。各部品の金の分配率を調査したところ、一部の部品がタンタル焼結体と同様の粉化挙動を示し、タンタルと金を明確に分離できなかった。よって得られたタンタル濃縮物は、タンタル製錬工程においてタンタルを抽出後、貴金属回収工程を経るプロセスが適当と考えられた。

積層セラミックコンデンサMulti Layer Ceramic Capacitor(MLCC)に着目し、ニッケルの濃縮を検討した。MLCCの内部は金属ニッケル層とセラミックス層が多層構造をとっているため、熱処理後も重量、形状ともに不変であり、容易に磁着する。そのため、熱処理と磁選によってニッケルを濃縮および不要成分を分離することが期待できる。MLCCは小型化が進んでいるため、廃PCBの破砕処理によって、一部のMLCCはPWB上に残り、一部は剥離されて破砕基板の細粒部に濃縮すると考えられる。よって、MLCC付きPWBと破砕基板細粒それぞれについて調査した。

PWBを低酸素雰囲気下で熱処理した後、スタンプ処理によって銅箔とガラス繊維を分離し、さらに磁選処理によってMLCCを回収した。磁選の磁力が高くなると、不純物として非磁着物の巻き込み量が増加し、ニッケル品位は低下した。各熱処理温度での0.1T磁選による磁着物は、熱処理温度が高温になるほど、回収されるMLCC量が増加し、ニッケル品位が向上した。ただし、高温になるほど、銅、鉛、錫の揮発量が増大したため、873Kでの熱処理が最適であった。

熱処理温度873K,0.1T磁選によって、ニッケルは-4mm磁着物へ濃縮し、ニッケル品位は処理前の0.16から6.7%へ向上、ニッケル実収率74%を得た。またニッケル濃縮物中への銅ロスは1%未満であった。銅の大半は+4mmへ残留し、銅品位は処理前の23から31%へ向上、銅実収率90%を得た。鉛および錫は、含有量の各82%, 92%を排ガス系あるいは-4mm非磁着物へ分離した。

破砕細粒(-4mm)からのニッケル濃縮処理では、熱処理前の1次磁選処理によって、鉄とニッケルはほぼ100%磁着物へ、銅の73%、金の63%を非磁着物へ分離した。続いて、磁着物から金を分離することを検討した。磁着物には金属(リード)部が多く含まれ、その成分は銅・ニッケル合金が主体で、金めっきを施したものも含まれた。そのため、磁着物からリード部を取り除き、熱処理と磁選の効果を調査した。空気中873Kで熱処理し、解砕、0.5mm篩分け後、0.1T磁選処理することによって、金の磁着物中への残留率が1.5%と最も低くなった。この条件でニッケル品位は1.7から6.9%へ向上、ニッケル回実収率82%を得た。

以上で検討した廃PCBの処理プロセスについて、LCA (Life Cycle Assessment)の手法を用いて既存プロセスとの消費エネルギー、経済性評価、環境影響評価を行った。

PWB処理プロセスは、既存プロセスと比較し消費エネルギーは19%増加した。エネルギーコストは同等であったが、埋立処分費が大きく影響してコスト増となった。電力消費量とニッケルリサイクルの影響が大きく、環境負荷は低減した。

タンタル濃縮プロセスは、2度の熱処理を行うことによる効果が大きく、既存プロセスと比較し消費エネルギー増となった。しかし、経済性評価では、タンタル濃縮物の売却益が大きく影響して利益増となった。タンタルリサイクルの影響が大きく、環境負荷は低減した。

破砕細粒からのニッケル濃縮プロセスは、既存プロセスと比較し消費エネルギーは18%増となった。ニッケル濃縮物の売却益を見込んだ場合は既存プロセスより低コストとなった。ニッケルリサイクルの影響が大きく、環境負荷は低減した。

以上の結果から、本研究で提案した全てのプロセスは既存プロセスより環境負荷が低減し、有意義なプロセスと考えられる。タンタル濃縮プロセスは、エネルギー消費は増すものの大きな利益を見込め、設備を投資して実施する価値があると考えられる。PWB処理およびニッケル濃縮プロセスは、新規の投資効果は得られないが、環境負荷の低い点で可能性のあるプロセスと考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本審査は平成23年7月12日、10時~12時まで工学部4号館の旧地球会議室にて開催された。主査は指導教員でシステム創成学専攻の藤田豊久教授、副査はシステム創成学専攻の登坂博行教授、定木淳准教授、村上進亮准教授、副査の外部審査員は生産技術研究所の森田一樹教授である。

