学位論文要旨



No 127873
著者(漢字) 北原,玲子
著者(英字)
著者(カナ) キタハラ,レイコ
標題(和) バングラデシュからの国際労働力移動が送り出し国受け入れ国双方の居住環境に及ぼす影響
標題(洋)
報告番号 127873
報告番号 甲27873
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7641号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 大月,敏雄
 東京大学 教授 西出,和彦
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 教授 村松,伸
 東京大学 准教授 小泉,秀樹
内容要旨 要旨を表示する

第一章 序論

第一節 研究の背景

民族的出自ごとの空間的分離という移民や海外出稼ぎ労働者の受け入れ国で広がる現象を受けて、文化や生活習慣が同一なエスニックグループの集住が進んでしまうことを、単に受け入れ国側の問題とするのではなく、送り出し国の社会的・経済的背景を踏まえた全世界的な問題として捉えていくことは非常に重要である。

第二節 研究の目的

本研究では、バングラデシュとイギリスおよび日本の関係性に着目して、バングラデシュからの国際労働力移動のメカニズムを捉えた上で、イギリスおよび日本でのバングラデシュ人の集住傾向とエスニックグループの住み分け、集住地域の自治体の取り組みと課題、バングラデシュ人の生活状況と住宅問題について得られた知見をまとめ、バングラデシュからの国際労働力移動が送り出し国と受け入れ国双方の居住環境に与える影響を明らかにし、将来的な多民族社会の居住環境のあり方を展望することを目的としている。

第三節 研究の意義

本研究では、移民や海外出稼ぎ労働者を単に「外国人」として一つの枠で括るのではなく、独自の社会的背景や住文化を持つ個別のエスニックグループとして認知することで、労働力移動のメカニズムや、送り出し国と受け入れ国での居住環境への影響を、出身地に基づいた民族的特性として明らかにしていくことを意図している。

第四節 既往研究との関連

これまでの建築学を中心とした自然科学の分野においては、集住地域や集住団地の事例研究に留まっている。国際労働力移動における送り出し国と受け入れ国の双方に着目して、移民や海外出稼ぎ労働者の居住環境を調査した研究として、バングラデシュ人という特定のエスニックグループの移動と集住を取り上げた本研究は、居住環境を社会問題に直接関わる重要な枠組みとして捉えた新しい試みとなる。

第五節 研究対象の選定

本研究では、ニューカマーとして認知されているエスニック集団の中でも、母国の独立時期の遅さから国際労働力移動に出遅れたため、どの受け入れ国においても所得水準の低さから、条件の悪い居住環境に置かれやすい傾向を勘案して、バングラデシュ人を研究の対象に選んでいる。

第六節 調査対象地の概要

本研究は、バングラデシュとイギリスと日本の三ヶ国で調査を行っている。バングラデシュからイギリスへの移動に関しては、バングラデシュのシレット県、イギリスのタワーハムレッツ・ロンドン特別区が調査対象地となっている。バングラデシュから日本への移動に関しては、バングラデシュのムンシゴンジ県とダッカ県、日本の東京都北区および近郊が調査対象地となっている。

第七節 研究の方法

本研究での調査の方法は、文献調査、地域調査、住宅調査の三つに分類される。文献調査では大学や研究機関での聞き取りと資料および統計の収集、地域調査では関係省庁や地方自治体、在外公館やNPOでの聞き取りと資料および統計の収集、住宅調査では移民と海外出稼ぎ労働者に対する聞き取りと住宅内部の記録を含めた実態調査を行っている。

第八節 本論の構成

本論文は以下3つの視点に集約される。(1)国際労働力移動のメカニズム:エスニックグループごとの移動傾向、プッシュ=プル要因に着目、(2)送り出し国の居住環境への影響:連鎖移民による出身地の変容、(3)受け入れ国の居住環境への影響:エスニックグループごとの集住傾向、出身地の偏りに着目

第二章 国際労働力移動のメカニズム

第一節 本章の目的

本章では、国際労働力移動がどのような要因でなぜ起こっているのかを全世界的な視点で把握した上で、バングラデシュとイギリスおよび日本の関係性とそれぞれの現状について分析し、バングラデシュからの国際労働力移動のメカニズムを明らかにすることを目的としている。

