学位論文要旨



No 127490
著者(漢字) 金,貞娥
著者(英字)
著者(カナ) キム,ジョンア
標題(和) 選鉱技術を用いたレアメタル含有難処理物からのニッケル、希土類、タングステンの回収に関する研究
標題(洋) Recovery of Nickel, Rare Earth Elements and Tungsten from Rare Metal Included Complex Materials by Mineral Processing Technique
報告番号 127490
報告番号 甲27490
学位授与日 2011.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7576号
研究科 工学系研究科
専攻 システム創成学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,豊久
 東京大学 准教授 加藤,泰浩
 東京大学 准教授 増田,昌敬
 東京大学 准教授 ドドビバ,ジョルジ
 東京大学 准教授 島田,荘平
内容要旨 要旨を表示する

レアメタルをはじめとする非鉄金属は、自動車、IT製品をはじめとする高付加価値・高機能製品の製造に必須の素材である。レアメタルの供給について、供給源の偏在、資源国における資源政策の変更、代替可能性の低さ、副産物として生産される特殊性等から、国際的な需給逼迫や供給障害が発生するおそれがある。そこでレアメタルの安定的な供給確保が必要であり、その対案としては 1) 重点的な海外探鉱開発の実施と資源外交、2) リサイクルの推進、3) 代替材料開発、4) レアメタルの備蓄が挙げられる。 このためには新たな回収技術開発が必要であり、本研究では経済的な3種のレアメタル回収技術に関する実験を行った。

まず、第一の実験は磁力選別機による低品位ラテライト鉱物からのニッケルの回収のための品位上昇である。高品位ニッケル鉱物が徐々に少なくなり, 針ニッケル鉱、 紅ヒニッケル鉱やラテライトなどがニッケルを含有する主鉱物になっている。特にラテライトはニッケル含有量が2%未満であり、マグネシウム、鉄、シリカなどの不純物がニッケルの回収を難しくし、ラテライトからニッケルの生産は全体の約42%にすぎない。本研究では低品位ラテライト鉱物を熱処理後、湿式磁力選別を用いてニッケルの回収のための高品位化を試みた。ラテライトの熱処理は、鉄類の結晶構造を変化させて磁気特性を変化させ、磁力選別によるニッケルの選択的選別ができるようにする。本実験では熱処理温度、パルプ濃度、磁界強度の影響による選別実験を試みた。その結果、ラテライト鉱物を500℃で1時間熱処理し、0.5Tで磁力選別を行ったところ、鉱物内のニッケルの品位は1.5%から2.9%に増加しニッケルの回収率は48%を得ることができた。

第二の実験はレアアース回収のための鉱石からの濃縮である。ベトナムから輸入したレアアース含有鉱石からの浸出および浸出水からレアアースイオンの吸着剤として藍藻を用いたバイオソープションに関する実験を行った。本研究では浸出工程に各種浸出剤のうち(NH4)2SO4を利用した。 (NH4)2SO4 濃度1%、浸出時間3時間、固液比(S/L比)0.9とした。その結果、各レアアースの浸出率はSmが71.0%、Prが62.2%、Ndが57.3%、Dyが47.0%、Gdが46.0%の順であった。吸着実験では藍藻の濃度を0.2 kg/L、吸着時間30分としたとき、各レアアースイオンの吸着密度は水溶液濃度に依存するが、Ndが182 mg/kg、Prが49mg/kg、Smが33 mg/kg、Gdが21 mg/kg、Dyが17 mg/kgの順であった。本結果は一般的に使われる吸着剤(活性炭、鉄系吸着剤、熱処理ドロマイト)と類似の数値であり、レアアースイオンの吸着剤として藍藻使用の可能性が考えられる。また、本吸着結果はLangmuir吸着モデルとpseudo-second-order kinetic モデルで説明できることを確認した。

第三の実験は、超硬工具スラッジからのタングステンカーバイド(WC)の回収実験である。 超硬工具の製造過程で発生するスラッジは回収処理が難しく全量廃棄されている。しかし日本はタングステン使用量の大部分を中国に依存し、廃スラッジからタングステンの回収が重要である。WC回収のために試みた一手法は自由沈降法である。スラッジの粉砕は湿式タワーミルを使用し、タワーミルの回転速度が増加するほどWCの品位が増加したが回収率は減少し、粉砕時間が増加するほどWCの品位は減少したが回収率は増加した。また、粉砕時間が3時間までは沈降時間が長くなるほどWCの品位と回収率が増加した。タワーミルの遠心力が126G、粉砕時間が1時間、沈降時間が3時間の場合、WC品位は66.2%から85.9%まで増加し、WCの回収率は約10%であった。ついで、液液抽出法を用いた回収実験を試みた。超音波処理、カッターミル粉砕、マイクロ波照射が液液抽出のための前処理として使われた。超音波処理の時間が増加するとWCの品位と回収率は増加し、超音波処理時間が20分以上では、WC品位は90%を越えた。カッターミル粉砕の場合は粉砕時間が増加するほどWC品位が減少したが回収率は増加し、粉砕時間が1分の時、WC品位が 89.9%、回収率は23.8%となった。 マイクロ波処理を5分行った場合、WC品位は91.3%となり、最も高い品位を示し、WCの回収率は16.3%となった。

