学位論文要旨



No 127650
著者(漢字) ファン ヴァン クアン
著者(英字) PHAN VAN QUANG
著者(カナ) ファン ヴァン クアン
標題(和) 鉄筋コンクリート袖壁付き柱の復元力特性評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 127650
報告番号 甲27650
学位授与日 2012.02.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7619号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 壁谷澤,寿海
 東京大学 教授 中埜,良昭
 東京大学 准教授 塩原,等
 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 藤野,陽三
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,鉄筋コンクリ-ト造袖壁付き柱の耐震性能の評価法を確立するために行われた実験的研究および解析的研究の成果をまとめたものである。実験的研究では,袖壁付き柱の実験を行い,ひび割れ性状,破壊モード,強度と靭性,軸耐力限界などを明らかにした。一方,解析的研究では,袖壁付き柱部材のような変断面部材を対象にして,初期剛性から耐力劣化性状までの復元力特性を一貫して評価しうる解析方法を提案した。実験結果と解析結果を比較することにより,提案した解析方法の精度を検証した。以下章ごとに内容を要約する。

第1章 序論

本研究の研究背景,研究目的及び既往の研究を示した。

第2章 袖壁付き柱の静的破壊実験

2007年度から2009年度にかけて実施した鉄筋コンクリート造袖壁付き柱の実験結果を示した。静的載荷試験で実施した4シリーズ計20体の試験体(2007年度のSWシリーズの4体,2008年度の片側袖壁SWTシリーズ4体,2009年度の高強度材料によるSW40シリーズ6体,壁厚比が大きいSWBシリーズ6体)について,試験体詳細,実験条件,材料特性,載荷装置及び載荷方法,測定計画及び測定方法,実験データ処理,実験結果を示した。各試験体の破壊経過,ひび割れ様子,復元力-変形関係,最終破壊様子や最大ひび割れ幅の変化など,実験によって明らかにした性能を整理した。とくに,最大ひび割れ幅と変形の関係については,耐震性能評価指針(案)に関する評価法を適用して実験結果と詳細に比較した結果,柱部材に関する指針式の評価結果は袖壁付き柱の実験結果と大きく異なる場合があり,一般に計算結果は実験結果を過大評価していることを指摘した。

第3章 既往の解析モデルの紹介及び分割累加型Axial-Shear-Flexure Interaction methodによる袖壁付き柱の復元力特性

本研究でとくに参照した既往の研究方法をまとめて示した。さらに,Axial-Shear-Flexure Interaction method (以下,ASFI methodと略称)を単純に袖壁付き柱に適用する方法を検討して結果を示した。Fiber modelとModified Compression Field Theoryを結合して部材の軸-曲げ-せん断の相互作用を考慮するASFI method について詳述した。また,壁と柱の断面を縦(壁長さ)方向に分割してそれぞれせん断強度を算出し累加した分割累加の考え方を紹介した。せん断強度型分割累加式の考え方を参考にして,壁と柱を壁長さ方向に分割してそれぞれの構成断面にASFI methodを適用して,解析結果を単純累加する分割累加型ASFI methodによる計算結果を示したが,この方法では各構成断面における内部歪及び負担力の相関関係を考慮しないため,構成部分の破壊時点,評価点の軸歪,各構成部分の曲げ変形とせん断変形の異なる傾向など,不合理な問題が存在することを明らかにした。

第4章 一評価点モデルによる袖壁付き柱の復元力特性

袖壁付き柱を一体としてモデル化する一評価点モデルを提案し,解析結果を実験結果と比較した。一評価点モデルでは,袖壁付き柱を一体とする軸-曲げ要素に対して,軸-せん断要素においては,柱部分と壁部分を分割するが,平面歪が一致すると仮定して袖壁部分,柱部分を適合させた。一評価点モデルによる解析結果は曲げ解析結果に比べると実験値に対して良好な対応関係が得られることを示した。しかし,袖壁と柱の平均鉄筋比及び同一コンクリート構成側に基づく一評価点モデルは,袖壁,柱の縦・横筋比,コンクリート構成側が異なる場合に適用するのは十分適切とは言えない。

第5章 三評価点モデルによる袖壁付き柱の復元力特性

両側袖壁付き柱の軸-せん断要素として,左壁部分・柱部分・右壁部分にそれぞれ評価点を設ける三評価点モデルを提案し,袖壁付き柱部材の実験結果を対象に予測精度および適用性について検討を行った。まず,収斂計算の手法について検討して,収斂計算を満足していることを確認した。さらに,補強筋比,せん断スパン比,コンクリート強度,軸力などのパラメータを変動させ,理論式或いは実験式による算定耐力と比較して,三評価点モデルによる解析結果が合理的な傾向を示すことを確認した。せん断変形が小さく曲げ変形が卓越する曲げ型試験体の場合は,曲げ解析(Fiber model),一評価点モデル,三評価点モデルのいずれの解析モデルでも実験結果が概ね精度よく再現できており,各モデルの解析結果には大きい差が見られなかった。一方,せん断変形が卓越するせん断型試験体の場合は,三評価点モデルによる耐力は,実験結果の耐力をやや過大評価するが,3つの解析モデルの中で実験結果ともっとも良好な対応関係となることを明らかにした。また,最大耐力時変形角に関しては,解析による初期剛性(弾性剛性)が実験値を大きく上回ったものの3つの解析モデルともに実験結果を過小評価したが,三評価点モデルはほかのモデルよりも対応関係が改善されることを示した。

