学位論文要旨



No 127533
著者(漢字) 鈴木,健樹
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,タケキ
標題(和) 心筋ミオシンアイソフォーム変化の筋フィラメント機能・架橋に与える影響 : 遺伝子過剰発現ウサギを用いた検討
標題(洋) Effects of Cardiac Myosin Isoform Variation on Myofilament Function and Crossbridge Kinetics in Transgenic Rabbits
報告番号 127533
報告番号 甲27533
学位授与日 2011.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3771号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 小野,稔
 東京大学 特任准教授 眞鍋,一郎
 東京大学 講師 竹中,克
 東京大学 講師 山下,尋史
内容要旨 要旨を表示する

Background: The left ventricles of both rabbits and humans express predominantly β-myosin heavy chain (MHC). Transgenic (TG) rabbits expressing 40%α-MHC are protected against tachycardia-induced cardiomyopathy, but the normal amount of α-MHC expressed in humans is only 5% to 7% and its functional importance is questionable. This study was undertaken to identify a myofilament-based mechanism underlying tachycardia-induced cardiomyopathy protection and to extrapolate the impact of MHC isoform variation on myofilament function in human hearts.

Methods and Results: Papillary muscle strips from TG rabbits expressing 40% (TG40) and 15%α-MHC (TG15) and from nontransgenic (NTG) controls expressing =100%β-MHC (NTG40 and NTG15) were demembranated and calcium activated. Myofilament tension and calcium sensitivity were similar in TGs and respective NTGs. Force-clamp measurements revealed =50% higher power production in TG40 versus NTG40 (P<0.001) and =20% higher power in TG15 versus NTG15 (P<0.05). A characteristic of acto-myosin crossbridge kinetics, the "dip" frequency, was significantly higher in TG40 versus NTG40 (0.70±0.04 versus 0.39±0.09 Hz, P<0.01) but not in TG15 versus NTG15. The calculated crossbridge time-on was also significantly shorter in TG40 (102.3±14.2 ms) versus NTG40 (175.7±19.7ms) but not in TG15 versus NTG15.

Conclusions: The incorporation of 40% α-MHC leads to greater myofilament power production and more rapid crossbridge cycling, which facilitate ejection and relengthening during short cycle intervals, and thus protect against tachycardia-induced cardiomyopathy. Our results suggest, however, that, even when compared with the virtual absence of α-MHC in the failing heart, the 5% to 7% α-MHC content of the normal human heart has little if any functional significance.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、ヒトの心不全時に認められるミオシンアイソフォーム変化の重要性およびα-ミオシン重鎖過剰ウサギが頻拍による心筋症に対して防御的であった知見の基となる、筋フィラメントレベルでのメカニズムを明らかにするため、筋フィラメント機能及びアクチンとミオシンの架橋構造に与える影響を、遺伝子過剰発現ウサギを用いて生理学的に解析したものであり、下記の結果を得ている。

1. 40% α-ミオシン重鎖 (MHC) を発現したウサギ (TG40) 、及び15% α-MHCを発現したウサギ (TG15) においては、それぞれのコントロール (NTG40, NTG15) に比べ筋ミオフィラメントにおいての張力及びカルシウムに対する感受性において有意さは認めなかった。

2. Force-clamp techniqueにおいては、TG40はNTG40に対して有意に速度、及び力が大きかった。post hoc解析においては、0.3-0.7 [T/Tmax]においてTG40は速度、力共に大きかった。一方、TG15とNTG15の間の比較においては、群間に差はあるものの、post hoc解析においては有意に異なる点は認めなかった。

3. 筋ストリップに極微小なsine curveをあて、それに対する筋ストリップの反応を見る、Length perturbation analysis ('sinosoidal analysis') においては、まず、「complex modulus」が最低になるfrequency、'dip frequency'がTG40において有意に上昇していた(0.70±0.04 Hz vs 0.39±0.09, P<0.01)。TG15/NTG15においては、dip frequencyにおいては有意さを認めなかった。

4. 続いて、Complex modulusをelastic modulus, viscous modulusに分けて評価した。Elastic modulusにおいては、TG40の方がNTG40に比べ、0.9 Hz~3.8 Hzにおいてelastic modulusの低下が認められた。Viscous modulusにおいては、0.3 Hz ~1.2Hzにおいて、TG40の方がNTG40に比べて有意に低くなっていた。

5. Complex modulusを式、〓に当てはめ、それぞれのパラメーターを比較した。最終項はCプロセスと呼ばれ、仕事の吸収プロセスに関連していると考えられている。その係数である'c'がTG40において上昇していた(1.77±0.20 vs 0.99±0.10, P<0.01)。このパラメーターから導かれる、attachment time (ton = 1/(2πc))はTG40においては102.3±0.20 msであり、有意にNTG40におけるton(175.7±19.7 ms)より短縮していた。一方、TG15/NTG15においてはそれぞれのパラメーターおよびtonにおいて有意な差を認めなかった。

6. 以上の結果より、TG40はNTG40に比べて速度、力の産生が大きく、sinusoidal analysisにおいては、tonも短く、クロスブリッジサイクリングもより早くなっており、これらが頻脈による心筋症に対して防御的に作用している筋フィラメントにおけるメカニズムと考えられる。

7. TG40/NTG40において認められた差とTG15/NTG15において認められたわずかな差からヒトにおけるミオシンアイソフォーム変化の重要性に関して考察した。平常時5-7%存在しているα-MHCがヒトの心不全の状況においては検出不能なレベルまで低下する事が示されている。この、5-7%のα-MHCは、筋フィラメントレベルにおいては、あるとしても極めて小さな変化のみ産生するのでは、と推察される。

以上、本論文は遺伝子過剰発現ウサギを用いて、異なるミオシンアイソフォームを持つ心筋が筋フィラメント機能及びアクチンとミオシンの架橋構造に与える影響を筋フィラメントレベルにおいて生理学的に解析し、TG40において認められた、筋フィラメントの速度・力の上昇、及び、より迅速なアクチンとミオシンのクロスブリッジサイクリングが頻脈による心筋症に対して防御的に働くメカニズムであることを示しえた。それに加え、ごく少量の心筋ミオシンアイソフォーム変化は、筋フィラメントの機能においてはごく軽度の変化しか引き起こさないこと筋フィラメントのレベルで明らかにした。本研究はα-ミオシン重鎖過剰ウサギが頻拍による心筋症に対して防御的である事の、筋フィラメントレベルでのメカニズムを明らかにし、且つこれまで論争の的であった、心筋ミオシンアイソフォーム変化のヒトの心不全における意義の解明において重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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