第二節 調査の方法

本章はバングラデシュとイギリスおよび日本で文献調査と地域調査を行っている。

第三節 プッシュ=プル要因

国際労働力移動の原動力は、送り出し国のプッシュ要因と受け入れ国のプル要因の複雑な相互作用によって生まれてくる。本研究ではプッシュ=プル要因を表2-2にまとめ、国際情勢・政治・経済・社会・環境・居住環境の6つの項目に分類して、それぞれの相関性を示している。

第四節 移動者の特性

送り出し国のプッシュ要因と移動先の受け入れ国の受け入れ政策によって移動者を類型化し、6つのタイプに分類する。タイプを表す用語は、類型化された移動者の行為または目的を示している。

第五節 帰国の要因と影響

本調査での調査対象となっている出稼ぎ帰国者の位置付けを明らかにするために、移動者の帰国要因と帰国後の影響をまとめている。

第六節 送り出し国と受け入れ国の関係性

世界の最貧国の一つであるバングラデシュは、深刻な経済不況や自然災害による失業への解決策として、余剰労働力の送り出し政策を積極的に推進してきた。イギリスの受け入れ政策は、他の欧米諸国のように単に戦後の労働力不足を補うという経済的な側面だけではなく、かつての植民地支配に基づいた英連邦を正当化するという政治的側面に大きな影響を受けてきた。日本の受け入れ政策は、活動が制限されている在留資格と在留期間の設定で厳しい出入国管理を維持しながら、移民や海外出稼ぎ労働者を選別し、極めて限定的に受け入れてきた。

第七節 まとめ

国際労働力移動の原動力は、送り出し国のプッシュ要因と受け入れ国のプル要因の、複雑な相互作用によって生まれてくる。バングラデシュからイギリスへの移動は国際情勢の中で旧植民地と旧宗主国であったという歴史的経緯が特徴であり、バングラデシュから日本への移動は貧困や失業といったバングラデシュの経済的なプッシュ要因の影響が大きい。

第三章 送り出し国と受け入れ国の現状

第一節 本章の目的

送り出し国での移動傾向、受け入れ国での集住傾向と住み分け、双方の世帯状況や住宅事情といった地域的な居住環境の現状がどのようになっているのかを明らかにすることを目的としている。

第二節 調査の方法

本章は三ヶ国で地域調査での聞き取りと資料収集を行っている。

第三節 送り出し国としてのバングラデシュ

バングラデシュ海外居住者福利厚生・海外雇用省で入手した統計資料によると、イギリスへの移動はシレット県が54.18%となっている。日本への移動はムンシゴンジ県が17.25%、ダッカ県が21.35%となっている。以上の三県に関して、平均世帯人員数・住宅構造・飲料水源・電源・燃料源・労働形態・経済状態の状況を比較分析し、移民や海外出稼ぎ労働者の出身地の地域的特性を抽出する。

第四節 受け入れ国としてのイギリス

2009年時点で、イギリスの人口総数の16.65%がその他エスニックグループである。アジア系バングラデシュ人は392.200人で、その内の42.84%がロンドンに、そのうちの28.81%がタワーハムレッツ・ロンドン特別区に集住している。大家族用の公営住宅の不足や複数世帯の同居による過密居住があり、タワーハムレッツ・ロンドン特別区では29.3%が過密居住世帯となっており、公営住宅の割合や世帯人員の多さとともに、アジア系バングラデシュ人の集住地域の特徴となっている。

第五節 受け入れ国としての日本

在留外国人は2009年時点で2,186,121人、人口比率は1.72%である。バングラデシュ国籍在留外国人は全国で11,414人(0.01%)である。東京都北区では0.20%がバングラデシュ国籍在留外国人である

第六節 まとめ

エスニックグループの住み分けは、ロンドンと東京都のレベルでは顕在化している。タワーハムレッツ・ロンドン特別区では西部にはアジア系バングラデシュ人の割合が高い一方で、北部では黒人系、南部では中国人系が他の地区に比べて割合が高い。東京都北区では、現在の統計資料では在留外国人の住み分けは把握できない.

