No | 127746 | |
著者(漢字) | 谷本,博一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タニモト,ヒロカズ | |
標題(和) | 力測定法を用いた細胞運動と分裂に関する生物物理学的研究 | |
標題(洋) | Biophysical Study on Cell Motility and Division Using Traction Force Microscopy | |
報告番号 | 127746 | |
報告番号 | 甲27746 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5749号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文の顕著な研究は、細胞が運動をするときに細胞の足場にかかる力を高精度で解析できる方法を創り、この方法を用いて、移動細胞の移動時の足場の力分布と分裂中の細胞がちぎれるまでの力分布と方向を明らかにしたことである。 論文は5章からなり、1章では、introductionとして細胞運動や細胞分裂の概要を説明、2章では、移動中の細胞の足場に及ぼす力の算出方法および移動細胞の力分布の解析の詳細、3章では、分裂中の細胞が足場に及ぼす力の解析、4章では、移動細胞の形の分類、5章では、細胞のかたちと重心の揺らぎの理論的取り扱い、が述べられている。2章以下の内容と評価の詳細を説明する。 2章では、細胞性粘菌が移動する際の足場に及ぼす力を計算するために、実験では弾性的な足場の最上部内に蛍光粒子を導入して、蛍光粒子の位置変化を計測した。この位置変化のフーリエ変換にBoussinesq Green関数のフーリエ変換の逆行列を掛けて、力の2次元分布を計算した。この新しい解析方法を導入することで、従来のビーズの位置だけの力を測定する方法に比べて、精度と分解能が飛躍的に向上した。この解析法を移動する粘菌細胞の足場にかかる力の算出に利用した。その結果、細胞が移動する際には、細胞の進行方向前方の足場に及ぼす力が大きくなると同時に、後方の足場に及ぼす力が小さくなることが明らかとなった。さらに、足場にかかる力の1次のモーメントを計算したところ、その向きは進行方向にほぼ一致していた。これらの結果から、細胞は、足場に掛かる力を巧みに制御して移動することが示唆された。これらの研究は、高精度で細胞の足場力を測定できたはじめての例である。 3章では、2章で得た解析法を分裂中の細胞性粘菌に応用した。細胞分裂において、初め細胞は丸くなり、時間が経つにつれて長くなり、細胞の中央がくぼみ、くぼみは次第に細くなり、最後には切れて2つの娘細胞が誕生する。この際の細胞の足場にかかる力は、初期の細胞を長くするときに、細胞を伸ばすため長軸方向に20nNほどの伸び力を加え,細胞が伸びたあとその力は半減するが、細胞中央がくぼみ出すころに25nNの大きな伸び力を発する。細胞にかかる力の方向と絶対値を正確に求めることができることで、細胞内のアクチン繊維にかかる力を予想することができるようになった。この研究は分裂期の細胞の力を定量的に測定できることを示した点で独創的である。 4章においては、細胞の形の変化を定量的に評価するために、細胞運動中に細胞の重心から細胞膜までの距離と角度の関係の時間変化を求め、その相関および相関のフーリエ変換を行う。フーリエ変換での形から、細胞の伸び・回転・振動の成分を取り出す。細胞の足場の接着性を変えると、これらの成分が大きく変わることが明らかとなった。5章では、多重のノイズのあるLangevinモデルによって、細胞培地の栄養を取り除いた後の細胞のかたちと重心の揺らぎを解析した。細胞は時間とともに、大きなノイズを出し始めた。このように、細胞のかたちやノイズなどを理論的に取り扱うことができるようになり、今後この方法が広く使われると期待される。 以上のように、本論文では、細胞運動を様々な方向から解析する方法を開発し移動細胞や分裂細胞の特性を解明することができ、生物物理学に新しい知見を与えた。よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
審査要旨 | 本論文の顕著な研究は、細胞が運動をするときに細胞の足場にかかる力を高精度で解析できる方法を創り、この方法を用いて、移動細胞の移動時の足場の力分布と分裂中の細胞がちぎれるまでの力分布と方向を明らかにしたことである。 論文は5章からなり、1章では、introductionとして細胞運動や細胞分裂の概要を説明、2章では、移動中の細胞の足場に及ぼす力の算出方法および移動細胞の力分布の解析の詳細、3章では、分裂中の細胞が足場に及ぼす力の解析、4章では、移動細胞の形の分類、5章では、細胞のかたちと重心の揺らぎの理論的取り扱い、が述べられている。2章以下の内容と評価の詳細を説明する。 2章では、細胞性粘菌が移動する際の足場に及ぼす力を計算するために、実験では弾性的な足場の最上部内に蛍光粒子を導入して、蛍光粒子の位置変化を計測した。この位置変化のフーリエ変換にBoussinesq Green関数のフーリエ変換の逆行列を掛けて、力の2次元分布を計算した。この新しい解析方法を導入することで、従来のビーズの位置だけの力を測定する方法に比べて、精度と分解能が飛躍的に向上した。この解析法を移動する粘菌細胞の足場にかかる力の算出に利用した。その結果、細胞が移動する際には、細胞の進行方向前方の足場に及ぼす力が大きくなると同時に、後方の足場に及ぼす力が小さくなることが明らかとなった。さらに、足場にかかる力の1次のモーメントを計算したところ、その向きは進行方向にほぼ一致していた。これらの結果から、細胞は、足場に掛かる力を巧みに制御して移動することが示唆された。これらの研究は、高精度で細胞の足場力を測定できたはじめての例である。 3章では、2章で得た解析法を分裂中の細胞性粘菌に応用した。細胞分裂において、初め細胞は丸くなり、時間が経つにつれて長くなり、細胞の中央がくぼみ、くぼみは次第に細くなり、最後には切れて2つの娘細胞が誕生する。この際の細胞の足場にかかる力は、初期の細胞を長くするときに、細胞を伸ばすため長軸方向に20nNほどの伸び力を加え,細胞が伸びたあとその力は半減するが、細胞中央がくぼみ出すころに25nNの大きな伸び力を発する。細胞にかかる力の方向と絶対値を正確に求めることができることで、細胞内のアクチン繊維にかかる力を予想することができるようになった。この研究は分裂期の細胞の力を定量的に測定できることを示した点で独創的である。 4章においては、細胞の形の変化を定量的に評価するために、細胞運動中に細胞の重心から細胞膜までの距離と角度の関係の時間変化を求め、その相関および相関のフーリエ変換を行う。フーリエ変換での形から、細胞の伸び・回転・振動の成分を取り出す。細胞の足場の接着性を変えると、これらの成分が大きく変わることが明らかとなった。5章では、多重のノイズのあるLangevinモデルによって、細胞培地の栄養を取り除いた後の細胞のかたちと重心の揺らぎを解析した。細胞は時間とともに、大きなノイズを出し始めた。このように、細胞のかたちやノイズなどを理論的に取り扱うことができるようになり、今後この方法が広く使われると期待される。 以上のように、本論文では、細胞運動を様々な方向から解析する方法を開発し移動細胞や分裂細胞の特性を解明することができ、生物物理学に新しい知見を与えた。よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク |