No | 127618 | |
著者(漢字) | 秋山,美紀 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アキヤマ,ミキ | |
標題(和) | 脳卒中患者の家族介護者の負担感、健康関連QOL(クオリティオブライフ)、公的・私的支援獲得について | |
標題(洋) | Burden, health-related quality of life, and gain of social support among family caregivers of stroke patients | |
報告番号 | 127618 | |
報告番号 | 甲27618 | |
学位授与日 | 2011.12.21 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第3779号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 健康科学・看護学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景と目的 わが国では、進行する高齢化や核家族化の影響のために、高齢者の介護は重要な問題である。脳卒中は、平成18年では死亡の第3位となっており、死亡を免れたとしても、後遺症や長期臥床などで、介護を必要とする最大の原因となっている。 2001年の介護保険制度導入以来、介護者の負担感に関する研究が多く見られてきた。先行研究では、介護の負担感は、その負担感に適切な支援を与えられると、最もストレスを緩衝させるのに効果的であることが示されている。介護者の健康関連QOL(以下、HRQOL)向上について状況に即した支援を検討するためには、多次元的な検討が効果的であると言える。社会的支援が心理的ディストレスを緩衝する効果があることが先行研究で指摘されているが、HRQOLの低下に対する緩衝効果を検討した研究はあまり見られない。そこで、本研究は、支援獲得が介護者の負担感増加に伴うHRQOL低下を緩衝するという仮説のもと、介護者の介護負担感、獲得している支援とHRQOLの関係を多次元の介護負担感尺度を用いて検討することを目的とする。 対象と方法 本研究の対象は、西日本の1都市の4施設(1病院、1診療所、2訪問看護ステーション)を利用している、脳卒中患者を介護する家族介護者であり、調査は2003年2月から2004年6月の間に行われた。対象の選択基準は、患者の介護を要する状態となった原因が脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)であること、最も中心となって介護している家族であることなどで、研究の目的を説明し、同意を得られた332名に質問紙を配布した。そのうち回答を得られたのは236名であった(回答率71.0%)。基準を満たさなかったもの、欠損値のあるものは除外して、216名を解析の対象とした。 216名の介護者のうち、161名(74.5%)は女性で、141名(65.3%)は患者の配偶者であり、平均年齢は62.9歳(s.d.=11.9)であった。この介護者から介護を受けている患者は、平均年齢が71.5歳(s.d.=9.5)で、患者の日常生活行動(ADL)は、Barthel Indexを用いて測定し、平均値は54.4(s.d.=31.1)であった。介護期間の平均は、68.5ヶ月(s.d.=59.7)で、1日の介護時間の平均は、7.0時間 (s.d.=7.0)であった。 介護負担感は、質的研究をもとに開発された多次元の介護負担感尺度BIC-11(Burden Index of Caregivers)を用い、時間的負担感、身体的負担感、心理的負担感、実存的負担感、サービス関連負担感の5つのドメインに分けて測定した。HRQOLはSF-8を用いて測定し、Mental component summary (以下、精神的QOLとする)とPhysical component summary(以下、身体的QOLとする)の得点を計算した。支援獲得は、岡林のコーピング尺度の5つの下位尺度のうち、「私的支援追求」を私的支援獲得、「公的支援追求」を公的支援獲得として用いた。 本研究は、研究参加者を募集した医療施設と東京大学医学部の倫理委員会の承認を得た。 解析は、精神的QOL、身体的QOLを従属変数にして、階層的重回帰分析を行った。第1モデルでは、介護者と患者の特性、第2モデルでは、負担感と支援獲得、第3モデルでは、負担感と支援獲得の積を投入した。負担感と支援は、多重共線性を避けるために、中心化を行ってから投入した。交互作用項が有意になった場合は、図に示し、単純傾斜の検定による下位検定を行った。有意水準は0.05、両側検定で、解析はSPSSウインドウズ版14.0Jを用いた。 結果 負担感5通り×支援獲得2通り× HRQOL 2通りの20通りの組み合わせのうち、負担感と支援獲得の交互作用がHRQOLに有意に関連 (p < 0.05) したのは、4通りであった。うち仮説を支持した結果は、精神的QOLをアウトカムにした心理的負担感と公的支援獲得の交互作用の1通りだけであった。 