第四章 バングラデシュからイギリスへの移動

第一節 本章の目的

バングラデシュからイギリスへの移動がどういった経緯で行われ、どのような経験をし、その経験が双方の居住環境にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的としている。

第二節 調査の方法

本章は、バングラデシュとイギリスで行った住宅調査での聞き取りと住宅記録に基づいている。

第三節 シレット県の在英移民家族

シレット県での住宅調査では、調査対象者の13人中11人が近親者が在英者となっており、1人が出産のため一時帰国中で、1人が帰国者である。海外送金はシレット県の家族の生活費や住宅の更新などに使われている。

第四節 タワーハムレッツ・ロンドン特別区のアジア系バングラデシュ人

タワーハムレッツ区で住宅調査をした調査対象者は、13人中11人が自身もしくは親世代がシレット県出身である。在英中の住宅は、低所得者層向けの公営住宅への依存度が高い。また、ほとんどが住宅補助を受給したり、モーゲージを用いて住宅を購入しており、定住意識とともに持ち家指向が高い。

第五節 まとめ

在英移民家族はイギリスから海外送金を受けており、生活費や土地の購入、住宅の新築や増築に用いることによる居住環境の向上が見受けられる。イギリスでは同じ地区に集住することによって、マイノリティとして低所得者や生活弱者向けの情報を共有し、公営住宅や行政サービスといった地域資源を安定した定住の手段として活用している。

第五章 バングラデシュから日本への移動

第一節本章の目的

バングラデシュから日本への移動がどういった経緯で行われ、どのような経験をし、その経験がバングラデシュと日本の居住環境にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的としている。

第二節 調査の方法

本章は、バングラデシュと日本で行った住宅調査での聞き取りと住宅記録に基づいている。

第三節 ダッカ県およびムンシゴンジ県の在日海外出稼ぎ労働者家族と帰国者家族

調査対象者の17人中16人が1990年代以前に来日している。17人中12人がムンシゴンジ県出身者であり、ほとんどが帰国後は首都ダッカを居住地として選び、家族で国内移住している。

第四節 東京都北区のバングラデシュ国籍在留外国人

調査対象者の11人中8人が北区在住であるが、出身地はムンシゴンジ県に限らず多岐に渡っている。11人中7人が結婚をきっかけにバングラデシュから配偶者を呼び寄せ自分の家族を作っており、定住を視野に入れた移動へと移行している。11人中9人が公営住宅および公的賃貸住宅に居住している。

第五節 まとめ

在日海外出稼ぎ労働者は稼いだお金を出来るだけ多く送金し、母国の家族のために土地を買い住宅を建てることが、出稼ぎ労働者の共通した目標となっている。日本では民間賃貸への入居が拒否されたこと、日本人の保証人が必要と言われたなどの経験から、外国人登録をしていれば日本人と同じ条件で入居手続きができる公的な住宅への指向が高い。

第六章 国際労働力移動が居住環境に及ぼす影響と展望

第一節 本章の目的

バングラデシュからの国際労働力移動に関して、イギリスと日本の現状と問題点を比較研究することによって、日本が将来的に迎えるであろう多民族社会への道筋を展望することを目的としている。

第二節 送り出し国の居住環境への影響

国際労働力移動がバングラデシュの居住環境に与える影響として、ムンシゴンジ県では日本からの帰国者家族のダッカ県への国内移動傾向が高く、日本とダッカへの移動が連鎖移民となって地域の空洞化を引き起こしている。シレット県からはムンシゴンジ県のような国内移動は少なく、イギリスからの海外送金が出身地のシレット県に集約されていることから、国際労働力移動による地域の経済的発展という送り出し国本来の目的はある程度達成されている。

第三節 送り出し国の居住環境への影響

受け入れ国における特定のエスニックグループの集住傾向は、同じエスニックネットワークを共有した連鎖移民によるものが多い。連鎖移民による集住は、同じ出身地や同じ属性のエスニックグループに偏ってしまい、地域の社会構造を特定のレベルで固定化させてしまう傾向がある。移民が低所得者や生活弱者として公的な住宅への依存度が高い場合、特定のエスニックグループが同じ地区に集住することは、それと同時に、当該地区の公的な住宅団地への局地的な集住傾向を引き起こす可能性が高い。