学位論文題目は「熱処理と物理選別を用いた廃電子基板のリサイクルに関する研究」であり、廃棄電子基板から基板と実装部品を特殊破砕で分離し、基板は炭化処理して銅を回収し、実装部品は粒度に分けて粗粒からタンタル、微粒からニッケルを空気中加熱処理した後に選別回収する方式を提案したもので、従来法とのコスト試算および環境評価比較も行った研究である。第1章は序論、第2章は不活性雰囲気下でのプリント配線板の熱処理による銅回収と硝子繊維の分離、第3章は熱処理による実装部品からのタンタル回収、第4章は熱処理と磁力選別によるニッケルの濃縮、第5章は廃電子基板のリサイクルプロセスの評価、第6章は結論である。

以下のような質疑および回答があった。

1.水中爆破破砕について、爆薬量などの条件は最適化されているかの質問に対し、破砕業者内の実験である程度最適化されているが、詳細な条件は詰め切れていないので今後の課題であると回答した。

2.第2章の結言にて、プリント配線板からの銅箔分離実収率95%とあるが、本文に記述があるかとの質問に対し、品位のグラフ以外に、実収率に関するデータを記載することを回答した。

3.第3章にタンタル濃縮の熱処理における、化学的な挙動の説明の質問に対し、TG-DTAの第1ピークでは樹脂が熱分解して発熱し、第2ピークでタンタルが酸化発熱していることを回答し、この挙動についてさらに説明を追記することを回答した。

4.第5章の評価部分の論文化する予定についての質問に対し、詳細にデータをチェックしてから提出したい旨を回答した。

5.本研究は、経済合理性もあり、環境負荷も低いプロセスといえるのかの質問に対し、タンタル濃縮については、経済的にも環境的にもメリットがあるが、その他のプロセスは金属価格次第であることを回答した。

6.評価において、新規フローでリサイクルする部分を既存フローに補填する必要があるのではないかの質問に対し、既存フローでは、新規フローでリサイクルする量と同量分を鉱石から採掘するものとして評価し、その後の製錬工程は共通部分として評価から除いたと回答した。また、フロー図に鉱石の補填部分について追加すると回答した。

7.タンタルのリサイクルにおいて収益が良いが、価格計算方法は適切かの質問に対し、量、品位、金属価格と実収率を考慮したもので、計算法に誤りは無いが、製錬所売却時は上乗せ利益分や不純物によるペナルティが考慮されるため、その分利益は減少することを回答した。

8.プロセスの規模については考慮しているかの問いに対し、本研究の評価では、規模の影響は考慮しておらず、おおまかな評価に留まると回答した。

9.リサイクルする価値として、鉱石の場合と比較して輸送面なども考えられるが、全体フローを比較すればどうなるかとの質問に対し、本研究では輸送面等は評価していないが、鉱石の場合は全量海外から輸入しているため、リサイクルするメリットは増加すると考えられると回答した。

10.プリント配線板処理において、スラグの廃棄コストは考慮しなくてもよいかの質問に対し、鉱山保安法によれば、現在スラグの廃棄(保管)費は不要であるため、評価には加えていないと回答した。

11.浮選処理において、PAXの使用量が10kg/tと、通常より多いが、その原因は何かとの質問に対し、SEMでマッピング可能な粒子について観察したところ、CuとSiを含む粒子は分離できていたが、全体的には単体分離が不十分であったためと回答した。

12.環境影響評価でリサイクルの効果が大きくなるのはなぜかとの質問に対し、評価で統合化係数を用い、算出にあたっては社会資産として鉱石を採掘することによる社会資産の減少額を計算したことを回答した。

13.熱処理によって脱臭素した後の臭素の基準値についての質問では、臭素については、埋立基準も排水基準も現在設定されていないが、熱処理残渣は、低酸素雰囲気化での熱処理のため、ダイオキシンは発生しないと考えられると回答した。

また、各委員が持参した論文に記載の修正箇所および審査における回答書と修正箇所を審査員に送付し、修正した論文を博士論文とした。

以上のように、各質問に対して、明確に回答し、論文の新規性、有用性、進捗状況が十分であることを確認した。また、外部発表実績は、査読付き受理論文が3件、国際会議報告4件、その他の口頭発表4件、受賞歴では国際会議優秀論文賞が1件と良好であった。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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