上記の基礎実験を基にしてWCの回収率を高めるための実験を行った。実験にはカッターミルを使って試料を粉砕した後、 液液抽出法で分離する手順で進めた。回収率向上のために添加されたDAAの量が増加するとWCの回収率は増加した。カッターミルの粉砕時間が長くなるほどWCの 回収率が増加したが、粉砕時間が3分以上の場合は回収率がほとんど増加しなかった。 カッターミルで3分間粉砕した試料を0.10 kg/tのDAAを添加、pH 2.00、有機溶媒濃度15%の条件で液液抽出を行った場合、WCの品位は 80.1 %となり、WCの回収率は55 %まで向上できることが明らかとなった。

以上のように選鉱技術を用いて3種のレアメタルの回収を試み、それぞれの効率的回収の可能性を見出した。

審査要旨 要旨を表示する

本審査は平成23年7月25日、15時~17時まで工学部4号館の旧地球会議室にて開催された。主査は指導教員でシステム創成学専攻の藤田豊久教授、副査はシステム創成学専攻の加藤泰浩准教授、増田昌敬准教授、ドドビバ・ジョルジ准教授、副査の外部審査委員は新領域創成科学研究科の島田荘平准教授である。

学位論文題目は「選鉱技術を用いたレアメタル含有難処理物からのニッケル、希土類、タングステンの回収に関する研究」であり、磁力選別による低品位ラテライトからのニッケルの濃縮、希土類鉱石の効果的浸出実験と浸出した希土類元素イオンの藍藻を用いた吸着回収、超硬スラッジからの沈降法および液液抽出法を用いたタングステンカーバイドの回収方式を提案したもので、レアメタルの回収にとって有益な研究である。第1章は序論、第2章は磁力選別を用いた低品位ラテライトからのニッケルの回収、第3章は希土類元素の浸出と緑藻を用いた吸着、第4章は選鉱技術を用いた超硬スラッジからのタングステンカーバイド回収の基礎研究、第5章は液液抽出を用いたタングステンカーバイドの回収、第6章は結論である。

以下のような質疑および回答があった。

1. 論文中の単位を統一することとの質問に対し、修正してすべて統一すると回答した。

2. 希土類元素を含むベトナム鉱石は詳細に記載することの質問に対し、イオン吸着型鉱床から得られたものであることを記載することを回答した。

3. 図中、実収率の1部のプロットにおいて誤差範囲を示して記載する必要があるとの質問に対し、その部分に誤差範囲を記載すると回答した。

4. 希土類元素の浸出条件で選択した試薬に関する質問では、硫酸アンモニウムが環境に負荷が少ない浸出試薬であると回答した。

5. 吸着剤に含まれる不純物の影響はあるかの質問に対し、吸着剤から吸着物を脱着するときに問題となるので、今後、吸着剤の前処理に酸洗浄することが必要と回答した。

6. 希土類元素の吸着エネルギーを計算しない場合は化学吸着を明示しないほうがよいとの質問に対し、修正すると回答した。

7. pHが増加するとタングステンカーバイドの回収率が減少する理由をゼータ電位との関係から説明することの質問に対し、pH2以下ではタングステンカーバイドの当電位点はpH1.5、シリカの当電位点はpH1.0付近であり、負に荷電している油滴との凝集の容易性で説明した。

8.タングステンカーバイドの回収率とタワーミルの粉砕時間の影響について時間を物理的量として示してはどうかという質問に対し、タワーミルの容量等の特性を記載することとし、サブミクロンのタングステンカーバイドの粒径測定は今後の課題であると回答した。

9. タングステンカーバイドの回収において、タワーミル、超音波、マイクロ波処理などでどのような物理量を目安として処理時間を増やすかを示すようにという質問に対し、記述することを回答した。

10. タングステンカーバイドの回収率を上げること方法について今後の課題についての質問では、単体分離後、タングステンカーバイドを選択凝集させて沈降分離することが課題と回答した。

上記の修正箇所および各委員が持参した論文に記載の修正箇所を回答し、修正した論文を博士論文とした。

以上のように、各質問に対して、明確に回答し、論文の新規性、有用性、進捗状況が十分であることを確認した。また、外部発表実績は、査読付き論文が3件、その他の査読付き論文が3件、国際会議報告4件、その他の口頭発表およびポスター発表5件、受賞歴は環境資源工学会優秀ポスター賞が1件と良好であった。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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