第五節 まとめ

特定のエスニックグループの過剰な集住や住み分けは、地域の空間的分離と社会的分離を連鎖的に引き起こし、受け入れ国の居住環境を支える既存のコミュニティを崩壊させる可能性がある。それと同時に、エスニックグループの集住や住み分けは、低所得者や生活弱者の偏りを生み出している。集住地の地方自治体は、コミュニティを再生し居住環境を改善していくために、エスニックグループごとの集住傾向の実態を把握し、エスニックグループが抱える問題のレベルに応じて個別に対応できるように、行政サービスの差別化を検討していく必要があると考えられる。将来的な多民族社会に備えて、日本の行政もイギリスの行政と同様にエスニックグループ別の傾向を早期に抑えておくべきである。

第七章 結論

本研究では、バングラデシュからの国際労働力移動が送り出し国と受け入れ国双方の居住環境に与える影響と、将来的な多民族社会の居住環境のあり方に関して、以下の点が明らかとなった。

国際労働力移動の原動力は、送り出し国のプッシュ要因と受け入れ国のプル要因の、複雑な相互作用によって生まれてくる。バングラデシュからイギリスへの移動は国際情勢の中で旧植民地と旧宗主国であったという歴史的経緯が特徴であり、バングラデシュから日本への移動は貧困や失業といったバングラデシュの経済的なプッシュ要因の影響が大きい。

在英移民家族はイギリスから海外送金を受けており、生活費や土地の購入、住宅の新築や増築に用いることによる居住環境の向上が見受けられる。イギリスでは同じ地区に集住することによって、マイノリティとして低所得者や生活弱者向けの情報を共有し、公営住宅や行政サービスといった地域資源を安定した定住の手段として活用している。

在日海外出稼ぎ労働者は稼いだお金を出来るだけ多く送金し、母国の家族のために土地を買い住宅を建てることが、出稼ぎ労働者の共通した目標となっている。日本では民間賃貸への入居が拒否されたこと、日本人の保証人が必要と言われたなどの経験から、外国人登録をしていれば日本人と同じ条件で入居手続きができる公的な住宅への指向が高い。

特定のエスニックグループの過剰な集住や住み分けは、地域の空間的分離と社会的分離を連鎖的に引き起こし、受け入れ国の居住環境を支える既存のコミュニティを崩壊させる可能性がある。それと同時に、エスニックグループの集住や住み分けは、低所得者や生活弱者の偏りを生み出している。集住地の地方自治体は、コミュニティを再生し居住環境を改善していくために、エスニックグループごとの集住傾向の実態を把握し、エスニックグループが抱える問題のレベルに応じて個別に対応できるように、行政サービスの差別化を検討していく必要があると考えられる。将来的な多民族社会に備えて、日本の行政もイギリスの行政と同様にエスニックグループ別の傾向を早期に抑えておくべきである。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、国際労働力の送り出し国であるバングラデシュと、受け入れ国であるイギリスおよび日本の関係性に着目して、二国間の国際労働力移動のメカニズムの特性の比較をとおして、国際労働力移動が送り出し国、受入国の双方の居住環境にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしようとしたものである。

本論文は全七章で構成される。

第一章では、研究の背景、目的、意義、方法、既往研究との関連、研究対象の選定、調査対象地の概要、本論の構成を述べている。

第二章では、国際労働力移動の要因についての世界的な動向を把握した上で、バングラデシュとイギリスおよび日本の関係性の特徴について分析した。国際労働力移動の原動力は、送り出し国のプッシュ要因と受け入れ国のプル要因の、複雑な相互作用によって生まれてくるが、バングラデシュからイギリスへの移動は国際情勢の中で旧植民地と旧宗主国であったという歴史的経緯が特徴であること、バングラデシュから日本への移動は貧困や失業といったバングラデシュの経済的なプッシュ要因の影響が大きいことを、文献、フィールドワークから得られたデータを用いて明らかにしている。

第三章では、送り出し国での地域別の移動傾向、受け入れ国での集住傾向を明らかにすることを目的とし、それぞれの都市の地方自治体レベルのデータを収集分析した。その結果、ロンドンの集住地、タワーハムレッツ・ロンドン特別区では西部にアジア系バングラデシュ人の割合が高い一方で、北部では黒人系、南部では中国人系が他の地区に比べて割合が高い傾向があること、東京都の集住地である北区では在留外国人の住み分けの傾向が見られないことを明らかにしている。

