学位論文要旨



No 127682
著者(漢字) 三守,和彦
著者(英字)
著者(カナ) ミツモリ,カズヒコ
標題(和) RNA結合蛋白質 Pur α の神経細胞内輸送動態の研究
標題(洋) A study of the intracellular dynamics of RNA Binding Protein Pur α in neurons
報告番号 127682
報告番号 甲27682
学位授与日 2012.03.07
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3783号
研究科 医学系研究科
専攻 分子細胞生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡部,繁男
 東京大学 教授 飯野,正光
 東京大学 教授 三品,昌美
 東京大学 教授 吉川,雅英
 東京大学 准教授 神野,茂樹
内容要旨 要旨を表示する

1本鎖DNA、RNA結合蛋白質であるPurαは、神経細胞樹状突起においてメッセンジャーRNAを輸送する蛋白-RNA複合体の構成要素の1つであり、キネシンスーパーファミリー5(KIF5)によって運ばれる事が最近示された。しかし、神経細胞におけるその局在や動態などの詳細な報告はなされてこなかった。近年、キネシンスーパーファミリー蛋白による細胞内輸送がシナプス可塑性に関与している例が見つかり、注目を集めている。従って、この蛋白-RNA複合体の輸送が神経細胞の活動依存的に発生するシナプスでの局所的蛋白合成に寄与している可能性を検討することは神経可塑性のメカニズムを明らかにする上で重要なステップであると考えられる。そこで、本研究では、Purαに注目して、その局在とダイナミクスを特にシナプスとの関係に注目して検討した。

まず、Purαは樹状突起のシャフトだけでなくスパインにも局在するが、KIF5により運ばれる別のRNA結合蛋白質Staufen1(Stau1)は主にシャフトのみに局在することが示された。

さらにPurαとStau1の局在を調べた所、スパインがあまり発達していない未熟な樹状突起では両者はよく共局在するが、スパインの発達した成熟樹状突起ではStau1と共局在しないPurαが出現してくる事が示された。

次に、PurαとStau1の動きを調べた。すると、樹状突起が成熟するに従い、動きが減少する事が示された。さらに、成熟した樹状突起では、Stau1の局在しないPurαの方がStau1の局在するPurαより動きが少ない事が示唆された。

PurαとStau1の動態の比較を蛍光消褪後回復法(FRAP)により行った。その結果、Purαは褪色後30秒以内に半分の蛍光が回復し、速い動態を示した。一方、Stau1はそれよりずっと遅い動態を示した。

RNA結合蛋白質のTLSがmGluR5刺激によりスパインへ移行する事が報告されている。PurαもmGluR5刺激によりスパインへ移行するか検討を行った。グループ1mGluRのアゴニストであるDHPGで、YFP-Purαを発現させた神経細胞を刺激した所、YFP-Purαがスパインに集積する事が確認された。その現象はmGluR5の阻害薬であるMPEPで阻害された事から、mGluR5を介したものであると考えられる。一方、Stau1はDHPGで刺激してもスパインへの移行は見られなかった。

Purαがスパインへ移行するメカニズムに関して調べた。スパイン内にはアクチンが多いことから、アクチン系モーター蛋白質のMyosinVaをノックダウンした所、Purαのスパイン内の量が減少した。さらに、DHPGで刺激してもPurαのスパイン内の量は変化しなかった。よって、Purαのスパインへの移行は平常時、刺激時共にMyosinVaによってなされる事が示された。

以上、本論文はPurαとStau1の成熟樹状突起での局在と動態の違いを示し、更に刺激依存的なPurαのスパイン集積にMyosinVaが関与することを明らかにした。本論文で得られた知見はPurαがRNA輸送複合体の重要な構成要素であることを示唆しており、後シナプス領域での局所的蛋白質合成研究の基礎となる可能性が期待される。

審査要旨 要旨を表示する

1本鎖DNA、RNA結合蛋白質であるPurαは、神経細胞樹状突起においてメッセンジャーRNAを輸送する蛋白-RNA複合体の構成要素の1つであり、キネシンスーパーファミリー5(KIF5)によって運ばれる事が最近示された。しかし、神経細胞におけるその局在や動態などの詳細な報告はなされてこなかった。近年、キネシンスーパーファミリー蛋白による細胞内輸送がシナプス可塑性に関与している例が見つかり、注目を集めている。従って、この蛋白-RNA複合体の輸送が神経細胞の活動依存的に発生するシナプスでの局所的蛋白合成に寄与している可能性を検討することは神経可塑性のメカニズムを明らかにする上で重要なステップであると考えられる。本研究はPurαに注目し、その局在とダイナミクスを特にシナプスとの関係に注目して検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. Purαは樹状突起のシャフトだけでなくスパインにも局在するが、KIF5により運ばれる別のRNA結合蛋白質Staufen1(Stau1)は主にシャフトに局在することが示された。

2. PurαとStau1の局在をさらに調べた所、スパインがあまり発達していない未熟な樹状突起では両者はよく共局在するが、スパインの発達した成熟樹状突起ではStau1と共局在しないPurαが出現してくる事が示された。

3. PurαとStau1の動きを調べた。すると、樹状突起が成熟するに従い、動きが減少する事が示された。さらに、成熟した樹状突起では、Stau1の局在しないPurαの方がStau1の局在するPurαより動きが少ない事が示された。

4. PurαとStau1の動態の比較を蛍光消褪後回復法(FRAP)により行った。その結果、Purαは褪色後30秒以内に半分の蛍光が回復し、速い動態を示した。一方、Stau1はそれよりずっと遅い動態を示した。

5. PurαがmGluR5刺激によりスパインへ移行するか検討を行った。グループ1mGluRのアゴニストであるDHPGで、YFP- Purαを発現させた神経細胞を刺激した所、YFP- Purαがスパインに集積する事が確認された。その現象はmGluR5の阻害薬であるMPEPで阻害された事から、mGluR5を介したものであると考えられる。一方、Stau1はDHPGで刺激してもスパインへの移行は見られなかった。

6. Purαがスパインへ移行するメカニズムに関して調べた。スパイン内にはアクチンが多いことから、アクチン系モーター蛋白質のMyosinVaをノックダウンした所、Purαのスパイン内の量が減少した。さらに、DHPGで刺激してもPurαのスパイン内の量は変化しなかった。よって、Purαのスパインへの移行は平常時、刺激時共にMyosinVaによってなされる事が示された。

以上、本論文はPurαとStau1の成熟樹状突起での局在と動態の違いを示し、更に刺激依存的なPurαのスパイン集積にMyosinVaが関与することを明らかにした。本研究でPurαを通して得られた知見は、後シナプス領域での局所的蛋白質合成研究の基礎となる可能性が期待される。よって、学位の授与に値するものと考えられる。

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