残り3通りはすべて身体的QOLをアウトカムとしており、負担感は、心理的負担感、実存的負担感、サービス関連負担感で、支援獲得はすべて公的支援獲得であった、それらは、負担感と支援獲得の交互作用はみられたものの、介護負担感の増大に対し支援を多く獲得したほどHRQOLの低下が見られ、「支援獲得が介護者の負担増加に伴うHRQOLの低下を緩衝する」という仮説に矛盾した結果であった。 考察 支援獲得が介護者の負担感増加に伴うHRQOL低下を緩衝するという仮説を支持したのは、「心理的負担感、公的支援獲得、精神的QOL」の組み合わせであった。このことから、現行の公的支援獲得は、精神的QOLの維持に有効であったと考えられる。 身体的健康がどのように影響を及ぼされるかをストレス緩衝効果において、検討することの必要性が先行研究で述べられているが、身体的QOLをアウトカムにした本研究では、負担感(心理的負担感、実存的負担感、サービス関連負担感)の増加に、公的支援を獲得してもHRQOLの低下は避けられなかった。これは身体的QOLの低い介護者がより高い支援を獲得した可能性も考えられる。本研究の対象者の7割が女性であり、その多くは男性を介護していることから、介護者の身体にかかる負担は大きいと考えられる。 本研究は、横断研究であり、因果関係については言及できず、また西日本の1都市で行った調査であることなど限界はあるが、心理的負担感を持った介護者には、精神的QOLの維持のために、公的支援が効果的であることが、多次元で測定することによって、示された。また、今後は身体的QOLを高めるための支援獲得を検討する必要性があることも示唆された。 結論 本研究の結果から、介護者の心理的負担感が高くても、公的支援獲得によって精神的QOLの低下が緩衝されるという事が示された。一方で身体的QOLに関しては、むしろ公的支援を獲得している方がHRQOLが低かったが、これは、よりHRQOLの低い介護者がより多くの支援を必要とした可能性も考えられる。今後は、介護者の身体的QOLの低下をさせないための公的支援の獲得について、さらなる検討が求められる。 図1.心理的負担感、公的支援獲得、精神的QOLの交互作用 心理的負担感が増大しても、公的支援追求によって精神的QOLの減少は緩衝されている。高, 中, 低公的支援獲得 は+1 s.d.、0、-1 s.d.とした。 (ZH:Y= -1.233X + 50.092, t=-3.781, p < 0.001; ZM: Y = -1.686X + 49.873, t=-7.161, p < 0.001; ZL:Y = -2.139X + 49.654, t=-6.551, p < 0.001). | |
審査要旨 | 本研究は、脳卒中の患者を介護する介護者を対象として、支援獲得が介護者の負担感増加に伴う健康関連QOL(以下、HRQOL)の低下を緩衝するという仮説のもと、介護者の介護負担感、獲得している支援とHRQOLの関係を、多次元の介護負担感尺度を用いて検討することを目的とした。多次元の介護負担感尺度は、我が国の現状に即した負担感が測定できるように、筆者らの質的研究の結果を踏まえて作成されたものであり、そのドメインは、時間的負担感、心理的負担感、実存的負担感、身体的負担感、サービス関連負担感の5つであった。検討の結果、下記の結果を得ている。 1.西日本の1都市の4施設(1病院、1診療所、2訪問看護ステーション)を利用している、脳卒中患者を介護する家族介護者216名を対象とし、精神的QOL、身体的QOLを従属変数にして、5つの負担感、2つの支援(公的支援獲得、私的支援獲得)をそれぞれ投入した20通りの階層的重回帰分析の結果、負担感と支援獲得の交互作用がHRQOLに有意に関連 (p < 0.05) したのは、4通りであった。 2.4通りのうち、仮説を支持した結果は、精神的QOLをアウトカムにした心理的負担感と公的支援獲得の交互作用の1通りだけであった。 3.残り3通りは、すべて身体的QOLをアウトカムとしており、負担感は、心理的負担感、実存的負担感、サービス関連負担感で、支援獲得はすべて公的支援獲得であった。 4.残り3通りは、負担感と支援獲得の交互作用はみられたものの、介護負担感の増大に対し支援を多く獲得したほどHRQOLの低下が見られ、「支援獲得が、介護者の負担増加に伴うHRQOLの低下を緩衝する」という仮説に矛盾した結果であった。これは身体的QOLの低い介護者がより高い支援を獲得した可能性も考えられる。 以上、本論文は、心理的負担感を持った介護者には、精神的QOLの維持のために、公的支援が効果的であることが、多次元で測定することによって示された。また、今後は身体的QOLを高めるための支援獲得を検討する必要性があることも示唆された。 本研究は介護者の負担感を多次元で測定したことに意義があり、また、介護者のQOL研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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