第四章では、バングラデシュからイギリスへの移動の経緯と、その国際移動の経験がバングラデシュとイギリスのそれぞれの居住環境にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、それぞれの国の特定の地区において具体のフィールドワークを実施した。その結果、バングラデシュのシレット県出身者は、植民地時代からの歴史的経緯を強く認識しており、旧宗主国であるイギリスに移動することが、家族の生活を安定または向上させるための手段であると認識していること。また、シレット県は首都ダッカから離れていることから、生活のために出稼ぎをする場合はダッカへの国内移住ではなく、イギリスへの海外移住を選ぶ傾向があることを明らかにしている。一方で、イギリスのアジア系バングラデシュ人は、同じ出身地や親族といった強い繋がりで連鎖的に移動し、タワーハムレッツ・ロンドン特別区に特に集住していること。そして、公的な住宅に居住することによって、住宅補助の受給や公営住宅購入権の行使といった低所得者層向けの行政サービスの恩恵を受けつつ、マイノリティとして低所得者や生活弱者向けの情報を共有し、公営住宅や行政サービスといった地域資源を安定した定住の手段として活用していること。そのことが、特定の近隣エリアへのアジア系バングラデシュ人の極端な集住をうみだしている一端となっていることを明らかにした。

第五章では、バングラデシュから日本への移動の経緯と、その国際移動の経験がバングラデシュと日本のそれぞれの居住環境にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、それぞれの国の特定の地区において具体のフィールドワークを実施した。その結果、バングラデシュから日本への出稼ぎ労働者の出身地が、ムンシゴンジ県という限定された狭い地域に偏っていることがわかった。出稼ぎ労働者の多くが、身近な人の海外出稼ぎの成功体験を聴くことをもとに、連鎖的に国際移動を促進している現象を把握できた。さらに、同じ出身地や親族のみならず同じ学歴や経歴といった繋がりにおいても連鎖的に移動し、東京都北区という同じ地区に集住していることが判明した。そして、外国人登録をしていれば日本人と同じ条件で入居手続きができる公的な住宅へ居住することのメリットを共有することが、特定エリアへの集住指向を高めていることが明らかになった。その結果、すでに、東京都北区のUR賃貸住宅ではバングラデシュ人に限らず外国人世帯の増加が目立ってきており、特定の住宅団地における外国人の局地的な集住が引き起こされるメカニズムが、イギリスと同種の集住促進メカニズムであることを把握した。

第六章では、第二章から第五章で得られた知見に基づいて、バングラデシュからの国際労働力移動に関して、イギリスと日本の居住環境上の問題点を比較分析するとともに、国家レベルでの対応策の検討を展望することを目的としている。特定のエスニックグループの過剰な集住や住み分けは、地域の空間的分離と社会的分離を連鎖的に引き起こし、受け入れ国の居住環境を支える既存のコミュニティを崩壊させる可能性があることは従来から指摘されてきたが、それと同時に、エスニックグループの集住や住み分けは、低所得者や生活弱者の偏りを生み出していることがわかったので、集住地の地方自治体によるエスニックグループごとの集住傾向の実態把握と予測可能な課題に対応できるような行政サービスの差別化が重要であることを指摘している。

第七章では、第二章から第六章で得られた知見をもとに、バングラデシュからの国際労働力移動が送り出し国と受け入れ国双方の居住環境に与える影響を整理し、その影響関係に基づく受け入れ国での集住傾向の特性と、その居住環境問題への対応策として送り出し国と受け入れ国が果たすべき役割について展望した。

以上のように本論文は、バングラデシュ、イギリス、日本の3国を対象として、国際労働力移動が送り出し国と受け入れ国双方の居住環境に与える影響の一端を、集住促進のメカニズムとして明らかにしており、今後、送り出し国と受け入れ国の地方自治体が、移民の居住環境形成について果たすべき役割について展望するための基礎的知見を提供しており、今後の建築計画学の発展に寄与しうるものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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