第6章 結論

本論文の結論をまとめた。袖壁付き柱の耐力劣化を含む荷重変形関係を評価する手法として,従来の軸-曲げ-せん断の相互作用モデルを一評価点モデル,さらに三評価点モデルに改良して適用する方法を提案し,実験結果とともに従来よりも高精度の解析結果が得られることを示した。単独部材のみならず,骨組解析に適用できるようにプログラムを拡張するのが本研究の今後の研究課題である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,鉄筋コンクリ-ト造袖壁付き柱の耐震性能の評価法を確立するために行われた実験的研究および解析的研究の成果をまとめたものであり,7章で構成される。実験的研究では、袖壁付き柱部材の試験体20体の静的水平加力実験を実施して,ひび割れ性状、破壊モード,強度と靭性,軸耐力限界などを実験的に明らかにしている。解析的研究では,袖壁付き柱部材のような変断面部材を対象にして,初期剛性から耐力劣化性状までの復元力特性を一貫して評価しうる手法を提案している。実験結果と解析結果を比較することにより提案した解析手法の妥当性を検証している。

第1章では,本研究の背景,既往の研究、本研究の目的を示している。

第2章では,2007年度から2009年度に実施した鉄筋コンクリ-ト造袖壁付き柱の実験結果が示されている。4シリーズ計20体の試験体(2007年度のSWシリーズの4体,2008年度の片側袖壁SWTシリーズ4体,2009年度の高強度材料によるSW40シリーズ6体,壁厚比が大きいSWBシリーズ6体)の静的載荷実験について,実験条件,試験体詳細、材料特性、載荷装置や載荷方法,測定方法及び計画,実験結果を示した。各試験体の破壊経過,ひび割れ様子,復元力-変形関係,最終破壊様子や最大ひび割れ幅の変化など,各試験体の実験結果をまとめて,実験によって明らかにした性能が整理されている。とくに,最大ひび割れ幅と変形の関係については,耐震性能評価指針(案)による評価法を適用して実験結果と詳細に比較した結果,柱部材に関する指針式の評価結果は袖壁付き柱の実験結果大きく異なる場合があり,一般に計算結果は実験結果を過大評価することを指摘している。

第3章では,本研究で特に参照した既往の研究の方法が示されている。Fiber modelやModified Compression Field Theoryを結合して部材の軸-曲げ-せん断の相互作用を考慮するASFI method の具体的な手法が詳述されている。また,壁と柱の断面を縦(壁長さ)方向に分割してそれぞれせん断強度を算出し累加した分割累加モデルの考え方を紹介している。

第4章では,ASFI methodを単純に袖壁付き柱に適用する方法について検討した結果が示されている。せん断強度型分割累加式の考え方を参考にして,壁と柱を壁長さ方向に分割してそれぞれの構成断面にASFI methodを適用して,解析結果を単純累加する分割累加型ASFI methodの計算結果を示したが,この方法では各構成断面における内部歪及び負担力の相関関係を考慮しないため,構成部分の破壊時点,評価点の軸歪,曲げ変形とせん断変形の成分など,不合理な問題が存在することを明らかにしている。

第5章では,袖壁付き柱を一体としてモデル化する一評価点モデル(ICSA method)を提案して,実験結果と比較している。一評価点モデルでは,袖壁付き柱部材の全断面を一体とする軸-曲げ要素に対して,軸-せん断要素においては柱部分と壁部分を分離するが,平面歪が一致すると仮定して袖壁部分,柱部分の歪を適合させている。一評価点モデルによる解析結果は,曲げ解析の結果に比べると実験値に対して良好な対応関係を示すが,せん断破壊型の試験体では実験結果との差が大きくなるとしている。

第6章では,両側袖壁付き柱の軸―せん断要素として,左壁部分・柱部分・右壁部分にそれぞれ評価点を設ける三評価点モデルを提案し,袖壁付き柱部材の実験結果を対象に本モデルの予測精度および適用性について検討を行った。まず収斂計算の手法について検討して,収斂条件を満足していることを確認している。さらに,補強筋比,せん断スパン比,コンクリート強度,軸力などのパラメータを変動させ,理論式あるいは実験式による算定耐力と比較して,三評価点モデルによる解析結果がパラメータの変動に対して同様に結果が変動することを示すことを確認している。せん断変形が小さく曲げ変形が卓越する曲げ型試験体の場合は,曲げ解析(Fiber model),一評価点モデル,三評価点モデルのいずれの解析モデルでも実験結果が概ね精度よく再現できており,各モデルの解析結果には大きい差は見られなかった。一方,せん断変形が卓越するせん断型試験体の場合は,三評価点モデルによる解析結果は,実験結果の耐力をやや過大評価するが,ほかのモデルよりも改善された対応関係が得られ, 3つの解析モデルの中で実験結果ともっとも良好な対応関係を示すことを明らかにしている。また,耐力劣化の傾向に関しても三評価点モデルによる解析結果は実験結果と最もよい対応関係にあるとしている。

第7章では,本論文の結論がまとめられている。袖壁付き柱の耐力劣化を含む荷重変形関係を評価する手法として,従来の曲げ-せん断-軸力の相互作用モデルを一評価点モデル,さらに三評価点モデルに改良して適用する方法を提案し,有意義かつ広範な実験結果とともに,改良したモデルにより従来よりも高精度の解析結果が得られることが示されている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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